[ロンドン 28日 ロイター] - 今年1年を振り返ると、新興国市場ではデフォルト(債務不履行)に陥った国が増え、通貨安に見舞われた上に、株価と債券価格はともに大きく下落した。だが多くの投資家は、来年はある程度安心感が得られる可能性があると楽観している。

投資家が来年の新興国市場を見通す上で、押さえるべき大事なポイントを以下に挙げた。

(1)高い金利と低い成長

米国をはじめとする主要国で利上げペースが鈍化し、来年の新興国市場が回復する土台を整えてくれる可能性がある。ドルの軟化と物価上昇鈍化という待望の安心材料も届けられる。

ただ特に来年前半は、米国や欧州の景気後退(リセッション)懸念が世界全体の金融市場に暗い影を落とす。ドイツ銀行のグループチーフエコノミスト、デービッド・フォルカーツランダウ氏は「景気悪化と積極的な金融引き締め、そしてそれらを生み出す地政学とコモディティーのショックが新興国市場に一時的に痛みをもたらすだろう」と警告した。

新興国の中央銀行が来年のほとんどの期間で利下げする余地を確保できないとすれば、景気回復も遅れかねない。

(2)中国の経済活動再開

新型コロナウイルスの感染対策としてロックダウン(都市封鎖)など厳しい規制を敷いてきた中国はこれらの措置を緩和しつつあるが、外国との往来や経済活動の本格的再開に向けた道のりは平たんではないだろう。それでも世界全体の経済成長が弱まる中で、中国経済の急速な持ち直しが展望できるのは朗報と言える。

アナリストの見立てでは、来年半ば以降は中国の消費と投資が急激に上向くと期待できる。

デュポン・キャピタルの新興国株責任者エリック・ジプフ氏は「現在の中国の貯蓄率は非常に高くなっている。人々が外出しても大丈夫だと思う時期がくればすぐにそれが消費され、経済にとってかなり大きな追い風になると思う」と述べた。

(3)ウクライナの戦争

ウクライナで起きている戦争が、このまま続くのか、激化するのか、それとも停戦に向けた進展があるのかは世界の経済と金融市場にとって、この上ないほど重要な意味を持つだろう。

戦争によって世界全体でエネルギー価格が上がってインフレが進み、食料安全保障と地政学リスクを巡る認識を揺さぶったが、より痛みを感じたのは新興国だ。

(4)債務問題

コロナ禍とウクライナの戦争を通じて、債務返済に困窮する途上国は増え続けている。ザンビアとエチオピアは20カ国・地域(G20)が設けた枠組みの下で債務再編を目指しつつあり、スリランカとガーナは今年、デフォルトを引き起こした。

以前の途上国債務問題に比べて、現在は中国が世界最大の二国間融資国として台頭するなど債権者の構成がより複雑化した。そのため再編協議は遅れ、難航している。

国際金融資本市場から閉め出された途上国の数は歴史的な高水準となった。アビバ・インベスターズの新興国市場ソブリンアナリスト、カルメン・アルテンキルヒ氏は、来年満期を迎える途上国債務の規模はそれほど大きくないとしつつも、恐らく最も危険な状態になるのはパキスタンだと指摘した。

(5)ルラ氏復帰のブラジル

ブラジルでは来年1月1日にルラ元大統領が再び政権の座に就く。市場は既に、財政支出に一定の歯止めをかけるシグナルが出てくるのかどうかを注視している状況。ルラ氏は選挙公約実現のために1680億レアル(316億ドル)の支出を提案しており、これがインフレ圧力を高めかねないと懸念されている。

スタンダード・チャータード銀行の新興国市場ソブリン戦略責任者ゴーディアン・ケメン氏は「ブラジルで債務の対国内総生産(GDP)比が膨張し、すぐにも100%に達するのか、それとも向こう2─3年安定させられるのか、投資家は知りたがっている」と説明する。

(6)トルコの選挙

トルコは来年、大統領選と議会選が行われる。エルドアン大統領は、20年前に政治の実権を掌握して以来最大の試練に直面するかもしれない。

同国は生活費増大や通貨安に苦しみ続けている。一方、何年にもわたって経済理論に反する金融政策を行ってきた結果、多くの海外投資家はポートフォリオにおいてトルコ資産の比率を減らしてきている。それだけに選挙後に指導者交代が起きれば、状況好転につながってもおかしくない。

バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチの新興国クロス資産戦略・経済・欧州中東アフリカ責任者デービッド・ホーナー氏は「この選挙は、どんな結果になろうとも来年(の新興国で)最も興味を引くストーリーとなる可能性がある」と語る。

(7)他の選挙

来年は他の新興国でも重要な選挙が控える。アフリカで最大の人口を抱えるナイジェリアは2月に大統領選があり、現職のブハリ大統領は憲法上の規定により今回は出馬できない。

10月にはアルゼンチン大統領選が実施される。過去に大統領を2期務め、現在は副大統領となっているクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏は、汚職の罪で禁錮6年の判決を受けた後、いかなる公職にも立候補しないと表明している。

ポーランドも秋に総選挙が予定されている。