2022/7/15
【新潮流】テレビCMで、事業をグロースできるのか
テレシー | NewsPicks Brand Design
2019年、広告業界は大きな転換期を迎えた。メディアごとの広告費の内訳で、インターネットがテレビを初めて抜いたのだ。
従来からのバナー広告に加え、SNSや動画などの手法が増え、勢いを増すWeb広告。一方テレビは、若者を中心に視聴人口が減少傾向に。テレビCMの効力低下を懸念する声もある。
そんな状況でも「テレビCMはまだまだ強い」と話すのは、ユニリーバ、アウディなどでマーケティングの実績を積み、現在はソフトバンク株式会社でコンシューマー向け広告のメディア選定を担当する井上大輔氏だ。
テレビCMの強さの源泉とは何か。ブランディングに閉じず、事業を成長させるためのテレビCM活用法とは。井上氏と、運用型テレビCMサービスを提供するテレシーの代表取締役CEOを務める土井健氏に話を聞いた。
バナー広告は人を泣かせられるか?
── 2019年、インターネットの広告費がテレビの広告費を初めて凌駕しました。媒体としてのテレビの力は、弱まっているのでしょうか?
井上 確かに視聴者の側面から見ると、テレビへの接触時間は減っています。
YouTubeやSNS、動画配信サービスなど、テレビの代替となるコンテンツが増えた結果でしょう。若い世代には、そもそもテレビを見ない人も一定数います。
一方で、広告媒体としてのテレビCMは、まだまだ強いと思います。
私もさまざまな企業で広告施策を実施してきましたが、その中で感じたテレビCMの最大の強みは「表現力」です。
ちなみにお聞きしたいのですが、バナー広告を見て、泣いたことってありますか?
── ……いえ、ありませんね。
井上 そうですよね。一方で、テレビCMに心を動かされることはあると思います。
家族愛が描かれたテレビCMを大画面で見て、うるっと来てしまった、なんて経験を持つ人も多いんじゃないでしょうか。
そもそも広告の目的は、見る人の心に変化を起こすこと。
知らなかった商品を知ってもらう、何とも思っていなかった商品をちょっと好きになってもらうなどの変化です。
心の変化は、感情と連動しやすいもの。子どもの頃の楽しかった、恥ずかしかった記憶が心に残っているのは、感情と心の変化が結びついているからなんですね。
そんな心の変化を生むために、圧倒的に有利なのが動画なんです。
テレビCMで活用できる大画面の映像や質の高い音声は、人に感動を与えるにはとても強力な味方なのです。
土井 加えて欠かせない視点が、リーチ力。
「テレビを見る人が減った」という言説ばかりが注目されますが、二人以上の世帯におけるテレビ普及率は、今も95%を超えています(内閣府「消費動向調査 令和4年3月実施調査結果」)。
全国規模で大量の視聴者に一瞬でリーチできるのは、広告を配信する媒体としてやはり強い。
さらにCPM(インプレッション単価)に換算した場合、Webに比べてテレビCMの方が圧倒的にローコスト。
CMに有名俳優を起用して何十億円もかけない限り、Web広告より安価で多くの消費者にリーチできるんです。
── 一方で「Webと比べて、テレビはターゲティングできないじゃないか」という声もあります。
井上 そこで考えてみたいのは、Web広告は本当にターゲティングできているのか?という点です。
ちょっと思い起こしてみていただきたいのですが、この3日間でどんなバナー広告を見たか、覚えていますか?
たぶん、多くの人が覚えていないと思います。そもそも認識していないのです。
Web広告なら、「40代・首都圏在住・男性」など、いくらでもターゲットを絞ることはできます。
ですが、条件として絞ることができるのと、実際にその相手に広告を届けられるのかは別問題です。
私は「40代の首都圏在住の男性」ですが、過去3日間にそうしたターゲティングでWeb広告が表示されていたとしても、認識していなければ私には届いていないということ。
実際に広告に反応してくれるのはコンマ数%ですが、条件を絞って対象を少なくするより、緩めて大きくした方が、掛け算の結果より多くの人に届けられる、ということは大いにありえます。
「 テレビCM=検証できない」は誤り
土井 実は僕はもともと、10年以上インターネット広告の業界にいたんです。
インターネットの世界から見て、媒体としてのテレビの可能性は感じつつも、「テレビCM、もっと面白くできるのではないか?」と感じていて。
そこで立ち上げたのが、運用型テレビCMのテレシーです。
特徴は大きく二つ。一つ目は、100万円という低価格でテレビCMを始められること。
金額的なハードルが下がったことで、テレビCMに挑戦できる企業の幅を大きく広げられます。
二つ目が、Web広告のように効果測定ができること。
CMの効果をダッシュボードで直感的に確認してPDCAを回せるため、次の広告施策の確度を高められますし、実際の事業成長につなげる戦略を描きやすくなります。
── 具体的にどのように効果を検証するのでしょうか?
