出版は予想以上に勇気が要る。だからこそ覚悟が決まる(次世代ビジネス書著者創出)

2023/6/8
「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
かつて勝間和代を世に出したディスカヴァー・トゥエンティワンの創業社長である干場弓子さんがプロジェクトリーダーを務めた「次世代ビジネス書著者創出」には約30名が参加。
今回はプロジェクトをきっかけとして、出版までたどり着いた荻原昂彦さんへのインタビューを実施。
荻原さんの著書『はじめてのUXデザイン図鑑』が世に出るまでのストーリーとはー。

人生のテーマを、書籍に記す

──今回、干場さんのプロジェクトを経て出版されました。このプロジェクトに参加しようと考えた理由や実際に受講した感想を聞かせてください。
荻原 実は、私としてはこのプロジェクトで企画をプレゼンし、出版に至ったというパターンではありませんでした。
参加して干場さんに出会ったことで、貴重な教えを受けたものの、出版のチャンスにつながるプレゼンの日に、本業の都合で参加することができませんでした。ただ、プレゼンから出版に至るという王道ではなかったものの、干場さんからの教えは受講後にも心のなかに残っていたと言えます。
干場さんからは、ただ本の書き方を教えてもらったとは考えていません。もちろん、書き方を教わる場面もありましたが、記憶に強く残っているのは「あなたのミッションは何か」と問われたことですね。
干場さんは、参加者一人ひとりに人生で何をしたいのか問い続け、私たちはそれに向き合い続けなければいけないことを教わりました。
実際、他の参加者も、誰一人としても「売れそうだから」「流行っているから」という理由で、本のテーマを選んでいないと思います。誰もが自身の人生のテーマを、書籍に記しているのではないでしょうか。
一方、私たちが自分自身の思いだけで突っ走ってしまうことがあれば、干場さんはしっかりと抑えてもくれました。
徹底的に読者目線で立ち、読者にとって読む価値をしっかり作りつつ、トレンドやニーズに振り回され過ぎることなく、自分のミッションに根付いている本を書く。
そして、執筆は手段の1つでしかなく、「自分は何を大事に生きていくのか」を考えさせられ、言語化させてくれる。干場さんの講座は、今振り返ると、まさにそういった場所だったのではないかと考えています。
その教えが心に残るなかで、多くのクライアントから、「UXデザインは今まで関係ないと思っていたけど、取り入れて本当に良かった」「これでプロダクトが伸びたし、組織も変わった」「もっと早く知りたかった」と言っていただく機会が増えたことで、自分自身で干場さんの教えにつながるのではないかと感じ始めました。
そして、干場さんに話したところ、「面白いね」と反応を受け、プロジェクト終了から1年近く経った後に出版に至りました。
──荻原さんから見た、干場さんの人柄について教えてください。
干場さんの経営するBOW BOOKSの掲げる、「時代に矢を射る 明日に矢を放つ」という言葉を体現した人物ではないでしょうか。企業としての理念と干場さんという1人の人間が合致しているイメージですね。
出版を弓矢に例え、大きな可能性を持つ著者を矢とし、自分自身が弓となり、時代を作っていくんだという気持ちをひしひしと感じます。時代の流れを早めたり、変えようと、日々の行動からアクティブで、本当にカッコイイ人だと感じています。
もちろん、干場さんは信じられないほどの場数も実績も積んでいる敏腕編集者ですが、今回の出版を通して感じたのは、自分の知らない新しい世界について、フラットな姿勢と純粋な好奇心を向けられるところも驚きました。
あれだけ経験豊富な編集者でも、これまで触れていなかった世界については、プライドや過去の知識は関係なく、凝り固まった目ではなく、フラットな目線で見てくれましたね。
今回のUXデザインはまさにそのもので、今までの豊富な経験を生かしつつも、バイアスをかけたり、自身の成功体験に固執することもなく、「どうせ駄目だ」「私の経験上、良くない」と言うことも全くありませんでした。
もちろん厳しい目線は向けられるものの、純粋な好奇心から可能性をフラットに見出してくれたと思っています。
おそらく、時代の流れを感じるためのアンテナを立て続け、そのアンテナもアップデートし続けているからできることではないでしょうか。その姿勢が、「時代に矢を射る」という言葉につながっているところは、本当にカッコイイと感じます。
レベルも領域も違うにも関わらず恐縮ですが、私自身も干場さんのように経験を積んだ後も、世の中にアンテナを張って挑戦を続け、フラットに物事を見ることができる人間になりたいと考えさせられました。
まさに憧れの人でもあり、そんな干場さんに出版に向けた伴走をしていただいたことは、本当に幸せだったと改めて感じます。

