[東京 29日 ロイター] - 政府が、日銀の実施している量的・質的金融緩和(QQE)について、当面は追加緩和の必要性がないと見解を固めていたことが明らかになった。複数の関係筋が明らかにした。

原油価格の下落は日本経済にとって大きなチャンスであり、追加緩和で円安が進めば、メリットが減殺されるとみているためだ。

安倍晋三内閣は、1)大胆な金融緩和、2)柔軟な財政政策、3)成長戦略の推進──というアベノミクスの3本の矢を推し進めることで、景気回復を図るマクロ経済政策を実施してきた。

だが、1バレル40ドル台半ばと高値から60%を超えて下落してきた原油価格の動向という大きな変動要因が、1本目の矢である金融政策に対するスタンスを大きく変えつつある。

複数の政府関係者によると、政府として原油安によるメリットを最大限に生かすために、物価上昇率の低下に対応して日銀が追加緩和することは、政府として当面歓迎しないスタンスに切り替えた。

政府関係筋の1人は、日銀が10月末に追加緩和を実施したことは誤りとは思っていないとした上で「あの時は、景気が停滞しデフレマインドが再び強まる気配がある時期だった。しかし、今は経済情勢が異なる。政府が増税を延期し、原油価格が急速に下落し、日本経済にとって追い風が吹き出した」と指摘する。

政府関係者の間では、日銀も、今の物価上昇率の低下はデフレからくるものではなく、原油安というチャンスに起因したものであることはよく認識すべきだとの声が複数あり、「この局面での追加緩和はありえないと思っている」との強い調子の発言も浮上している。

足元の日本経済では、企業収益の拡大や今春闘後の実質所得のプラス転換も期待されている。そこへ日銀の追加緩和で物価上昇が促されてしまっては、中小企業の業績や個人所得の回復に水を差しかねない、との見方が政府部内で台頭している。

別の政府関係者も「原油安を理由に追加緩和はしないと日銀は言っている。そういうことで、政府と日銀は了解している」との認識を示す。

原油安メリットが日本経済に浸透するまでには、電気・ガス料金などの値下げなども含めて4─7カ月程度はかかる。このため「原油安で日本経済にプラスになるのはこれから。そういう状況で人為的に物価を上げようという政策は、必要ないということだ」としている。

今年4月に統一地方選を控え、与党にとっても、追加緩和で円安が大幅に進み、輸入品を中心に生活必需品などの値上がりにつながれば、地方でアベノミクスに対する批判が高まりかねず、そうした事態を避けたいとの思惑もある模様だ。

実は1月の政府の月例経済報告で、日銀の物価目標2%達成に関する表現について、従来の「できるだけ早期に」から「経済・物価情勢を踏まえつつ」に修正された。

複数の関係筋によると、1月に決めた来年度の政府経済見通しでは、日銀目標とのギャップが鮮明となり、さらに原油価格の低下で物価に下押し圧力がかかっているなかで、「できるだけ早期に」と言い続けれは、政府が追加緩和を催促していると誤解されることを恐れたためだという。

甘利明・経済再生担当相が27日の会見で「2年程度(での目標達成)に向かう環境が、大きく変化していくということは、勘案しなければならない」と述べたが、担当相に近い関係筋は「2%の達成を急ぐことに、あまり固執しなくていいとの意向が込められているようだ」と話す。

そのうえで「担当相が追加緩和の圧力をかけることはない」とも述べている。

菅義偉官房長官は29日の会見で、政府が追加緩和必要なしとの見解を固めたのかとの質問に対し「日銀の方で、方向性は決めると思う。政府が日銀と連携もしないで、そうしたことを言うことはありえない」と述べた。

(中川泉 取材協力・吉川裕子 編集:田巻一彦)