2023/1/13

【学生必見】「仕事だけの大人」にならない働き方

社会人になっても「仕事だけ」の大人にはなりたくない。
例えば朝夕の通学で電車やバスに乗っている時、疲れた顔の社会人を見てこんなふうに思ったことはないでしょうか。
就活でワークライフバランスが気になるのも、余暇がなくなる恐怖というより、徒労感だけが募る「労働」に終始したくないから。
では、充実した仕事人生を送るには、何を意識すればいいのでしょう。今回は、日本最大級の遊び予約サイト「アソビュー!」を運営するプロピッカーの内田有映さんに、自身も実践してきた
「遊びと仕事を融合する生き方」
を教えてもらいます。
話を聞きに行ったのは、NewsPicksの学生アンバサダー「NewsPicks Student Picker」第二期生の小堀拓磨さんと木野本 賢さん。
人生を豊かにする遊びとはどんなものか、内田さんの考えを深掘りしました。
INDEX
  • 楽しさはデザインできる
  • とらえ方次第で仕事は遊びになる
  • 「若いうちに遊んでおけ」の真意
  • 「遊ぶように働く」を実践するには

楽しさはデザインできる

小堀 内田さんはアソビューで遊びと仕事を融合させるような取り組みを進めています。学生の頃は、遊びというものをどんなふうにとらえていましたか?
内田 僕は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)の出身で、大学と大学院ではエンターテインメントデザインや楽しさみたいなことを研究してモノづくりをしていました。
具体的には、観光地や商業施設によくある、手で触るとプロジェクションで投影した映像の動きが変わるようなインタラクティブアートの制作をしていました。今で言う、チームラボが制作している作品みたいなイメージに近いです。
当時から、明確に「楽しさをどうデザインするか」に興味がありました。
小堀 楽しさをデザインすることに興味を抱くような原体験があったのですか?
内田 きっかけは大学の授業でした。
佐藤雅彦さんってご存じですか? 電通出身のクリエイティブディレクターで、「ドンタコス」や「ポリンキー」などのCMを作った方の授業があって。NHKのEテレで「ピタゴラスイッチ」などの番組も手掛けている方です。
現在は東京藝術大学で教授をしておられるのですが、SFCに在籍していた時に佐藤先生がやっていたクリエイティブを考える授業が面白かったんです。
僕はそれまで、「CMなどクリエイティブな企画は、雰囲気や感覚で作るもの」と思っていたのですが、佐藤さんは面白さについてのルールを作り、ロジカルに制作する表現方法を、授業を通じて教えてくれました。
あの授業の衝撃から、僕も楽しさとか遊びを自分なりに考えるようになり、面白いものを集めたり整理したりして、アウトプットしていくようになりました。
木野本 社会に出てからは、遊びに対するとらえ方は変わりましたか?
内田 そうですね。就職すると余暇の時間は明確に減ります。だから遊びは学生の頃に比べると「贅沢品」になる。
僕が駆け出しの若手社会人だった頃は、電車があるうちに帰れない日も多くて、連日タクシーで帰るような忙しい毎日でした。だけど、代わりに2~3週間、まとめて有休が取れることも多かったんです。
だから休みになると、バックパックでアフリカに行ったり、南米やネパールに行ったりしていました。
これも贅沢な遊びだったなと今振り返ると思います。

