2022/12/15

【ビジネス教養】知っておくべき半導体産業6つのジョーシキ

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 2030年には100兆円産業へ──。
 今や世界経済の中心的存在とも言われ、NewsPicksでも毎日のようにニュースが飛び交っている半導体。
 最新動向は押さえていて当然と見なす向きもありますが、みなさんぶっちゃけ、半導体産業についてどれくらい知ってますか?
 この記事では、半導体に関するよくある疑問や注目トピックを専門家がQ&A形式で解説。
 日頃からニュースを追っている方も、実は全然キャッチアップできていないという方も、ぜひご一読ください。
当記事は素材メーカーAGCのスポンサードコンテンツです。本文では同社の半導体関連事業の取り組みも紹介します。
1969年生まれ。神戸大学理学部地球惑星科学科卒、神戸大学大学院経営学研究科経営学修士取得。1993 年日商岩井(現・双日)に入社後、情報産業部門で IT 分野の事業開発に従事。1998年より米国駐在、シリコンバレー支店においてベンチャーキャピタル子会社設立、副社長就任。2001年、チップワンストップを設立し、代表取締役社長に就任。2004年、東京証券取引所マザーズに上場。2011年、アロー・チップワンストップ・ホールディングス合同会社による株式の公開買付により、東京証券取引所マザーズ市場の上場を廃止、世界最大の半導体ディストリビューターの米アロー・エレクトロニクスの 100%子会社となり、米国本社副社長、日本法人会長兼社長も兼務する。

……そもそも半導体ってどんなもの?

 「半導体」と聞くと、写真のような物体を思い浮かべる人も多いはず。実はこれ、半分正解で、半分不正解って知ってましたか?
Ismed Syahrul / istock
 半導体とは、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質のこと。
 ところが、この物質をもとに作った半導体デバイスも、慣例的に「半導体」と呼ばれている。つまり「半導体」という言葉には二つの用法があるわけです。
 報道やビジネスシーンでは慣例的な用法が大半で、この記事でも半導体デバイスの意味で用いています。
 そんな半導体の中でも構造が比較的単純なものを「IC(集積回路)」、ICの集積密度を高めたものを「LSI」と呼びます。
 半導体の用途は極めて広く、スマートフォンやテレビから、飛行機や自動車、さらにはインターネット・通信に代表される社会インフラまで、さまざまなシーンで我々の生活を支えています。
 この先、IoTや5G通信、EVの進展などを受けて、さらに需要が高まると言われています。
 そんな巨大産業の注目トピックを、以下のQ&Aで見ていきましょう。
 近年、半導体のニュースでアジア勢のTSMC(台湾積体電路製造)やサムスン電子の名前に触れる機会が増えていると思います。
 どちらも最先端の製造技術を有する世界的な企業ですが、半導体業界にはさまざまな業態があり、企業によって得意分野や戦略が異なります。
 それを知ると、少し違った景色が見えてくるかもしれません。
 半導体は、開発と設計(設計工程)、製造(前工程)、組み立てと試験(後工程)というプロセスを経て完成します。
 各工程には、材料(素材)や半導体の製造装置も必要になり、その分野では日本企業が強い存在感を示しています。
 一連の工程を自社で完結させ、さらに販売までも自ら行うビジネスモデルを「垂直統合型」、それに対し、各工程を複数の企業で分担するモデルを「水平分業型」と呼びます。
 例えば米国のメーカーが設計し、韓国の会社が前工程を、マレーシアの企業が後工程を担う、といったイメージです。
 水平分業は、経済のグローバル化とインターネットの進展に伴って、2000年代以降に拡大。
 この波に乗れず、垂直統合型から抜け出せなかったことが日本の半導体産業の凋落を招いたと指摘する声は少なくありません。
 この水平分業において、設計専門で製造をサードパーティに委託する会社を「ファブレス」、前工程である製造専門の会社を「ファウンドリ」、後工程を担う会社を「OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)」と呼びます。
