2023/2/19

【教えてプロピッカー】電動キックボード「急な法改正」のなぜ

NewsPicks コミュニティチーム
「事なかれ主義の日本では珍しい動きだ」「まだ安全面で懸念があるのになぜ?」
警察庁が今年1月に発表した電動キックボード利用の規制緩和に対して、賛成・反対さまざまな意見が飛び交っています。
運転免許いらずで、ヘルメット着用も任意。パリなどの一部都市ではシェア型電動キックボードの全面禁止も検討される中、なぜこの新ルールにGoサインが出たのでしょう。
NewsPicksのコメント欄で読者の質問を募る「#教えて」シリーズ(詳細はこちら)。今回は【#教えてプロピッカー】で、新産業が規制を乗り越えていく仕組みを深掘り解説していきます。
INDEX
  • 🛴規制緩和、なぜ今だったの?
  • 🔑ルール改正の鍵は何だった?
  • 🚲シェアサイクルではダメなの?
  • 次回は2/26【#教えて編集部】編

🛴規制緩和、なぜ今だったの?

今年7月から適用される電動キックボード利用の新ルール(詳しくは下の記事にて)は、一見、大胆な規制緩和にも思えます。裏側ではどんな議論が行われてきたのでしょうか。

経済産業省の出身で、Forbes JAPAN「日本のルールメーカー30人」(2022年)に選ばれたこともあるプロピッカー羽生田 慶介さんに解説してもらいました。
電動キックボードの規制緩和については、「必要論」(環境配慮モビリティの選択肢拡充、観光促進など)と「慎重論」(事故・車両放置の防止)の双方がはっきりした形で議論されてきました。
現行法での電動キックボードは、運転免許証やヘルメットが必要な「原付きバイク」に当たりますが、2022年4月に成立した改正道交法で規定された新ルールにおいて規制緩和されました。
これが適用される2023年7月からは、利用時のルールが次のように変わります。
急速に進んだように感じるこのルールメイキングは、
  1. 実際どのくらい議論が重ねられてきたのか?
  2. 慎重論・反対論に対して、政府はどんなデータで回答したのか?
  3. 規制緩和の結果の懸念(事故防止など)に対しては今後何が必要なのか?
という点で理解を深めていただきたいです。

🔑ルール改正の鍵は何だった?

ご質問ありがとうございます。電動キックボードは、昨年くらいから街中でもよく見かけるようになりました。
それによって、下総さんと似たような思いを持ち、今回のルール改正のプロセスに疑問を持つ方もいるかもしれません。
しかし、電動キックボードの業界団体であるマイクロモビリティ推進協議会の活動を調べてみると、2019年から関係省庁や地方自治体などと議論を重ねてきたことが分かります。
その過程では、政府が用意した新事業創出のための制度を活用し、データに基づく議論が行われていました。
マイクロモビリティ推進協議会の参画事業者(2022年5月のリリースより)
最初は2019年後半から、「規制のサンドボックス制度(※)」を活用して大学の敷地内で半年ほど原付として実証実験を行い(もちろんヘルメットもかぶって)、そこで事故が起こらなかったことから「産業競争力強化法」に基づく新事業特例制度を使った公道での実証実験に進みました(東京、福岡、千葉など)。
※規制のサンドボックス制度とは

新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向け、規制官庁の認定を受けた事業者が実証実験を行い、得られた情報・データを規制見直しにつなげていく制度のこと(詳しくは内閣官房の公式サイトにて)。
2020年からの公道実証実験も、はじめの半年間はヘルメットをかぶり走行エリアも限定して行い、安全性を検証の上で2021年からヘルメットを任意とした形での実証実験に進みました。
一連の実験で、2022年9月までに以下のようなデータが集まっています。
こうした結果も受けながら、政府は有識者会議で検討を進めていました。
電動キックボードに適切なルールは何かと議論を重ね、2021年冬に報告書をまとめ、2022年4月の道路交通法改正につながったのです。
今回の電動キックボードのルール整備が早かったのか遅かったのかは、人それぞれ感じるところがあると思います。
ただ、私が注目するべきと考えているのは、ルールの整備にあたってデータの果たした役割が大きかったという点です。
Photo:iStock / Anna Lukina
新しい製品・サービスが出てくると、人はどうしても安全面で不安になります。
そこを実証実験で検討するに足る利用実績を積み重ね、事故件数や違犯態様を分析し、利用者および非利用者の声も拾いながら、適切なルールとは何かを客観的に検討していった結果が、今回のルール整備につながっていったものと考えられます。
今後重要になるのは、この規制緩和で電動キックボードによる移動が増えた都市での生活様式において、懸念される事故や放置車両を回避するための仕組みづくりです。
Photo:iStock / volkan cakirca
悪質な利用者による歩道での速度超過や飲酒運転などは、管理された実証実験だけでリスクが払拭されるものではありません。
ルールの周知徹底はもちろんですが、テクノロジーを用いた事故防止策の開発も求められるでしょう(例えば、ハンドルにアルコール検知機能を付ける設計は簡単なことです)。
自治体単位で「こういう対策機能がついていない電動キックボードは、この商店街は走行させません」という新たなルールメイキング(ハードローと言われる法規制だけではなく、自主ルールやガイドラインなどのソフトローも)が生まれる可能性もあります。

🚲シェアサイクルではダメなの?

ご質問ありがとうございます。自転車も電動キックボードも、環境に優しい乗り物として、また小回りの利く乗り物として、街中や観光地での回遊性向上、公共交通機関の補完的役割などが期待されるところです。
それぞれに利点があり、ユーザーが選択して利用することになると思いますが、電動キックボードの良さを挙げるとすれば、
  • 自転車よりも車体が小さい
  • 駐車場所も自転車ほど必要ない
という点です。コンパクトさを利用して、カフェの軒先をシェアキックボードの貸し出し返却スポットにして集客に生かしているお店もあります。
2010年代にシェアサイクルが大流行した中国では、管理方法の未整備で“ゴミの山問題”が頻発(Photo:iStock / Julien Viry)
平澤さんのご指摘通り、電源が切れると走れないという課題はあり、電動自動車もそうですが社会インフラとしての充電スタンドが今後はより求められるのではないかと思います。
もちろん、自転車・キックボードともに、利用者そしてすれ違う通行者に対する危険性があることは改めて言うまでもないでしょう。
海外では、シェアサイクルやシェア型電動キックボードの普及により、街中に放置車両があふれ、自治体が参入事業者の数を制限するような例も出てきているとも聞きます。
日本でもそのような事態にならないよう、警察の取り締まりはもちろん、事業者の自主努力にも期待したいと思います。

次回は2/26【#教えて編集部】編

NewsPicksは、これからも読者の「もっと知りたい」にお応えしてまいります。
【#教えて編集部】【#教えてプロピッカー】でいただいたコメントには、全て目を通しておりますので、たくさんの「問い」をお寄せいただけたら幸いです。
また、問いに対する答えは1つではなく多様であるため、追加取材した記事の内容も1つの意見だということをご認識いただけましたら幸いです。