土井 まずは、お客様と一緒にCMの効果を測るKPIを決めます。
たとえば、スマホゲームの会社ならアプリのダウンロード数などを指標にしますし、BtoBの会社であれば、資料請求数や問い合わせ数だったり。
そしてテレビCMを放送し、放送期間のアプリのダウンロード数の推移をダッシュボードで確認。
ダウンロード数が効率的に増えていれば、「もっと大々的にCMを展開しよう」という意思決定ができますし、数値に変化がないならば、クリエイティブや放送時間帯を変えて比較検証することも可能です。
── 一方で、そのダウンロード数がテレビCMの効果であると断定するのは難しいですよね。むしろ同時期に配信されていたSNS広告が効いていただけ、という可能性はないでしょうか?
土井 もちろん、CMの効果を100%の精度で検証することはできません。ですが、テレシーが独自に開発したアナリティクスを使えば、高い精度で検証できると考えています。
たとえばアプリのダウンロード数をKPIにするならば、お客様から過去数ヶ月分のコンバージョンデータをいただきます。
そこで私たちのアナリティクスを用い、テレビCMを“実施しなかった”場合のダウンロード数を予測するんです。
CMを放映しなかった場合の予測を立てることで、CMの効果が浮き彫りになり、検証がしやすくなるというわけです。
ちなみに精度検証は、CM放映前までに私たちの推定と実際の数字の答え合わせをさせてもらいます。
その差分は今の所、平均でプラスマイナス5%程度で収まっており、精度には自信を持っています。
むやみにCMを打っても意味がない
── 100万円から出稿できるのは、スタートアップや中小企業にもチャンスが広がりますね。一方で、安価だからといって貴重な資金をむやみにCMに注ぎ込むのは得策ではありません。CMを事業成長につなげるためには、どんなタイミングでCMを活用すればいいのでしょうか?
井上 それについては、まず認知や想起、好意などと購買の関係を把握しておく必要があると思います。
実際にはこれらに加えてリピート購入も考慮する必要がありますが、話をシンプルにするため、ここでは認知と購入に絞ってお話しします。
そもそも商品を知らない人は、買おうにも買いようがありません。では商品を認知した人のうち、何人が購入するのか。
多くの人に知ってもらったとしても、誰にも買ってもらえない商品なのであれば、当然認知を広げても意味がないですよね。
一方で認知をしている人の中で、30%が購入する商品なのであれば、認知を広げればその分売上が上がる。
調査パネルを使ったアンケート調査などを実施して、この関係を定点観測していれば、テレビCMをやるとどのくらいの認知が取れて、その結果どれくらい売上が上がるかは予測できます。
実際の売上増加を目指すなら、こうした戦略を立ててからCMを打つべきだと思います。
土井 そうですよね。そもそもテレビCMを実施する上で重要なのは、その企業が今どういうフェーズで、何を実現したいのか。
極端な例で言えば、Webサイトもないような企業の場合。仮にCMを流して認知が取れても、相談する窓口がないので、CMを打つ意味がありません。
そういった企業からご相談いただいた際は、やるべきことの優先順位を一緒に整理した上で、CMの実施は見送らせていただきます。
一方ですでに良質なプロダクトやサービスが完成している上で、一気に知名度を取りたい、垂直に立ち上げたいという場合には、テレビCMは非常に効果的です。
実はテレビCMの効果は、誰よりも私たち自身が実感しているんです。
私たちは、創業の年である2021年から今までテレビCMを実施していますが、明確な効果がありました。
まずは認知度。それを実感したのが、経営者やマーケターが集まるイベントに、2年連続で参加したとき。
「テレシーって知っています?」と聞いたところ、1年前は認知度が20%くらいでした。ところが今年は、認知度が70%程度まで伸びていたんです。
どこで知ったかを聞いてみると、「テレビCMです」という回答が圧倒的に多かった。生の体験として、テレビの影響力の大きさを実感しました。
その認知度が、きちんと売上にもつながっている。
運用型テレビサービスの中ではテレシーは後発組だったのですが、事業立ち上げから2年かからず売上は急激に伸びて、四半期売上15億円超え(2022年1〜3月期のグロス売上高)を達成しました。
自分たちが一番テレビCMの価値を実感しているからこそ、この市場自体がさらに伸びると確信していますし、スタートアップや中小企業にもCMの価値を伝えたい。
テレビCMをもっと戦略的に活用できる環境を整え、企業の事業成長につなげられるよう、私たちも邁進していきます。
執筆:シンドウサクラ
撮影:小島マサヒロ
デザイン:久須美はるな
編集:金井明日香
撮影:小島マサヒロ
デザイン:久須美はるな
編集:金井明日香
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