2022/12/15

【ビジネスリーダー推薦】ヒロアカに学ぶ「仕事に活きる5つの視点」

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
『ヒロアカ』を知っているだろうか。

 2014年から『週刊少年ジャンプ』で連載がスタートし、シリーズ世界累計発行部数6,500万部(※)を突破する大人気マンガ『僕のヒーローアカデミア』(作:堀越耕平/集英社刊)だ。
※2022年12月現在

 緻密な世界観と迫力のバトルシーンで展開される同作は、アニメシリーズも好評を博し、2022年10月からは第6期が放送開始(毎週土曜夕方5:30 読売テレビ・日本テレビ系全国29局ネット)。

 子どもだけでなく、大人にも“刺さる”といわれるヒロアカは、いったいどんな魅力を持つストーリーなのか?

 ヒロアカのファンを公言するビジネスリーダーたちに、作品を通してビジネスに活かせる学びについて、ビジネス視点から熱く語ってもらった。
INDEX
  • 『ヒロアカ』とは?
  • “やる気を生み出すマネジメント”が学べる
  • 強さは“戦闘力”では測れない時代に
  • 大きな“志”が人を動かす
  • 現代の大学生にも通じる“葛藤を強いる社会”
  • やれること、やるべきことに覚悟を据える

『ヒロアカ』とは?

“やる気を生み出すマネジメント”が学べる

 ヒロアカは「才能の活かし方」「チームビルディング」「育成」の視点で読むと、学びの宝庫です。
 ヒロアカの世界では多くの人が、自分だけの特殊能力である“個性”を1人が1つずつ持っています。
 その“個性”を磨きつつ、チームとして活かせるようになっていくストーリーは、僕の提唱する「加減乗除の法則」と一致します。4段階で成長していくという考え方です。
(足し算):選り好みせず、できることを増やす(夢中・量稽古)
(引き算):得意でないことを手放し、強みに集中する(自己中心的利他)
(掛け算):磨き上げた強みに、別の強みを掛け合わせる(独創と共創)
(割り算):すべての活動を1つの軸でくくる(ブランド人化)
 主人公デクはパワー系の“個性”を授かりますが、その力を使いこなすには、まずは“足し算”で、体を鍛えなければいけませんでした。
 基礎ができたら、次は“引き算”。さまざまなトレーニングで、強みを活かすプレースタイルを築いたり、“個性”自体を強化したりしていきます。
 自他共に認める強みを確立できたら“掛け算”です。自分と他人の強みとを掛け合わせる「共創」でチームとして価値を生み出す。または、自分自身が持つ2つの強みを掛け合わせる「独創」で力を発揮します。
 デクの場合の「独創」は、パワー系の“個性”と、昔から趣味でノートに書き溜めてきた、“ヒーロー分析の知見”。
 この2つの掛け合わせが、メンバー同士の“個性”の組み合わせ方をうまく考えられるという特技になり、デクの独創性へとつながっていきます。
ヒーローになることを夢見る少年。生まれつき“無個性”だったが、内に秘めたヒーローとしての資質を見出され、オールマイトから“個性”ワン・フォー・オールを受け継いだ。人を救けようとする意志は人一倍強い。
 そのほかにも、「各キャラクターの持つ強みと強みを掛け合わせて、化学反応を生む」とか「自分の弱みが、他人の強みを活かすためにある」といったチームビルディングのヒントも満載の作品です。
「育成がうまいなぁ」と感心したのが、敵(ヴィラン)連合の帝王であるオール・フォー・ワンです。
 アニメやマンガに出てくる悪の組織によくあるのは、恐怖政治による支配。その点、オール・フォー・ワンは違います。
 相手をよく見て、受け入れる。「この人だけは自分をわかってくれている」「この人は信頼できる」という接し方をするのです。
 デクたち雄英高校の生徒は、放っておいてもヒーローになるために努力するやる気にあふれているので、マネジメントはさほど難しくありません。
 しかしオール・フォー・ワンの配下のメンバーは最初、誰もやる気がない。人生に嫌気が差していたり絶望していたりするわけです。
 そんな状態から、一体感のある組織をつくってしまうマネジメントや育成のスキルに注目です!

