(ブルームバーグ): 日本最大の乳幼児向け粉ミルクメーカー、明治ホールディングス(HD)が、米国の粉ミルク市場への参入を計画している。全米の深刻な粉ミルク不足に対応して、米食品医薬品局(FDA)が海外メーカーの輸入規制を一時的に緩和していることが背景にある。

明治HDグローバルニュートリション事業部で乳幼児マーケティングを担当する田中伸一郎マネージャーはブルームバーグのインタビューで、通常タイプに加えて持ち運びしやすいキューブタイプなども含めた粉ミルクの輸出許可をFDAに申請したと明らかにした。米国では、スイスのネスレ、フランスのダノンなどの大手企業が競合する。

59億ドル(約8000億円)と世界第2位の市場規模を誇る米国は、粉ミルクの在庫確保のため、輸入規制を緩和した。バイデン大統領は、国防生産法に基づく緊急権限を発動して、粉ミルク生産を急がせ、原料や製品の輸入には政府の飛行機も導入している。また、今年初めに粉ミルクが原因と疑われる乳幼児の死亡事故が発生したことで、品質への懸念も高まっている。

輸入規制の緩和措置は11月14日に期限を迎えるが延長される可能性もあるため、それを見越して世界の粉ミルクメーカーは販売権を確保している。田中氏は「期間限定で参入できるチャンスが転がってきた。ぜひトライしてみたい」とした上で、「どういう顧客が買ってくれるのかテスト的なことをやってみたい」と語った。

高い参入障壁も

ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、エイダ・リー氏は、規制当局が認めるならいまの環境は新たに参入する海外ブランドに格好の機会だと話す。半面、「レキットベンキーザー・グループやアボットラボラトリーズ、ネスレなど何十年も前からいる大手に正面から挑むのは非常に難しい」ともいう。消費者はこれまで買ってきたブランドをそう簡単に変えない傾向が強いからだ。

これまでアジアに注力してきた明治HDにとって、米国の輸入規制緩和は新しい収益機会となるかもしれない。日本は少子化が進むが、それでも粉ミルクや高齢者向け流動食を含む同社の国内ニュートリション(栄養食品)事業は、前期(2022年3月期)の売上高が前期比7.8%増の1096億円、売上全体の11%を占めた。

同社はベトナムや台湾などアジアを中心に乳幼児用粉ミルクを販売している。米国向けも埼玉工場で生産した国際食品規格に適合したものを中心に輸出する計画だ。田中氏は品質、コストの両面で自信を持つ。日本の薬局では1-3歳児向けが1500円台、0-1歳児向けが2000円程度で売られるが、ウォルマートのオンラインサイトではアボットの12.5オンス(350グラム)缶が約17.5ドルだ。

田中氏は輸出量についての言及は控えたが、「安くて高品質なものが作れる強み」があるため、「米国の小売り価格は少なくとも日本の2倍程度が期待できる」という。また、「品質管理は一般食品より高いレベルで、医薬品並み」だという。

明治HDは高品質を武器に、新たな成長機会を海外に求める。だが11年の福島第1原発事故をきっかけに中国政府は日本メーカーの乳製品輸入を禁止した。残念ながら世界最大の市場である中国で、同社は製品を販売することができないでいる。

原文:Top Japan Baby Formula Maker Meiji Joins Races to Feed US Babies(抜粋)

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