2023/4/25

【現地発】シリコンバレーの「気候テックの祭典」に行ってきた

こんにちは、NewsPicks地球支局の岡ゆづはと、後藤直義です。
2023年4月、私たちはNewsPicksのジャーナリストでありながら、地球規模のグリーンビジネスを調査する、早稲田大学の招聘研究員(Researching Fellow)になりました。
シリコンバレーで勃興する気候テクノロジーの主人公から、ディープテック分野の投資家たち、新しい社会像を描くピニオンリーダーや作家たちまで。
自分たちで見たもの、聞いたものを、テキスト、音声、動画など、あらゆるフォーマットで「地球支局」として配信します。
まずはポッドキャストの新番組『Green Impact ー地球を救う、ヤバいビジネスー』(毎週月曜、木曜配信)をお聞きください。
本記事は、ポッドキャストと連動した新連載です。毎週、もっとも旬なグリーンビジネスをこのコンビでお届けします。
INDEX
  • 気候テックの祭典に行ってきた!
  • Pachama
  • Novoloop
  • Electric Fish
  • Gridware
  • Colossal Biosciences

気候テックの祭典に行ってきた!

今週のニュースレターは、シリコンバレーからのお届けです。
4月17日から1週間にわたり、「サンフランシスコ・クライメート・ウィーク」という気候変動スタートアップの“お祭り”が開催されました。
大小80以上のイベントが街中で開かれ、アメリカでも注目の気候変動スタートアップの投資家や創業者などが集まりました。
私たちは、イーロン・マスク財団とXprize財団が主催した炭素回収のカンファレンスに参加したり、グーグルベンチャーが開いたネットワーキングパーティーに行ったり、有名起業家たちとディスカッションするディナーに参加したりと、カメラを持ち込んで、現地を走り回りました。
今週は、そこで出会った面白い起業家の中から5つ、とっておきのスタートアップを厳選してみなさんにお届けします。
創業者と投資家たちのミートアップにも潜入。たくさんの起業家にインタビューしました

Pachama

創業年 2018年
本拠地 サンフランシスコ
ちょっと可愛い名前のこの会社。人工衛星画像とAIを使って、森林を守るプラットフォームです。
南米アルゼンチン出身のディエゴは、森林を破壊することに、経済インセンティブが働くことに疑問を持っていました。
アマゾンの熱帯雨林では、農業のために森林を伐採しようとすると、すぐにお金やローンがつく。ところが森を守るプロジェクトには、お金がつかない。
そこでパチャマは、信頼できるカーボンクレジット市場を成立させることで、多くの人が森を守るためにお金を投じ、そこに正しい経済インセンティブを生み出すことを目標にしています。
世界で150以上もの森林保全プロジェクトを、人工衛星とAIによってモニタリング。どれくらい木が伸びたか、どれくらい木が炭素を吸ったか、アルゴリズムで算出します。
そうして大気から隔離した炭素を、カーボンクレジットとして売買できるようにするテック企業です。
OpenAI、Microsoft、Facebookなど、シリコンバレーの錚々たるテック企業から、AI技術者などが転職しています。求人募集に、数万人が応募したということで話題になりました。
ちなみに日本ではソフトバンクなどが、パチャマを通じて炭素クレジットに投資をしており、日本のイノベーターへの期待も語ってくれました。

Novoloop

創業年 2015年創業
本拠地 カリフォルニア州メンローパーク
ゴミ袋やシャンプーの容器など、あらゆるところに使われているプラスチック。このうちの何割がリサイクルされているか、知っていますか。
答えはたった1割。
プラスチックは熱を加えてリサイクルすると強度が失われてしまうため、価値が下がって高く売れません。そのため、ほとんどがリサイクルされずに捨てられてきました。
この会社は、特殊な化学処理によってプラスチックを高機能素材(TPU)へと変換します。
靴、車、家電など色々な用途に使うことができ、新品のプラスチックを作るより、温室効果ガスの排出は3〜4割少なくて済むそうです。
すでに商用化の目処も立っています。スイスのランニングシューズメーカー、Onとのパートナーシップを結んでおり、2022年9月にはコンセプトシューズを発表しました。2026年には商品化予定とのこと。
あなたが使ったゴミ袋が、新品の靴に生まれ変わる日も近いかも。
日本では知られていないアーリーステージの企業ですが、脱炭素のメガファンド、ローワーカーボンキャピタルの友人から紹介された人物で、今後の動きに注目しています。

