2022/11/3

【チーム作り】地方企業の人材の悩み、アジャイル型で解決

編集オフィスPLUGGED
コロナ禍で住む場所・働く場所を限定しなくなった昨今、優秀な人材のフィールドが広がりつつあります。地方自治体では地方創生に取り組む動きも活発になり、ローカルベンチャーの立ち上げや、地方から世界を目指す取り組みをはじめた老舗の中小企業なども増えてきています。

そんな中で、課題となってくるのがプロジェクトにおけるチームビルディング。

マンパワーの限られるプロジェクトチーム内で、メンバー一人一人の個性や経験、スキルを最大限に生かし、結果の出せるチームを生み出すにはどうしたらいいのでしょうか。

福井県に居を構えつつ全国の企業のチーム開発を行う永和システムマネジメントのアジャイルスタジオディレクターの岡島幸男さんに、地方企業でのチームビルディングのコツを伺いました。
INDEX
  • 地方企業が抱える課題とチームビルディングの重要性
  • 地方企業で優れたチームを育てる3つのポイント
  • プロジェクトの全体像を端的に伝えるためのドキュメントをつくる

地方企業が抱える課題とチームビルディングの重要性

「さあ、今から新しいプロジェクトを立ち上げます」と社長の一声で、人を集めたからといって、すぐにチームが生まれるわけではありません。
首都圏の大企業であれば新たなチームがどんどん立ち上がりメンバーも都度変わりながらプロジェクトが進行していくことにも慣れているかもしれません。しかし、地方企業の多くは、そうした場面で課題が出てくるといいます。
福井県に居を構えつつ全国の企業のチーム開発の支援をしている永和システムマネジメント取締役でアジャイルスタジオのディレクター岡島幸男さんに伺いました。
岡島幸男さん。Web・組み込み等、様々なソフトウェア開発とマネジメントの現場を経て、現在はAgile Studioにて、内製化支援・アジャイル開発支援事業を主に担当
岡島 「地方の企業のプロジェクトは、事業規模的にあまりお金と人をかけられない傾向があります。また、事業構造的に大都市圏からの下請けが多く主体的で新しいことをはじめることに慣れていないこと、慢性的な人材不足で適材適所の配置や定期的な異動が難しく、仕事の経験が偏りがちなことなどが挙げられます。
このような状態で新規プロジェクトを発足しても、小規模でしかも多様性の低いチームが試行錯誤しながら無理をする状況になりがちです。結果的に成果があがらなかったり、指示する人と指示待ちの人に分かれてしまったり、空中分解してしまうチームもあるようです」
地方企業のこうした難しさを乗り越えるためには、全体を構成する個別要素の相互作用によって思いもよらない全体的な特性が現れる「創発性」を作り出したいものです。つまり、1+1を2より大きくするためのチームビルディングが必要です。
地方企業が抱えている課題がそのままチームビルディングを阻害する要素になっていることも

