2022/11/12

【山口】地元と他県の企業をつないで新たなビジネス展開へ

編集オフィスPLUGGED
「ワーケーション」とは、2000年ごろにアメリカで誕生したと言われる「休暇を取りながら、好きな場所で働く」という考え方です。

日本ではコロナ禍に政府からワーケーションを推奨する動きが見られたことで認知が広がり、現在、全国各地で官民が連携しながら環境やコンテンツに応じたワーケーションプランを開発・提案しています。

山口県では、空港と自然環境を最大限に生かして「転職なき移住」を実現するプランを展開するとともに、地元事業者の課題を首都圏や関西圏の企業とのマッチングで解消していくビジネスモデルを展開。

宇部空港にあるワーケーション総合案内施設「YY!GATEWAY」の運営を担い、航空事業で培ったノウハウやネットワークを用いて地方地域事業を担うANAあきんど株式会社に取材しました。
INDEX
  • 扉となる空港にワーケーション拠点&ワークスペース
  • 地元の事業者の課題を首都圏の企業の専門性で解決する
  • 空港と自然のある環境で2拠点の「転職なき移住」

扉となる空港にワーケーション拠点&ワークスペース

山口宇部空港の国内線ターミナルビル内に開設されている、やまぐちワーケーション総合案内施設「YY!GATEWAY」。ここは、ワーケーションに関する案内や相談、希望に応じたプランをコーディネートしてくれる施設です。
コワーキングスペース機能が備わっており、旅の前後の時間を有効に使える空間となっています。
空港内にある「YY!GATEWAY」のコワーキングスペース
運営事業者は、ANAのグループ会社で地域創生を事業の軸に据えるANAあきんど株式会社。
山口県の「山口型ワーケーション事業」のパートナーとして公募の結果選ばれ、県と協力して関係人口の創出を目指し、新たなビジネスネットワークを作り出します。ここは、その拠点となるのです。
山口支店長の田中一史さんと、YY!GATEWAYコンシェルジュの末田順子さんに伺いました。
ANAあきんど株式会社のアシスタントマネージャーの末田順子さん(左)、山口支店支店長の田中一史さん(右)
末田 「『山口型ワーケーション』は、7つの類型によってプログラムが組まれています。『YY!GATEWAY』では、個人や法人向けのワーケーションプランの紹介を行うなど、ビジネス創出型と地域課題解決型のプロジェクトの拠点になっています」
通常のワーケーション、つまり休暇先でのリモートワークではなく、ビジネスを軸とした官民連携のプロジェクトがスタートしているといいます。
末田 「ビジネス創出型、地域課題解決型のプログラムは、従来のように出張先での休暇取得によって、余暇を充実させながら働くのではなく、地元事業者の課題を専門性を持った企業とつなぐことによって解決し、イノベーションを創出するプログラムです」

地元の事業者の課題を首都圏の企業の専門性で解決する

ANAあきんどは2021年度、試験的に首都圏から山口県へ企業に所属する有志による視察・体験ツアーを担い、参加された企業間で新たなビジネスが誕生。その実績から、2022年4月から正式に山口型ワーケーションのプロジェクトがスタートしていました。
田中 「山口では、新たなビジネスを生み出しても、それを首都圏に拡大するネットワークがないことがこれまで事業者の課題のひとつであり、悩みでした。そこで、ANAグループが持つ全国へのネットワークを使って山口の事業者を首都圏や世界の企業とつなぎ、培ってきたプロモーションのノウハウを使って情報発信していくことで、新たなビジネスコンテンツをバックアップするプロジェクトを立ち上げました」
地域のコンテンツを首都圏とつなげて新規ビジネスを創生し、プロモーションしていく
実際に、動き出している取り組みがすでにいくつもあるといいます。そのうちのひとつが、長門市にある安藤建設が行っている、陸上でのトラフグの養殖事業です。
トラフグ養殖の様子(写真提供:(一社)長門市観光コンベンション協会)
建設業の新たな事業分野開拓と漁業事業者の担い手不足を解消するための新たな事業として踏み切った養殖事業でしたが、現在は、トラフグは8万尾、ヒラメは2万尾、ウナギ5千尾にまで拡大。新たな販路を求めていました。
田中 「販路拡大とともに更なる事業拡大と連携事業者を求め持続可能な新たな水産業への挑戦をお手伝いしていきます」
全国ネットワークの強さを最大限に生かし、地元の事業者、首都圏の企業、どちらにも利益があって、さらにSDGsにもつながるプロジェクトが進んでいるようです。
田中 「観光客は関係人口として定着するのは難しいのですが、ビジネス型のプロジェクトが立ち上がることで関係人口を創出することができます。いずれ、山口に住みたいという人たちが増えることにも期待しています」

空港と自然のある環境で2拠点の「転職なき移住」

ANAグループの強みを生かした関係人口や移住者を増やすプロジェクトも進行しています。
末田 「宇部市や岩国市には空港があり、車で15分も走れば都会の人でも満足できる規模の街があり、30分走れば自然が広がっています。働き方が多様化する今、このエリアに居住し、農業をしたり自然の中で生活をしたりしながら、週に1度飛行機で1時間20分で首都圏に通うというような、『転職なき移住』が可能になってきています」
地方に住み、首都圏に通うスタイルを定着させる
地方の空港に近いエリアで首都圏の仕事と農業などを両立し、豊かなライフスタイルを確立するための新たな街づくり「アグリ・スマートシティ」の実現に向けた実証実験が2022年7月からスタート。宇部市と岩国市が名乗りを上げているといいます。
田中 「ANAグループとNTTコミュニケーションズ株式会社、羽田みらい開発株式会社(鹿島建設のプロジェクト)が連携したプロジェクトです。航空機を生かしたスピーディーな移動、リモートワークソリューションの提供、羽田空港隣接の大型複合施設の建設によって、地域と都会をつなぐ仕組みを生み出していきます」
ワーケーションが休暇の色が強いものではなく、多様化するライフスタイルの充実や地域創生につながっていくことを目指していて、人口減少や過疎化による農家の担い手不足、後継者不足を解消する手段としても期待されています。