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【第1回】ビッグクラブのすべて

「マンチェスター・ユナイテッド」ブランドの実力

2015/2/1
ビッグクラブのすべてでは、最新のスポーツビジネスの姿を描くべく、サッカー、野球など、あらゆるスポーツのビッグクラブのビジネスをインフォグラフィックで解説。あわせて、スポーツビジネスを知り尽くしたデロイトトーマツのコンサルタントたちが、クラブ、リーグ、スタジアムという視点から分析を行う。今回は、インフォグラフィックによる解説編です。

昨季プレミアリーグ発足後最悪となるリーグ7位でシーズンを終えたマンチェスター・ユナイテッド。欧州チャンピオンズリーグへの出場権を逃したことで今季の売上は大幅減が見込まれ、予算縮小は免れられないはずだった。

しかしそんなことはどこ吹く風、彼らは再び頂点に返り咲くために今夏リーグトップとなる122ミリオンポンド(約222億円。1ポンド=182円で換算)もの大金を補強に投じてみせた。一体なぜそんな非常識な経営が可能だったのだろうか?

プレミアNo.1の実績

マンチェスター・ユナイテッドと言えば、イングランドを代表する世界的な名門クラブ。1992年発足の英プレミアリーグでは他の強豪クラブを抑え、断トツ13回の優勝を誇る。

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13/14シーズンの悪夢

しかし、在任27年間で数多くの栄光をもたらしてきたファーガソン監督退任の影響は大きかった。翌13/14シーズンは7位と大きく順位を落とし、18シーズンぶりに欧州チャンピオンズリーグへの出場権を逃すことになった。

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健全経営から多額負債へ

成績不振による収入減は、経営面に大きな影響を及ぼしかねなかった。健全経営で知られていたマンチェスター・ユナイテッドは2005年から多額の負債に苦しみ、近年は借金返済に追われていたからだ。

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負債のきっかけとなったのは、米実業家グレイザー一族によるクラブ買収だ。グレイザーは2003年からマンチェスター・ユナイテッド株の買収を進め、2005年5月に51%の株式買収を完了させてオーナーに就任。問題だったのはその買収方法。グレイザー一族は買収先の資産を担保に入れて資金を調達する「レバレッジバイアウト」を行なったため、クラブは買収されたと同時に多額の負債を抱えることになった。

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チームへの影響

だが、グレイザー買収に伴う経営状態の悪化は、チーム強化に影響をもたらしたとは言い難い。負債発生以降も、補強に投じた金額は減るどころか増加しているのだ(2005年のみ移籍金収支がプラスになったのは、クリスチャーノ・ロナウドをレアル・マドリーに売却したため)。

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選手給与の総額に関しても、ハッキリと増加傾向にあることが見て取れる。

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他のビッグクラブと比較してみても、給与総額に見劣りはない。つまり、クラブは負債を抱えながらも、チーム強化のための資金調達に関しては大きな影響が及ぶことはなかったのである。

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ブランドの力

そんな彼らの資金調達を支えたのが、スポンサーの存在だ。今季から始まったスポンサー契約の総額は昨季の2倍以上。この10年間でメインスポンサーの年間契約料は6倍弱になった。

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さらに広告収入の双璧とも言えるサプライヤー契約については、来季からアディダスと年間75ミリオンポンド(約137億円)の10年契約を新たに締結。これは現在レアル・マドリーがアディダスと交している年間31ミリオンポンド(約56億円)を大きく上回るスポーツクラブ史上最高額の大型契約だ。

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スポンサー収入増加の結果、13/14シーズンは競技面で不振に陥りながらも年間売上高は過去最高を記録した。

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こうして新たなスポンサーを獲得できるのも、彼らが世界中に多くのファンを抱えているからこそ。世界で6億5000万人いると言われるマンチェスター・ユナイテッドのファンのうち、実に49%をアジアのファンが占めている(この数字はクラブ発表によるもの。「ファン」の定義は曖昧で、実際にはもっと少ないという指摘もある)。

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目覚ましい経済成長を遂げるアジアへの進出は、クラブの経済成長にとって欠かせない。アジアでのファン獲得やマネタイズなどに成功したと言われるマンチェスター・ユナイテッドのアジア戦略も、金融に関する専門家の存在あってのことだ。

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現在クラブの実質トップを務めるエド・ウッドワードCEOは、J.P.モルガンのM&A部門出身者だ。グレイザー一族のクラブ買収時にJ.P.モルガンの人間としてアドバイザーを務め、その後マンチェスター・ユナイテッドに転職。商業・メディア事業担当に就任し、世界中からスポンサーを獲得してクラブ売上の急増に貢献した。

ウッドワードはJ.P.モルガンから後輩のジェイミー・リーグルを引き抜き、彼はクラブ史上初の海外オフィスとなるアジア部門の責任者に就任。その高い人気を活かし、アジアから続々とスポンサーを集めている。

名門復活への道

2005年にグレイザー一族がクラブを買収した際、他者に買収させないようにロンドン市場への上場は廃止された。しかし2012年、新たな買い手を見込んでニューヨーク市場へ再上場(ただし敵対的買収を防ぐために、この株の議決権はグレイザー一族が持つ株の10分の1に設定されている)。この資金調達は、負債を軽減するためだ。

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クラブは経済成長を続け、負債も年々減っている。ならば名門の誇りを取り戻さなければならない。今季開幕前にはプレミアリーグ最多となる補強資金を投じた。

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頭痛の種だった監督にはファン・ハールを招聘(しょうへい)。大金を投じてディ・マリア、ファルカオというビッグネームも獲得した。序盤こそ出遅れたものの徐々にその実力を発揮し、現在は順位を上げてきた。名門復活の日は近づいている。

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フットボールの世界において、競技面の成功と経営面の成功は密接に関係しあっている。競技面の成功が経営面の安定をもたらし、経営面の安定が更なる競技面の成功を可能にする。

もちろんチームが不振に陥れば売上は減り、予算の縮小を余儀なくされる。収入が減る見込みであるのにも関わらず支出を増やすのは大きなリスクを伴う。

だが、マンチェスター・ユナイテッドというクラブにそんな常識は当てはまらない。一時的な不振に陥ろうとも経済成長を続けるクラブは、大量の資金を投じてチームの強化を図る。それを可能にしているのはクラブの成績に左右されずに新たなスポンサーを呼び込む「マンチェスター・ユナイテッド」というブランド力なのである。

(ライター:山口裕平/インフォグラフィック編集:櫻田潤)

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