予想以上に勇気が要る

──初の執筆ということもあり、出版に向けて大変なことも多かったと想像します。実際に執筆を終えて、荻原さん自身は成長や変化を感じましたか。また、出版後の反響もあったのではないでしょうか。
出版を通した大きな気づきは、2つありました。まずはじめに、様々なところからポジティブな反響を受けられ、大変嬉しく思っています。
普段の業務やブログ執筆であれば出会うこともなかったと思うような方、あるいは繋がりがなかったような企業から、「読んだよ。よかったね」「今度、一緒に何かできませんか」という声をかけてもらうことも多いです。
自分が今までと変わらずに生きていたら、出会わない、届かないような方々にプラスの価値を生め、感謝ももらえるということは、出版しなければありえなかったこと。
声をかけてくれた方々は公務員や医師、花屋など様々で、自分と接点がなかったような方々にまで、「体験をつくってみようと思いました」「著書をもとに部下を育成したら、変わりました」という言葉を受けたときはありがたかったですね。
そして、もう1つの気づきが、出版は予想以上に勇気が要ると感じたことでした。
執筆やそのための調査の大変さは当然ありますが、世の中に明確にポジションを取るためには勇気もなければなりません。
同じ自分の考えを書く行為にしても、ブログに記すのと、出版して書籍が本屋の棚に並ぶのでは、また感覚が違うと感じさせられました。
「自分はこう思う」と言い切る必要があるため、実際に執筆中には干場さんから、「ちょっと迷いがあるんじゃない?」「言い切るのを怖がってないですか?」と問われることもありました。
自分自身、主張を断言していいのか、悩んだときもありました。ただ、それだけに自分の主張や体験設計を通して世の中の体験レベルを上げたい、体験設計できる人を増やしたいという思いの強さが増したと思います。勇気が必要なだけに、最終的には自分の意志や作りたい世界が明確になり、覚悟が決まったと言えます。
──「勇気が必要」とは、実感がこもっている言葉で、それだけに新たな世界が見えてきたかと思います。出版を経たことで生まれた、今後のビジョンはありますか。
出版によって自身の覚悟が決まったため、新しいことをやるよりも、現在の業務である新規事業とUXデザイン(体験設計)とマーケットリサーチの伴走のレベルをさらに上げて、より多くの、様々な顧客に向けて続けていきたいと考えています。今後も世の中に素晴らしい体験を増やし、体験を作れる人材をより増やしていきたいですね。
そのためには、企業が顧客に提供する体験を一緒に構築するのももちろんですが、体験設計をしたいという人に対して、教育環境を整えるためのチャンスがあれば取り組んでいきたいです。
今は、企業支援と育成のためという二本柱で、UXデザインを追求していきたいと考えています。
──改めて、今回の著書を読んでほしい読者にメッセージをお願いします。
「自分には関係ない」と思わず、より幅広い業界や職種の方に読んでもらいたいですね。
極端な話ですが、配偶者や恋人、パートナーにプレゼントを渡すことも、ひとつの体験作りだったりしますから、そのくらい気軽に第一歩を踏み出していただきたいと考えています。
実践に向けては、ぜひUXデザインの基本である脚本を書くところからはじめてもらいたく、その手段として、「脚本作りの5ステップ」や「22の体験エッセンス」を楽しみながら活用してもらえると嬉しいです。

干場氏からのコメント

お褒めにあずかり光栄です。会話であれ、講義であれ、書籍であれ、およそコミュニケーションの価値を決定するのは受け手である、これは、NewSchoolの中でも、口を酸っぱくして申し上げてきたことですが、もし、荻原さんがおっしゃっているような価値を、私の講座から受け取って下さったとすれば、それは、私というより、荻原さんのお力だと思います。それを体現したような、今回の本でもあります。
とにかく頭の回転の速い方。1を聞いて10を知るどころか15ぐらい。先走りすぎとか気の回しすぎのところもあるくらい。でも、そのくらい、たとえばPDCAも俊足で回せちゃう方だからこそのビジネスであり、コンテンツだと感じています。
その分、ちょっと、というか、かなり饒舌になりすぎるところもあり、かなり削除、割愛をお願いしたり、勝手に削っちゃったりしちゃったところも多々ありましたが(笑)。
そうそう、これを書いている最中、増刷が決定しました! 発刊1ヶ月半での増刷決定も、俊足です!
(取材:上田裕、構成:小谷紘友)