テレビイノベーション

戦略的な編成と、若手の躍動

テレビ東京に、テレビの“新しい可能性“を見た

2014/11/24

視聴率アップとグッズ販売

テレビ東京が元気だ。先日、民放キー局の2014年度上期の決算が出揃ったが、テレ東の好調ぶりが目立った。通期の業績予想は営業利益で、前期比11%増の53億円に上方修正された。東洋経済オンラインの記事「テレ東が、ついに民放の勝ち組になった!」によると、好調の背景には、視聴率のアップとアニメ番組のグッズ販売増があるとのことだ。

上期の視聴率は、NHKと民放5局にBSやCSなどのその他を加えたトータルの視聴率であるHUTが前年より減っているにもかかわらず、テレ東は全日帯(6~24時)、ゴールデン帯(19~22時)、プライム帯(19~23時)とも上昇している。テレ東には「アイカツ!」、「ポケモン」、「NARUTO」、「妖怪ウォッチ」、「遊戯王」、「銀魂」、「イナズマイレブン」などヒットアニメも多く、商品化などライツ収入でも大きく貢献している。

徹底したアニメ・シフト

アニメでこれだけのヒットを打ち、それを継続するのは大変なことだが、決して偶然ではない。平日18時台では他局がニュースという同じ土俵でしのぎを削る中、テレ東はアニメの2段重ねという徹底したアニメ・シフトを敷いている。テレ東のアニメ枠は、1週間で実に35枠もある。数を打たないとヒットも生まれない。

アニメだけでなくヒット番組は多くの失敗の上に成り立っているのだ。また細かな工夫も凝らしている。例えばアイドル達が切磋琢磨しながら成長する様子を描いた「アイカツ!」では、必ずダンスシーンを挿入、これが毎週、異なる曲、衣装、メンバー、ステージでのダンスを3DCGで作り見せ場としている。

子供だけでなく、大きなお友達(大人のファン)を惹きつけ、DVD等パッケージの売上げ向上につながる工夫をしている。

午後に旧作映画の枠を設定

テレ東の柔軟な編成も注目される。テレビでは各局とも19時以降のゴールデン帯に視聴率を稼げる番組を並べるが、テレ東では昨年度、このゴールデン帯編成を18時半からスタートさせる「フライング編成」を実施(現在は通常に戻っている)。これにより19時台、20時台の視聴率も向上したという。18時台にメインニュースを編成している他局にはできないことだ。

さらに、月曜から木曜の13時半に「午後のロードショー」という映画枠を設定した。新作映画の値段は、それこそ目の玉が飛び出るほど高いのだが、この枠では、はるかに安い旧作映画を放送している。曜日ごとにテーマ性を持たせるなどの工夫により、徐々に視聴習慣が付き、全日帯の視聴率向上に寄与しているという。

独創的な番組企画

さらに、ユニークな番組作りもテレ東の強みになっている。遡れば、「モヤモヤさまぁ~ず2」があり、視聴者をあっと驚かせた深夜ドラマの「勇者ヨシヒコ」シリーズ、最近では「吉木りさに怒られたい」などがある。

「モヤモヤさまぁ~ず2」は、さまぁ~ずが局アナと街をブラブラ歩いて、街の人たちのと触れ合いや店を紹介するだけの番組だ。ゴールデン帯に進出してからは観光などで有名な街も歩くようになったが、初期の深夜帯の時代には、ロケ地は東京23区以内で人気のある街は禁止など、低予算を逆手に取ったこだわりを基本方針とした。

「勇者ヨシヒコ」は、大ヒットゲームであるドラゴンクエストのパロディードラマで、ゲームに出てくるスライムなども登場するが、これが何と、素人が作ったような段ボールのハリボテが転がっているだけというチープさ。オープニングタイトルで「予算の少ない冒険活劇」とうたうなど、チープを自虐的に前面に出して、コアなファンの高い支持をつかんだ。

「吉木りさに怒られたい」は、1カ月限定で放送された深夜のミニ枠なのだが、グラビアアイドルの吉木りささんが、数分間、ただ怒りまくるだけという番組だ。怒る理由は「立ち位置を勘違いして先輩をディスる男に怒る…」、「何でも否定から入る万年野党男に怒る…」など微妙な共感を覚えるものなのだが、怒り方が半端ない。気持ちがいいくらい怒りまくり、最後は少しホッとさせられる。

それに続くCMは通常のCMではなく、本編からつながる演出となっていて、他局にザッピングされずスポンサーを喜ばす工夫が凝らされている。番組はCM部分も込みで、テレ東の動画サイト「テレ東プレイ」で今でも配信されている。

徒弟制度廃止で、若手プロデューサーが躍動

テレ東の番組に共通するのは、低予算だが他局にはない、というより他局にはとても出来ない割り切り方と思い切った方針だ。万人受けを狙わず、ニッチではあるが強烈な共感を得ようという方針を徹底させている。大胆なアニメ・シフトも、「勇者ヨシヒコ」も「吉木りさに怒られたい」も、他局ではまず成立しない企画であり編成だ。

テレ東でこうしたユニークな番組が作られるようになった背景には、30代半ばから40歳前後のプロデューサーが急速に力を伸ばしていることがある。それを可能にしたのは、以前の徒弟制度をなくし、若手がのびのびと番組を作れるようにしたためだという。

他局が失敗を恐れ、萎縮した演出しかできない閉塞した環境に陥っているのと対照的に、独創的で大胆な企画を“失敗上等”の覚悟で通してしまう勢いが、今のテレ東にはある。かつてテレビが元気だった頃のように、現場が面白がっていることが画面から伝わってくるようだ。

ワクワクするような番組を作りたい、自分の可能性を試してみたいという制作者、就活生は、テレ東をターゲットにしてみたらいいのではないだろうか。

※本連載は毎週月曜日に掲載します。