2022/9/14

起業家が“時間”と“熱量”を100%ぶつけられる場所、リテイギとは何者か

NewsPicks Brand Design editor
 事業をやるために、起業は最善の選択肢だったのか──。いまや、キャリアの選択肢のひとつとして“起業”を選択するビジネスパーソンも増えている。
しかし独立は華々しく見える一方で、資金繰りなどがネックになり、本来集中すべき事業に100%向き合えず苦労するケースも少なくない。
 そんな起業家人材に向けて「“起業じゃないやり方”でも、事業を垂直に立ち上げて成長させられる」とメッセージを送るのが、リテイギ代表取締役社長の松原正和氏だ。
「新規事業創出=起業」の前提を覆す同社の取り組みとはどんなものか。“謎の会社”、リテイギの真相に迫った。

“起業”が抱えるジレンマ

──若い起業家が増え、以前より起業が身近で手軽なものになってきました。起業はリスクがあるとはいえ、自分だけの会社を立ち上げ、やりたいことを自由にやれる理想的な環境に思えます。
松原 興味のあることに打ち込んで、成功すれば大きなリターンが得られる。たしかに、起業にはそんなキラキラした側面があります。
 しかし、現実は正直非常にシビアです。
 まず、起業家の70〜80%が「資金繰り」に頭を悩ませることになるでしょう。
 事業をつくるには資金が必要ですが、多くの場合、融資や投資によって資金調達します。そうすると、起業家はどうしても資金繰りに時間を割かざるを得ません。
 事業がうまく進んでいるならまだしも、資金繰りが悪化すると精神的にもつらく疲弊しますし、事業開発に使える時間がほとんどなくなるジレンマがあります。
 どれだけ優しい人間でも、追い込まれると嫌な部分は必ず出てくるもの。実際に資金繰りに苦労して、人間が変わるケースも何度も見てきました。
 また「途中でやめられない」のもネックだと考えています。起業当初は事業にフルコミットするぞと意気込んでいても、ずっとその事業に興味を持ち続けられるかはわかりません。人間の興味関心は変わるものですから。
 でも、一度投資家からエクイティという形で資金をもらって事業を始めてしまうと、起業家は「その事業に専念する」以外の選択肢がなくなってしまう。事業を急成長させることを前提にして、投資家や金融機関から資金を提供してもらうわけですから当然ですよね。
istock/Cecilie_Arcurs
 いまだからこそ言えますが、私も過去に経営していた会社の事業を途中で路線変更せざるを得なくなり、それ以降、その事業に対して興味を失ってしまった経験があるのです。
 もちろん、興味を失ったからといって事業を急にストップすることはできません。私自身も一生懸命働き、売り上げも伸びていたのですが、事業から“降りられない”ストレスから徐々にメンタルを病んでしまったのです。
 一方で、社員にとっては具体的なビジョンが示されないまま、売り上げを伸ばせと言われるわけですから、お互いにとって不幸でしかないですよね。
 この経験から起業は一見自由なようで、ひとつの事業に縛られるからこそのリスクを実感しました。
──では、新規事業を立ち上げるのに起業はあまり良い選択ではない、ということでしょうか。
 いえ、私は基本的にすべての起業家をリスペクトしていますし、めちゃくちゃ応援しています。私自身も厳しい環境でがむしゃらに事業に向き合い、そこから得た経験が現在の糧になっている部分は大きいですね。
 その一方で、“新規事業創出=起業”以外の選択肢もあっていいと思うんです。
 事業を始めてみたけど、結婚し子どもが生まれて価値観が変わり、今度は別のことがやりたくなった。そのときに、興味が変わったことを否定せず、受け入れる“場”がつくれたら良いなと。
 そのうえで、起業家が“時間”と“熱量”を100%純粋に新規事業開発へぶつけられ、社会に良いインパクトを与える事業を連続的、構造的に生み出し続ける場所でありたい。
 先ほどお話しした事業の売却後、私自身が起業や再就職でなくリテイギの代表取締役に就任したのも、一定の規模があり、かつ上場企業の100%子会社だからこそ、“起業以外の選択肢”で新規事業を生み出せる仕組みを構築できると考えたからなんです。

