2023/3/9

【森永×GenZ対談】貯金、投資、NISA「なんとなく不安」に全部答えます!

 「NISAってなんですか」「バイト代、どうしたらいいですか」——。若い世代の純粋な疑問にNewsPicksトピックスの「森永康平のリアル経済学」のオーナーで経済アナリストの森永康平さんが答えます。
INDEX
  • 若い人こそマネーリテラシーを
  • とにかく焦りまくる若い世代
  • iDecoってなによ...
  • 賃金の上がらない日本、出稼ぎに出るべき?
  • 貯金箱の重さで十分学べる
  • 「自分のお金が動く」経験をしてみる

若い人こそマネーリテラシーを

 きっかけは、森永さんの素朴な悩みでした。「YoutubeやTwitter、ラジオやテレビといろいろなところで発信するのですが、僕のYouTubeチャンネルの登録者やフォロワーの属性を見てみると、50代以上がボリューム層なんです...」。一方、森永さんが常に考えているのは、「若い世代にこそ、お金のことを知ってほしい」ということ。それは、ご自身の父親であり、同じく経済アナリストである森永卓郎さんを家族として育ってきた経験や、3人の子どもの父親でもある森永さん自身の経験から来る気持ちだったといいます。「大学生の悩みを、聞いてあげてくれませんか」そんなところから、対談が実現しました。
  対談相手は、NewsPicksトピックス「GenZのたまり場」でモデレーターを務める大学生3人。伊東瑞紀さん、上野翔碁さん、川合彩月さんです。
 本対談を通じて、お互いが感じた「楽屋トーク」もそれぞれのトピックスで展開しています。森永さんの楽屋トークは「森永康平のリアル経済学」にて「Z世代とお金の話をしてみた」、伊東さん、上野さん、川合さんの楽屋トークは「GenZのたまり場」にて「【森永康平✖️Z世代】いま聞きたいお金のハナシ」にてお楽しみいただけます。

とにかく焦りまくる若い世代

伊東:そもそもお金をどうしたらいいかが分からなくて、NISAとかiDecoとか色々聞くけど、分からなすぎるし、不安すぎるし、どうしたらいいんですか....
森永:ニュースなど見ていると、煽られて、不安になりますよね。僕自身もよく質問で受けるのが「貯金について不安がある」「将来不安だ」という漠然とした、不安の声です。何が不安なのか尋ねると、「なんとなく不安」と言うのです。そういった方には、さらに質問を重ねていきます。「今いくら手取りでもらっていますか」「月いくら使っていますか」。改めて聞かれると、答えられない方ばかりです。
 当たり前ですが、目隠しをつけたまま歩くことって怖いですよね。お金に対する漠然とした不安は「知らない」ということからきており、目隠しのまま歩こうとすることと同義です。収入も支出も分からなければ、それは不安だろうなと思います。
 その場合、一度全て書き出してみてください。結構当たり前のことに聞こえると思うのですが、給与を額面でいくらもらっているのか、その給与の中から社会保険料、所得税でいくら引かれて、毎月の手取りはいくらなのか。支出は家賃、水道光熱費などの固定費はいくらか。洋服を買う、飲み会などの変動費の平均はいくらか。
 こうやって計算すると、おおよそ毎月いくら手元に残るかが見えてきます。仮に今の仕事を65歳まで続けたとして、毎月同じ額だけ貯金できるとすると、いくら貯金できるのか。85歳まで生きたとして、その貯金額で足りるのか。
 ここまで計算すると、足りないのか十分なのか結論がでます。実際計算してもらうと、足りない人も結構いるんです。しかし、不安であると相談してくれたときと、足りないとわかった今どちらが不安じゃないのか尋ねると、足りないと分かった方が不安は減っていると言うのです。目隠しが外れれば、進むべき道が見えてくるからです。
 もちろん、こんな簡易なシミュレーションなんて、ほとんど意味がありません。そもそも、給料が現時点から一切変わらないなんてことはありえないですし、結婚したり、子どもが出来れば固定費は増えますからね。それでも、何も分かっていない状態で、ただ不安を感じてるよりは、よほどマシなんです。
Unsplash/Tonik
伊東:なるほど...まずは「なんとなく不安」から解放されそうで、安心しました。一方、例えばNISAなど「それっぽいこと」を周りの同級生が始めていて、私も始めるべきなのかな、と焦っています。
上野:僕も勉強になると思って、始めました。
川合:私も、若いうちから始めた方がよいと言われて、貯金代わりになんとなく薦められて始めました。
森永:投資を始める際の第一歩として「つみたてNISA」は悪くないと思います。言葉は悪いですが、つみたてNISAは10万円儲かったとしたら、儲けが丸々と自分の手元に残る「合法脱税」ともいえるかもしれません。その代わり、投資できる上限があって、1年間で40万円までしか投資できない仕組みになっています。
 日本では投資で10万円儲かると2万円ちょっとが税金で持っていかれて、8万円弱しか手元に残らないというような世界です。かといって、10万円損しても、2万円補填してくれるかというとそれはないですよね。その意味で、つみたてNISAは悪くないかなと思います。