とらえ方次第で仕事は遊びになる

小堀 「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」という言葉を生んだ、ヨハン・ホイジンガという歴史学者の本を読んだ時、「遊びとは自由の行為であり、生産的なことではない」みたいな一文があって。
僕も遊びは人生のスパイスのようなものだと思っています。現在の内田さんにとって、遊びとはどのようなものですか?
内田 僕が執行役員をしているアソビューでは、「生きるに、遊びを。」をミッションに掲げています。
衣・食・住に「遊」を加えて、社会実装していこうとしています。国民の総遊び時間を増やすことで、より豊かな社会を作りたい。
そんな中、現代社会では、仕事と遊びの境界がどんどん薄れていくとも考えています。
アソビュー以外にも、例えば短期間の職業体験を提供している「仕事旅行」さんは、利用者がお金を払って伝統工芸などの仕事を経験させてもらうというサービスを提供しています。
また、「おてつたび」さんというサービスは、地方の農家や旅館などのお手伝いをしながら旅をする機会を提供しています。お金をもらって旅行に行くという世界観を生み出したわけです。
これらはまさに、余暇や遊びという概念を変えていると思うんです。
小堀 遊びが生産的な行為とつながっていますね。
内田 マーク・トウェインの有名な小説『トム・ソーヤーの冒険』に出てくる、ペンキ塗りのエピソードにも、とても示唆深いヒントが隠されています。
Photo:iStock / raclro
主人公の少年トムは、ある時、いたずらをした罰として塀のペンキ塗りを命じられるんですね。
最初は嫌々やっていたけど、ふと思いついて、さも楽しくてたまらないふりをしながらペンキを塗り始めたら、通りかかった友だちが「このリンゴをあげるから、ペンキ塗りさせてよ」と逆に頼んでくるようになる。
その後は、ペンキ塗りをしたいという友だちが群がってくるという話です。
罰としてペンキ塗りをしていたはずなのに、それを友だちがリンゴを渡してまでやりたい遊びに転換したわけです。
そういうふうに、とらえ方次第で、仕事と遊びはひっくり返ってしまいます。
漁港でホタテの貝殻を磨く作業も、地元のおばちゃんが磨けば労働になるけれど、観光客が体験すれば魅力的な体験コンテンツになる。旅行に行くことでお金がもらえる一方で、仕事に体験価値を感じてお金を払ったりする。
こんなふうに、遊びと仕事の境界線がどんどん曖昧になり薄れていく時代だという気がします。

「若いうちに遊んでおけ」の真意

木野本 仕事と遊びの境界線について本音を話すと、大学3年生の今は「遊ぶ時間を削って、就活やインターンシップに時間を割いたほうがいいのでは」と思ってしまいます。
自分の中では、仕事と遊びは対極にあるというか。
内田さんのお話だと、こう考えてしまうこと自体が良くないのでしょうか?
Photo:iStock / kazuma seki
内田 良い・悪いで考える話ではないし、遊びを強制するつもりもないので、難しいテーマですね。
木野本 でも、周りの大人からよく「今のうちに遊んでおきなよ」と言われますし、それもすごく気になってしまって......。
内田 僕も学生の頃はそんなふうに言われたし、今は若い人にそういうことをよく言っていますね(笑)。
ただ、この文脈で言う遊びって、「インターンなんてやらずに、パチンコとかゲームをして、毎日飲み会をして遊んで過ごしなよ」と言っているわけではないと思うんです。
時間やお金の浪費ではなく、自己投資としての遊びを勧めていると思いますよ。
旅行一つをとっても、ただ羽を伸ばしに行くのではなく、好奇心を持って自分の知らない世界を知ろうとするのが大切だと思うんです。
地方創生の事例で名が挙がる地域に実際に足を運んでみたり、NewsPicksで特集されていた観光地に行ってみる。新しくできた建築物やアート作品に触れる。
本質的には、遊ぶとは社会から学ぶことだと思っています。好奇心を持ち、学ぶことって、本来は楽しいことなんです。
木野本 一時的な気晴らしではなく、今後の人生に生きるようなところに投資していくイメージですか?
内田 そうですね。遊びと仕事を一体化させるには、そういう考え方が大切です。
小堀 内田さんが今、大学生だったら、どんな遊びをやりますか?
内田 自分の原体験の幅を広げる、経験の価値を広げていくという意味では、やっぱり海外旅行ですかね。
あと、歴史や文化を書籍と旅行を通じてゆっくり学びたい。茶道、華道、弓道、剣道など、「道」がつくものもやってみたい。あれも昔から続いている伝統的な遊びですよね。
Photo:iStock / Yuuji
小堀 僕が前に読んだ本の中に、ゲームや映画鑑賞など家の中で1人でやるようなことは「低俗な遊び」で、それに比べると旅行に行くほうがランクが高いみたいなことが書いてありました。内田さんはどう思いますか?
内田 そこまで強く否定するつもりはないですし、僕もゲームをするし、映画も見ますよ。面白いですし、娯楽として価値もとてもあります。
ただ、ゲームは枠の中にある「商業として作られた遊び」なので、原体験を得にくい印象です。映画も、決められた枠の中での感動体験だと言えます。だから僕は、映画もノンフィクションやドキュメンタリーのほうが好きなんですよ。
これらの娯楽と、海外旅行は何が違うのか。海外への旅は決まった枠からはみ出し、五感を刺激するような感動を得られるし、そこから原体験として学ぶことも多くあると思います。
決まった枠からはみ出すという点では、多分、ビジネスも同じなんですよ。
こう言うと不謹慎に感じる人もいるかもしれませんが、僕にとって、今はアソビューという会社が大きくなっていくことが一つの遊びなのかもしれません。だから僕は仕事が楽しいんです。

