(ブルームバーグ): 米国の著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏(92)が4月上旬に東京を訪れた際、日本の5大商社の経営幹部がフォーシーズンズ・ホテルの同氏のスイートルームを入れ替わり立ち替わり訪れていた。

優良企業の株式を長期保有する投資スタイルで巨額の資産を築いたバフェット氏は好物であり、製造メーカーの株式も保有するコカ・コーラを飲みながら最近の投資先である5社の事業提案に耳を傾けていた。

三井物産、三菱商事、伊藤忠商事、住友商事、丸紅。日本を代表する5社の経営陣が語ったのはほぼ同じ方向性の話だった。エネルギーや資源などがメーンの旧来の商社のビジネスの枠を超えた事業展開を加速させる必要があり、そのために「オマハの賢人」とも呼ばれるバフェット氏の力を借りたいというものだった。

経営陣らは大株主である同氏に良い印象を残そうと躍起になっていた。三井物の堀健一社長はヘルスケア、三菱商の幹部は洋上風力発電、伊藤忠は拡大している繊維事業の将来性について説明した。

ブルームバーグの取材に応じた複数の関係者らによると、バフェット氏は商社の幹部らの話に熱心に耳を傾け、多くの質問をした。明治維新から終戦まで日本の産業を支配した財閥の時代も含めた100年以上にわたる歴史など、総合商社がたどってきた足跡についても議論が交わされた。

バフェット氏は商社の事業内容にとどまらず、経済情勢や地政学についての見解や今後の展開についても知りたがっていた。そして一緒にビジネスをする機会を見いだすことを切望していると彼らに話したという。

昨年の資源価格高騰で恩恵を受けた商社各社は利益水準が恐らくピークに達したとの認識を深めている。乱高下する商品市況から身を守るために、新たな分野へのシフトを加速させることに照準を合わせている。脱炭素の取り組みの加速、グリーンエネルギーへの投資など、ビジネスの転換期にある。

近年では脱化石燃料の方向性の新規事業も手掛け、収益を上げている例もあるが依然として総合商社の主な収入源はエネルギーと天然資源という状況は変わっていない。バフェット氏との面談で商社幹部らは資源・エネルギーへの依存を減らすべきときだと訴えた。

ただ、幹部が語る思いとは裏腹に総合商社を巡る現実は変わらない。日本の国民生活に必要なエネルギー需要を満たす必要があり、電気自動車の普及で増大が見込まれる電池に使われるニッケルや銅などの金属もこれまで以上に重要となる。ステークホルダーである日本政府と良好な関係を維持する必要もある。

「バフェット氏は基本的に、商社が商機を創造できることや、さらにその先に進むための歴史的基盤を持っていることに気づいた」と、静岡県立大学で国際経営に詳しい竹下誠二郎教授。「彼らは概して非常に優れたアンテナを持っている」として、海外で得られた情報を日本で生かすことができると述べた。

三井物の堀社長は、バフェット氏との面会について、同社のビジネスモデルについて「よく理解していただいてるような印象を受けた」と2日の決算会見で述べた。同社のネットワークを駆使してどのように新しい事業を創出するかについても話し合ったという。

堀氏はさらに「エネルギーの大きなトランジションの中で現実解をどう組み合わせて、どう利益を上げながら低炭素社会への事業を作っていくか、どのようにバランスを取るかについても意見交換をした」とも語った。

2020年、バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイが5大商社の株式をそれぞれ5%取得したことに世界中が驚いた。昨年の商品市況の高騰と円安を背景に、少なくともこの投資は株価上昇という形ですでに実を結んでいる。三菱商の株価は同年8月下旬から約2倍になっている。三井物は約2.2倍、丸紅は約3倍、伊藤忠と住友商も少なくとも7割前後上昇している。

日本の5大商社は多角的であるがゆえにその企業価値が過小評価されていると長年指摘されている。だが、バフェット氏はその構造はバークシャーも同様だとしており、追加の投資分も含めて同社の5商社への出資比率を7%以上に引き上げていると朝日新聞は報じている。株価上昇によりバークシャーが得た含み益は少なくとも40億ドル(約5500億円)に上る計算だ。

バフェット氏のバークシャー、三菱商など5大商社株の持ち分上昇 (1)

日本経済新聞の4月11日付の記事で、バフェット氏は5商社について「将来、事業のパートナーとしての関係を築くことも不可能ではない」と語った。

ブルームバーグの取材に対して、三菱商、三井物、丸紅、住友商ははいずれも幹部がバフェット氏と都内のホテルで面会したことを認めた。バークシャーにコメントを求めたが現時点では得られていない。伊藤忠は面談の有無を含め、コメントを控えた。

さらに三菱商は、バフェット氏との面談を通じて、同社のデジタル化推進や地域創生・新産業創出による未来創造などについても、「共感いただけたと認識」しているとブルームバーグの取材に対して電子メールで回答した。住友商事も、「大株主として、また、ビジネスパートナーとして対話を続けていく」と回答している。

三井物は、「当社の経営資源の使い方や経営方針についてご理解いただき、グローバルな今の時代においてどう利益を広げていくかについて有意義な意見交換ができた」と回答。丸紅は「引き続き当社の企業価値を上げることで、バークシャー社を含む株主価値の最大化を目指す」とコメントした。

(三井物産の社長コメントを追加し、記事を更新します)

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