[東京 12日 ロイター] - トヨタ自動車が12日から同社初の量産型電気自動車(EV)「bZ4X」の販売を始める。個人には定額(サブスク)サービス、法人にはリースのみの扱いで異例の売り方となる。国内のEV市場では米テスラなど輸入車の存在感が高まり、先駆者の日産自動車も反撃に出る中、トヨタがEV需要を掘り起こせるかが注目される。

<「トヨタがリスクを負う」>

「売り切りよりサブスクのほうがEVとの相性は良い」。トヨタの定額サービスを運営するKINTO(名古屋市)の小寺信也社長はこう語り、EV所有のリスクは「顧客ではなく、我々が負うべき」という考えのもとでサブスクに限定したと話す。EV所有には、充電を繰り返すと電池が劣化して電池容量が減り、その結果、下取り価格が安くなるなどのリスクがある。

トヨタのサブスクはリースの一種で毎月定額を支払う。顧客は車両を所有できないが、所有に伴うリスクを負わずに済む。トヨタにとっても利点がある。契約終了後にEVを回収できれば、希少金属にコストがかさむ電池の再利用もできる。納車後に最新機能を更新するサービスなども提供するため、顧客との接点を維持する意味でも売り切らないほうが都合が良い。

トヨタは最長10年の専用プランを用意。12日正午からまずは年内にも納入する3000台分をウェブサイトや販売店で受け付け、初年度で5000台を販売する計画だ。

個人は契約時にまず申込金77万円(税込)が必要となる。最初の4年間に国の補助金を適用した月額利用料は8万8220円(同)で、利用料には自動車保険や自動車税、車検代、メンテナンス代、電池性能保証などの諸費用が含まれる。

5年目以降は国の補助金適用はなくなるが、利用料は毎年段階的に下がる。7年目は6万4680円、10年目は4万8510円といった具合だ。長く乗れば乗るほど安くなるほか、5年目以降なら中途解約金はかからない。車両の参考価格は600万円だが、10年間の月額利用料総額は国の補助金適用で約870万円となる。

小寺社長は、想定される顧客について「『今度はトヨタのEVにしてみようか』というように、新しいものに飛びついてくるような人がまず最初にくるだろう」とみている。

一方、サブスクの料金設定に関しては、割安感は感じられないとの声もある。SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは「高い」という印象だ、と話す。

<「試行錯誤」>

日本自動車販売協会連合会によると、2021年に日本で販売された乗用車のうち、EVはまだ1%に過ぎない。SBI証券の遠藤氏は「売る方も買う方も試行錯誤。トヨタのサブスクも、これを顕著に反映している」と語る。

ただ、欧州や中国でEV販売をすでに本格化させている海外勢は日本でも積極的だ。日本自動車輸入組合によれば、21年のEV輸入台数は過去最高の8610台と前年比3倍近くに急増。このうち約6割、5000台以上がテスラ車だったとされる。スウェーデンのボルボ・カー日本法人では昨年、限定100台のEVをサブスクで提供したが、6倍近い575件の応募があったという。

日本勢も動き出す。同じ12日、SUBARUはbZ4Xの兄弟車「ソルテラ」の受注を開始、日産も量産EV第2弾「アリア」の標準車の国内販売を始める。ただ、いずれも販売は従来通りの売り切りだ。車両価格はソルテラが594万円から、アリアが539万円からで、国の補助金利用で400万—500万円台からとなる。   

<「自信があるからサブスク」>

日産は世界初の量産型EV「リーフ」を10年に発売し、市場を開拓してきた自負がある。これまで販売台数は想定通りに伸ばせていないが、EV販売の長年の経験を武器に今年はアリアのほか、三菱自動車と共同開発した軽自動車、リーフの新型車の3車種を投入する予定だ。

各車種の販売台数目標は未公表だが、同社の日本マーケティング本部チーフ・マーケティング・マネージャーの柳信秀氏は「3車種全てアクセル全開で売る計画だ」と話し、「今年度売らずにいつ売るのか。今年失敗したら(チャンスは)もう2度とない」といった気概で臨んでいるという。

トヨタも「真面目にEVを普及させたい」(小寺社長)との思いだ。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、規制でEVの普及が進む欧州では企業の環境対策としてEVが導入されやすく「リースが主流の法人需要が強い」といい、トヨタも欧州同様の普及を日本で狙うのでは、との見方だ。「売り切りにすると車両を分解される恐れもあり、トヨタはEVに自信があるからこそサブスクを選んだ」ともみている。

ある日産幹部は、売り切りにしなかったトヨタと「真っ向勝負できない」と悔しがる。ハイブリッド車で躍進したトヨタがEVでも巻き返せるのか戦略が試されている。

(白木真紀、杉山聡 編集 橋本浩)