2022/8/15

【核心】いま、組織で働く魅力とは。法政大・田中研之輔教授とトヨタ・パナソニック社員らが語る

AlphaDrive / NewsPicks for Business エディター / コラムニスト
個として大いに輝ける時代。いま、組織で働く醍醐味は何か──。

2022年5月に創刊されたAlphaDrive/NewsPicks VISION BOOK『Ambitions』(ニューズピックス)は、組織で働くビジネスパーソンに向けて、組織変革や社員の学び、キャリアに関するヒントや学びにつながる特集を展開した1冊となっている。

6月14日に開催された同誌の創刊記念イベントを詳報したい。
年間200社以上の人材育成に関わるキャリアデザイン専門家の田中研之輔氏と、トヨタ自動車の土井雄介氏、パナソニックの河野安里沙氏、パナソニックが出資するミツバチプロダクツ株式会社の浦はつみ代表取締役が登壇した。

イベントで繰り広げられた議論の内容を通して、改めて組織に所属する意義を解き明かす。

今求められる「組織と個人の関係性の再構築」

(左)田中研之輔氏 法政大学キャリアデザイン学部教授。UC.Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員、東京大学博士:社会学、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了、専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を30社歴任。個人投資家。著書26冊。(右)林亜季 Ambitions編集長 / AlphaDrive執行役員 統括編集長。
イベントは大企業の事業改革や新規事業創出に携わる人が集う「ARCH 虎ノ門ヒルズ インキュベーションセンター」にて開催された。第1部では「これからのキャリアと人事を考えるタナケン先生への『5つの問い』」というテーマで、田中研之輔氏に話を聞いた。聞き手はAmbitions編集長 林亜季がつとめた。
田中氏は、「転職市場が活況となっている今、人事領域で何が起きているのか?」という問いに対し、「令和は組織と社員の関係性を再構築する時代」であると答えた。
田中氏は、組織の人事領域では今後2つの変化が求められるといい、その1つは「人的資本の情報開示」であると話した。これは2018年12月に国際標準化推進機構が創設した「社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン(ISO 30414)」に示されている。
「今後はこのガイドラインの内容が、組織の世界基準となるでしょう。成長の可能性を秘めた人材は組織にとって『人的資本(キャピタル)』、無形の資産であるという風に考え直さなければなりません」と、田中氏は組織から見た個の存在について説明する。
このような背景から、田中氏は企業が直面しているもう1つの変化として「人的資本の最大化」を挙げた。「社員一人ひとりに働きがいを感じてもらうことで個人のポテンシャルを最大化でき、最終的には組織の成長を後押しします」と、田中氏はいう。
それでは、組織と個人はどのような関係であるべきか。近年、職種を限定せずに採用する「メンバーシップ型」よりも、特定のスキルを持った人材を採用する「ジョブ型」の雇用形態が注目されている。
しかし田中氏は、日本の企業文化に合った方法を取り入れなければならないと語った。「個人の専門性を高めながら、チームとして活躍していく『メンバーシップ2.0』が日本の組織文化に合った変革ではないかと感じます」
「メンバーシップ2.0」とはどういう考え方なのか。田中氏によると、日本企業の強みは個々の専門性を高めながら、チーム一丸となって事業に取り組み成長できることであるという。自らの責任範囲でない仕事も必要に応じて対応できるのは、広い視野を持ちながらチームの一員として行動できる日本のビジネスパーソンの特徴であり、だからこそ、責任を持つ範囲を狭めるジョブ型雇用だと、組織における横のつながりを弱め、日本企業の強みを生かせない。
そのため、企業は専門的なスキルを持つ人々をただ集めるのではなく、個人がスキルを伸ばしながら、チームとしての団結を強めていき、最終的に組織が成長するのが目指すべき姿ではないかと語った。

