2022/11/21

【独白】サントリー総帥「佐治信忠」が語る、運、夢、経営

NewsPicks 編集委員
あの男は、一体どこに消えたのか?
2014年7月、ホテルオークラ東京で開かれた記者会見を最後に、サントリーホールディングスの総帥が姿を消した。
サントリーといえば社長の新浪剛史のイメージが強いかもしれないが、100年以上も創業家が株主であり経営トップに君臨するファミリー・カンパニーだ。
日本最大の非上場企業であり、創業家が君臨する実態は今も変わっていない。
今、サントリーを率いるのは4代目の会長・佐治信忠。新浪のボスであり、世界4万人以上の従業員のトップに立つ男だ。
米ビームを約1兆6000億円で買収し、創業家以外から初めて新浪を社長に連れてきた人物でもある。
その佐治が、2014年の会見を最後に表舞台から姿を消した。その年の秋頃から1年強は、社員の前にも登場しなかった。
社内外で重病説が流れ、メディアはこぞって佐治の消息を追ってきた。
それから5年後──。お台場にあるサントリーのワールドヘッドクォーターズの12階で、佐治と対面した。
元来、佐治はメディアの取材を好まないため、人生観や経営について語った資料はほとんどない。姿を消してから初のロングインタビューで、何を語ったのか。
日本一ミステリアスな経営者が、ついに口を開いた。
INDEX
  • 「姿を消した」理由
  • 私は「運が強い」
  • サントリー創業家と信心
  • 卒業論文に記した「夢」
  • 「ビーム買収」の裏側
  • 経営者は「夢」を掲げよ
*書籍「世襲と経営 サントリー・佐治信忠の信念」(出版社:文藝春秋、著者:泉秀一)からの再掲載です

「姿を消した」理由

取材はコロナ禍で実施された。著名人を含む多くの人が命を落とし、人の生死に対して誰もが敏感になっていたタイミングだった。
そうした文脈の中で、佐治が語り始めたのは、自らの病についてだった。まずは、佐治が姿を消した真相に迫りたい。
話は、運やサントリー創業者の信仰心にまで及んだ。
──2014年7月の社長交代会見を最後に、表舞台だけではなく社員の前からも姿を消しました。
佐治 私はね、数年前、頭に大動脈瘤、こんな1センチぐらいのものができて。