2022/12/21

【ビル・ゲイツ絶賛】超大物歴史学者が見通す「未来の景色」

占い、予言、天気予報、経済予測……。太古の昔から今日に至るまで、私たちは「一寸先の闇」に怯え、「この先何が待ち受けているのか」を知ろうと躍起になってきた。
しかし、そもそも「未来」とは一体何なのか? 果たして未来予測は可能なのか? 
このあまりにも壮大な問いに真正面から挑んでいるのが、「ビッグヒストリー」の提唱者として世界的に名高い歴史学者、デイビッド・クリスチャンだ。
歴史学のみならず、進化生物学や宇宙物理学までをも含む学問を総動員して、宇宙誕生から現代までの歴史を一望する「ビッグヒストリー」。そしてクリスチャンは今、ビッグヒストリーの視野を「未来」へ押し広げようとしている。
その集大成とも言える本日刊行の著作『「未来」とは何か』より、クリスチャンが描く「数千年、数万年後の未来の景色」をお届けする。
INDEX
  • 1000年後のためにできるたった一つのこと
  • 1000年後に鍵を握る4つのテクノロジー
  • ①新しいエネルギー技術:太陽光と原子力
  • ②ナノテクノロジー:目に見えない機械
  • ③人工知能:AIと人間の共存
  • ④トランスヒューマニズム:人間を改造する
  • すべての工場を宇宙に移転する?
  • 『三体』は夢想にとどまるか?
  • 地球人類史の終わり

1000年後のためにできるたった一つのこと

人類がこの先の危険な数世紀を生き延びたとしよう。私たちの子孫は数千年そして数百万年後、つまり「中程度の未来」では、何に向き合っているだろう?
この未来について厳密に語ることは難しい。なぜなら、その時代は私たちのような予測不可能で目的意識を持つ生物によってつくられるからだ。それに、この未来はあまりに先のことだから、かなり規則正しいトレンドでも無数のトレンドの霧のなかに隠れて見えなくなってしまう。
私たちが遠い未来の子孫の人生に大きな影響を与えることもないだろう。今日の行動の結果は、数世紀あるいは数百万年にわたってチョウの羽ばたきのように伝わっていくにはちがいないが、厳密な意味で、それが遠い未来における出来事を起こしたとはいえないはずだ。
ある重要な1点を除いては!
私たちがこれからの数世紀を生き延びなければ、子孫たちの未来は存在すらしないのだ。だから、人類系統のために私たちにできるただ一つのことは、ボトルネックとなる今後の数世紀を何とか生き延びることにある。
その間に私たちは惑星の操作を学び、ハルマゲドンを起こす兵器ではなく、厄災に見舞われたときに避難できる地球外の定住地を手に入れる。
もしこれに成功すれば、これから数世紀後の人々は新しい複合体、意識を持つ惑星の一部として生きることを学ぶ。そうすれば、数十億の人間とポストヒューマンのための中程度の未来への道が開かれるだろう。
このようなすばらしい遺産を残す機会は、私たちが生きている時代に深い意味を与える。
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1000年後に鍵を握る4つのテクノロジー

これから1000年の歴史を形作るのはどのような長期トレンドだろうか?
テクノロジーのトレンドを想像するのは比較的たやすい。集団的学習の基本的トレンドがこれまで人類史を形作ってきた技術的な創造力を維持すると思われるからだ。また、テクノロジーにはそれ自体の論理があり、今後の数世紀に開花しそうなトレンドがすでに見え始めている。
重要な新しいテクノロジーは、以下のものを含むだろう。
①エネルギーを持続可能な形で作る方法
②ナノテクノロジー
③人工知能とロボット工学
④人体を改造し、私たちの子孫を人間と機械の長寿命の融合体に変える生物学的テクノロジー