iDecoってなによ...

 ただ、貯金感覚でつみたてNISAをする人には少しだけ警鐘を鳴らしています。ここ10年、日本の代表的な株価指数である日経平均株価はじわじわ上がってきました。そのため、この期間に積立投資を始めた人からすると、銀行の貯金と同じように少しずつ増えていくという感覚があるかと思います。
 一方、10年以上前を見てみると、ひどい年は投資対象によっては株式の価値が半分以下になるという冬の時代もありました。ここ10年で投資を始めた人は良い局面だけを見てしまっている。確実に見積もりが甘くなっているので、株にはリスクが付き物だということを忘れないでほしいです。
 若いうちから始めるのがよいというのは、複利の観点からで、長くやればやるほど雪だるま式に利回りが効いてくるので、増えやすくなるからです。また、投資を長期間続けることでリスクを抑えられる可能性もあります。
 金融庁がシミュレーションを公開しているのですが、5年間投資した場合(5年というのはランダムで5年間をピックアップ)、平均5%増えることもあれば、マイナス5%になることもあり、いつ始めたかによって結果にバラつきが発生します。ここで投資期間を20年に伸ばすと、どのタイミングで始めても投資成績はマイナスにならなかった。つまり、長くやればやるほど始まりのタイミングに左右されないというメリットもあるのです。
伊東:就職したあとは、今度はiDecoについても考えないといけないと聞き...。NISAとiDecoは、併用するのがよいのでしょうか。
森永:まずiDecoについては、大学生の皆さんはNISAよりも優先して活用する必要はないと思います。そもそも、毎月国民年金を納めていない可能性もありますし、バイトでそれなりに稼いでいたりしないと、iDeCoのメリットの一つでもある掛け金の所得控除の恩恵も受けられないですしね。「そういう非課税制度のある、自分で退職金を作っていく制度」と、存在を認識しておけばよい程度でしょう。学生のうちに制度の概要だけは学んでおいて、社会人になったら、iDecoを始めればいいですし、資金に余裕あるならNISAと併用するのもありです。
 特定の会社の株式に投資したい人には「ちょっと待って」というかもしれません。投資の世界で「リスク」と使う場合は、危険性が高いという意味ではなく、期待されるリターンの振れ幅が大きいことを指します。ではどうやってリスクを避けるかというと、1つの会社に突っ込まずに、10とか20とかの会社に分散投資する。そしてダメージを小さくする。
 一方、原則として日本の株は100株からしか買えないので、結局1社購入するだけでもそれなりにまとまった金額が必要になるので、それだと無理だから投資信託を買うという流れになりますよね。投資信託は、最初から分散して購入して「よしなに」やってくれる商品ですから、少ない金額でも手軽に分散投資ができます。
 少なくとも株式投資をしたいと思うなら、最低限企業の決算書が読めるくらいになっていないと危険だと思います。自分が正しい情報を見分けられる知識がないと、難しい。YoutubeやTwitterではなく、生のデータ(一次情報)を分析できる知識がなければ、やめておいた方がいいでしょうね。インフルエンサーが勧めてるから投資するとか、最低の方法です。データは嘘をつきませんが、使う人が嘘をつくというのはよくあることですから。
Unsplush/austin distel
伊東:純粋な貯金についてはどうですか。実際、今貯金がほとんどなく、無駄遣いしてしまっていると感じています。年齢別でいくらくらい貯金するのが理想なのでしょうか。
森永皆さんのような年齢であれば、お金がいくらあるかよりも、どんな経験をしているか、どんな人と何を楽しめているかを考えてほしいですね。
 敢えていうとしたら、社会人になってからは、仮に仕事をやめたときに半年は1人で生きていける程度の金額を貯金しておくことくらいでしょうか。
 例えば、就職したときにとんでもない上司のもとに配属されてしまい、パワハラやセクハラを受けてしまったとき、お金がないと辞めるという決断を下すのが難しいでしょう。何かあったとき逃げるために、半年は無職でも生活はできるように貯めておくとよいかなと思います。そうすると、これも具体的な額が分かるので、その金額が銀行口座にあれば「なんとなく不安に感じる」ことも少なくなるのではないでしょうか。

