2022/11/10

氾濫するバズワード「テクノロジーコンサルティング」の本質を知っているか

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 近年、外資系コンサルティングファームやシステムインテグレータ(SIer)の間でトレンドワードと化している「テクノロジーコンサルティング」。
 大まかな意味は、テクノロジーの有効活用による組織改革や事業変革の推進。
 だが、一時期氾濫した「DX」のごとく、どこか言葉が一人歩きしているきらいもある。
 今年7月にNTTデータが創設した「テクノロジーコンサルティング事業本部」(TC本部)。
 同部事業本部長谷中一勝氏は、「テクノロジーとサービスデザインの融合こそ核心」と語る。
 なぜテクノロジーコンサルティングにサービスデザインが必要なのか。
 谷中氏の話から“バズワード”の本質を探る。

「構想だけ作る」はもう通用しない

──この数年、コンサル業界やSI界隈で「テクノロジーコンサルティング」がトレンド化しているように感じます。
谷中 テクノロジーとビジネスが非常に強く融合してきているからでしょうね。
 いまや技術者たちは、技術のことを理解しているだけでは不十分で、顧客のビジネスのあり方を理解し、理想を一緒に実現していくことが求められています。
NTTデータ テクノロジーコンサルティング事業本部長。1992年、NTTデータ通信(現・NTTデータ)入社。2015年、ビジネスソリューション事業本部企画部長。Data&Intelligence事業部長などを経て、2022年より現職。データ活用領域を軸にしたデジタルテクノロジーとサービスデザインを活用したコンサルティング・実装・運用などのビジネスを展開する責任者。
──テクノロジーを提供する側にも、ビジネス視点や顧客の未来を描く構想力が求められている、と。
谷中 基盤エンジニアを例に考えてみるとわかりやすいと思います。
 デジタル領域では近年、高性能なAIや「Snowflake」に代表されるようなクラウドネイティブのプラットフォームなど、既存のビジネスに破壊的な影響を及ぼすソリューションが続々と登場しています。
 これらを例えば製造小売業に導入するとどうなるか。
 高性能のAIで需要予測をすれば、生産方式や供給方法が一変し、サプライチェーンの仕組みもがらりと変わる可能性があります。
 そこでSnowflakeを活用してサプライヤーたちの情報を一元管理する仕組みを構築すれば、サプライチェーンの最適化が一気に進むかもしれません。
Ignatiev / istock
 最新テクノロジーを見た時に、こんな未来図を描けるか。
 あるいは最新技術の中から、ビジネスに活かせるものと活かせないものを見極められるか。
 こういった要求に応えるためにも、基盤エンジニアやデータサイエンティストには幅広いビジネスの見識や未来を見通す力が求められます。
 ただし、構想だけ作る、綺麗な絵だけ描いて終わり、というのは、今はもう通用しません。
 End to End(最初から最後まで)で顧客に寄り添いながら、テクノロジーを活かした新しい仕組みを現場で試し、ビジネス価値や新たなサービスの創出につなげるところまで責任を持つ。
 これが、当社が考えるテクノロジーコンサルティングのあり方です。
──構想、実装、運用を手がけ、結果にもこだわる。これは、言うは易く行うは難し、ではありませんか。
谷中 実現のポイントは三つあると考えます。
 一つ目は、先進テクノロジーへの迅速な着目と活用です。
 当社のTC本部には、ビジネス成果の創出を見据えて最新技術の要否を判断できる人材が数多くいます。
 彼らはトレンドに流されることなく、次々と登場する新技術の中で本当に価値あるものを見極め顧客に提案、実装し結果を出す。
 その成果もあり、当社は協業する先進テクノロジーパートナーが開催するアワードで数々の賞を受けています。
 特にData&Intelligence(データ活用)領域では、Snowflake社、tableau社、Teradata社、Informatica社といった先進企業のパートナーアワードで表彰されるなど、ビジネス活用の実績は国内ナンバーワンと自負しています。
 二つ目のポイントは、「バリューエンジニアリング」的な効果検証を徹底することです。
 バリューエンジニアリングとは、機能とコストの関係から「価値」を捉える考え方です。
 技術の導入とビジネスの成果を適切なロジックでつないで、結果の要因を解明していく。
 すなわち、テクノロジー単品の導入効果にとどまらず、全体としてどうビジネス価値につながっているかを可視化、トレースし、改善していく取り組みを指します。
 こうしたIT版のバリューエンジニアリングは、一部のテック企業で専門チームが組成されはじめていますが、我々も重要な取り組みと位置付けています。
 企業の中期経営計画のスパンはだいたい3~5年。我々は最低その間、顧客にお付き合いし、次の中期にもかかわっていく。
 その5年、10年という長いお付き合いの中で、効果検証を通じて取り組みの精度を高めながら結果を出していくことが我々の使命です。
 DXは、そんなに簡単に「一丁上がり」といくものではありません。
 三つ目のポイントは、デジタルテクノロジーと「サービスデザイン」の融合です。
 サービスデザインとは、簡単に言えば、良質なユーザー体験を創出するための仕組み作りのこと。
 TC本部には、コンサルタント、データサイエンティスト、アナリスト、PMといったさまざまな職種の人材が集まり、お客さまのニーズに合わせて有機的なチームを組成しています。
 そこにサービスデザイナーも加わり、お客さまやその先にいるユーザーの最適な体験を考えながら、複数の先進テクノロジーを組み合わせていく。
 言わばサービスデザインとテクノロジーの融合による顧客価値の最大化。 
 これがテクノロジーコンサルティングの要諦と考えます。

