2022/6/29

利益なくして、社会的インパクトなし。次の30年を背負ったブランドが目指す価値

NewsPicks BrandDesign ChiefEditor / NewsPicksパブリッシング 編集者
 企業に「社会的責任」を問うことが当たり前になって久しい。だが、部外の環境保全活動やその広報活動などにとどまっているのも実情だろう。
「社会的責任」を追求した製品や事業を成り立たせることは困難、そんな経営者の声が耳元まで聞こえてきそうだ。
 しかし、ソーシャルビジネスに本気で取り組んでいる企業は増加傾向にある。
 その中で、にわかに注目を集めるスタートアップがある。
 アパレル企業「KAPOK JAPAN」だ。「カポック」という東南アジアで栽培されている植物から採れる繊維を用いた洋服や小物を製造・販売し、成功を収めている。
「社会性と事業性が両立してこそサステナブルであり、ソーシャルビジネスだと捉えている」
 そう語る代表取締役社長深井喜翔氏は、そのビジネスプランを用いて、数々のビジネスコンテストへ出場。次世代イノベーター育成プログラム「始動 next innovator 2019」(経済産業省/JETRO主催)のシリコンバレー研修生となり、研修修了者によるビジネスコンテストでは1位を獲得した。
 2019年にはD2Cサービス「Makuake」で販売を開始、3年連続目標額を大幅に上回り「Makuake Of The Year 2021」を受賞するなど目覚ましい成長を遂げている。
 深井氏とサステナビリティに配慮したPCをリードするThinkPad Zシリーズの最新作「ThinkPad Z13」をリリースしたレノボ・ジャパン吉原敦子氏との対談からソーシャルビジネスを成立させる秘訣を探る。
INDEX
  • サステナブルへの「参加コスト」を下げる理由
  • 独自のサプライチェーンを磨く
  • ソーシャルインパクトの最大化
  • パートナーシップで次世代に誇れるブランドへ

サステナブルへの「参加コスト」を下げる理由

──事業の最初はクラウドファンディングだったと聞きます。なぜ圧倒的な支持を集めることができたのでしょうか?
深井 ありがたいことに、私たちは「サステナブルな時流にうまく乗ったよね」と言われることが多いのですが、実はそれ以前にこだわったポイントが2つあります。
 まず単純に洋服としての高いパフォーマンスがあるからというのが、一つ目です。薄くて、軽くて、暖かいといった「機能性」に加えて「デザイン性」「着心地」がカポックであれば実現できます。
1991年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学環境情報学部でソーシャルビジネスを学ぶ。不動産ベンチャー、旭化成を経て、2017年に家業の双葉商事株式会社に入社。2020年、KAPOK JAPAN株式会社を設立。経産省/JETRO主催「始動 next innovator 2019」にてシリコンバレー選抜。環境省主催「環境スタートアップ 2021」優秀スタートアップに選ばれる。
──例えば、ダウンジャケットと比べるとどうでしょう。
 ダウンジャケットって、厚みがありますよね。
 区画のような縫い目に羽毛をたくさん詰めている分、暖かいのですが、膨らみが出てしまうんです。
 スーツを着るようなビジネスシーンだとダウンジャケットはなかなかフィットしづらく、一方コートだとダウンジャケットに比べて暖かさが足りない。
 弊社の『ダウンコート』はカポックをシート状に加工することで、コートの薄さでダウンジャケットの暖かさを実現しています。
 二つ目に、価格も重要です。旭化成の営業時代にリサイクルの糸を扱っていましたが、国内ではクライアントの反応が薄く、あまり売ることができませんでした。
 サステナブルでもただ割高な製品は浸透しづらく、特に日本ではまだまだ事業性が低いことを実感していました。つまりユーザーのサステナブルへの参加コストを下げないと購買にはいたりません。
──サステナブルへの参加コストを下げるというのは重要な視点ですね。カポックは割安なのでしょうか。
 カポックの原価は一般的なダウンの20分の1です。
 まさに社会性と事業性を両立するポテンシャルがある素材です。なるべく消費者のサステナブルへの参加コストを0に近づけるのが理想だと思っています。
──原価が安く、環境負荷も低いなんていいことずくめですね。
深井 はい。木の実由来なので、樹木を伐採せず、一つの木に50年以上実がなる品種もあります。動植物を傷つけない収穫方法ですし、環境負荷も低い。軽く、保温性や撥水性にも優れています。