賃金の上がらない日本、出稼ぎに出るべき?

伊東:最近テレビやニュースで、海外に“出稼ぎ”に行く若者がいるという話を聞きますが、これについて森永さんはどう思いますか。
森永G7内で比較すると、日本はここ30年間でほとんど賃金が上がっていません。その背景には、日本が経済成長せず、横ばいになっていることが挙げられます。企業の売り上げが年々上がれば、従業員の給与も年々上がっていくと思いますが、売り上げが横ばいであれば給与は上がることはないのと同じです。
 ですから、日本が他国同様きちんと経済成長を遂げることができれば、賃金も上がっていくと思います。無責任に企業に賃上げを要求するのではなく、国としてしっかり成長させれば自然と上がっていくでしょう。
伊東賃金が上がらない理由は理解できました。ただ、海外の出稼ぎにいくと考えた場合、海外だと物価が高いので、結局あまり日本で生活するのと生活水準が変わらないという気もしています。
森永:伊東さんのおっしゃる通り、物価などを考えず給与の額面だけで比較するのはナンセンスです。日本の飲食店でラーメンと餃子を頼むと1000円前後で頼めますが、米国だと3000円は超えるでしょう。物価が3倍の状態ですが、賃金も3倍になるかと言われるとそうではない。仕事によっては生活水準が上がる人もいるとは思いますが、誰もが上がるとは思いません。当たり前ですが、「海外のほうが給与が高いから出稼ぎに行こう」というのは安直ですよね。
 経済の話では、データのみで話をする人が多くいます。もちろんデータは揺るがない事実なので指標として大切です。私は人間が生きていく上で生じる活動の全てが経済だと考えています。当たり前のことですが、定量的に表せない生活面のストレスや語学、文化の違いなども考えて、良し悪しを判断することが大事です。
川合:「老後2000万円問題」も気になります。私たちの老後は、年金がもらえないのでしょうか。
森永:「老後2000万円問題」とは、2017年の家計調査のデータで、高齢夫婦無職世帯は平均生活費が毎月5万5000円の赤字、30年間で約2000万円の赤字になるとされる問題です。一方、同じ算出方法でも2020年のデータを用いて再計算をしてみると、毎月1100円ほど黒字が出るので、老後資産に一切の不安はないという結果になるのです。2020年は新型コロナウイルス禍による特別定額給付金の給付により、下駄を履かせているという見方もできますが、データによってこれほどまでに差が出るというのを知ってほしいのと、一概に不安になる必要はないと思います。
 結論、老後に2000万円が必要かと言われると、必ずしも必要ではない。元も子もないような話に聞こえるかもしれないですが、人によって生活基準は異なりますし、どこに基準を置くかにもよります。あくまで2000万円という数字は、1億人以上いる日本人の内、1世帯のモデルケースを算出したにすぎません。自分の場合はどうなのか、きちんと計算することのほうがよっぽど大切です。
川合:なるほど....

