SPEEDAセミナー

【第3回】海外事業の本社機能はジュネーブ

JT流「日本人に頼らないグローバル化」の真実

2015/1/21
2007年、イギリスのたばこ会社Gallaherを日本企業によるM&A額で過去最高となる2兆2000億円で買収し、グローバルカンパニーとしての基盤を強化した日本たばこ産業。
2030年をめどに、人材・販促領域でグローバルNo.1を目指すと宣言し、中期的に7000億円程度のM&A余力を持つというリクルート。
両社の若き経営企画のトップである、日本たばこ産業執行役員企画副責任者の筒井岳彦氏、リクルートホールディングス経営企画室室長の林宏昌氏、国際化戦略論の専門家である立命館大学経営学部国際経営学科准教授の琴坂将広氏が、ユーザベースが主催する「SPEEDA Global management seminar」に集結。
モデレーターのNewsPicks編集長佐々木紀彦と共に、日本企業のグローバル化への課題や、グローバル化の推進役である経営企画部門の在り方について激論を繰り広げた。本稿では、そのパネルディスカッションを実況中継する。(全4回)
第1回:JT、リクルートの若手エースが語る、経営企画部の意義
第2回:海外子会社にリクルート流経営を導入する方法

佐々木:前回のお話では、リクルートの海外展開は、リクルートのカルチャーに合う会社を買い、リクルート流のビジョンや経営手法をインプリメンテーションするとのことでした。

一方のJTは、そもそも買収を通じて海外たばこ事業を作った、と。そのため、海外事業の本社機能はジュネーブに置いている。そのメリットとデメリットについて、筒井さんに話の続きを伺います。
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大型買収で時間を買う

筒井:悪いところから申し上げますと、ジュネーブの本社が(海外事業の)上場会社としての機能以外はほぼ全て兼ね備えていたため、日本の本社、もしくは国内の機能をグローバル化する必要がなかったということです。結果、日本本社のグローバル化は遅れてしまいました。

一方、良かったところは、1999年に9400億円を投じたR.J.R International社の買収と、2007年、約2兆2000億円を投じたGallaher社の買収により、「時間を買う」、つまりはタイムリーにグローバル化することが出来た。要は、JTのグローバル化は日本人に頼らない形で推進してきた。

琴坂:そうした意味では、JTグループの世界展開は、1960年代の単に海外に行った「母国複製と国際化」の時代から、現地にどう適応し権限委譲するかの「マルチドメスティック」の時代、世界で経営を統合することを模索する「グローバル」、グローバルとローカルを組み合わせた「グローカル」の時期を一気に飛び越えて、地球で一つの事業の連鎖を作り、その全体の付加価値を最大化する「メタナショナル」な組織になることを目指されているのでしょうか?

筒井:そうですね。しかし、たばこという商品の趣向、どういった味が好まれるかは各地によりますから、グローカルな戦略を取る必要もあります。一方でメビウスというコア商品はどこの国でも共通ですのでまさにグローバル。また生産や原料調達手法はまさにメタナショナル。一つの課題ごとに何が最適かを追求し、レビューして弱みを克服することを繰り返してきました。

琴坂:なるほど。さきほどご紹介した教科書的な典型例の組み合わせ、事業活動ごとの最適化を目指した独自のグローバル経営の姿を志向されているとも言えますね。

グローバル時代の経営企画部の役割について語る、日本たばこ産業執行役員企画副責任者の筒井岳彦氏(写真中央)

グローバル時代の経営企画部の役割について語る、日本たばこ産業執行役員企画副責任者の筒井岳彦氏(写真中央)

日本人を8人しか送り込まず

佐々木:筒井さんのお話で注目すべきポイントの一つは、「日本人に依存しないグローバル化」という点ですね。以前、筒井さんをインタビューしたときのお話では、1999年のR.J.R International社の買収の際、日本人は7、8人しか送り込まなかったと。しかも、それは「貧者の戦略」だった。つまり、海外拠点に送り込んで戦力となる人材がいなかったため、そうした戦略を取らざるを得なかったと。

筒井:そうですね。事実、15年前にR.J.R International社を買収した時、1万1000人の大組織の経営が十分に出来ると思える日本人は8名くらいしかいなかったと聞いています。その8人を送るのが手一杯だったのです。

佐々木:海外大組織の経営が出来る人材要件とは?