独自のサプライチェーンを磨く

──それだけ素晴らしい素材であれば、大手のファストファッションが参入すれば大量生産の分、売価を下げられます。真似されることはないでしょうか?
深井 もちろん特許は取得していますが、素材そのものを独占しようとは思っていません。カポックを使って服を作ることは他社でもできますし、価格そのものは下がるかもしれません。
 ただ、我々のプラットフォームの構築に優位性があるかと思います。
──具体的に教えてください。
「Farm to Fashion」という自社独自のサプライチェーンを構築しています。下請けや孫請けという多重構造を持たず、カポックを生産する農園から、ユーザーの手元に届くまでの解像度を上げています。
 具体的には、インドネシアのカポック農園やカポックの研究施設、カポックシートの開発、製品のデザイン、縫製工場にいたるまで、自分たちの足で何度も現地を訪れて契約しました。
 誰がどのように関わり、製品を作り上げているのか、ユーザーから生産者の顔が見える状態にしていますね。
──素材開発が御社の強みなのでしょうか。
深井 はい。R&Dには力を入れています。カポックの他にも、現在、100%植物由来の『土に還るコート』を2年かけて開発中です。現在のアウターの表面生地にはポリエステルが少し混ざっていて、土に還すのは難しいんです。
 でも我々はもう一歩進んだ開発を行っています。R&Dは長い目で、時間とリソースをかけ、ブランドの競争力を磨くようにしています。

ソーシャルインパクトの最大化

──スタートアップでありながら、R&Dをする資金はどのように確保しているのでしょうか。
深井 短期的な売上だけを考えるとR&Dの期間は短い方がいいのかもしれません。売上は拡大していますが、現在はまだ投資期間のため赤字です。
 ただ借入は銀行から行うことができています。私自身が76年続く繊維メーカーの“跡継ぎ”なんです。これまで家業が培ってきた銀行からの信用があったため、外に株式を出さずに資金調達ができています。
──信用は跡継ぎの大きなメリットですね。デメリットはなかったですか。
深井 もちろん、様々ありました。長年続くBtoBの縫製事業が主体でしたので、サステナブルなBtoCブランドを立ち上げるのに、まわりの理解を得るのは簡単ではなかったです(笑)。
 なぜこのような難しい製品を作るのか、既存の製品以上の価値はどこにあるのか、それで儲かるのかなどを従業員に理解してもらうための説明責任は重い。「アトツギには、小さな資産と大きなしがらみがある」という言葉もよく言われています(笑)。
 ただ今の家業が一つの時代を作ったと仮定すると、その次の時代の76年を考えてデザインするのが自分の仕事だと捉えています。超短期的な利益ありきのビジネスモデルにすることは考えていません。
 社会的責任を果たし、ブランドを通じて文化的な価値を醸成することに、リソースを注ぎ込んでいくつもりです。そのためKAPOK KNOT のKPIにソーシャルインパクト(社会的影響力)を置いています。
 農家からカポックを調達することで削減できたCO2量、国内縫製メーカーへの仕事の発注数など、自社が社会に貢献したことを数値化していますね。
──KPIがソーシャルインパクトというのは、アパレル経営者としてはユニークですね。
深井 そうかもしれません(笑)。旭化成に勤め、家業を継いだことで身をもって実感しましたが、実はアパレル業界にはたくさんの社会的責任があると思うんです。全業界の中でも環境負荷が2番目に高くなってしまっている。大量生産・大量廃棄を常としてきたビジネスなんです。
 ここをスタートアップと伝統のある企業、業界一丸となって長い目で変えていく必要があると思っています。
──なるほど。自社だけではなく。
深井 一方で、従来のアパレル業界や他の業界も「社会に貢献したい」「社会に良い影響を与えたい」という想いから事業を行っているのは同様なのではないかと、考えていて。
──どういうことでしょうか。
 昔は物資が乏しく、経済も発展途上だった。そのため、大量生産をすること=当時の社会を良くする手段だったと思うんです。当時信じていたものが現在とは違うだけで、事業を通じてソーシャルインパクトを与えたいという本質は変わっていなかったのではないかと。
 あの人は自分たちとは違う世代だと敵視し、世代間の分断を生むのはすごくもったいないなと。
──なるほど。豊かな生活こそが、人々の信じる価値だった。
深井 そうです。ソーシャルインパクトを最大化するためには幅広い世代の賛同を得ることが必要です。そのため他企業と協業し、互いの価値を高め合うことを意識しています。
 上の世代からは、しっかり自分たちが持っているアセット、ターゲットや顧客とのコミュニケーションのポイントを教えてもらう。新しい世代は新しい世代で、自分たちの考え方や価値をしっかりと示すことで、伝統と新しさが組み合わさり、お互いにソーシャルインパクトが出せる。
 ですので、様々な産業や事業とパートナーシップを結びたい。今回Lenovoさんとの協業を決めた理由も価値を高め合えると考えたからです。