 ファブレスでは、クアルコム(米国)、ブロードコム(米国)、エヌビディア(米国)、AMD(米国)、ハイシリコン(中国)といった企業に勢いがあります。
 これらの企業は設計専門で、工場は持っていません。
 ファブレスが設計した半導体を製造するのがファウンドリです。代表格はTSMCやサムスン電子。
 他ではグローバルファウンドリーズ(米国)、中芯国際集成電路製造(SMIC、中国)といった企業も有力です。
 水平分業型が広がる一方、IDM(=Integrated Device Manufacturer)と呼ばれる垂直統合型デバイスメーカーにも有力企業は存在します。
 勢いがあるのは、シリコン製トランジスタを最初に開発したテキサス・インスツルメンツ(米国)や、主に自動車向けの半導体を設計製造しているインフィニオン・テクノロジー(ドイツ)。
 ただし、IDMも生産をすべて自社で行っているとは限らず、生産の一部をファウンドリに委託している会社もあります。
 逆に、サムスン電子はIDMですがファウンドリ事業も展開しており、インテルも同様の業態です。
 以上のように、この業界には多様な企業がひしめいています。
 ファウンドリだけ見ればアジア勢の勢いが目立ちますが、米国のファブレスが革新的な半導体デバイスを開発することも多々あります。
 したがって、半導体業界をアジア勢が牽引しているとは一概には言えません。
 業界の勢力図に関するニュースは、その企業がどのような業態なのかを念頭に置いて見ることが重要です。

半導体製造工程を支えるAGCの素材や技術

 多彩なプレイヤーが切磋琢磨し、飛躍的な進化を遂げてきた半導体産業。
 素材メーカーAGCは、ガラスや化学品、セラミックス事業で培った高い技術を生かし、半導体製造工程の重要な一部で強い存在感を発揮している。
 半導体は通常、シリコンウェハーに回路パターンを焼き付けて製造される。シリコンウェハーとは高純度のシリコン(ケイ素)を円盤状に薄くスライスしたもので、半導体の材料基盤だ。
 設計後の大まかな製造工程は以下のようになる。
 まず研磨したウェハーの表面の上にフォトレジストと呼ばれる感光材を塗り、ガラス板に描いた回路パターンを写真の技術を応用して焼き付ける。
 フォトレジストを洗い流すなどした後、改めてウェハーの表面を研磨。これを何度か繰り返すことなどによって、ウェハーに数多くのパターン(回路)を形成する。
 その後、ウェハーからチップを切り出し、配線を施して、樹脂でパッケージすれば完成だ。
 こうした一連の流れの中で、AGCの素材や技術が使われている。
 例えば、回路パターンを焼き付ける工程では、「合成石英ガラス」が半導体の高性能化を支える重要な部材として機能している。
 ほかにも、ウェハーの研磨に用いられる研磨剤や、特殊な半導体を保護するための封止材として利用される粉末ガラス。
 さらには、ウェハーの熱処理工程において導入されている高品質の高純度炭化ケイ素など、その製品は多岐にわたる。
 エレクトロニクス業界は技術革新が急速に進んでいる。
 AGCは市場のニーズに応えるべく、半導体プロセス部品を含むあらゆる商品について、製造・販売・開発の一貫した体制を構築し、競争力を高めている。
 トランジスタ(※)の誕生と共に始まった半導体の歴史は、1958年に大きな節目を迎えます。集積回路(IC)の登場です。
 ※電極を3個以上持つ半導体増幅素子。増幅機能やスイッチング機能を有する
 集積密度の向上は、低消費電力化、高速動作化、小型化、低コスト化などにつながります。半導体企業はしのぎを削り、60年代には電卓を舞台に開発競争が過熱。
 これを機に、LSIの集積密度は大きく高まります。
 インテル創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が、後に「ムーアの法則」と呼ばれる主張を発表したのは、ちょうどその頃です。
「ICには、電子部品1個当たりの製造コストが最小になるような最適部品点数が存在する。その数は1975年までに毎年約2倍のペースで増えていくだろう」
 ムーア氏は経験則からこんな予測しました。