筒井:英語が喋れて、いや、それよりもグローバルな組織でいろいろな国の方々の多様性を受け入れて仕事が出来ることです。

佐々木:それから15年。グローバル化の歴史を積み重ねる中、JTの中でどれくらいグローバルに対応できる人材が育ってきたのか。試行錯誤する中での、失敗と学びを教えてください。

筒井:結論から言うと、その後、日本本社から研修生という形で海外拠点に人材を送り込み、ある程度までは育ちました。しかし、端的に申し上げると、日本人にはハングリーさが足りない。次のキャリアに対する渇望感が少なく、パフォーマンスの上で海外の人に負けるシーンがすごく多くなりました。

例えば、あるロシアの地方出身の人が、セールスマンとして会社に入って、「俺の生活良くするんだ」「偉くなるためには英語ができなきゃいけないんだ」と時間や労力を投資して英語を学び、いつかはグローバルマネジメントの一員になってやろうと、実際、ぐいぐいぐいぐい上がっていく。その、上がる勢いが日本人とはまるで違う。

また、われわれはタンザニアにも大きい組織を持っていますが同様で、JTIにはアフリカ、中東、それからCIS圏から、ものすごく志の高い、やる気満々の、あわよくば出し抜いてやるぞというほど野心のある人間が、どんどん上がっていく。そんな中、日本人が競争力を持てるのかと。そこで勝ち残れる腕っ節の強さが、皆あるわけではないのが、厳しい現実です。

琴坂:まったく同じような話を、グローバル化が進んでいる組織の方から聞きました。人事や評価を「全世界平等」にやろうとすればするほど、逆に日本人幹部が育たないと。幹部は各地域から引っ張ってきた方が優秀であったり野心があるので、世界で平等の評価をすると日本人の幹部比率が下がってしまうと。

佐々木:そうすると、日本人は何割にする、といったような「クオータ制」を入れないといけないような議論になりかねませんね。

林さん、リクルートの場合は、どうでしょうか? indeedのCEOの出木場久征氏のような自ら買収を手がけて、実際経営を伸ばし、最年少執行役員になるような人材もいますが、彼に続くような人材は多くいるのでしょうか?

:中期的にリクルートは投資余力として7000億円用意しているといいましたが、その範囲内の金額だと海外で買収する会社は数十社だと思います。その数十社のチェアマンになりうる人材のプールは足りています。しかし、今後それ以上の企業を買収していくとなると、その買った企業の中から、チェアマンとなる人を据えて行く必要が出てきます。

一方で、次のチェアマン候補として海外法人にトレーニーとして送り込んでいる人材の中で、現地でパフォーマンスを発揮出来ずに戻ってくるケースもある。現場からするとわざわざ親会社から来た人材が使えないとなると、ガバナンスに影響が出てくる。その問題は考えなくてはいけません。

琴坂:JTのトレーニー研修施策はどうでしょうか? 海外への人材の派遣はその個人の成長につながっているのでしょうか?

筒井:トレーニー研修がうまくいくかどうかは、誰を送るかどうかでほぼ全てが決まります。海外のいわゆるアングロサクソン系の組織の中で生き残っていくためには、そのゲームのルールを知らなくてはいけない。例えば、権限を持っているときは、それを使わないわけにはいきません。そうでなくては、「ものを決められない人間」だと思われてしまいます。

一方、日本で同じルールを適用しても上手くいかない。郷に入れば郷に従わざるを得ない。つまり、その「郷」の雰囲気をつかんで、その場その場でパフォーマンスを上げられるかどうかが大切で、それはどうしても個人の能力に依存してしまいます。

(構成:佐藤留美)

(明日配信予定の最終回では、JT、リクルートの海外展開の失敗例などについて、より深く踏み込んでいきます)

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