「遊ぶように働く」を実践するには

木野本 内田さんは「遊ぶように働く」一環として、日本の各地域を回りながら観光地域づくり法人(DMO)の設立支援や体験商品開発をしているそうですね。なぜ、地域貢献にもつながるような仕事をやろうと?
内田 僕は学生時代、すごく人に恵まれたんです。
アソビューに入る前に起業した時の共同創業者と知り合ったのも学生時代ですし、海外旅行先で見ず知らずの人の家に泊めてもらったりもしました。
シリコンバレーへの留学時代には、アメリカ人のホストファミリーを紹介してもらい、無料で3カ月以上住んでいたこともあります。
そういう方々に「いずれ必ずお礼します」と伝えると、いらないと言われるのです。年上の自分にではなく、次の世代の後輩たちに返してほしいと。
その時に、“Pay it Forward”という言葉とその精神を学びました。
Photo:iStock / marekuliasz
恵まれた人生の中で、“Pay it Forward”を心に刻んできたから、地元や母校、育ってきた環境に対して貢献したいと思うようになったのかなと思っています。
だから今回の学生の皆さんの取材もそうですし、OB訪問で話を聞きたいと言われたら、喜んで時間を使います。会社の若手社員からの相談も同様です。
自分が良い大人たちにめぐり会った恵まれた人生だから、自分もできる限り若い人の役に立つ大人になりたいと思うんでしょうね。
みんながそういう姿勢で動いたら、社会はもっと良い循環になっていくと思うんです。
木野本 内田さんのように、自分がやりたいことと仕事を上手につなげられる人は少ないのではと思ってしまいます。これから社会に出る身として、熱中できる分野をどう見つければいいのか、アドバイスがあれば教えてください。
内田 難しいですね。
でも、お二人はNewsPicksのStudent Pickerに自らエントリーしたんですよね?
木野本 そうです。
内田 まず、それ自体が素晴らしいことだと思います。そんなふうに、何かの募集に手を挙げてみるような行動をどれだけできるか、かもしれませんね、きっかけになるのは。
熱中できることが見つからないと思い悩むくらいなら、まず「良い風が吹くところ」に能動的に行動して身を置くことが大事だと思います。
気になる著名な方がやっているオンラインサロンに参加してもいいし、書籍を読んで気になる著者の会社に学生インターンを申し込んでみてもいい。
面白そうだなと感じる環境に自ら機会を作って身を置けば、何か熱中することが見つかるかもしれません。誰かから一緒にやろうと誘われるかもしれないし、行動しないとチャンスは得られないですから。
起業するのではなくても、これから小堀さんや木野本さんたちが社会に出ると、何かしら予想外のことが起きて凹むことがあると思います。
でも、それをどうとらえるかは、自分のマインドとモチベーション次第。周囲や環境のせいにして言い訳をする、他責になるのが一番いけない。
特に社会人1年目は、どうしても組織への貢献度が低くなるので、自己肯定感を持ちにくくなるかもしれません。
そういう中で、いかに貪欲に自ら学ぶスタンスを取れるかが大切になります。
ただ単に資料のコピーを取るのか、それとも「今、上司はどういうプロジェクトをやっていて、この資料がそこでどういう役割を果たすのか」を見ながらコピーを取るのとでは違いますよね。
そういうふうに、ちょっと視座を上げるだけで、熱中することが見つかるかもしれない。そして、モチベーション高く仕事をする人は成果も出るし、次の新しい機会が回ってきます。
その瞬間、瞬間の気持ちに素直になって行動しながら、ポジティブに行動していく。最初の一歩はこういうアクションにあるんじゃないかと思います。