 その10年後、さまざまな要因から増加のペースが鈍化すると考えたムーア氏は、「1970年代末以降は2年ごとに2倍のペースになっていく」と予測を修正。
 半導体の集積密度、言い換えれば性能は、長きにわたって、おおむねこの法則通りに向上していきました。
 半導体企業が集積密度を高めた方法の一つが「微細化」と呼ばれるものです。
 電子回路を形成するパターンの線幅をどんどん小さくし、トランジスタを密に配置する。
 つまり、面積当たりのトランジスタ数を増やし、集積回路により多くのトランジスタを搭載するために、回路をどんどん細かくしていくわけです。
 20年前には最小線幅は90nm(ナノメートル)が限界と言われていましたが、現在量産段階にある最先端プロセスは3nm、試作段階での最先端プロセスは2nm。驚くべき進化を遂げています。
 線幅が原子の大きさに近づいていることから、2nm以下の微細化は実現不可能と言われ、ムーアの法則の終焉を唱える向きもあります。
 とはいえ、半導体企業はこれまで何度も不可能を可能にしてきました。
 現在もトランジスタの構造の工夫や、複数のチップを縦に積み重ねる3次元実装など、新たな試みが活発化しています。
 ペースは鈍化するかもしれませんが、微細化の追求や半導体の進化がこの先も続いていくことは間違いないでしょう。

半導体の性能向上に貢献。AGCの高度な微細化技術

 半導体の歴史は微細化の歴史でもある。チップ内の配線幅を狭くできれば、より多くの素子(電子回路の構成要素)を載せられ、高機能化や高速化につながる。
 また、チップを小さくしても搭載できる素子の数が変わらなければ、一枚のシリコンウェハーから切り出せる半導体の数が増え、コスト削減にもつながる。
 実際、半世紀にわたり、半導体の集積密度は右肩上がりに上昇していった。
 半導体を作る際には通常、まず初めに「チップの上にどのようなパターンで回路を配置するか」を決める。次にそのパターンをコンピューターでガラス板に描く。
 「フォトマスク」と呼ばれるこのガラス板を、露光技術でシリコンウェハーに転写させる。
 つまり、このプロセスにおいて、パターンの線幅をいかに微細化し、転写させられるかが、集積密度を高める鍵になるわけだ。
 ただ、線幅20nm(ナノメートル)には、一つの限界値があるとされ、突破するには次世代の製造プロセスが必要だった。この課題に向き合ってきたうちの1社がAGCである。
 AGCは「EUV(極端紫外線)露光」と呼ばれる技術の「EUV露光用マスクブランクス」の開発に成功し、10nm以下の線幅の形成を可能にした。
 2003年、AGCは技術の中核となるフォトマスクの原板「EUV露光用マスクブランクス」の開発に着手。めどがついたのは2014年、供給体制を確立できたのは2018年のことだった。
 異物、熱膨張を限りなくゼロに近づけ、極限まで平らであることが求められるEUV露光用マスクブランクスの開発と製造には、高度な技術が必要だ。
 その要求の高さは尋常ではない。野球場規模のEUV露光用マスクブランクスにスギ花粉程度の微小な欠点が存在したら不良品と見なされる。
 その水準をクリアする企業は、AGCを含めて世界で2社のみという。
 微細化を支えるAGCの部材はもう一つある。液体状の研磨材「セリアスラリー」だ。
 セリアスラリーは、形状が複雑化している半導体チップの表面の凹凸を研磨するCMP(化学的機械研磨)と呼ばれる工程で用いる。
 CMPは1990年代に半導体の微細化に大きく貢献し、今後の進化の鍵を握ると言われる工程だ。
 最先端半導体に求められるCMPの加工精度を実現する上で、AGCのセリアスラリーは重要な役割を果たしている。
セリアスラリー
 この二つの製品は、ともに半導体製造部材として大きな存在感を示している。
 ロジック(演算用)IC向けに加え、メモリー向けの半導体生産においてもEUVプロセスの採用が進んだことから、EUVマスクブランクスの需要は大きく拡大。
 セリアスラリーも半導体の最先端分野で高いシェアを誇っている。
 幾多の壁を乗り越え進化を続ける半導体産業。AGCはその高い技術力で最先端を追求する半導体メーカーからの厳しい要求に応え、産業の発展に貢献している。
 TSMCの新工場が熊本県に建設されることが決まり、2023年の9月に完成する見通しです。