①新しいエネルギー技術:太陽光と原子力

近代世界は化石燃料から得られる桁外れのエネルギーによって築かれた。だが、これを今後も続けられないのは周知の事実だ。より大量のエネルギーを持続可能な形で発生させることで文明を維持することは可能だろうか?
膨大な量の電気エネルギーを持続可能な形で作り、この電気を自動車から製造、通信、家電まであらゆるものに供給することが必要となる。有望なエネルギー技術の大半は、太陽光からエネルギーを取り出す新しい方法だ(水力や風力も太陽光エネルギーによって生み出された自然現象から間接的にエネルギーを抽出する)。
これらのテクノロジーの可能性は限りなく大きい。というのも、変換効率が急速に改善しているからだ。
1、2世紀のうちには、世界は太陽エネルギーを集める装置に満ちていることだろう。曲げることが可能で、衣服、帽子、屋根、道路などに使える小型の装置、ヒマワリのように太陽の動きを追う装置もある。
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20世紀には、大きな期待がかけられていた原子力発電にも、まだ担うべき役割があるかもしれない。核融合はより安全で放射性廃棄物が少ないことから、これを利用する実験が20世紀半ばに行われている。この場合の問題も21世紀が終わるまでには解決するとの期待は大きい。
もちろん、まったく新しいエネルギー技術が出てくる可能性もなくはない。たとえば、 膨大な数の衛星を打ち上げて宇宙空間で太陽エネルギーを集め、これをマイクロ波放射で地球に送る方法などが提案されている。
超伝導体は電気を通しても抵抗がほぼゼロであり、保存と配電による損失を大きく減少させる。超伝導体を使ってほぼ摩擦ゼロの陸運用のスーパー強力磁石に給電すれば、輸送に革命を起こせるかもしれない。

②ナノテクノロジー:目に見えない機械

ナノテクノロジーには多くの有望な進展がある。機械を分子スケールで作ったりするのだ。物理学者のリチャード・ファインマンは、1959年に「スケールのいちばん下にはまだたっぷり余裕がある」と題する講義でこうしたテクノロジーを予測した。
リチャード・ファインマン。物理学者。1965年、量子電磁力学の発展に大きく寄与したことにより、朝永振一郎らとともにノーベル物理学賞を共同受賞。(Photo by Kevin Fleming/Corbis via Getty Images)
その後、ナノテクノロジーは開花した。現在、コンピュータチップはあらゆる場所に使われている。
未来学者のジョン・スマートは、今日、大半の重要な技術革新は量子コンピュータからカーボンナノチューブのような新規な材料、改良された電池、超伝導の進歩、核融合技術、遺伝子操作までナノスケールで起きていると主張する。
生物学者はすでに、人間の体内に入り、病変部まで移動して治療を施し、その後細胞内のタンパク質のように自身を分解するナノボットの可能性について考えている。
ナノテクノロジーの賛同者は、数世紀のうちに私たちの子孫はすばらしい能力を有し、きわめて安価で生態学的な影響がまったくない機械を日常的に作っているだろうと期待している。
ナノマシンは私たちの周辺のあらゆる場所にあり、私たちの体内にもたくさんあるだろう。

③人工知能:AIと人間の共存

人工知能とロボットはもっと革新的かもしれない。
AIの開発は一般に考えられていたよりゆっくり進んだ。人間なら当たり前にできることをできない場合があると判明したからだ。しかし、これらの問題は「ディープラーニング」によって学ぶことを教えれば今後の数十年で克服できるかもしれない。
コンピュータはすでにチェスや碁の試合で人間の世界チャンピオンに勝てるほどに自己学習をしている。自分と対戦し、成功した戦略を記録するのだ。これは洗練された未来思考といわねばならない。コンピュータがどんな戦略を使っているのかトレーナーにはわからないこともままあるという。
2017年、DeepMind社のAI棋士「アルファ碁(AlphaGo)」と、世界ランキングNO.1の柯潔九段の勝負が行われ、第1局はAIの圧勝に終わる。(Photo by Li Wenyao/Global Times/Visual China Group via Getty Images)
AI研究における大きな問題は、スマートマシンが私たちより賢くなったときこれらの機械を制御できるかどうかにある。スマートロボットが古代ローマ時代のスパルタクスの奴隷蜂起のような反乱を起こし、私たちの子孫を奴隷にしたり殺したりするというのは恐ろしい考えである。
ただし、暴力的なロボットによる反乱などのシナリオは、テクノロジーが私たちを破滅させることも救うことも可能だと気づかせてくれる。
私たちに賢いマシンを制御できるのであれば、マシンは惑星の操作やよりよい未来の建設に欠かせない役割を果たしてくれるだろう。

