(ブルームバーグ): 日本電産創業者の永守重信会長(77)は、4月に最高経営責任者(CEO)に復帰した自身の役割は業績の立て直しや株価上昇の実現にあるとし、自らの手で上場来高値を更新した上で「完全に退任」し、後継者に経営を譲る考えを示した。

永守氏は12日、ブルームバーグのオンラインインタビューに応じ、4-6月期(第1四半期)営業利益の会社目標について「私の担当しているところはもう全部達成している」と述べた。関潤社長が担当する車載事業が振るわず、自身が同事業も担当していれば同期の連結営業利益は550億円(前年同期比23%増、市場予想は435億円)は出せたとの見方を示した。

現在はグループ会社のトップ人事の入れ替えなどで立て直しを進めており、2021年2月16日の日中に付けた上場来高値の1万5175円を「遅くとも2年以内には更新するというのが私の今の役目」だとし、さらに「2万円くらい」を目標としたいと述べた。

年初に急落した同社の株価は永守氏のCEO復帰で後継者問題への懸念が浮上したことで下落幅がさらに拡大。6月には一時8000円を割る水準まで売り込まれた。その後は上昇傾向となっており、15日午前の取引では一時3%高の9260円と4月6日以来の日中高値となった。

一番もうけてくれた人

日本電産は4月、永守氏がCEOに復帰し、関氏が最高執行責任者(COO)となる人事を発表した。日産自動車でナンバー3の副COOまで務めた関氏は20年1月に日本電産に移籍。同年4月に社長、21年6月にCEOと昇格を重ねたが、業績の悪化に伴って永守氏は関氏への失望感を強めていった。

関氏については、「非常に潜在能力も高いし、優しい人物」とした一方、「最大の欠点は執念がない。すぐに諦める」点だと評価。自身とは人生観や職業観、経営観が違うとも述べた。

「一生懸命反省して、私の経営を学んで業績を上げてくれたら現時点でCEOの第1候補」としながら、業績が改善できなかったらCEOになれる可能性はゼロだと述べた。関氏にも取材を試みたが、現時点ではコメントを得られていない。

永守氏は「このくらいの規模の会社を単独でCEOで経営できる人は日本にいない」とも述べ、集団指導体制の必要性も指摘。ソニーグループ出身の岸田光哉専務執行役員、三菱商事出身の吉田真也専務執行役員ら外部からの転職組のほか生え抜き幹部も後継者候補になり得るとした。CEOになる最大の条件は「一番もうけてくれた人」だという。

日本電産ではこれまで元シャープ会長の片山幹雄氏や商社出身の吉本浩之氏ら経営トップ候補と目された人材を採用してきたものの、いずれも後継者にはなれなかった。 

投資会社リブラ・インベストメンツの佐久間康郎代表は、永守氏の過去の実績は認めるとしながら、近年の利益水準から考えると日本電産の株価は今の水準でも「異常なぐらい割高」だとし、上場来高値を超すのは「ちょっとありえないと思う」と述べた。

後継者問題では、ピークアウトする前に本人の能力、DNAを組織に残して根付かせられる若い経営者をトップにすえることが重要だがそれができていないと指摘。永守氏が求める働き方ができ、かつマクロ要因に関わらず期待値を上回る業績を上げ続けられるような人材を見つける「解はない」とした。

自分の体の一部

永守氏は経営者としての地位にこだわるつもりはなく、業績に問題さえなければ、理事長を務める京都先端科学大学での教育活動や著書の執筆などに腰を据えて取り組みたいとの考えを示した。

しかし、自宅で創業してここまで成長させた日本電産は自分の体の一部であり、業績や株価の下落は「私の体が傷つくのと一緒」であると経営の第一線に復帰した理由を説明した。

自身がCEOを担う期間については1-2年くらいだとの見通しを示し、「私はもうそれ以上CEOをやりたくない」と述べた。売上高10兆円の目標を掲げる30年度の時点では自分は名誉会長になっているだろうと話し、「時々会社に来てげきを飛ばす。株価が下がったら文句言う」と述べた。

 

(15日の株価情報を追加して記事を更新します)

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