2022/12/8

なぜ、ギフトが社内外のエンゲージメントを変えるのか

NewsPicks / Brand Design 編集者
 近年、海外のビジネス現場でニーズが急拡大している「Corporate Gift」(以下、コーポレートギフト)。企業が取引先や顧客、または自社の従業員に対して、関係性を構築するために贈るギフトを指すが、そのビジネス習慣が日本でもじわじわと広がりつつある。
 国内で先陣を切ったのは、eギフトのプラットフォーム事業を展開するギフティだ。同社は、国内初となるコーポレートギフトに特化したサービスの提供を2022年10月26日から開始。一体、どのようなサービスなのか。
 古くからお中元・お歳暮文化が根付く日本のビジネス界で、コーポレートギフトはどう存在感を発揮していくのか。
 同日に行われたパネルディスカッションでは、国内外の商品券・ギフト券・eギフト等の市場動向を調査する矢野経済研究所アナリスト・高野淳司氏と、ギフティ代表取締役太田睦氏が対談。
 先行する米国をはじめとする海外市場の動向および国内におけるコーポレートギフトの展望と戦略を語った。

コーポレートギフト急拡大の背景に、コロナ禍による働き方改革

 まず、日本ではまだ耳慣れない「コーポレートギフト」の定義から説明しよう。これは企業が、取引先や顧客、あるいは自社の従業員に対して、関係性の構築や強化を目的に、感謝の気持ちを表すギフトのことだ。
 海外ではすでに多くの企業が顧客や従業員にギフトを贈っていて、その市場規模も急拡大している。
 特に昨今のコロナ禍では、さらに市場が活性化している。その背景としては、「勤務体系の変化が大きい」と、高野氏は分析する。
「近年、働き方改革やコロナ禍により、出勤せずに自宅で仕事をするリモート勤務、あるいは出勤とリモート勤務を掛け合わせたハイブリッド勤務の導入が進んでいます。
 アメリカでは、働き方を変更した企業において、コーポレートギフトを贈る頻度が増加していることが分かっています。
 やはり、リモートだと企業間でも従業員間でも雑談などのコミュニケーションはどうしても減る。その中で、距離を縮めるための手段としてギフトを贈っているようです」(高野氏)

市場拡大とともに、「より気持ちが伝わるコーポレートギフト」に

 もとよりアメリカでは、ギフトとともに感謝を伝えることが、関係性構築には欠かせないとして、クリスマスを筆頭に、年間を通して相手を喜ばせる「ギフト文化」が根付いている。ビジネス現場でも同様だ。
 ところが、ここ1~2年で、贈り方に変化が見られてきたという。
「ビジネス現場では、贈る品物の質を重視する傾向が見られるようになりました。
 アメリカのコーポレートギフトの利用実態が分かる資料を見ると、例えば従業員に贈る場合、『あなたのために贈っている』ことが伝わるように、一人一人にカスタマイズされたギフトを贈るなど、工夫が見られます。
『みんなに贈っているんだ』と思われるような一律的なギフトではなく、気持ちがこもったものを贈る。まさに相手との関係性の構築、強化のために贈っているという印象があります」(太田氏)
 日本のビジネス現場でも、環境に応じてコミュニケーションも変化すべき局面に来ている。感謝の形としてギフトを贈る習慣が、より功を奏する時代となるか──。

ビジネス現場では、どのようにギフトを贈っているのか

 海外でのコーポレートギフトの実用例を見ると、主な対象は3パターン。従業員/employee(BtoE)、取引先(BtoB)、優良顧客/ロイヤルカスタマー(BtoC)だ。
 BtoBに特化して活用している企業もあれば、BtoEをメインに行う企業、全方位に取り組む企業もあり、企業によって力の入れどころは異なる。
 他方、ギフティでは、これまで、主にBtoBあるいはBtoEの2シーンで多く活用された事例があり、実際、ギフティのサービスを活用しeギフトでコーポレートギフトを贈っている企業では、次のようなシーンが多いという。
「企業向けギフトとしては、イベントやセミナーの参加者などにお礼としてeギフトを贈るケースが非常に多い。契約や更新のお礼、それからお中元、お歳暮で高額なeギフトを贈るケースも一部見られます。
 従業員向けギフトとしては、誕生日のタイミングで500円相当のeギフトや3000円程度の体験ギフトを贈る、企業の健康組合が開催したウォーキングイベントに参加した従業員に参加賞として、コンビニで引き換えられるスポーツドリンクのeギフトをプレゼントする、というような使い方をしていただいています」(太田氏)

