2023/3/27

なぜ、「DX推進」を謳う企業ほど改革に失敗するのか

News Picks Brand Design Senior Editor
 2018年頃から、ビジネスの世界で注目を浴び始めた「DX」。
 経済産業省が日本企業のデジタル経営改革の遅れを指摘したことから、先進企業にとっての「喫緊の課題」となった。
 それから数年、今やDXは、すべての業界・企業・が取り組むべき「当たり前の課題」になりつつある。
 DXを上手く進めるコツはどこにあるのか。失敗する企業に共通点はあるのか。
 企業のDXを数多く支援してきたNECソリューションイノベータ 塩谷幸治氏と、DXの先進企業であるヤマハ発動機 新庄正己氏が、企業業績につながるDXについて語る。
INDEX
  • 課題設定が、DXの成否を分ける
  • 失敗企業の3つの共通点
  • DXが短期集中では上手くいかない理由
  • 成否を決める、DX支援企業との上手な付き合い方
塩谷氏:全社技術戦略、DX事業戦略、新技術に対応するエンジニア育成を担当。ITアーキテクトとしてデジタル技術全般に深い造詣を持つ。他に日本OSS推進フォーラム理事、国立大学の招へい講師などを務める。
新庄氏:モーターサイクル車体設計部門で多くの大型モデル開発に携わったのちに商品企画部門、調達部門、事業部門などを経験。2020年からヤマハ発動機のDXを推進するデジタル戦略部の部長に就任。

課題設定が、DXの成否を分ける

──ここ数年で、DXという言葉が一般的になってきました。ですが、成功企業ばかりではない印象です。
塩谷 一時はDXという「バズワード」に踊らされるような格好で、多くの企業が単にAIなどの新技術の導入を進めてしまうケースが目立ちました。
 ここ2〜3年で、ようやくDXの「ブーム」が落ち着き、本業に上手くデジタルの力を取り入れ、業績を伸ばしている企業と、そうでない企業の明暗がはっきりしてきたと思います。
 DXの成否を分けているのは、業界や企業規模、投資金額などではありません。経営者のDXに対する理解の深さや改革の進め方次第だと感じますね。
新庄 弊社は最近、「DXに積極的な企業」としてメディアにお声がけいただくことが増えました。そこでよく「どんな効果がありましたか」と聞かれるのですが、DXはDX自体で効果を出すものというより、企業の体質改善みたいなものだと捉えています。
 DXを通じて、自社が変わりたい方向にしっかり変わっている。それを日々感じられるのが一番の効果ではないでしょうか。
塩谷 その「自社を変えたい」というスタートラインの設定は、非常に大事です。
 実はDXに成功している企業ほど、「変わらなければならない」という感覚が社内で浸透しています。それは危機感と言い換えてもいいかもしれません。
 私たちがお客様のDXを支援させていただく際は、まずお客様と危機感を共有し、変革の方向性を検討することから始めます。
 例えば、下記のような情報を整理するイメージです。
  • 自社を取り巻く事業環境の変化
  • 事業が抱えている課題
  • 変革の必要性と変わらないことのリスク
  • 自社のあるべき姿
 迷走しないようにするためにも、こうした情報をしっかり検討しておくことが大切ですね。

失敗企業の3つの共通点

──逆に、DXに失敗する企業に共通点はあるのでしょうか。
塩谷 DXが上手くいかない場合、3つの共通点があるように思います。
 一つ目は「DXが手段でなく目的になっていること」です。
 先の例のように「何のためのDXか」を定めてから具体的な改革を進めないと、変革に繋がらず、システムを導入しただけで終わってしまう可能性もあります。
新庄 非常によくわかります。
 本来は「次の時代のビジネスを生み出すこと」が経営の目的で、あくまでDXはそれを達成する手段の一つですからね。
 私は仕事柄、さまざまな企業のDX担当者と会話する機会が多いのですが、DXという手段を目的にしてしまっている企業は改革に苦戦している印象があります。
 一方で海外企業の方と話すと「DX」という言葉が通じないこともよくあります。
 それは経営課題の解決の手段としてデータを活用することが当たり前のことだと捉えており、わざわざDXという言葉を使う必要がないからだと思います。
塩谷 ヤマハ発動機さんはどのようなきっかけで、DXを進めたのでしょうか。
新庄 DXという言葉が世間に浸透する前の2017年から、テクノロジーを活用して会社を変えていこうという話が出ていました。
 弊社は180以上の国で製品やサービスを展開していて、海外売上比率も90%以上ありますが、ライバル企業の台頭や自動運転、EV化といった環境変化もあり、「生き残るにはどうしたらいいか」という課題意識がありました。
 まずは「感動創造企業」という自社の原点に立ち返って、ユーザーに提供すべき魅力的な「体験」とは何か、それをどう生み出すべきかについて、全社的に議論を進めました。
 その上で、「感動創造企業」としての次のステージに向けて掲げた具体的な目標を実現するために、必要に応じてDXを取り入れていったかたちですね。
塩谷 具体的な課題が見えていると、DXで何を改革すべきか明確に見えてきますよね。
「DXを目的にしない」ためには、自社の課題を明らかにして、DXによって何を実現したいかを具体化することがとても大事だと思います。