 TSMCは優れた技術力と競争力を備えた世界的な企業です。
 半導体産業の基盤強化を進める日本政府は、同社の誘致に成功し、新工場の建設に巨額の補助金を拠出しています。
 この新工場で主に製造が予定されているのは、自動車や産業分野に用いられる最小加工線幅22~28nmの半導体。
 現在量産段階にある最先端プロセスは3nmですから、少し前の世代の半導体を作ることになります。
 なぜ、わざわざ古い製造技術レベルで半導体を作る工場を建設するのか。理由の一つは需要があるからです。
 製造に最先端の技術を必要とする半導体は、実は市場の一部を占めるに過ぎません。
 少し古い世代の半導体も、さまざまなシーンで重宝されているのが、半導体産業の特徴です。
 例えば自動車業界。過酷な環境で走行する自動車に搭載するのであれば、多少サイズが大きくても、長く使われ、信頼性の高い半導体のほうが望ましいと考えられています。
artplus / istock
 新工場で作られるのは、こうした「少し古い世代」ながら「需要が大きい」半導体です。
 新工場の建設にはデンソーも出資していますが、それはトヨタを中心に自動車部品の多大な需要があることの裏返し。
 今回の工場建設にTSMCも多額の費用を捻出しています。確実に売れる半導体を作りたいと考えるのは、企業判断としては当然と言えるでしょう。
 他方、日本政府としては、今後、より先端的な製造工程を国内に引き入れたいという思惑があります。
 日本は元々、製造装置や材料技術に強みがあり、それらをいかし、現在最先端になっている2nmの次にくる半導体の製造プロセスの設置を目指したいと考えているのでしょう。
 その意味で、最先端の製造技術を持つTSMCと関係を強化しておくことには大きな意義があります。
 また、最先端の半導体でなくとも、その時代において売れる半導体の製造を続け、市場で存在感を高めていくことも一つの戦略と言えます。
 半導体の世代のみに着目し、「日本は遅れている」とか「最先端の工場でなければ誘致する意味がない」と考えるのは、やや短絡かもしれません。
 テレビ、ビデオ、PC、スマホ。半導体の誕生以来、さまざまな電子機器が開発され、その需要の爆発的な増加に伴い、半導体も売上を伸ばしてきました。
 これらの電子機器はある程度多くの人に行き渡り、その需要は世界的に一段落していると見られます。
 半導体の需要を牽引する電子機器が存在しなければ、供給量も落ち、市場も縮小していくと考えるのが普通です。
 ところが、現在約72兆円の売上を誇る半導体産業は、2030年には100兆円市場になると言われています。
 なぜ、この先も成長が続くのか。それは、あらゆる機器や分野において、半導体がこれまで以上に使われるようになっていくことが予想されるからです。
 身近なところで冷蔵庫を例に挙げましょう。
 かつての冷蔵庫には半導体は使われていませんでした。これに半導体で制御するインバーター(直流電流を交流電流に変換する装置)を搭載することによって、省エネが進みました。
 また、センサやマイコンなどを組み込むことで、冷蔵室ごとの温度設定が可能になったり、特定の食材を集中的に冷やしたりするような機能を付加することもできたのです。
 イヤホンも同様です。以前は有線が当たり前でしたが、今はワイヤレスが主流になりました。これは半導体を用いたBluetooth機能をイヤホンに搭載できるようになったためです。
Mar Fernandez Navarro / istock
 このように、従来は半導体が用いられていなかった機器に、半導体が組み込まれることによって、新たな価値が付加された事例は枚挙にいとまがありません。
 近い将来、IoTの時代が本格化すれば、インターネットにつながれた機器は多機能化し、クラウドやネットワークを支えるサーバーもこれまで以上に必要になってきます。これらにも半導体が不可欠です。
 ほかでは、自動運転やメタバース、多機能でウエアラブルなデバイス、AIなど、さらなる普及が期待される機器や分野においても、半導体は欠かせません。
 また、国際社会がカーボンニュートラルを目指し、あらゆる分野で低消費電力化が進む中、省エネ効果への期待が大きいパワー半導体にも注目が集まっています。
