2022/5/20

【京都】パラグライダーからエコバッグ。事業の自立性で成功

ライター
パラグライダーの使用済み生地を生かしたエコバッグを商品化するアップサイクルブランド「HOZUBAG(ホズバッグ)」。京都府亀岡市との協働で、社会を変えるアクションに挑戦し続けているのが、アパレルブランド「THEATRE PRODUCTS」(シアタープロダクツ)の代表兼デザイナーの武内昭さんです。後編では亀岡市との共創のさらなる広がりや地方都市の可能性について聞きました。
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INDEX
  • 地元のアーティストとコラボした動画作成
  • 市民がオリジナル紙袋で“自分事”として行動
  • 自治体で、個人や企業を巻き込んだ劇場を
  • SDGs的なものを自然に選べるプロダクト
  • 「連携」こそが地方都市の未来をつくる
武内昭(たけうち・あきら) THEATRE PRODUCTS代表・デザイナー、1976年長崎県生まれ。エスモードジャポンを卒業後、コム デ ギャルソンのパタンナーを経て、2001年「洋服があれば世界は劇場になる」をコンセプトとするブランド、シアタープロダクツを設立。亀岡市に拠点をおくHOZUBAGのプロデューサーも務める。京都芸術大学空間演出デザイン学科准教授。

地元のアーティストとコラボした動画作成

亀岡市にとってSDGsの取り組みの大きな成功例となった、使用済みパラグライダーの布をアップサイクル(廃棄物や不要品に新しい価値を与えて新製品に生まれ変わらせること)したHOZUBAG。THEATRE PRODUCTSのデザイナー・武内昭さんはこのプロジェクトの自走に奔走してきましたが、亀岡市との共創はさらに広がりをみせています。
ひとつは、亀岡市のSDGs啓発動画の制作です。亀岡市は2020年度に内閣府から「SDGs未来都市」に選定されました。そこで、そのことを市民や全国にもっと周知するためのイベントを検討していました。
武内 「その話を聞いて、僕の方から、対話のドキュメンタリー映像を作りませんか、と提案しました。それが、『しぜんの中の小さな会議』です。
亀岡市が文化芸術的なものの力を信じて、新しいことをやろうとしています。亀岡市にはたくさんのアーティストが移住してきていて、彼らも市のそんな思いに応えて何か力になりたいと思っているんです。そんな機運にのって、地元在住の映像作家・丹下紘希さんにプロデューサーとなっていただき、映像作品を制作しました」
武内さんが映像作家の丹下紘希氏をプロデューサーに迎えて制作した亀岡市SDGs啓発動画「しぜんの中の小さな会議」

市民がオリジナル紙袋で“自分事”として行動

また、武内さんは、市内のスーパーやコンビニでの買い物用に亀岡市が用意した紙袋(有料)のデザインも手掛けています。
2021年1月、亀岡市は全国で初となる、プラスチック製レジ袋を提供禁止(有償無償問わず)し、唯一提供を認める紙袋も無償配布を禁止する条例を施行しました。
この条例によって、市民の負担が増えることになります。そこで亀岡市は市民の負担を軽減しようと、有料の共同購入紙袋を用意し、その費用を市が1/2補助する共同購入の仕組みを導入しました。
これについて、亀岡市環境先進都市推進部環境政策課の谷口明子さんは次のように説明します。
「確かに市民からは条例施行にあたっては、『レジ袋はプラスチックごみ全体の2%ほどしかないのに、なぜそれだけを取り上げるのか』『レジ袋は便利なのになぜ禁止するのか』という声もありました。
しかし、市としては『最も身近な使い捨てプラスチックであるレジ袋を完全にやめることで、市民の意識を変えていくことが大切』だと考え、市民や事業者の理解を得られるように丁寧に説明を繰り返しました」​​(谷口さん)
亀岡市と市民のやり取りの様子を見ていた武内さんは、レジ袋の代わりに用意された有料紙袋をデザインすることで、温度差のある両者の間をつなぐ役割を買って出ます。
武内 「そもそも行政は市民のために施策を打っているんですが、それに納得できない市民も少なくなく、コミュニティとしての一体感がギクシャクしてしまったんです。市が代替案として紙袋を用意すると聞いて、思わず『その紙袋をデザインさせてほしい』と申し出ていました。誰にも頼まれてもいないのに(笑)」
武内さんは紙袋に、プラカードのようなメッセージをデザイン。大きく「WE CONNECT」「WE CHOOSE」などの言葉が並びます。
WE TAKE ACTIONといったメッセージが目を引く亀岡市オリジナルの紙袋。行政、市民、デザイナーの武内さんの思いが込められている=THEATRE PRODUCTS提供
「この紙袋をスーパーやコンビニに置いてもらって、市民がその紙袋を購入して使うことで、必然的にまちの中に“市民の言葉としてのメッセージ”があふれていきます。こうすることで、レジ袋問題を市民と行政の対立にするのではなく、市民が“自分事”として、自ら解決へのアクションを選択できます。ここにデザインの大きな役割があると思っています」
さらに、今後は「亀岡名物」を生み出そうというアイデアの実現化も予定しているとか。
「亀岡には、​​これが名物といえるお土産がもっとあっていいと思うんです。『亀岡に来てくれた人にHOZUBAGのことを知ってもらいたいよね』という話をみんなでよくするんですが、HOZUBAGだけで終わってしまうのももったいない」
亀岡市には京都観光の人気コース「保津川下り」の着船場があり、重要な観光資源になっている