④トランスヒューマニズム:人間を改造する

新しい医学、生物学、遺伝学のテクノロジーは人もモノも変えるだろう。20世紀後半、私たちはゲノムの働きを学んだ。今ではクリスパーのようなゲノム編集テクノロジーを使って、生物のDNAの遺伝子を個別に改変する知識を持つ。
宇宙物理学者のフリーマン・ダイソンは、こうした技術は新たな生物や無生物すら製造するために使われるだろうと予測した。
人工肉を作れるようになれば、現在食物として扱われる動物の生活が変わり、私たちはさまざまな種と寛容で思いやりのある関係を結べるだろう。家屋、街灯、自動車を生物学的に成長させられるようになれば、村、町、都市の外観も変わる。今日のコンクリートの塊のような都市は、無数の菌類の集まりのように見えるフラクタル図形のようになるにちがいない。
すでに多くの種の遺伝子を改変できるようになっていて、ヒトの遺伝子の改変が広く行われていないのは倫理の壁があるからにすぎない。
それでも現時点で、すでにヒト胚の遺伝子編集が行われている。遺伝子工学によって、おそらくは人工子宮で成長し、強化された脳を持ち、遺伝子異常がない初のヒトの赤ちゃんの誕生を目にするまであとどれくらいだろう?
1962年に作家で哲学者のスタニスワフ・レムは、仮想現実デバイスが私たちの脳と正確につながっていて、もはや現実世界と仮想世界の区別がつかない世界を想像した。30年後、レムはこのような世界を実現するために必要なテクノロジーはほぼすでにあると結論づけた。
スタニスワフ・レム。SF作家。代表作に、二度も映画化された『ソラリスの陽のもとに』がある。(Photo by Andree/ullstein bild via Getty Images)
私たちはいずれ、コンピュータか強化されたアバターの身体に記憶をアップロードし、ヒトの身体から完全に抜け出すのだろうか?
現在、家から家へ引っ越すように、身体から身体へ移動するのだろうか? あるいは、他人と意識を直接共有するだろうか? 知識を生徒の脳に挿入することで教師が不必要になる教育を想像できるだろうか? 犯罪者に脳の改変という処罰を科す司法制度を想像できるだろうか?
こうしたアイデアには嫌悪感を抱く向きもあるだろうが、どれも絶対に現実にならないとはいい切れない。
これが、私たちが種として多くの亜種にゆっくり枝分かれしていく過程の始まりになる。数世紀もすれば、それぞれに異なる特殊なエンハンスメントを経た、多様な人間、サイボーグ、トランスヒューマンが出現するかもしれない。

すべての工場を宇宙に移転する?

生物学的な多様化は他の天体や惑星への移住によって加速する。古代における人類の強力なトレンドだったグローバルな移住の例を考えれば、私たちの子孫の多くは今後数世紀で他の種を連れて宇宙に進出すると自信を持っていえる。
太平洋史の研究者ベン・フィニーによれば、ポリネシア人の太平洋移住は、未来の太陽系移住のわかりやすいアナロジーだという。ポリネシア人の移住と同じように、未来の太陽系移民の成功は、新しい宇宙航行テクノロジー、新しいタイプの宇宙船、そして長く危険な宇宙の旅に喜んで参加し、新たな環境に適応する人々の存在にかかっているだろう。
William J. Sawchuck / getty images
だがポリネシア人とちがって、現代の人間は自分たちの前に探査ロボットを送り込んでいる。人工物をはじめて宇宙に送り出してからというもの、私たちは何百という人工衛星を太陽系の未知の部分に送り込み、うち2機の衛星ボイジャーはすでに太陽圏を離脱した。
1世紀もたてば、何千人もの人が月、火星、小惑星の採掘コロニーにすら住んでいるかもしれない。どの人も重労働、建築、メンテナンスに必要なロボットと3Dプリンタを携えていく。連れていく他種の動植物は、異なる重力と大気に備えて遺伝子が改変されているかもしれない。地球上にある工場などの施設の多くも宇宙に移設されるかもしれない。
2021年にはじめて宇宙旅行を楽しんだアマゾンの共同創業者にして取締役会長のジェフ・ベゾスは、こう述べた。
「これから私がいうことは絵空事に聞こえるかもしれない。だが、実際に起きるだろう。すべての重工業と公害を出す産業を地球外に移設し、宇宙で操業すればいいのだ」
2019年に月面探査機「ブルームーン」を初披露したジェブ・ベゾス。(Photo by Jonathan Newton / The Washington Post via Getty Images)
新たな土地を作り変えるのと同時に、惑星間移民は自分自身も文化的、生物学的に作り変える。
地球外でずっと暮らす人は地球と人類を新たな目で見るようになり、新しい政治体制、文化規範、テクノロジーを進化させる。異なる大気組成、大気圧、食事、新たな概日リズム、宇宙空間の長期にわたる厳しい旅に適応するにしたがい、彼らは生物学的に変化する。
次の1000年が終わる前には、数十年か数世紀にわたるロボット探索の末に、私たちの子孫は他の恒星系に向けて出発するかもしれない。地球上にはじめて誕生した生物ができて間もない海に身を落ち着けたように、私たちの遠い子孫はこの銀河のほぼ全域に住むようになるかもしれない。
恒星間移民の成功は、帰ってくる可能性がないに等しい、長く危険な旅をしようという人々の存在にかかっている。宇宙船がケンタウルス座アルファ星に到達するには、光速の1パーセントの速度で航行しても400年以上かかる。
しかし到達した場所から同じ速度で広がっていけば、天の川銀河内のあらゆる恒星系に1億年以内に定住できる。1億年といえば、地球上を恐竜が闊歩していた時代から現在に至るまでの時間より少々長いだけだ。