貯金箱の重さで十分学べる

森永:こうした感覚は、小さな子どもからでも養えると思っています。私は子どもが3歳になったら、お金の教育を始めるようお伝えしています自分の子どもたちには3歳からブタの貯金箱を1人1つ与えて、お小遣いは硬貨を手渡しし、目の前で貯金箱に入れてもらいます。すると、貯金箱の中にいくら入っているかは分からないですが、実感として貯金箱が重くなるので、育っている感じがするようで嬉しいのです。使うときお金を取り出すので、ブタは軽く、痩せてしまうので寂しく感じる。足し算、引き算はできずとも、たかだかこの作業だけでもお金の実感を得ることができるのです。
上野:ちなみに、子どもが何を買ったか親が管理する必要はあると思いますか。
森永:日本人の親の多くが子どもに「無駄遣いするな」と伝えてお小遣いを渡すと思いますが、私は言わないようにしています。お小遣いとして子どもにお金が渡った以上、そのお金は子どものものなので、基本的に何につかっても文句を言わないようにしています。
 例えば、UFOキャッチャー。私自身も大好きでトライするのですが、それなりに費用対効果を考えますよね。おもちゃ屋さんなどでぬいぐるみを買うと、大きいもので3000円くらいするので、UFOキャッチャーであれば予算1000円以内で取れれば安く手に入ると思い、それくらいはお金を出して、チャレンジします。ちなみに、僕は10回程度やれば、確実に取れるという自信もあります。
Unsplash/Dário Gomes

「自分のお金が動く」経験をしてみる

 一方子どもは「100円だけやりたい!」と言って果敢に挑戦するのです。正直100円では当然取れないのですが。その挑戦を見届けた後、わざと同じフロアのおもちゃ屋さんに行き同じようなぬいぐるみを見つけ、「2500円出せば確実に買えるのに、25回挑戦しても取れるかどうか分からないものにお金を使ったんだよ」と煽ります(笑)。実体験の直後に一緒に学ぶことで、その失敗が強く記憶されますし、考えてお金を使うということが少しずつ身についていくと思うのです。
 本当にぬいぐるみが欲しいのであれば25回我慢して購入したほうが圧倒的に得であることに気づくことに加え、25回我慢してまで本当にこれが欲しいのか一緒に考えるという意図があります。そうすると、そこまでして欲しくないと気付くこともあるでしょう。
 でも、別の気づきもあるはずなんです。ぬいぐるみが欲しい以上に、取れるか取れないか分からないというワクワク感にお金を払っていた、という考えもあるはずなのです。
 子どもの経験と同じで、大人も例えば、ニュースを見て日経平均株価が流れていても、投資したことがなければ他人事としてスルーしてしまうかもしれませんが、投資をしていれば自分のお金がプラスになるかマイナスになるかの話なので、自然と耳に入ってくるようになりますよね。政治や経済の話も、これまで興味がなくとも、自分のお金が動くのであれば、動向は追う必要がありますし、政治家が誤った政策を行おうとすれば怒りの感情を抱くこともあるでしょう。
 投資をすることでお金が増える減る以外にも、今まで気にもしなかったものに目が向いたり、興味が湧いたりするという意味でぜひ挑戦してみるのがよいかなと思います。
伊東:今まで資産運用は義務としてやらなければならないと思っていて、なんとなくマイナスなイメージだったのですが、お話を聞いて自発的にやってみたいと思いました。
 伊東さんと上野さん、川合さんなどZ世代が中心となって発信するトピックス「GenZの部屋」と、森永さんがマクロからミクロまで経済を斬るトピックス「森永卓郎のリアル経済学」を、是非フォローしてお楽しみください!
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