 こうした理由から、多少の波はあるものの、この先も半導体市場は順調に成長すると見込まれます。
 コロナ禍によって、世界中でさまざまな経済活動が停滞しました。この時、自動車業界は「新車が売れなくなる」と判断。半導体の発注量も減らしました。
 一方で、同じ時期、巣ごもり需要によって動画配信やタブレット端末、パソコンなどの需要が急速に高まりました。
 この結果、自働車向けの半導体を製造していた工場のラインでは、ほかの業界で使われる半導体が作られるようになったのです。
 一度落ち込んだものの、自動車の需要は世界中で比較的早い時期に回復していきました。
 自動車業界は慌てて従来の生産量に戻そうとしましたが、すでに半導体の生産ラインには空きがありませんでした。
 折悪しく、同時期には、半導体製造工場が国内外で相次ぎ火災や停電で一時停止したり、中国のロックダウン政策によってストップしたりしてしまいます。
 こうして、自動車業界のみならず、多くの産業で半導体不足が生じたのです。
 「ならば、半導体メーカーや利用する企業側がストックしておけばいいのではないか?」という疑問が湧くでしょう。しかし、これがなかなか難しいのです。
sankai/ istock
 半導体メーカーが「最先端の半導体」と「一般的な半導体」を作っていることは先に説明しました。
 少品種大量生産の「最先端の半導体」では、在庫が増えると需給バランスが崩れて値下がりし、半導体製造企業には、開発や設備に充てた巨額の投資を回収できなくなるおそれが生じます。
 一方の「一般的な半導体」は、多品種少量生産なので、全種類をストックしようとすると管理が非常に大変です。
 また、いずれの半導体でも、カスタム品の割合が高く、これもストックを難しくさせる一因となっています。
 では、半導体を利用する企業側がストックしておくという考え方はどうでしょうか。
 トヨタ自動車に代表されるカンバン方式(ジャストイン生産システム)は「必要な物を、必要な時に、必要なだけ生産、供給する」という考え方で、基本的には余分な在庫を持ちません。
「在庫には価値がない」とされるのはどの業界でも同様で、利用する企業の側が万一に備えて半導体をストックしておくというのも、現実的には困難なのです。
 「サプライチェーン」とは、部品や材料の調達から製造、配送、販売、消費といった一連の流れを意味します。
 仮に半導体が日本の工場で製造されている場合でも、その材料となるシリコンは別の国で生産され、さらに別の国で加工されていることがあります。
 最近では、2022年2月にロシアによる侵攻が始まったウクライナで、半導体の製造に欠かせないヘリウムやネオンといった希ガス(貴ガス)の多くが生産されていることが、話題になりました。
 半導体の製造工程について、国境を越えた水平分業が進んでいることは前に説明した通りです。
 加えて、少数の特定の企業が、材料や製造装置に関して高いシェアを持っているのもこの業界の特徴の一つと言えます。
 こうした事情により、サプライチェーンのどこかの国・地域で、事故、災害、戦争、テロなどが起きた場合、半導体の供給に影響を及ぼすおそれが生じてしまうのです。
 非常に危ういバランスの上に、このサプライチェーンは成り立っていると言えるでしょう。
Sergei Chuyko / istock
 工程について付け加えれば、半導体を製造するには多額の投資が必要です。
 しかし、とりわけ「一般的な半導体」は仕様違いの品種数が多く、製造ラインを変更して一部の半導体を増産することが、需要が高まっても簡単にはできません。
 さらに、こうした半導体の製造工場は、不測の事態により一度稼働を止めてしまうと、数カ月にわたって製品を出荷できなくなるという特徴も持っています。
 再稼働するには、膨大な製造プロセスにおける細かい調整やテストなどが必要になるためです。
 今回の半導体不足はコロナ禍が原因に見えますが、実際にはそれ以前から、常に供給不足のリスクを抱えてきました。コロナ禍でそれが顕著になったというのが実態です。
 グローバルな水平分業が進んだ現在、この先も、いつ、どのような形で半導体不足が生じても不思議ではないのです。
参考書籍:『ビジネス教養としての半導体』(著 高乗正行 / 幻冬舎)