DXが短期集中では上手くいかない理由

──二つ目の失敗企業の共通点は何でしょうか。
塩谷 「トップダウンだけで進めること」です。
 トップダウンが強すぎると、「失敗が許されない雰囲気」も強くなりがちです。
 その結果、現場が失敗しないよう慎重になりすぎて、PDCAのPばかりに時間をかけてしまい、結局上手く進まなくなってしまいます。
新庄 それで言うと、弊社も当初は「CoE(センター オブ エクセレンス)組織」を立ち上げ、優秀な人を集めれば全社のDXが進むと甘く見ていた時期がありました。
 しかし、CoEによる改善提案が、工場や事業部のニーズを上手く拾いきれておらず、なかなか成果が出ませんでした。
 現場主導でDXを進めるよう方針を転換してから、少しずつ改革が進むようになりました。
  1. 最初はCoEが現場にがっつり入り込んで小さい特定領域・少人数で結果を出す。
  2. 次にCoEも協力しながら、現場が自分たちで応用領域を広げて成果を出す。
  3. 現場が自ら改革を進められるようになる。
というステップが上手く回るようになっていったんです。
塩谷 現場のメンバーがDXを通じて「何をしたいのか」「そのためにどういった改革が必要か」を試行錯誤して明確にしていくプロセスは非常に大事ですね。
 私たちがDXを支援する際は、担当者が業界を取り巻く環境や未来予想などの下調べをした上で、クライアントに対して綿密にヒアリングをします。つまり、DXを通じて何を実現したいか、密にコミュニケーションすることを心がけています。
 その時にお聞きしたいのは、やはり現場の声です。
 どの企業でも、社員の皆さんは日々業務を改善していらっしゃいますよね。
 それでもどこかで、今のやり方を続ける限り、これ以上は改善できないというポイントが来ると思います。
 私たちの役目は、デジタル技術によるDXによってやり方を変え、新たな業務の実現をお手伝いすることだと思っています。
 もし、私たちが綺麗な資料に書かれた改革方針に沿って一つ一つソリューションを当て込むようなやり方をしてしまったら、システム化がゴールになってしまって変革は進みません。
 改革の要点は現場の泥臭い部分にこそ眠っていると思いますし、トップダウンに現場からのボトムアップをミートさせることがとても大切だと考えています。
──現場の声を聞くことで、どんなソリューションが出てくるのでしょうか。
塩谷 例えば、どのような組織でも、自分たちのルールや常識に縛られて新しい発想が生まれづらい状態に陥ることがよくあります。
「◯◯したいけど今の環境じゃできない」
 そう思い込んでしまうと別のやり方に気づかない。そこで「その壁って、こんなデジタル技術を使えば解決できますよ」と情報提供します。
 DXではデジタル技術をベースに業務を組み立てますから、人を中心とした業務の部分的なデジタル化とは全く異なるやり方になります。これがDXによる変革なのです。
 私たちは、幅広い業種のお客様がいますので、さまざまな事例をご紹介しながら、お客様のあるべき姿に向けた変革や、それによる新たな事業探索をお手伝いしています。
──3つ目の失敗企業の共通点は何でしょうか。
塩谷 「仮説検証サイクルが上手くまわらないこと」です。
 お客様の事業環境やその顧客の嗜好は常に変化していますから、1度で正解を出すことがとても難しい時代になりました。そのため、仮説検証型でプロジェクトを遂行する必要があります。
新庄 仮に業務を効率化するために何かシステムを導入したとしても、社員が使えるようになり、それが部署で活用されるようになるためには、時間をかけた試行錯誤が必要になりますからね。
 弊社でも常に模索と検証と実装を繰り返しています。
 データを誰でも当たり前に使えるように、データ分析研修に力を入れており、実務でデータ分析できる社員も400人を超えてきました。
 製造現場一筋でデジタルに無縁だった社員が、良品分析できるようになるなどの成果が出始めています。
塩谷 日々の業務プロセスをデータで捉えられるようになり、「じゃあ、データを基準に考えたら何ができるか」という視点を持てるようにもなりますね。
 このような人材が増えてくれば、会社全体のデジタルリテラシーが上がり、できることの幅も広がってきます。
新庄 ただ、私たち自身は、DX成功企業というわけじゃなくて、変革を一生懸命進めている過程にいる企業という認識でいます。
 新しい技術を追い求め、試しながら現場に落とし込んでいくことを、反応や効果を見ながら少しずつ進めている感じです。
 その過程で「トライ&エラー」という言葉がなくなったんですよ。その代わり、「トライ&ラーン」という言葉が生まれ浸透しつつあるんです。
 学びのある失敗であれば、エラーではない。そのような意味を込めてそう言っています。
塩谷 すばらしいですね。それと同時に、もしヤマハ発動機さんが一度で正解を出そうと考えていたら、今のような成果は生まれなかったかもしれません。

成否を決める、DX支援企業との上手な付き合い方

──失敗企業の共通点を踏まえて、DXを成功させる方法を教えてください。
塩谷 自社のあるべき姿を明確にし、トップダウンだけでなく現場も交えて改革を進め、やりっぱなしで終わらせずに仮説検証サイクルを繰り返すことだと思います。
 弊社の「NECデジタル変革支援サービス」では、独自のフレームワークを用いてお客様自身が描く最適なデジタル化ビジョンの策定を支援し、目指す価値の実現・検証をお手伝いします。
 システム開発では最新のデジタル技術を用いて「素早く作って試す」仮説検証型開発も可能です。
 また、必要に応じて、あるべき姿の実現に向けて既存システムの改修を含む全体最適化を支援できるのも強みだと思っています。
 弊社がお客様とデジタル化ビジョンを共有し、共にDXによる変革を進めることで、お客様のビジネス実現をお手伝いしたいと考えています。
 お客様自身も正解がわからない中でチャレンジするわけですから、一緒に考えてほしいと思われる存在でありたいですね。