パートナーシップで次世代に誇れるブランドへ

──LenovoがKAPOK KNOTと協業を決めた理由を教えてください。
吉原 二つあります。一つ目は、シンプルに共感したためです。私たちLenovo社も以下のメッセージを掲げ、社会活動に力を入れています。
企業は“モノやサービスの提供”で社会をより良くするために存在している
企業は社会によって育まれた“多様な人材”によって成り立っている
 二つ目は、「伝統」と「革新」の両方を大事にして、ソーシャルビジネスをしていること。歴史ある家業の繊維メーカーを継ぎ、若いリーダーが新しいことを始めている姿を知り、こちらからお声がけしました。
 Lenovoの『Think Pad』は今年で30年を迎えます。パソコン業界で同じブランドを30年継続していることは稀で、伝統的ブランドです。
──Think Padといえば、プロツールというイメージがあります。
吉原 はい。プロフェッショナルのお役に立つことは、私たちの大切にしているコンセプトです。パソコンはツールであり、ゴールはお客様の成功のサポートを前提とし「信頼される品質」「親しみやすさ」「先進性」というポリシーをもとに開発しています。
 一方、グローバル/国内ともにPCシェアが1位 ※ の企業として、実は以前からサステナビリティに配慮した環境負荷を減らす施策を実施しています。
※ IDC Japanプレスリリース「2020年通年の国内トラディショナルPC市場実績値を発表」(2021年2月26日)/IDC Quarterly Personal Computing Device Tracker 2020Q4
深井 前回の打ち合わせの中で、全商品のカーボンフットプリントを計算されているとおっしゃっていましたよね。弊社も2月に導入したタイミングでしたので、当然やっていますといわれ驚きました。
 私たちもやってみてわかったのですが、カーボンフットプリントを計算するのはとても大変なんです。プロダクトを一つ作るためにある素材を50センチ使うとしますよね。
 そのとき素材には、どうしても余りが出ます。さらに断裁する機械も必ずしも正確に50センチに切れるわけじゃない。コンマ数ミリの微差が出る。そういう不確実性も含めて計算しないといけないんです。
吉原 あまり知られていないのですが、製造プロセスをサステナブルにすることも重要視しています。
 例として、2016年から「低温はんだ技術」による環境負荷の低減をはかっています。はんだ付け時の温度を下げることにより発生するCO2の削減を実現できる技術なのですが、レノボではこの技術を無償提供しており、業界全体での環境保護に役立てられています。
 2021年末時点で約4700万台のThinkPadが生産出荷されており、これによって削減できたCO2排出量は約9000トンにのぼっています。
深井 大きなインパクトですね。
吉原 もちろんパソコンの筐体やパッケージも同様に、環境負荷の低減を進めています。今年、ブランドが30周年の節目を迎えたわけですが、その節目の年に、環境にやさしい素材を筐体に採用した『ThinkPad Zシリーズ』を新たに投入いたしました。
 やはり、パソコンはツールであり、ゴールはお客様の成功のサポート。コンセプトは普遍であっても、製品開発は不変ではありません。企業の社会的責任はもちろん、投資家への責任を果たした上で、新しい世代にも受け入れやすい製品を作り、事業性を高めていきたい。
 そのためには、業界外との協業も必然的なものです。
──他社の視点も必要なんですね。
吉原 はい。今回の協業もその一環、KAPOK KNOTとの協業がどんな形になるかは企画段階ですが、新しい世代の方がぜひ使ってみたいと思うモノづくりをすすめていきたいと考えています。
深井 偶然ですが、Think Pad30周年と同じく、現在私も30歳。規模の違いはあれど、次の時代をリードし次世代に誇れるブランドになっていきたい、という気持ちでは一緒です。
 志を同じくするブランドと愛されるものを作っていけるよう、今回の協業が心から楽しみです。
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