“意義のある仕事に報いる”、インセンティブ制度

──リテイギはどんな会社なのですか。
 リテイギは、株式会社オプトなどを傘下に持つ株式会社デジタルホールディングスの100%子会社で、産業特化の新規事業開発を行う企業です。
 簡単にいうと、事業アイデアを持った方に社員としてリテイギへ入社してもらい、リテイギの資金を投入して新規事業の開発を担っていただきます。
 その事業がある程度成長したら、デジタルホールディングスの子会社として、積極的にカーブアウト(=法人化)していきます。
 子会社化までは、成長に合わせた資金提供のタイミングが3回。スタートアップの投資ラウンドと同じイメージです。リテイギが定めたフェーズ0がシード、フェーズ1がプレシリーズA、フェーズ2がシリーズAで、それを通過すると子会社になります。
 通常のスタートアップと大きく異なるのは、企業価値評価(バリュエーション)がないこと。スタートアップが株式を発行して資金調達を行う場合、バリュエーションを行い、株式1株あたりの発行価額を決定します。
 特にラウンドを問わず、スタートアップにはバリュエーションの実施は負担が重くなりますが、リテイギの場合はそれがありません。そのため、投資家とあれこれ交渉しなくてよいので、それだけでも事業責任者の負担は減るはず。
 一方で、IPOやM&Aなどによるイグジットも原則ありません。基本的にはデジタルホールディングスの企業価値貢献を前提にするので。そのぶん、報酬面のアップサイドはスタートアップと比べると見劣りはします。
──イグジットがなければ、金銭的なモチベーションがなくなりませんか。
 そのために仮想的に算定する事業価値に連動した報酬制度、「ファントムストック制度(※)」を導入しています。
※ファントムストック制度は、リテイギ発の事業家が正当に評価されるよう、定期的に基準や算出方法の見直しをしており、制度内容が変更になることがあります。
 事業の年間経常収益(ARR)を指標として、事業化後3年以内にARR10億円を達成した時点で、その子会社の企業価値を擬似的に算定して、1桁億円単位の現金報酬をお渡しします。
 それを原資として、例えば5億円であればCEOの方に2.5億円、残りのメンバーで均等に分割といったように、その子会社の取締役会で決めるという制度です。
「意義のある仕事に対しては、報酬で報いる以外に経営者の仕事はない」
 この言葉はある方からの受け売りなのですが、まさにその通りで。もしリテイギから社会的に大きな意義のある事業が生まれたとして、そのチームの給料が500万円UPするだけでは失礼ですよね。
 リテイギではローリスクで事業をつくれるぶん、ハイリターンとまではいかないのですが、ファントムストック制度によって、ミドルリターン程度のインセンティブが得られる仕組みになっています。
 リスクが低く自由度が高いとはいえ、金銭的なインセンティブに関してリテイギとスタートアップを天秤にかけたとき、スタートアップを選ばざるを得ないこともあるかもしれない。
 それは避けたいという意図もあって、この制度を導入しています。インセンティブを目的に入ってくる方はあまりいませんが、最後の背中を押す一手として、ここで決めてくれる方は多いんです。