『三体』は夢想にとどまるか?

地球からの移住者は他の生命体に出合うだろうか?
出合うだろうという観測が20世紀後半に高まったようだ。宇宙にどれほど惑星が多く多様であるか、アミノ酸など生命体を作るのに欠かせない分子の星間雲がどれほど広大か、そして地球上の生物がどれほど多様な条件で生存できるかがわかってきたからだった。
だが、複雑で知性を持ち何らかの集団的学習のできる生物と接触できる可能性となるとぐんと低くなる。考えてみれば、地球上で多細胞生物が繁殖するのに30億年以上かかったのだ。それに、知的生命体からのメッセージを求めて60年以上空をスキャンしてきたが、一度も発見されていない。
仮に私たちのように集団的学習することのできる知性を持った生命体がいたにしても、おそらく互いにあまりに離れているし、生物学的、神経学的、技術的なちがいは大きいだろう。直接会っても、互いの技術レベルがぴったり合うことはあまりありそうにない。
私たちよりはるかに進んだテクノロジーを有する経験豊かな旅人に遭遇する可能性の方が高い。私たちは新米の移民で、技術の差は私たちに不利なはずだ。
これが劉慈欣によるすばらしいSF、『三体』3部作の中心テーマだ。このシリーズでは、地球がケンタウルス座アルファ星からの攻撃を受ける。もちろん、「私たちが科学的な興味から野生動物を国立公園で保護する」ように、私たちのような種を熱心に保護しようとする文明に遭遇することもないとはいえないだろう。

地球人類史の終わり

もしボトルネックの数世紀をやりすごすことができれば、私たちの子孫は数十万年あるいは数百万年にわたって存続するだろう。
アイザック・アシモフは『ファウンデーション』シリーズの舞台を5万年先の未来、銀河にちりばめられた何千もの共同体という想像の世界に設定した。
恒星系間に広がるとほうもない距離を考えるなら、光速またはそれを超える速度で航行する方法(現時点ではきわめて難しいように思える)を発見しない限り、人類全体にとって集団としての未来はないだろう。異なる恒星の周辺では異なる未来のシナリオが繰り広げられ、現在では想像もできないようなシナリオもあるにちがいない。
Javier Zayas Photography / getty images
「人類」という言葉が何を意味するかもすでにわからなくなっているだろう。トランスヒューマニズムのテクノロジーや異なる環境への適応によって、人類は多くの亜種に分岐すると思われるからだ。それが起きれば、約5万年前に始まった、人類が1種しか存在しなかった人類史上の短い時代が終わる。
惑星、衛星、あるいは銀河の異なる区域で多くの異なる恒星の軌道上を周回したり恒星間を運行したりする人工衛星上の多様な環境に定住するにつれて、私たちの子孫は生物学的、技術的、文化的に多様化する。私たちには想像もできない目的のために、私たちには思いつかないようなテクノロジーを使っているだろう。
このようなトレンドが、遠いポストヒューマンの未来に関するもっとも極端な推測の出発点となる。もちろん、ここで述べてきたことは推測の域を出ていないので、私たちはまんざら荒唐無稽な話でもなさそうだというしかない。
だがこれらの推測がほんのわずかでも妥当であるならば、それは集団的学習という能力を持つ人類の誕生がいかに画期的なことだったかを、私たちに気づかせてくれるのだ。
それがこの宇宙のどこで、いつ起きたのだとしても。