「データ活用」に偏重するあまり失われる顧客視点

 谷中氏が注目する「サービスデザイン」は近年、企業の事業創出において存在感を急速に高めている。
 それに伴いサービスデザイナーも活躍の場を広げている。
 NTTデータは早くから世界各地で17カ所のデザインスタジオを運営し、人材やノウハウの共有を進めてきた。
 
 2020年6月にはデザイナー集団の新ブランド「Tangity®」を日本・イタリア・ドイツ・イギリス・中国の5カ国で立ち上げている。
 
 ここからは、日本の「Tangity Tokyo」を率いるTC本部のサービスデザイナー村岸史隆氏にも加わってもらい、テクノロジーコンサルティングにおけるサービスデザインの重要性やTC本部の特徴について掘り下げる。
ニューヨーク工科大学大学院で文学修士を取得後、海外のブランドエージェンシーやデザインファームでの経験を経て、2020年1月、Tangityの前身のデザイン部隊にデザインの責任者として入社。社内外のさまざまなプロジェクトにプレーヤーとして関わるところから、デザインディレクションを実施することまで、幅広く挑戦中。
──改めてお聞きしますが、テクノロジーコンサルティングにおけるサービスデザインとは、どのような仕事なのでしょうか?
村岸 僕なりの言葉で言えば、NTTデータが強みとしているシステムやテクノロジーを顧客企業やエンドユーザーに最適な方法で届けるための設計をすることです。
 デザイン思考では、顧客とエンドユーザーのあるべき体験、すべき体験を描き、そのために必要なサービスやコンセンサス、アライアンスなどを考えていきます。
 人間の行動を中心に据え、複雑化しているさまざまなビジネスやサービスをユーザーにとってわかりやすく、かつ温かみを感じられるものとしてデザインしていく。
 それがNTTデータにおけるサービスデザイナーの仕事と考えます。
谷中 サービスデザインの重要性を補足すると、我々は顧客理解を深めたり、業界の未来予測をしたりする際にデジタルマーケティングを実施しますが、デジタルマーケティングとはデータ活用そのものですし、実のところDXも同じです。
 つまり我々の仕事においてデータ活用は不可欠ですが、それゆえに「データをどう使うか」という発想にとらわれやすく、新しい仕組みやサービスを使う側の視点が置き去りになることもあります。
 だからこそサービスデザイナーが必要なのです。
村岸 そういう意味では、僕らはテクノロジーから距離を取ってプロジェクトに関わっています。
 同じチームのデータアナリストに、サービスデザイナーの視点で理想のカスタマージャーニーなどを伝えると、彼らがそれに適したソリューションテクノロジーを選んでくる。
 そういう関係の中でソリューションの精度を高めていきます。
──職種の異なるエキスパートが連携しながらコンサルティングを進めるところにTC本部の特徴があるのでしょうか。
谷中 そう思います。テクノロジーコンサルティングは大きく「構想」「実装」「運用」の三つのフェーズに分かれますが、それに応じて組織が縦割りになりやすく、職種ごとのサイロ化も起きやすいのが現実です。
 TC本部は全くの逆。すべてのフェーズを横串で通した組織です。
 さらに案件ごとに職種混合のチームを作るので、縦割りが生じません。
 それゆえ専門性の異なる人材同士の融合を通じて大きな世界を作り上げることが可能になる。
 これがTC本部の特徴であり、この職場で働くことの醍醐味です。
村岸 同感です。まずはコンサル担当者が丁寧なヒアリングをして顧客のインサイトを示す多様なデータを集めてくる。
 それをデータサイエンティストが精緻に分析する。
 そこから我々サービスデザイナーが入っていく。
 ここまでお膳立てをしてもらえたら、提案できるサービスの質が大きく変わってきます。
 サービスデザイナーとデータ活用部隊がこのレベルで融合することは、一般的なデザインファームではまず難しい。
 その意味でTC本部は非常に成熟した組織だと思います。