パンデミック収束後も「さらにギフトを贈りたい」企業が多数

 Coresight Researchの調査によれば、アメリカのコーポレートギフト市場は、2020年では2300億ドルだったのが、2022年には2580億ドルに。さらに2025年には3120億ドルに達することが予測されており、年平均成長率は、2020年から毎年5.2~6.6%伸びている。
「この成長率は、コロナが収束した後も続くと見られています。むしろ、同調査では、将来的にパンデミック終了後も、調査対象の50%の企業が継続してコーポレートギフトを贈るだけでなく、その頻度を増やすと回答している調査結果があります」(高野氏)
 ギフトを今よりもっと贈りたい──。企業が意欲を持つのは、ギフトを贈る効果を実感しているからだ。
「Coresight Research社によると、企業は、コーポレートギフトを贈る効果として、『相手に価値を感じてもらうこと』『顧客や従業員とのより良い関係性の構築』を上位に挙げ、『相手に価値を感じてもらうこと』については、20%の企業が最上位に挙げています。
 また、アメリカでコーポレートギフトに関連したサービスを提供するナック社の調査によると、調査対象の94%の経営者がビジネスの成功には人間関係が重要だと考え、さらに89%の経営者が、『コーポレートギフトは人と人との距離を縮める』と考えています」(高野氏)
「やはり単純な価値の交換だけの関係性よりは、人と人との関係性があってこそ、ビジネスは成長します。
 それをギフトで実現したいと考える経営者が海外に多いのは納得です。まずは相手に喜んでもらう。その先に副次的な効果として経済効果を求めているのでしょう」(太田氏)

米国でのBtoB、BtoEでの効果

 実際、海外ではコーポレートギフトの経済的効果が次のように報告されている。
「TechCrunchでは、『販促品やギフトを受け取った人の66%はそれを贈ったブランドを思い出すことができ、79%はその会社と再び取引を行う可能性が高いことが分かった』というリサーチ結果を紹介しています。
 そのほか、Snappy社のリサーチによると、アメリカ人従業員1000人以上を対象とした調査で、従業員の10人に6人近く(59%)が、雇用主から有意義なホリデーギフトをもらった方が、仕事を続けられる可能性が高いと回答。
 ギフトを通じて感謝の気持ちを伝えることで、従業員の会社への帰属意識に変化が見られます」(高野氏)
photo:Nonwarit/istock

相手との距離感を縮めていくコーポレートギフトの使われ方

 では、経済が停滞している日本では、コーポレートギフトは起爆剤になり得るのか。
 国内ではギフティが正式に始めたばかりで、まだまだ新しい市場であり正式な調査はされていないものの、高野氏は次のように語る。
「顧客や従業員との関係性の構築や強化のために贈るギフトの市場ポテンシャルは大きく、今後も拡大が期待できます」(高野氏)
 高野氏の期待を裏付けるように、ギフティ社の太田氏は、国内のニーズをこう話す。
「すでにeギフトだけでも、特にBtoE、つまり従業員向けの営業報酬や福利厚生としてコーポレートギフトを使うシーンが、2020年以降、件数、金額とともに大幅に増加。
 2019年から2021年の2年間で、関連売り上げは2200%も成長しています。BtoBのクライアント向けギフトについてもすでに多数の問い合わせをいただいています」
 ここ2年のギフト事例を挙げてもらおう。まず従業員に対しては、内定者へのオファーギフト、面談後のお礼、ユーザー会ギフトだ。
「例えば内定後、『あなたはチームに一員に入った』ことをメッセージングし、入社を確実なものとするために、企業ロゴが入ったものを贈るケースが増えてきています。また面談後にギフトを贈り、相手との距離感を縮めていく使われ方も。
 他にも、企業がユーザー会を開いた際、企業のロゴを入れたギフトを参加者に配り、自社ブランドを認知してもらうなど、より効果的なメッセージが送れるようになってきています」(太田氏)
 また、創立記念や永年勤続記念、社員のご家族向けの福利厚生ギフト、社内イベントや懇親会でのギフトもニーズが増えています、と太田氏は続ける。
 BtoBの事例で顕著なのは、Saas企業などをはじめとしたBtoB事業者のマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、代理店マネジメント、さまざまな顧客接点で使われるコーポレートギフトだ。
 一例として、金融系のウェブサービスを提供するマネーフォワード社では、経理業務に携わるユーザーを対象としたオンラインイベントで、コーポレートギフトを活用。
 イベント開催前に、参加者全員にクラフトビールやビールグラス、おつまみなどのギフトボックスを個別配送した。
 懇親会では、オリジナルビールをおそろいのグラスで乾杯することで、一体感を高めたという。