地方企業で優れたチームを育てる3つのポイント

DXや柔軟な働き方が進む中でよりチームで働くことの意味が問われる中、地方ならではのこの課題にどう取り組めばいいのでしょうか。
岡島 「小規模のチームで今の状況を覆すような成果をあげ、イノベーションを起こそうと思ったら、メンバーの一人一人が実力以上の成果を出していく必要があります。まず、理解しなくてはならないのは、人が集まってみんなで手分けをして仕事をするグループの仕事と、皆の力を引き出して頭数以上の成果を出すためのチームというものは、まったく別ものだということです」
グループとチームの違いを最初に理解したうえで、3つのポイントを押さえていくことで、チームづくりがスタートします。
今回はチームビルディングのヒントとして、最近ソフトウエア開発の分野で注目されている、スクラムという手法をベースに取り入れる方法を紹介します。
1)プロダクトオーナーとスクラムマスターを設置する
岡島 「チームを作る際、実際に作業を行うメンバー以外に、プロダクトオーナーとスクラムマスターの2人を設定し、メンバーそれぞれの役割と責任を明確にします。プロダクトオーナーとは文字通り、そのプロジェクトの決定権のあるリーダーで事業の成果をあげる役割を担います。そして、スクラムマスターは、チーム全体をよくするために働く役割を持ち、チームワークを改善するためのルール作りなどを担います。この責務と権限を分けることが重要です」
成果を出すために決断しチームを引っ張るリーダー気質の人と、チーム全体を見渡してうまく回るように促すサポート気質の人は資質が違います。兼任するには責務が重すぎるポジションを2人で分担することによって、チームの力を底上げしていくことができるといいます。これは、プロダクト(製品)開発だけに限らず、さまざまなプロジェクトに対するチームに有効な考え方です。
岡島 「プロダクトオーナーは社内の人がなるのが必須で、小規模の企業でのプロジェクトでは、社長が自ら指揮を取ることもあります。一方、スクラムマスターについては、外部から専門のコンサルタントに入ってもらい、社員の中からスクラムマスターを育てていくという方法もよく取られています。
大切なことは、プロダクトオーナーにのみ『プロジェクトが何をつくる(実践する)か』の決定権があるということです。その目標に向かって進むために決めたルールをメンバーに守らせ、チームを整えるのはスクラムマスターの役目になります」
プロダクトオーナーは決定権を持っているものの、それは役割であって、あくまでチームの一員であるという意識を持ち、チームと関わっていくことが大切です。
2)すべてを可視化して課題を確認する
岡島 「最近はチーム内の進捗や情報を共有するTrelloなどのオンラインサービスがありますが、全員が同じスペースで仕事をしているような場合は、模造紙やホワイトボードに常に進捗を記載していくのがベストです。アイデアを付箋に書いて貼っておく、それをプロダクトオーナーが確認して採用する場合は優先度を調整する。今やっていることや進捗を付箋に書いて貼り、終わったら終了のゾーンに張り替える。これらを行うだけで、いつでも目の前にチームの状態が更新されていきます」
小さな事務所などでは、つねにそのボードが目に入ります。「あ、それ僕知ってますよ」「これってもしかしてこうやったら」と、さまざまなアイデアや課題への解決法が自然と生まれ、個々のポテンシャルを引き出す効果も期待できます。
いつも同じ場所で仕事をしているメンバーであれば、わざわざ開かなければ見ないデジタルツールがベストとは限らない
岡島 「実は、この『見える化』というのがくせ者で、できているようで意外とできていません。『それは、ちゃんとフォルダー5に入れています』とか、『あのファイルは昨日部長にメールしました』ではできているとは言えません」
「見える化」とは常に互いに見えている状態にすること。岡島さんの会社のチームでは、デジタルで自分の都合の良いときに書き込めば済むものを、わざわざ皆で同時に集まってアナログで書き出すこともあります。
岡島 「ITに慣れていない企業がITツールをいきなり使ってチームをまとめようとしても難しい。体感として情報が自分に入ってくるにはアナログでの書き出しは非常に有効です。模造紙やホワイトボードをぜひ活用してみてください」
3)継続的に振り返りをして課題を更新する
岡島 「チームを発足しても続かないという話をよく聞きますが、現状を変えるには大きなストレスがかかります。『チームも個人と同じく変わることに抵抗する生き物』だという認識を持つとよいかもしれません」
これまで社長の言った通りに働いていたり、個人に任せっきりになっていたりしてきたものを、チームとして機能させるのはそう簡単ではありません。チーム全員で集まって改善策について話し合う振り返りの場も大切で効果的ですが、メンバーの士気を高め、常に課題を更新していくための手段として効率的なのは、対面でメンバー一人一人と話す機会を作る、つまり1on1だといいます。
岡島 「メンバーらの状況報告ではなく、雑談のようにアイデアを語り合う場をつくることが大切です。私は自分のチームのプロダクトオーナーでもありますが、チームメンバーとの1on1では、自分のアイデアを聞いてもらったりします。『これ、どう思う』『こうやったらいいと思うけどどうかな』と意見を聞くことで、メンバーから『それだったらもっとこうしたらどうですか?』という新たなヒントをもらえることもあります」

プロジェクトの全体像を端的に伝えるためのドキュメントをつくる

岡島 「チームづくりを加速化させるコツは、ゴールの意識合わせと、「自分ごと」にさせるための合意づくりです。そのために、プロダクト開発の世界では、インセプションデッキという、プロジェクトの全体像を端的に伝えるためのドキュメント(資料)を作成します」
このインセプションデッキの手法は開発以外のプロジェクトにも非常に有効だそうです。
岡島 「主に、なぜこのチームでこのプロジェクトに取り組むのか、開発しようとしているプロダクトの中心となる価値は何か、プロジェクトにおける優先事項などをチームメンバー全員で書き出しておき、チームの初顔合わせで共有します。これをすることによって、プロジェクトに軸ができ、共通の判断基準を持つことができます」
最初に決めたものが絶対ではなく、プロジェクトの要所要所で見直して、現状とズレがあれば都度アップデートすることが大切です。また、インセプションデッキも、模造紙やホワイトボードに張り出しておいて、判断に困ることがあれば即座に見返すことができるようにしておきます。
岡島 「最後に、チームはそんなにすぐに立ち上がらないし、育たない。今日発足したから明日からバリバリ機能するわけではないということを、知っておくことです。焦らずにメンバーとゴールを共有し、現状の可視化、定期的な振り返りによる改善を、粘り強く続けていきましょう」
スクラムは本来システム開発を円滑に行うために開発された手法ですが、システム会社以外の企業でも活用できるといいます。新たなプロジェクトで世界に乗り出そうと思うとき、地方企業ならではの課題を解決する策として、チームづくりのためにスクラムの手法が役立ってくれるかもしれません。