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【第1回】アップルカーの衝撃

アップルカーは、自動車市場を“破壊”するのか?

2015/2/23
2月中旬、世界を駆け巡った「アップル、自動車産業参入」のニュース。2月20日には、ブルームバークが「2020年にもアップルは電気自動車を製造開始する」と報じた。アップルはなぜ今、自動車産業に参入するのか、そして、アップルに勝算はあるのか。3回にわたり、ブルームバークによるレポートを掲載する。

シリコンバレー vs. デトロイト

「デトロイト対その他全て」というTシャツがこのところ、ゼネラル・モーターズとフォード・モーターのお膝元で人気を集めている。

「シリコンバレー対モーターシティー(デトロイト)」でもいいかもしれない。サンフランシスコ湾岸地域がグローバルな輸送を巡るイノベーションの中心になりつつあるからだ。アップルが電気自動車を開発する極秘プロジェクトに数百人を投入していることが明らかになったことから、このことが再認識された。

LMCオートモーティブの予測担当上級副社長、ジェフ・シュースターは、「シリコンバレーは開発が盛んに行われている場所で、ついに自動車にまで食い込んできた。これらの企業は全く新しい自動車メーカーだ」と語る。

シリコンバレーの企業は、自動車から無人機、宇宙船まで、輸送部門に参入し、それらの産業における新たなビジネスモデルの先駆者になろうとしている。グーグルは自動運転車や無人機、衛星に投資し、フェイスブックは無人機を開発している。

シリコンバレーにもロサンゼルスにも出没するイーロン・マスクは、ロケットや宇宙船を設計し、製造するスペース・エクスポラレーション・テクノロジース(スペースX)社を創設した。もう一つよく知られたマスクのベンチャーであるテスラ・モーターズは、電気自動車(EV)市場を揺るがしている。マスクはまた「ハイパーループ」と呼ばれるサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ超高速交通システムの構想を温めている。

一方、サンフランシスコに本社がある配車サービスのウーバーテクノロジーズは、主要都市で人々が移動する方法を変えた。企業評価額は400億ドルと、フィアット・クライスラー・オートモビルズの2倍以上だ。また利用者が自分の車を貸し出すことを可能にするリレーライズや、タクシー配車アプリ、フライホイールなどの新興企業が相次いで設立されている。

「破壊的イノベーション」の機が熟す

シリコンバレーの企業が輸送手段に関心を持っているのは、この産業における破壊的なイノベーションと新しい技術の機が熟したからだ。そして1780億ドルの現金をため込んでいるアップルのような企業には、資本集約的な大規模プロジェクトに投資する余裕がある。

パイパー・ジェフリーのアナリスト、ジーン・マンスターは2月14日のインタビューで、「われわれの生活で過去100年間、根本的に変わっていない分野が自動車だ。テクノロジー関係者はチャンスについて考える際に、毎日使うもので長年変わっていないものは何だろうかと考える。ハイテク企業が自動車に注目しているのはこのためだ」と述べている。

ソフトが競争力を決める時代に

もちろん、伝統的な自動車メーカーが技術を軽視しているわけではない。その多くが自動運転技術の開発に取り組んでおり、元アップルの中間レベルの技術者が率いるフォードの新しい研究室などがシリコンバレーに拠点を設けている。ダイムラーはドイツのシュトゥットガルトの本社近くで、技術者のチームが将来の輸送手段を開発している。

ガートナーの副社長、ティロ・コズロウスキーは、「われわれはソフトが車を定義する段階にさしかかっている。ソフトによって製品、つまり車に差が出るため、決定的な力を持つのが伝統的な自動車メーカーではなく、IT面でイノベーション能力と専門知識を持つ企業になってしまった」と指摘する。

デトロイトの関係者はアップルによるEVの開発を意外と受け止めた。アップルが25万ドルの契約ボーナスを提示してテスラの技術者を引き抜こうとしているとマスクが最近ブルームバーグ・ビジネスウィークに語ったが、技術者はこれを不思議に思っていた。

アップルにはすでにノウハウがある

関係者によると、アップルの自動車プロジェクトはiPhoneの製品デザイン担当副社長、スティーブ・ザデスキーが率いている。アップルはアイデアを試験してみて、その結果、製品化しないことがしばしばあるが、今回も車の開発につながらない可能性があるとその関係者は付け加えた。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が2月13日に伝えたところによると、この極秘プロジェクトのコードネームは「Titan(タイタン)」で、車のデザインはミニバンに似ているという。同記事は、アップル経営陣がオーストリアを訪問し、高級車の委託生産をしているメーカーの関係者と会談したと伝えている。フィナンシャル・タイムズ紙も13日、消息筋の話として、アップルが新たな研究室に勤務する自動車の専門家を雇用したと伝えた。

アップルはすでに電気自動車の開発につながる可能性がある技術と、広範囲に及ぶサプライチェーンを管理するノウハウを持っている。同社は長年、iPhone、iPad、Macに使う電池技術の研究を行ってきた。2012年に導入した地図システムは、ナビゲーションに使える。昨年、アップルはiTunes、マッピング、メッセージング、その他自動車メーカーが使うアプリを統合するソフト、「CarPlay(カープレイ)」を投入した。

自動車業界から幹部をスカウト

アップルは長年自動車の開発を検討してきた。アップルのマーケティング担当上級副社長、フィル・シラーは、2007年にiPhoneを発売する以前から、アップルの幹部は自動車の製造について議論をしていたと2012年に法廷で証言した。

アップルの社外取締役で、Jクルー・グループの最高経営責任者(CEO)ミッキー・ドレクスラーもやはり2012年に、アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズが自動車を製造したがっていたと述べている。カリフォルニア州クパティーノに本社があるアップルの代表はコメントを拒否した。

アップルは長年自動車産業の関係者をスカウトしてきた。リンクトインによるとフォードで3年間技術者を務めたザデスキーは、16年前にフォードからアップルに移籍した。アップルの最高財務責任者(CFO)、ルカ・マエストリはゼネラル・モーターズに勤務していた。

リンクトインによると、ここ2年で、アップルはフォードに在籍していたハラン・アラサラトナムを電池担当の技術者として起用し、1月にはロバート・ゴフを特別プロジェクト担当に抜てきした。リンクトインのプロフィールによると、ゴフは過去4年間、部品メーカーのオートリブで同社のレーダー部門のプロジェクトや、事故を未然に防ぐアクティブセーフティーセンサー技術のプロジェクトに関与していた。

※続きは明日掲載します。

(執筆:Tim Higgins、Adam Satariano記者、写真:ロイター/アフロ、翻訳:飯田雅美)

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