企業ブランディング、エンゲージメントを高める「Swag」

  実は同社にとって新しい領域となるのが、「Swag(スワッグ)」だ。
「Swagは、ここ10年以内にできた言葉で、企業のロゴなどをプリントした企業のオリジナルグッズ。
 BtoBにおいては、自分たちのブランドを想起してもらうためのツールですし、従業員に対しては、エンゲージメントを高める効果があると想定されています。
 古くは、Apple社やGoogle社が従業員向けに社名のロゴが入ったTシャツを配り、シリコンバレーの多くのエンジニアがこのTシャツを着て街を歩いていました」(太田氏)
 いわゆるノベルティとの違いは2つ。
「まずは知名度。有名メーカー、特にブランド力の高いメーカーの商品に社名のロゴを入れることで、より喜んでもらえます。
 次に、安価なものを大量製造するのではなく、数を絞って単価を上げ、受け取った方に長くお使いいただけるような上質なものをお贈りすること。
 実際、こうしたギフトに喜び、SNSにアップしたり“企業愛”が高まった社員が多いという声も聞いています」(太田氏)
今後、ギフティはどんなサービスを展開していくのか。パネルディスカッション後、太田氏に単独インタビューを行い、同社の戦略を掘り下げた。

ただ贈って喜んでもらうだけでなく、発送側の負担を軽減する「仕組み化」も

「意識したいのは、ギフトを開けた瞬間の『わあっ』というサプライズ感。それは上質なものであったり、演出であったり。企業は、従業員や顧客と気持ちでつながりたいという思いがあるので、そこを重視したギフトにしたい。
 さらに、それをただ提供するだけでなく、仕組み化するところまで含めてサービスを提供します」(太田氏、以下同)
 ギフトのコンテンツを持つブランド企業と、贈り主である企業。この両者を結ぶプラットフォームを構築するのだと、強調した。
「目下、贈り主となる企業にはいくつか課題があります。まず、さまざまな選択肢がある中で、何を贈ればよいのか分からない。
 相手によって一から調べて内容を詰めていくのは大変です。発注も電話やメールなどアナログです。次に、物を自社で保管し在庫管理をすること。そしてそれを自力で個別に配送することも非常に手間がかかります。
 そこで、こうした課題を当社が解決します。
 まずは企画支援として、各企業に伺って、どういう相手にどういう目的、シーンで、どんなことを実現したいのかヒアリング。
 そして、当社が持っているギフトコンテンツ、eギフト、体験、モノ、Swag(オリジナルグッズ)の中で、どれが最適かを提案したり、企画の支援をしたりします。
 ご相談によっては、『贈る時にこれも同梱したい』、『こういうメッセージも入れたい』といったご要望に対応できるようなサービスも構築していきます」
 まず、企業が贈るギフトのコンテンツについては、インターネット経由でデジタルギフトを贈る「eギフト」、遊びや癒やしなどの「体験」、詰め合わせボックスなどで現物を発送する「モノ」、モノに社名のロゴを入れて送る「Swag」があり、海外ではこの4つがメインとして贈られている。
 ギフティ社も、全方位に力を入れていく予定だと話す。
※BtoCは将来取り組み領域で現時点ではサービス提供していない。
  また、外部の各種データマネジメントシステムとAPI連携を行うことで、各ステージに応じてギフトを発送できる仕組みも提供したいと語る。
 例えば、BtoB の場合、ステータスをシステム管理していて、名刺交換や面談完了といったタイミングでギフトを発送。
 BtoEに力を入れている会社では、従業員の誕生日、入社日、昇進日のデータを蓄え、その日のタイミングで自動的にギフトを贈ることのできる仕組みを構築する。
 また、従業員や顧客に自社のロゴが入った衣類を贈る場合──色やサイズを個別に聞いて手渡しをしたり、煩雑な在庫管理の作業が発生するが、ギフティではその煩雑な作業をなくし、より贈りやすくするシステムプロダクトも提供している。
 最後に、太田氏はこう締めくくった。
「従業員や顧客に感謝の気持ちを伝えたくても、機会や手段がないと悩む企業は少なくありません。
 そんな中、『自分のことを見てくれているな』というコミュニケーションができれば、従業員もモチベーションが上がるし働く姿勢も変わります。クライアントであれば、取引を続ける気持ちにもつながります」
 まだまだ耳新しい「コーポレートギフト」。2023年にはビジネスを成長させるツールとして、さらに身近になっていることだろう。