「リテイギ」というエコシステムをつくる

──新規事業を成功させるための、リテイギ流のフレームワークはあるのでしょうか。
 一切ありません。リテイギという土台の上であっても、そのひとがそのひとらしくあってほしい。結局会社を伸ばしていくのは、トップの価値観や生き様に起因すると思うので。新規事業なんて、やってみないとわからないじゃないですか。
 私の経験上、95%の確率で失敗する事業を立ち上げようとしていたら止めますが、70%くらいなら止めません。事業の進め方や必要な人材の採用なども含めて、基本的にすべてお任せしています。
──どんな事業をやるかも、全くの自由ですか?
 やらないと決めていることはあります。不確実性を極力下げるために、純粋なBtoCはやらない。そして莫大な予算をかけて開発する必要のある、ハードウェアなどはやらない。
 逆をいえばBtoBの領域でニーズがわかりやすく、社会にインパクトを与えられるような、産業のあり方や産業構造そのものを再定義する事業であれば何でも大丈夫です。
 ただその上で、10年後、この産業がどのように変化しているのかを見通すマクロの視点と、いま現場で働いているひとが抱える課題を見極めるミクロな視点。両方の視点を行き来して考え抜かれているかは重要視しています。
 マクロの視点では立派なことを言っているけど、ミクロの視点で見たときに、いま現場で働いているひとを不幸にするような事業はダメです。いまのところ、それでボツにした事業はないですけどね。
──ちなみに、もし新規事業に“失敗”したらどうなるのでしょうか。
 運営資金に関してはひとつだけルールがあり、それぞれのステージでお渡しした資金が尽きれば、事業は“そこで終わり”です。こちらも無尽蔵に資金をお渡しできるわけではないので、そこははっきりと線引きしています。
 とはいえ、運営資金が尽きたからといって、社内の立場が悪くなるとか、人間関係が壊れるわけではないので、安心してもらって大丈夫です。
 また新しくチャレンジするなり、他の事業にジョインするなり、興味のあることをしてもらえればいいと思います。実際に今、フェーズ2まで進んだ事業からは撤退して、新しくフェーズ0からチャレンジしているメンバーもいます。
 そもそも僕自身が、失敗してもちょっと休んで、また同じ場所でチャレンジできる環境をつくりたかったんです。興味が変わったらやめてもよいというのも同じで。同じ場所にいながら、やりたいことをやり続けられるエコシステムをつくりたかった。
──シビアな環境で踏ん張る起業家からすると、“甘い”という声もありそうです。
 企業の傘のもと、自分でリスクを取らずに新規事業開発にチャレンジできるわけですから、そういうご意見も当然あると思います。でも、つらければつらいほど、事業の成功確率が上がるわけではない。
 起業家自身が今やっていることに100%曇りなく「これがやりたいんだ!」と言えるかどうか。私はそのほうが大切だと思っています。
 ただ、事業に自己資金が入らず給料が保証されているぶん、自分を律して追い込むことができないひとには合わない環境かもしれません。その意味での厳しさやハードルの高さはあるのかなと。
 また、事業責任者に限らず、リテイギから生まれた子会社間では、誰もが新しくチャレンジできるようにしたいと考えています。
 事業をつくる0→1フェーズが好きな方は、その事業が10になったら、次なる0→1をやりに行ってもよい。事業を成長させる10→100を経験した方が、次はもっと事業を立ち上げる初期から携わる1→10をやりたいと思えばやれる。
 リテイギというエコシステムの中で、「こうあらなければならない」という固定観念に囚われることなく、みんなが新しくチャレンジし続けられたら良いなと思っています。

リアル産業は何もアップデートされていない

──最近は「スタートアップ冬の時代」と聞くことが多くなりました。リテイギでも実感はありますか。
 あまり気にしていないですね。すごく未来を感じさせることができているスタートアップには、結局お金が集まっていますし。ただ、たしかに淘汰は激しくなっています。
 言葉を選ばずに言えば、惜しくも事業がうまくいかなかった起業家の方に、リテイギで再チャレンジしてくれたらいいなと思っています。
 事業をつくるのが好きで、「一度失敗したけどもう一度挑戦したい」とか。「大企業で新規事業をやっているけど、制約が多くて物足りない」とか。そういう方の受け皿でもありたいと思っているので。
 個人的には、冬の時代なんて関係なく、価値ある事業をつくるすべてのスタートアップに成功してほしい。
 冬の時代といってもいずれ収まるものですし、そこに引っ張られるのもあまり本質的でない気がします。
 ただ、一方で事業の育成ステップやインセンティブ制度もグループ内での評価が基準となるので、通常の起業と比較して、市況の影響をほとんど受けずに済むというのも事実です。
 そうした環境下で私たちがIX(Industrial Transformation®)と呼ぶ産業変革に集中できるというのも、リテイギの強みかもしれません。
──リテイギが目指す未来は、どのようなものでしょうか。
 最近ではスタートアップという言葉も一般化し、一度スマホやPCを覗けば、こうした企業が提供するサービスが世の中を動かしているような印象を受けます。
 でも、一歩外に出てみると、我々の生活に密接するリアルな産業の中ではスタートアップが価値提供したものって、ほとんどないなと思っていて。何もアップデートされていないという課題感があります。
 現在リテイギは、かかりつけ薬局化支援サービス「つながる薬局」を開発する株式会社RePharmacy、廃棄物・リサイクル業界の業務効率化Webサービス「まにまに」を提供するJOMYAKU株式会社などの法人化に成功しています。
 しかし、リテイギのミッションは、「すべての産業を、ともに再定義する。」ですから。すべての産業を、もっとアップデートしていきたい。どの産業をみても、「リテイギから生まれた事業がこの産業を変えたね」と言われる状態をつくりたいのです。
 そのためには、もっと多くの新規事業が必要です。居酒屋で「それ面白いじゃん」と言われるようなアイデアでも、業界をひっくり返すインパクトを与える事業になるかもしれません。
 新規事業を始める理由なんて、「楽しそうだから」で全然構わないと心から思っているので。むしろ、それでチャレンジしてよい時代だと思うんですよね。ですからもし少しでも興味のある方がいたら、難しく考えずに、まずは話しに来てみてほしいと思います。
すべての産業を、ともに再定義する。
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