(ブルームバーグ): ファーストリテイリングの柳井正会長が目指す「LifeWear(ライフウェア)」がロゴもなく、合わせやすさが魅力の服なら、同社の「UT(ユーティー)」コレクションはその対極にある存在だ。奇抜なイラストや写真、図柄をあしらったTシャツは発売のたびに話題を集める。

UTはアートや音楽、映画など世界のポップカルチャーを「着る」がコンセプト。米国の現代アーティストKAWS(カウズ)とコラボレーションした2019年は、中国のユニクロで開店と同時に商品を求め客が殺到する動画が衆目を集めた。人気アニメ「鬼滅の刃」などとのコラボでは、20年8月の国内ユニクロの売上高を3割押し上げる原動力になった。

昨年、UTではデザインを監修するクリエイティブディレクターが10年ぶりに交代し、コラージュ・アーティストの河村康輔氏が就任した。ストリートをテーマにした初監修のシリーズは1月23日に発売され、27日からは原宿でスケートボードイベントも開催。

河村氏は東京・有明のユニクロ本部でインタビューに応じ、「自分が呼ばれたということは強化したい部分が明確にUTにあるから」だと述べた。UTの形をトレンドのビックシルエットに変え、生地の厚みも変え、価格も同時に見直すという大きな変動は、広報担当によると過去のUTではなかった試みだという。

スケートボーダーの上野伸平氏などとのコラボで「今までなかったストリートと呼ばれるもの」を取り込んだ。河村氏は「UTというだけで売れるTシャツ、しっかりしたブランドとして認知される」ことを目標に掲げる。

IP依存からの脱却

UTは03年に「ユニクロTシャツプロジェクト」としてスタートし、13年からはNIGO®氏が初代クリエイティブディレクター務め、河村氏は2代目となる。

UTのアーカイブに並ぶコラボ商品を見ると、ジャン=ミシェル・バスキアや草間彌生、村上隆らの現代アーティストのほか、「ドラゴンボール」など漫画コンテンツ、任天堂のゲームソフト「あつまれどうぶつの森」と多彩だ。

だが、河村氏は「結局IP(知的財産)ばかりになっている」と現状の問題点を指摘し、今後は知名度が低く、「アンダーグラウンドだけどすごくかっこいいもの」のほか、大衆向けで著名なもの、その両方を押さえられるものにしたいと方向転換を示唆する。

河村氏はTシャツへのこだわりについて「自分を象徴するプラカード」だと語り、プリントされたデザインはブランドの顔で、「世の中に広めるメディア」だともみている。ファストリが昨年始めた利益の全額(販売金額の20%)を人道的支援団体に寄付するチャリティTシャツプロジェクト、「PEACE FOR ALL」にも自身がデザイナーとして参加している。

ファストリはUT事業の財務データを開示していないが、クレディ・スイス証券の風早隆弘アナリストは、「消費者の来訪動機を増やす上では重要」だと指摘する。特に事業拡大の初期段階にある欧米などでは「ユニクロのブランド認知度の拡大につながる」とする一方で、「持続的に斬新さを発信し続けられるのか」が課題と語った。

河村氏は19年にコラボレーターとして初めてUTに参画。22年4月のクリエイティブディレクター就任時には「さまざまなジャンルのカルチャーをのせたTシャツを通して、まだ知らないものに触れる入口や、より知識を広げるきっかけとなるブランドにしていきたい」と抱負を語っていた。

(見出しの意味を明確にし、発言の詳細を追加して記事を更新します)

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