[トロント 30日 ロイター] - 世界的に有名なグルメガイドブック「ミシュランガイド」が9月にカナダに上陸し、第一弾として発表されたトロント版で星を獲得したレストランのうち、ほぼ半分を日本料理店が占めて話題となった。和食への関心が高まるとともにすしや天ぷらといった定番以外の店が増え、さらに理解が深まる好循環が起きたことが現地の和食の質を上げている。

宮崎牛にウニとフォアグラをのせ、軽く炙った一皿。カナダ最大の都市トロント中心部に店を構える「Yukashi(ユカシ)」は、独創性と季節感に富む懐石スタイルの料理が評価され、1つ星を獲得した。「好きなことを一生懸命やってきただけ。すごいことをしたという実感はない」と、経営者兼エグゼクティブシェフの井筒大介氏は話す。

ミシュランが星を付けた市内のレストランは13軒。うち5軒が日本料理店だった。さらに日本人がヘッドシェフを務める1軒が星を獲得し、日本が関係する飲食店がトロント版を席巻した。

ミシュランガイドのインターナショナルディレクター、グウェンダル・プレネック氏はロイターの取材に、世界有数の観光地トロントの魅力や個性を反映した「食の幅の広さ」を評価。さらに「トロント市民が和食を盛り上げ、シェフがそうした食通の期待に応えようと工夫を凝らすという構図になっている」とコメントした。

かつてトロントで日本料理店といえばすしや天ぷらという和食の定番が主流だった。井筒氏は2001年に在トロント日本総領事付公邸料理人としてカナダに渡航し、任期終了後に「Yukashi」の前身となる懐石レストランを市内にオープンしたが、和食文化への理解が十分浸透していなかったことも障壁となり、5年後に閉店した。

それから約10年。メニューに「wagyu(和牛)」や「omakase(おまかせ)」が定着するほど、トロントの和食事情は変化した。和食を受容する風土が醸成され、市場は成熟。新鮮な食材を24時間以内に日本から空輸できるようになったことも人気を後押している。

カナダの料理評論家で、記者でもあるコーリー・ミンツ氏は「和食は80年代以降、北米で人気を博すようになったが、メニューは長らく、すしや天ぷら、照り焼きに限定されていた」と話す。それが日本の「クールジャパン」戦略を追い風に、「この10年で懐石やラーメン、居酒屋、スフレパンケーキ、焼き肉など、多様化・専門化が進んだ」と解説する。

情報収集・分析のユニファイド・データによると、トロント市内の日本食関連の飲食店は500店を超える。

顧客の意識が変わったと感じる井筒氏は「自分が教えてもらうこともある」と語る。「互いに『持ちつ持たれつ』という関係を築けるお店が最善」と話す。

(北山敦子 編集:佐々木美和)