強さは“戦闘力”では測れない時代に

 アニメシリーズを配信で観ている妻を横目に見つつ、原作を読み始めてヒロアカにハマりました。
 作品の魅力は、ずばり「“スカウター時代”から“個性の掛け算”時代への変化」です。
 ジャンプを代表するバトルマンガといえば、鳥山明先生の『ドラゴンボール』。1984年から連載され、今なお人気の名作です。
 作中に登場するメカ「スカウター」は、片目に装着すると、相手の戦闘力を数値化し、新たな敵がどれだけ強いのかを簡単に比較できました。
 一方でヒロアカは、「友情・努力・勝利」というジャンプ作品の王道バトルマンガの面を持ちつつ、強さや能力を単純に数値化できない“個性”で表現したユニークな作品です。
アニメシリーズ第1期第10話「未知との遭遇」では、敵(ヴィラン)連合に襲撃されたデクたち3人が、それぞれの“個性”を活かした連携プレイで立ち向かう。
 ヒロアカの“個性”と同様に、ビジネスシーンでの“優秀さ”も、そう簡単に定義や比較ができるものではありませんよね。
 テストの配点が変われば成績順が入れ替わるように、求められるシーンによって都度どんなスキルが力を発揮するかは変わります。
 単純に「1+1=2」となるようなものではなく、チームには個性の相性や活かし方を考えなければいけない。そういった考えが作品に通底しています。
 産業医の観点でオススメのエピソードは、アニメ第4期第79話「掴めガキ心」です。
主人公デクの幼馴染みで、ライバルでもある爆豪勝己(ばくごう かつき)。“個性”は、手のひらの汗腺からニトロのような汗を出して爆発させる「爆破」。
 マセた小学生たちの心をつかむ補講に、ヒーローを目指す高校生4人が四苦八苦するお話です。
 大暴れする子どもたちとのやりとりには、昨今の企業研修にも増えているという「アンガーマネジメント」「リスペクトトレーニング」に通じるシーンがあります。
 管理職のよくあるお悩みにも重なる点があり、ビジネスパーソンもきっと共感しながら楽しめる1話だと思います。
 教育者キャラには「人に教えている自分が好き」と思えてしまうタイプがいるのですが、デクたちの担任である相澤先生にはそういったナルシシズムを一切感じません。
 彼の実力ならプロヒーローとしてもっと稼げそうなのに、雄英高校で教師をしている。
 普段はクールで合理的なキャラクターとして描かれていますが、仕事の選択については合理的ではありません。
 だからこそ、本当に教育現場が好きなんだなと思えて、私が数少ない好感の持てる先生キャラです(笑)。

大きな“志”が人を動かす

 ヒロアカは原作からのファンですが、アニメシリーズは声優さんたちの迫真の演技が素晴らしいです。
 自分のイメージ以上にキャラクターが生き生きしていて、彼らの新たな一面を掘り下げてくれるオリジナルエピソードも、アニメ版ならではの醍醐味です。
 私がビジネス視点でヒロアカから得た学びを一言で表すなら、「組織における“志(ビジョン)”の大切さ」でしょうか。
 死柄木弔(しがらき とむら)率いるアウトローの集まり「敵(ヴィラン)連合」は、最初は統率もとれておらず、たいした脅威ではありませんでした。
 しかし、ある人物の強い信念とも呼ぶべき“歪んだ正義”に、多くの人の心が動く様子を目の当たりにし、死柄木は「ヒーロー社会を壊す」という“志”を持ちます。
主人公らヒーローに立ちはだかる敵(ヴィラン)のリーダー・死柄木。彼らの過去にも丁寧にスポットを当て、悪役でありながら、ヒーローたちに劣らぬ魅力を発揮している。
 すると、志に共感した仲間が次々と参入し、小さな組織が総勢11万人の巨大テロ組織に成長していきます。そして、そのトップに君臨する“悪のカリスマ”として覚醒する死柄木の姿は圧巻……!
 人を動かすには、まず大きな志を持つことから
 こうした敵(ヴィラン)たちの“成長”も、主人公たちヒーローサイドと表裏一体になって、見応えのある世界観を形成しています。
 どのキャラクターも魅力的ですが、エンジニアという自分との共通点があり、200以上もの作品を手掛ける発目明がイチ推しのキャラです。
 失敗を恐れず四六時中開発に勤しみ、自分の作品を「ドッ可愛いベイビー」と愛でる技術への真摯な姿勢。そしてヒーローたちを技術で支える生き様を、同じエンジニアとして非常に尊敬します。
 私の知る凄腕エンジニアたちも、国内・海外を問わず、まさに彼女のような人ばかり。好奇心と熱意を持って技術に向き合っている人たちが、日進月歩のITの世界を、日々切り拓いています
 ちなみに、自分の信念に従い、創作意欲のままに作り続けるという点では、アニメ版オリジナルの敵(ヴィラン)ミスター・スマイリーにも共感します。
 配信限定のエピソード「笑え!地獄のように」に登場するので、原作派もリアルタイム視聴派の方もぜひチェックしてみてください!