社内で「転職」しながらキャリア形成ができる

──「成熟した組織」というお話がありましたが、NTTデータに対し保守的なイメージを抱いている人も少なからずいます。比較的最近入社された村岸さんから見て、イメージとのギャップを感じることはありましたか?
村岸 実は前職時代にNTTデータと仕事をしたことがあって、実際にカタい感じの人たちもいました。
 スーツを着て、時間かっきりに来て、品質と納期を一番に考えます、新しいことはやりたくありません、といった感じのタイプ(笑)。
 ただ、組織に入ってみると、保守的なイメージを変えたいと考える自由な雰囲気の人も多く、振れ幅が大きい会社だなと感じます。
 特にいま所属している部門や僕の周りにいる人たちは、柔軟性が高く、貪欲に新しいことにチャレンジしようという人たちばかり。
 チャレンジ「したい」じゃなくて「しないといけない」という強い思いを抱いています。
 会社側もそういう強い希望を持つ人間には大きな裁量を与えてくれる。
 僕のような新しいことを仕掛けていきたい人間にとっては、非常に動きやすい環境だと感じます。
谷中 実際、会社自体もどんどん変わってきていますよね。
 村岸さんのようにADP(※)という新しい採用制度で入社してくる専門人材も増えています。
 人事制度も、適材適所の人員配置とそれに応じて処遇を行う「フレキシブルグレード」が導入されました。
 ※AIやIoT、クラウドなど先進技術領域やコンサルティングの領域において卓越した専門性を有した人材を、外部から市場価値に応じた報酬で採用する仕組み
村岸 例えば僕は専門スキルを活かして組織へ貢献することが期待されているので、ピープルマネジメントは基本的にやりません。
 評価は限りなく市場価値に近い基準で決まります。
──ADPの導入をはじめ、全社的に年功序列の仕組みがなくなり始めているわけですね。
谷中 TC本部はそういう変化の象徴みたいなところがあって、社内公募で若い人がどんどん異動してきたり、外部から採用して新しい人が入ってきたりと、スタートアップ企業のような雰囲気です。
 スキルレベルを高めようとする意識も非常に高く、AWSやSnowflakeといったテクノロジーのハイレベルな資格保有者も多い。
 異なるバックボーンの人たちが集まる組織だから情報共有が活発で、相互に啓発し合っています。
──お聞きする限り、フラットな環境、という印象を受けます。
谷中 だからだと思いますが、僕は事業本部長なのに、誰も気を遣わない。威厳も何もありません(笑)。
村岸 人材の流動性も高くて、僕のチームにも他部署からどんどん人が異動してきます。
 それまでコンサルや営業をやっていた人が「やりたい!」と手を挙げたらデザイナーになれてしまうのだから、この組織の柔軟性には驚かされます。育てる方は大変ですけどね(笑)。
 ただ、見方を変えれば、普通なら転職しなければ叶わないキャリア形成を、社内異動を通じて実現できるということです。
 NTTデータには、TC本部のようなスタートアップ的な部署もあれば、大企業的な部署もあります。
 柔軟な異動を通じて、多様な職場でスキルレベルの高い人たちと切磋琢磨していくことができる。
 こんな環境はなかなかありませんよ。