2022/5/2

【長野】「これはすごい」塾が目を見張ったAIの学習指導

編集者・ライター
身近なDXのストーリーをお届けするNewsPicks +dの連載「隣のカイシャのDX」。AI教材を取り入れた長野県の学習塾のお話です。

長野県を中心に34教室を運営する「超個別指導塾まつがく」。

生徒ひとりひとりに合わせた指導という“超難問”をクリアするために、AIによる学習システム「atama+(アタマプラス)」を2018年から取り入れています。

講師が生徒に勉強を教えるという、これまでの風景は、AIを入れたことでどう変わったのでしょうか。2回にわたってご紹介します。
この記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で運営するメディア「NewsPicks +d」編集部によるオリジナル記事です。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ方が使えるサービスです(詳しくはこちら)。
INDEX
  • 広がる個別指導、その課題
  • 大学受験まで導ける講師は希少
  • 「アタマプラス」との出会い
  • 塾業界とテック
まつがく上田天神教室。1階がラウンジ兼自習室で、2階が教室。平日は17時から21時半まで1コマ80分、小学生・中学生・高校生が学習しています=長野県上田市

広がる個別指導、その課題

個別指導型の塾が広がっています。
学習習慣が身についていない、モチベーションが低い、勉強でつまずいている……そんな子どもの課題と向き合い、成績を改善させ、希望の進路に進めるよう導く。
マンツーマンの丁寧かつ共感的な指導で、それまで勉強を面白いと思ったことのない子どもが変化を遂げた、という話は珍しくありません。そんな、オーダーメードの指導が支持されるようになりました。
勉強好きになって、希望の進路に進めて万々歳なのか……と思いきや、課題もあります。
「自分に必要な学習を自らやっていく“自学自習”の力が身につかないのです」
そう話すのは、「まつがく」教務部の千木良晃作さんです。
千木良晃作さん
「共感しながら話を聞いてくれる講師の指導で、それまで分からなかった勉強が理解できるようになると、生徒は講師を信頼してくれるようになります。そのこと自体はよいことです。一方で、マンツーマンで教えることがあだとなり、生徒はあと一歩考えれば自力で解ける問題であっても講師に質問し、講師は喜んで解説する“相互依存”状態に陥りがちでした。分からないところはすぐ質問できて、講師が即対応できる状況は一見理想的ですが、生徒が自力で問題を解く力、つまり本質的な学力を伸ばすことは難しくなります 」
「教えないでも、子どもが自ら勉強するかたちに持っていきたいのですが、なかなかうまくいかないという課題がありました」
千木良さんは、自学自習が身につかないと、成績も思うように上がらないだけでなく、自学自習ができるかどうかは、人生で重要な“生きる力”にも影響を及ぼすと考えています。

大学受験まで導ける講師は希少

講師の確保や育成も長年の課題でした。
個別指導塾の需要が高まる一方、生徒をきちんと導けるだけの経験と力量のある講師は限られます。大学受験まで導けるスキルを持つ講師となると、さらに難しくなります。
まつがくを運営する「株式会社オブリガードス」代表の林部一成さんはこう話します。
「個別指導は、生徒ひとりひとりの学習状況や目的に最適化した教育サービスが求められます。どこでつまずいているのか、どうすればモチベーションが上がるのかを正確に見極め、課題を克服するための的確な指導をする。こうしたことができるようになるには長い経験と高度な技術が必要なのです」
林部一成さん
1996年の開校以来、林部さんも千木良さんも創意工夫を重ねてきました。それでも「まだ理想的な状態とは言えない」とつねづね感じていたそうです。

「アタマプラス」との出会い

そこに転機が訪れます。
2018年、林部さんは、知人から塾の学習にAIを使う新しいシステムが登場したことを教えてもらいました。
2017年創業のスタートアップ・アタマプラス社が開発した「アタマプラス」です。
林部さんと千木良さんは東京の同社を訪問。どんなものかを試しに使ったところ「『これはすごい』と直感した」そうです。
アタマプラス提供
子どもがどこまで理解し、どこでつまずき、どこが間違えやすいのかをAIがリアルタイムで解析。子どもにあわせたカリキュラムを作り、それに沿って学習していくことで、理解を深めていきます。
基礎学習を子どもごとに最適化し、最短ルートで理解度を上げていく「ラーニング」は、AIの十八番です。講師は、生徒の心理状態やモチベーションをコーチングで引き出すことに専念します。講師とAIがそれぞれの役割を担って相乗効果を上げていくのが、アタマプラスの特色のひとつです。
見学から半年ほどたってから、まつがくで導入。使い始めたころは、シビアな部分もあったそうです。
「難しすぎたり、重箱の隅をつついたりするような設問が、当初はちらほらありました。使い始めの時期だったので、こんな細かい問題が出るなんて、と子どもたちがアタマプラスを食わず嫌いになりやしないかと心配でした」
紙の問題集なら、こうした課題は次の改訂を待つしかありません。講師のスキルを高めるのも、長い年月がかかります。
アタマプラスは、塾からの要望や生徒の様子などから課題を集めた上で、問題や講義動画、システムを改善。それらを毎週アップデートして、課題を迅速に克服していきました。
その様子を見て、林部さんは「アタマプラスがAIラーニングシステムのトップランナーになるだろう」と、確信したそうです。

塾業界とテック

AIを使った学習指導に、林部さん、千木良さんが感度よく目を向けたのも、塾・予備校業界が、その時代のテクノロジーで、新しい指導方法を編み出してきたという背景もあるでしょう。
2020年、新型コロナ流行に迫られる形で学校現場にオンライン授業が広まりました。ですが、その30年も前の1989年、大手予備校「代々木ゼミナール」が、通信衛星を使った授業のリアルタイム配信を実現していました。91年には、東進衛星予備校「サテライブ」が、講義の録画ビデオによる個別受講で先鞭をつけています。
まつがくも以前からデジタル化を進めていました。スケジュール管理や一部科目の問題作成にシステムを導入していたそうです。
次回は、アタマプラスを取り入れた「まつがく」で、講師や生徒がどう変わっていったのかをお伝えします。
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