現代の大学生にも通じる“葛藤を強いる社会”

『週刊少年ジャンプ』の連載作品はすべて欠かさずに読んでいます。ヒロアカの最大の魅力は、現代社会にも通じる成長ストーリーにあります。
 突如として人類に“個性”が発現し、いつしか世界人口の約8割が何らかの超常的な能力を持つようになったヒロアカの社会は、圧倒的な格差を生み、既存の社会制度では対応できなくなっています。
 だからこそ、ヒーローの道に進む者もいれば、反体制組織で新たな秩序を打ち立てようとする敵(ヴィラン)もいる。そして、取り残される“無個性”なマイノリティの存在も。
 作品の中で提示されるのは、“なりたい自分になっていい社会”。それは同時に、個人に葛藤を強いる社会でもあります。
 そうした葛藤と成長を象徴するキャラクターの1人が、轟焦凍(とどろき しょうと)です。
 アニメ第29話「ヒーロー殺しステインVS雄英生徒」は、彼が両親のしがらみから解き放たれ、本来の並外れた才能と闘争心を開花させる回です。
現No.1プロヒーローを父に持ち、知力・体力共にトップクラスで雄英高校に推薦入学した実力者。“個性”は、右から氷結、左から炎熱を繰り出す「半冷半燃」。
 轟くんをはじめ、さまざまなキャラクターを通じて描かれる葛藤は、今の時代に生きる大学生にも通じる部分があるでしょう
 上の世代に言われるままでいいのか? 今の社会で人々は救われるのか? 葛藤を抱えながら「自分は何になりたいか」を決心するのは、青少年に限らず、ほとんどの人にとって簡単なことではありません。
 クラスメイトと協力し、ときにはぶつかり合う主人公たち。
 善も悪も、それぞれに生き方を決心していく彼らの成長過程を見守るうちに、自分の生き方も問い直したくなるかもしれません
 生物以外なら何でも創り出せる「創造」という強力な“個性”を持つほか、戦闘の推移を読み、事前に物資を創造しておく作戦能力も兼ね備えている八百万さんは、“ロジスティクスの要”です。
 国家資格であるヒーローは、公安委員会の指揮下にない状態では“個性”による制圧を禁じられています。
 政府はこうして強力なヒーローを個人事業者として管理・統制しているので、現場で戦うヒーローには、作戦やロジスティクスがわかる人間がほとんどいません。
 巨大テロ組織との戦闘では、こうした状況が致命的な敗因となりかねない
 そんな弱点を解消し、ヒーローとして現場に立ちながら、政府側との実務的調整を担えるとしたら、きっと八百万さんのはず。今後の展開のキーパーソンとして注目しています。

やれること、やるべきことに覚悟を据える

 海外にいた2016年、北米のアニメイベントで、ヒロアカのコスプレを見かけるようになったのをきっかけに読み始めました。
 ちなみにアニメシリーズ第3期が放送されていた2018年頃には、ヒロアカのコスプレイヤーが大勢いて、海外でも人気だったのを覚えています。
 作品の見どころは、「生まれながらに平等ではない人間が、集団の中でどう“個性”を確立していくか」でしょう。
 それを象徴するのが、アニメシリーズ第1期第3話で、オールマイトがデクに言う名台詞「“無個性”でただのヒーロー好きな君は、あの場の誰よりもヒーローだった」です。やはり、このシーンが一番印象的ですね。
 主人公のデクはヒーローになりたくて仕方がないのに、“無個性”で落ちこぼれ。そんな彼を、憧れのヒーローであるオールマイトが、能力よりも姿勢で認めてくれた瞬間です。
 誰しも人生のどこかで「自分は主人公ではなく、脇役だ」と感じる経験をすると思います。
 それでも、今の自分のやれることや、やるべきことを見つけて、覚悟を決めて取り組むしかない。それを貫き通した先に、誰にも負けない“個性”が生まれる。
 「自分には突出した才能なんてない」と嘆く人たちへのエールが、“個性”をテーマとするヒロアカには込められているように思います。
 雄英高校ヒーロー科3年生で、“ビッグ3”と称されるほど強い、太陽のような先輩キャラクターです。
 彼は努力によって積み上げたその個性を、ある理由で手放すことになります。
 少年マンガの多くは、成長を描くことには熱心でも、挫折や弱くなっていく姿は、あまり丁寧に描かれないものです。
 ミリオ先輩が自尊心を失わずに“無個性”と向き合う過程は、ビジネスや人生で必ず訪れる下り坂への向き合い方のヒントになると思います。
 ビジネスリーダーたちが語る作品の魅力はもちろん、あなた自身の日々の仕事に重ねても、きっと新しい気づきや感動に出会えるはずだ。
 現在放送中の第6期では、ファン待望の「全面戦争編」が展開中。
 過去シリーズをこの年末年始のお供に楽しんで、白熱のバトルの行く末をぜひオンタイムで見守ってほしい。