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テレビと映画は違う

今年のゴールデングローブ賞で、コメディ・ミュージカル部門の作品賞に輝いたアマゾン・ドットコムの独自製作ドラマ『トランスペアレント』。勢いに乗るアマゾンは数日後、映画監督のウディ・アレン(79)によるオリジナルドラマを製作すると発表した。

だが、その決断には少しばかり危うさが潜んでいる。

アレンの独特の作風にファンは多く、『アニー・ホール』や『ミッドナイト・イン・パリ』などアカデミー賞受賞作もある。だが、アレンがドラマを手がけるのはこれが初めてだ。彼ほどの大物ならギャラも相当な額に上るだろうが、それに見合ったヒット作を生み出せるのか。

「テレビと映画は違う。両方に成功した脚本家や演出家は少ない」と、ウェドブッシュ・セキュリティーズのマイケル・パクターは指摘する。

アレン自身、本気とも冗談ともつかないコメントを発表している。「とんでもないことになった。どこから手を付けたらいいのか、さっぱり分からない。ロイ・プライスは後悔することになると思う」

ロイ・プライスとは、アマゾンの映画・ドラマ製作部門であるアマゾン・スタジオのトップのこと。父親はコロンビア映画の元CEOフランク・プライスだ。2010年に設置されたアマゾン・スタジオは、ネット上で脚本を募集したり、視聴者にパイロット版の評価をしてもらい続編製作を決めるなど、伝統的なテレビドラマとは異なる斬新なアプローチを採用してきた。

アレンはそのアマゾン・スタジオの依頼を受け、30分ドラマ(タイトルは未定)を1シーズン執筆・演出する。視聴できるのは、アマゾン・ドットコム(アメリカのサイト)のプライム会員となる(ただしアメリカ在住・滞在者)。

ファイアフォンは大コケ

最近はケーブルテレビ局のHBOが『ゲーム・オブ・スローンズ』、映像ストリーミング配信のネットフリックスが『ハウス・オブ・カード』など独自製作ドラマを大ヒットさせて、本業の契約者を増やしている。

アマゾンのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)も、オリジナルコンテンツでプライム会員(会費は年間99ドル)を増やしたいらしい。アマゾンはプライム会員の数を公表していないが、2000万~3500万人というのが業界筋の見方だ。

もちろん動画配信サービスの利用者が増えて、ショッピング利用客が増えればそれに越したことはない。動画配信サービス「アマゾン・インスタントビデオ」は、プライム会員でなくてもレンタル料やソフト購入料金を支払えば視聴することができる。

ベゾスは動画配信以外でも、事業の多角化と新たな収益源の創出に向けて積極的に投資してきた。2014年には独自のスマートフォン「ファイアフォン(Fire Phone)」や動画配信向けセットトップボックス「ファイアTV(Fire TV)」を発売。クラウドコンピューティングのプラットフォームを提供する「アマゾンウェブサービス」は、既に法人を含め1億人を超えるユーザーがいる。

1月15日、アマゾンは新たに7本のオリジナルコンテンツの配信を開始した。この中にはリドリー・スコットが製作総指揮を務めるドラマ『高い城の男』(第2次世界大戦が枢軸国の勝利に終わり、日本とドイツがアメリカを分割占領する物語)や、ニューヨーカー誌の記事をドキュメンタリー化した30分番組(パイロット版)もある。子ども向け番組6本の配信も始まった。

だが投資家は、利益よりも顧客満足と成長を優先するベゾスの姿勢に、しびれを切らしつつある。アマゾンの株価は1年前と比べて100ドル以上落ち込み300ドルを割り込んでいる。2014年第3四半期(7~9月)決算では4億3700万ドルの純損益を計上。「ファイアフォン」は大コケとなり、関連する損失が1億7000万ドルにも上っていることが明らかになった。

収益への影響は未知数

オリジナルコンテンツの製作にはコストがかかる上に、プライム会員がアレンの私生活に眉をひそめる恐れもある。アレンの35歳年下の妻スンイ・プレビンは、元妻ミア・ファローの連れ子(ファローと指揮者アンドレ・プレビンの養女)。アレンとファローの養女ディラン・ファローが昨年、子どものときアランに性的虐待を受けたと「告発」したのも記憶に新しい。

だが、「個人的な評価はどうあれ、ウディ・アレンは現代を象徴する映画監督の1人であり、アマゾンがコラボレーションを決めた大胆さは評価できる」と、調査会社レントラックのポール・ダーガラベディアンは語る。「『トランスペアレント』がゴールデングローブを受賞して、アマゾンのプレゼンスを計り知れないほど高めた今、まさにこうした措置こそ必要とされている」

一方、脚本家として南カリフォルニア大学で教えているジャック・エップスは、アレン登用はクリエーティブ面から見ればスマートな措置だが、その作品がアマゾンにどんな利益をもたらすかは未知数だと指摘する。

「ニューメディアの世界で一番難しいのは、こうした試みを収益に結びつけることだ」と、エップスは言う。「業績的にどう影響するかは本当のところ誰にも分からないと思う。(アレン登用は)ちょっと神頼み的な感じがする」

(執筆:Antonia Massa記者、Spencer Soper記者、Christopher Palmeri記者、写真:bloomberg、翻訳:藤原朝子)

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