(ブルームバーグ): アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が1日、東京大学の「東京カレッジ」の客員教授に就任した。東大が東京カレッジのウェブサイトで開示した。

招聘(しょうへい)期間は5月1日から10月31日までの予定で、研究概要は「持続可能な農業と食料生産」。東京カレッジは、東京大学と海外の研究者や研究機関を結ぶインターフェースとして2019年に設立された組織。

東大はウェブサイトで、馬氏に対する期待として、重要な研究テーマに関する助言や支援、特に持続可能な農業と食料生産の分野で、東大研究者と共同研究や事業を実施すること、さらに講演や講義を通じて、起業、企業経営、イノベーションなどの経験や先駆的知見を学生や研究者と共有することと記している。

馬氏は中国電子商取引最大手のアリババ集団と傘下のフィンテック企業アント・グループの共同創業者。20年に上海で行ったスピーチで中国の規制当局を批判した後、公の場に姿を現すことはほとんどなくなっていた。

馬氏の消息を巡ってさまざまな憶測が飛び交う中、3月27日には馬氏が浙江省杭州市の学校を訪問し、米オープンAIのチャットボット「ChatGPT(チャットGPT)」などについて論じたと報道された。

馬氏が訪れたとされる学校は、馬氏がかつて務めた教職にいつか戻りたいと話していたと微信(ウィーチャット)公式アカウントで明らかにしていた。

李強新首相は3月の全国人民代表大会(全人代)で民間企業への「揺るぎないサポート」を表明したが、長期にわたる馬氏の不在は企業家や世界の投資家が中国政府に対して抱く不信感を浮き彫りにしている。 

馬氏は18年、早稲田大学で講演したことがある。その時は、ITやAI、IoTなどテクノロジーの鍵となる半導体技術について、中国などもこれからは独自開発に力を入れるべきだなどと語った。

ビジネスマンとしてのキャリアに幕との声

ライトストリーム・リサーチ社のアナリストで、スマートカルマの記事を執筆しているオシャディ・クマラシリ氏は、彼のビジネスマンとしてのキャリアは幕を閉じたようだと述べた。この分野で成功を収めたものの、以前は英語教師として働いており、ビジネスベンチャーから引退したら教師に戻りたいという意向を示していたと指摘する。

東大は馬氏がどのような講義やセミナーを行うかについて、詳しく説明していない。コメントを求めたがすぐに応じなかった。

アント社のIPOを中止させた北京の動きをきっかけに、不動産や教育、ゲームやインターネットなど、中国の民間部門に対する徹底的な取り締まりが始まった。規制当局は、アリババやテンセント・ホールディングスのようなハイテク大手の力を抑えようとし、投資の焦点を半導体や人工知能などの戦略的優先事項に押しやった。

馬氏の動き

かつて中国の起業家の中で最も注目されていた馬氏は、世間のスポットライトから姿を消した。オランダ、スペイン、オーストラリア、タイ、日本で目撃された。

ブルームバーグ・ニュースは、中国当局が馬氏に本土に戻り、ビジネス界に対する政府の支援をアピールするよう説得を試みたと報じている。しかし、馬氏は海外にとどまることを選択し、農業技術の研究に専念するため、会社から退いたという。

社内では、馬氏はアントとアリババの幹部に対し、中国への帰還にこだわらないよう伝え、離れていても彼らの成功に尽力していることを強調したと、関係者は語っている。

そして3月、馬氏は杭州の学校を訪れ、ChatGPTを含むテーマについて話し合い、いつか元の教師としての仕事を再開したいと述べた。4月には香港大学の名誉教授に就任したが、このポストでは公開講座や講演の予定はないという。

馬氏は日本とも長い付き合いがある。ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏は、20年以上前にアリババを支援し、2人は何年も互いの取締役会に座っていた。

関連ニュース

アリババ株上昇、ジャック・マー氏が中国本土に戻る (1)

ジャック・マー氏、香港で金融関係者と会談-姿見せる機会増える

アリババ創業の馬氏、東京に半年-銀座の会員制クラブ拠点と報道 (2)

アリババ馬会長:中国など独自の半導体開発必要と強調-早大で講演

--取材協力:Min Jeong Lee.

(情報を追加します)

More stories like this are available on bloomberg.com

©2023 Bloomberg L.P.