注目の企業人が語る、組織で働く理由

対談に続いて行われたパネルディスカッションでは、大企業で活躍する3人のビジネスパーソンが登壇した。彼らは組織との関係をどのように模索し、何を考えながら働いているのだろうか。『Ambitions』で第一特集「大・企業人」を担当したエディターの高村真央がモデレーターをつとめた。
まず「あなたが組織にいる理由は?」の問いに、トヨタ自動車の土井雄介氏は「大企業の可能性を信じているから。越境の可能性を感じているから」と答えた。
土井雄介氏 トヨタ自動車 先進プロジェクト推進部 主任。2015年 東京工業大学大学院卒業後、トヨタ自動車に入社。物流改善支援業務を行ったのち、役員付きの特命担当としてアサイン。上記と並行して、社内有志新規事業提案制度を共同立ち上げ・運営。自身がプレーヤーとしても、社内新事業提案制度に起案し、2年連続で事業化採択案に選出。2020年より、社内初のベンチャー出向を企画し、社内新規事業支援をするベンチャー企業に参画。多数の新規事業の制度設計/伴走支援を実施。帰任後、社内から事業を生み出すしくみ作りを担当。同時に元出向先の子会社のスタートアップ企業の立ち上げをし、COOとして協業支援事業を推進。その他の活動として、ONE JAPAN幹事。一般社団法人を創業し、地域企業の支援を実施。
大企業の場合、強固なガバナンスゆえにベンチャー企業よりも慎重な意思決定が求められる。しかし、大企業には長い歴史とブランド力がある。さらに、事業やものを作るためのノウハウが蓄積されている。
「例えば、大企業で働く社員が新規事業開発を経験し、そのスキルやノウハウを身につけることができると、個人だけでなく組織の可能性が一気に広がると考えています。事業に対する熱量とスキルが増えれば増えるほど、それらが組織に伝播し社内が活性化するはずです」
大企業とベンチャー企業がお互いの強みを理解し、それぞれの組織に取り入れることで、組織が発揮する力はどこまでも大きくなると土井氏は語った。
同じく登壇した河野安里沙氏が組織で働く理由の根底には、「人の可能性に光を当てられる存在になりたい」という思いがあるという。
河野安里沙氏 パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社。新卒でパナソニックに入社し、経理を担当。その後、株式会社リクルートキャリアへ転職。営業として3年間従事した後、人事としてパナソニックに戻る。現在は、リクルート&キャリアクリエイトセンター採用部にて、ブランディングユニットのユニットリーダーを務める。
「阪神・淡路大震災、リーマンショック、東日本大震災...…。最近ではコロナショックもあり、振り返ると私たちが歩んできた時代は明るくて平和だったとは言えません。そんな中でも、組織で働く『名もなき人たち』の努力のおかげで世の中がつくられてきたと感じます。私の役目はそんな名もなき人々の可能性に光を当てることだと考え、組織で働いています」
河野氏は、これまで名もなきビジネスパーソンが紡いできた歴史を、後世にもつなぎたいと感じている。「誰かが一歩を踏み出したら、その挑戦が水の波紋のように広がる。その連鎖に光を当て、多くの人に『働きがい』を感じてもらいたいです」と、語った。
パナソニックの新規事業として生まれたミツバチプロダクツ代表の浦はつみ氏は、個人ではなく組織だからできるイノベーションの可能性について語った。
浦はつみ氏 ミツバチプロダクツ株式会社 代表取締役。1997年、九州松下電器株式会社に入社。2002年、WiLL FAXとアルカリイオン整水器の企画・営業を推進し、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。2018年、Scrum Venturesと株式会社INCJ、パナソニック株式会社による株式会社BeeEdgeの1号案件として出資を受け、ミツバチプロダクツ株式会社を設立。
「新規事業を始めると決めた日を境に、私が旗振り役となりミツバチプロダクツを推進してきました。それまでは私も皆さんと同じ会社員でした。いまや弊社も数々の商品を手がけていますが、私1人では何も開発できなかったと常に感じています。さまざまな人材を持つ組織にいたからこそ、実現できた事業です」
浦氏は社員一人ひとりの働き方やバックグラウンドが違えど、同じ思いを胸に仕事に取り組めるのは組織で働く醍醐味であると強調した。

これからもアップデートし続ける、組織と個の関係性

こうしたビジネスパーソン3人の思いは、会場の共感を呼んだ。参加者からはこのような声が上がった。「河野さんの、社員に光を当てたいという思いに共感した。自分も人事部で社員にメッセージを届ける側にいるため、これからも社員に寄り添い、光を当てるような存在になりたいと感じた」(メーカー社員、女性)
また、田中氏の対談から学びを得たという声もあった。「例えば、副業が可能になれば外の視点や価値観を吸収し、社内に還元できる。そうすることで個も組織も強くなると、田中先生の話を聞いて改めて感じた。ずっと感じてきた課題だったため、非常に共感した」(情報・通信社員、男性)
個として大いに輝ける時代だからこそ、組織で働く個の可能性も広がっている。
登壇者の議論には、日本の企業が個人の可能性を伸ばすためのヒントが詰まっていた。土井氏が話した「熱量の伝播」のように、今後は一人ひとりが熱量を持って働きがいを感じ、それを組織で共有できるよう、個人と組織の双方が取り組んでいくことが求められているのかもしれない。
これからも、より良い個と組織の関係性を築くため、個人の姿勢、そして個人を生かす組織体制をアップデートしていく必要がありそうだ。
『Ambitions』好評発売中
創刊号は、企業で輝く人を紹介する「大・企業人」特集や、エクセレントカンパニーの研究、これからのキャリア論、ニューノーマル時代のオフィス、就活最前線などを特集。
これからの時代を生き抜く企業のあり方が問われ、ビジネスパーソンの生き方・働き方も激変する今、企業変革や組織づくり、人づくりのケーススタディ集として、組織が「次の一手」を繰り出すためのアイデア集として、ビジネスパーソンに新たな選択肢をもたらす働き方・生き方特集として、さまざまな人のお手元に長く置いていただける一冊として、ぜひご活用ください。
AlphaDrive/NewsPicks VISION BOOK『Ambitions』についてはこちら