Electric Fish

創業年 2019年
本拠地 シリコンバレー
革新的なEV充電器を生み出す、「電気魚」の名前を冠するスタートアップです。
アメリカでは、2032年までに新車の2/3をEV化するなど、巨大なEVシフトが起きています。そこでネックになってくるのが、誰もが必要とするEVの充電インフラ。
エレクトリック・フィッシュは、そんな充電インフラを革新する、ハードウェアとソフトウェアを融合した会社です。
コンテナのようなモジュール型のバッテリーつき充電設備を、街中に超速で実装できます。プラグアンドプレイ型といって、コンセントに抜き差しする簡単さで、作業自体はわずか30分で配備。
従来の充電インフラは、許認可を含めて年単位だったのが、週単位で配備することができます。
またEVチャージの最適なロケーションを特定するための、スコアリングをするソフトウェアも開発しています。
インフラが脆弱であったり、コストがかかるためにこれまで充電インフラがなかなか配備されない充電砂漠(チャージングデザート)などにも、こうしたEV化のインフラを広げることを目的としています。
ロサンゼルスで実証実験を終わらせ、これからデトロイトで商業パイロットのプロジェクトが始動。韓国の自動車メーカーのKIAともパートナーシップを組んでいます。
充電分野のスタートアップは、いまシリコンバレーでもホットです。

Gridware

創業年 2020年
本拠地 カリフォルニア州ウォルナットクリーク
ワインを片手に、インタビューをお願いしました。
温和な雰囲気をまとった創業者のティムさんは、ユニークな経歴の持ち主です。彼は高校中退後、送電線の工事を行うラインマンとして働いていました。
危険を伴う仕事のため妻が心配したことがきっかけで一念発起し、名門校UCバークレーに入学。電気工学とコンピューターサイエンスを学び、そこでの知見を生かして起業しています。
この会社が提供しているのは、電力系統に由来する山火事を防ぐシステムです。
カリフォルニア州では、気候変動に伴う暴風雨や記録的な高温に伴って、電力系統の故障が多発。最近の大規模な山火事の多くは、電力系統の発火により引き起こされています。
この会社は、安価なセンサーでそれを事前に検知し、山火事を防いでいるのです。
アメリカの電力大手PG&Eの元CEOがアドバイザーとして入っており、すでにアメリカの4つの州・6つの電力会社で採用されています。
保守的な業界にも果敢に食い込む、異端の創業者から目が離せません。

Colossal Biosciences

創業年 2021年
本拠地 テキサス
ハーバード大学の遺伝子分野の巨頭、ジョージ・チャーチ教授などが創業したバイオテック企業。
地球最大の難問、気候変動と生物多様性の問題に挑んでいる、ミステリアスなユニコーンです。ここにはアメリカのCIA傘下にあるVC、インキューテルなどが投資しています。
遺伝子編集などのテクノロジーを用いて、すでに絶滅したといわれる動物たちを、事実上復活させるプロジェクトを行っています。
有名なのは、北極圏のマンモス復活。最近ではオーストラリア政府と組んで、タスマニアンタイガーという1936年に姿を消した動物を、復活させるプロジェクトもおこなっています。
絶滅した種類に近い動物、マンモスならアジアゾウなどになりますが、そうした動物の遺伝子を、絶滅種に近づけるように改変することで再誕生させるというもの。
マンモスたちは北極圏の草木を踏み潰して、それによって永久凍土の地盤をふみかためることで、地中にある温室効果ガスを封じ込めるのに一役かっていました。
つまり生物多様性をとりもどすことで、自然がおこなってきた気候変動防止のソリューションを再生させることもできると語っています。
有名な「マンモス再生」という本にもなっていて、ネットフリックスなどへのコンテンツ製作の協力費用などからも、収入を得ているそう。
遺伝子改変した生物をうみだすテクノロジーの先に、人間のアプリケーションもあるよとプレゼンしていて、ちょっとドキッとしました。
今週の地球支局からのレター🌏は、ここまでです。
リアルタイムでの配信や、メッセージなどのやりとりは、ぜひ後藤直義岡ゆづはまでお寄せください。 ポッドキャスト番組(毎週月曜日、木曜日)は、下記から。