自治体で、個人や企業を巻き込んだ劇場を

実は、以前は時間軸の感覚や価値観の違う自治体と組むことには消極的だったという武内さん。その考えを変えたのはなんだったのでしょうか。
「今回、亀岡市と数年単位で組んできたことで、市民と行政、企業を巻き込んだ取り組みがもっとできるんじゃないか、と思うようになりました。自治体という箱の中で、そこに暮らす個人、そして企業が一緒になって本当に必要なことを実現していく――そんな可能性を強く感じています
そこには、THEATRE PRODUCTSのコンセプト、「洋服があれば世界は劇場になる」に通じるものがあると、武内さんは考えています。
「僕は、洋服の生産や流通、そこに関わる人々や周りでおこる出来事――その空間や時間で生じるものをメタ的に引いた視点からの表現がしたくて、THEATRE PRODUCTSをつくりました。その空間をつくるのに必要だから、服や小物をデザインしているといってもいいです。同じようなことが、自治体の枠の中でも表現できる気がするんです」
東京・表参道にあるTHEATRE PRODUCTSのショップ。この空間からさまざまな“劇場”を生み出している
とはいえ、順風満帆なことばかりでは、ありません。特に事業化でどう利益を生み出すかについては、予算や期日などの行政特有の優先事項と、武内さんの企業家としての「何を成し遂げるかという結果こそが重要」という姿勢とのズレを感じることもあります。
「行政と組むときは、『どのように社会をよくするのに貢献できるか』が一番のコアとなります。決して『いかにして利益をあげるか』ではありません。その点、HOZUBAGは『社会課題の解決』と『事業の自立』が上手く両立できているケースとなりました。
ただし、それが周囲からどう見えるのかという部分には、慎重にならなくてはなりません。『儲けるためにやっている』と誤解を生まないように、行政と組む部分、自分たちだけでやる部分の線引きにはかなり配慮しています

SDGs的なものを自然に選べるプロダクト

武内さんはTEATRE PRODUCTSでも、さまざまなSDGsアクションに着手しています。HOZUBAG以外のアップサイクル商品としてエコレザーやペットボトル素材など、環境に配慮しつつ、おしゃれを楽しめるアイテムを積極的に展開しています。
「THEATRE PRODUCTSは、社をあげて社会課題に取り組んでいて、SDGs認定も取得しています。もともと会社設立時から、工場で廃棄された素材を活用したものづくりをしたり、廃棄された椅子を壁として店づくりをするなどの取り組みをやってきた会社です。
でも、僕がもともと環境問題にすごく関心があったというわけではないんです。純粋に、こっちのほうが『心地よくて面白いし、いいものができる』という感覚でやってきたことが、強みになっているんだと思います。
そして、世の中にエコグッズやアップサイクル商品はたくさんありますが、誰もがほしいと思えるものは、それほど多くありません。そういう中でHOZUBAGをほしいと言ってくれる人が多いのは、そこに『ファッションがある』からだと思うのです」
HOZUBAGでは、ペットボトルを再利用したアイテムも展開。どんな素材に由来しているかが、ひと目でわかるデザインになっている
従来持っていたSDGs的な価値観にファッション性という価値をプラスしたことで、HOZUBAGのように人々が自然と手に取りたいと思う商品をつくり出したと言えそうです。
「食べ物に例えるとわかりやすいんですが、誰でも同じ値段ならよりおいしいものが食べたいですよね。それと同じで、THEATRE PRODUCTSはデザインによっておいしいものをつくっているんです。あとは、そこにサステナブルなものを使うだけで、みんなが自然とより良い選択をするようになります。
エシカルなものを誰もが無意識に選択できるようにすることが、デザイナーとして今の自分の使命だと思っています」
色とりどりのパラグライダー生地を裁断し、エコバックにアップサイクルする

「連携」こそが地方都市の未来をつくる

亀岡市を拠点とするHOZUBAGは、地方都市の可能性を改めて教えてくれました。人口減少、少子高齢化が深刻化する中、地方都市にはどんな未来が待っているのでしょうか。
地方には、ぜいたくさとは違う本当の豊かさがちゃんとある。それは私たちがこれからの未来で理想とすべきものです。具体的にいうと文化芸術があって、それがちゃんと産業として成立するような世界です。
鍵となるのは、『連携』です。地方都市同士、企業同士、行政と企業など、さまざまな連携を積極的にやっていくことで、明るい未来が手に入れられると確信しています。今の亀岡市を見てもらうと、そんなポジティブさにあふれていると思います。
そんな武内さんの視線は、生まれ育った九州の地方都市にも注がれています。
「僕は子ども時代を過ごした壱岐島や長崎のリブランディングを手がけたいと勝手に思っているんです。壱岐は『神の島』といわれてとてもすばらしい場所なので、その魅力をもっとアピールすべきです。文化的資源をリブランディングすることで、もっと多くの人に訪れてもらえるような場所にしていきたい。
デザインの力で、地方の持つ豊かさを生かして、もっと面白いことを実現していきたいですね」
(完)
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