2022/4/27

【京都】「エコだけど敷居が高い」。異質なコラボで乗り越える

ライター、元朝日新聞記者。
「欲しいものを、欲しいだけ」をキャッチフレーズにした、「量り売り」のスーパー「Zero Waste Market 斗々屋」が、2021年7月、京都に開店しました。

店が目指すのは、すべての商品や料理で、ゴミや食品ロスを出さないこと。最新鋭の計量システムは、技術パートナーである精密機器メーカーの「寺岡精工」が提供しています。

最終回は、異なる背景や意見を持つ両社がどう歩み寄り、ゴールを目指しているのか、「協創」のリアルをお伝えします。
この記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で運営するメディア「NewsPicks +d」編集部によるオリジナル記事です。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ方が使えるサービスです(詳しくはこちら)。
INDEX
  • 客が容器を持参する店
  • 目的は妥協せず、手段は柔軟に
  • 売り上げをどこまで増やせるか
  • 「異質なパートナーシップ」が目指すもの

客が容器を持参する店

2021年7月。斗々屋京都本店が開店すると、メディアに相次いで取り上げられた。
「量り売り」のノウハウを教えるオンライン講座も始めた=斗々屋提供
斗々屋は古くて新しい「量り売り」という手段で、ゼロウェイスト(ゴミをゼロにする活動)の普及を目指す。「フードロス」や「マイクロプラスチック問題」を解決する手段の一つだと考えているからだ。
でも、商品を入れる容器一つをとっても課題が見える。客がスーパーへ、食材を持ち帰る容器を持参しなければならないからだ。
入店してから購入商品を決めることが多いのに、大量の容器をあらかじめ持参するのは、おっくうだと思う客もいるだろう。子連れや高齢の客にとって、重たい瓶をいくつも持ち帰ることは負担になる。ふらりと立ち寄りたい客だっているだろう。そういう人たちを満足させるには、どうしたらいいのだろうか。
上部の机に瓶を置ける買い物カートを開発した=斗々屋提供

目的は妥協せず、手段は柔軟に

斗々屋京都本店では、客からひとつ100~500円の預り金と引き換えに、瓶やステンレス製の弁当箱などを貸し出している。購入も可能だ。
ステンレス容器には預り金額などが印字されたバーコードが貼られ、返却した時に、預かり金が払い戻される。ドイツや北欧で、デポジット式のペットボトル回収機を販売している寺岡精工の技術を応用し、斗々屋向けに貸し出し容器の追跡システムを構築したという。
「ゼロウェイスト」というゴールは同じでも、そこにたどり着くため手段を巡り、両社の考え方の違いも見えてくる。
商品を入れるために貸し出す瓶や容器=斗々屋提供
斗々屋広報・ノイハウス萌菜さん 斗々屋の軸を守ることが大事なので、『容器がないから買わない』というお客様に、『では容器を差し上げます』とは言いません。店が代々木にあったころは『容器をお持ちいただければ買えます』と伝えたり、お客様がハンカチに包んだり、ポケットに入れて持ち帰ってもらったりしました。トライアル・アンド・エラーを繰り返して、京都本店では容器を売ったり預り金方式で容器を貸し出すことにしました
両社が入っているSlackで、寺岡和治会長は以前、こんな内容のメッセージを斗々屋のメンバーに投げかけたことがある。
(顧客の)アンケートに「斗々屋はおしゃれ過ぎて敷居が高い」というコメントがあった。僕はおしゃれ問題にはあまりピンとこなかったけど、その件について本日の昼休みに○○さん(注:寺岡精工社員)に意見を聞いたら、彼は我が意を得たという感じで話し出した。

「斗々屋の仲間なので△△(注:海外ブランドのシリコン製容器)を買ったけど、他人の店だったらあんな高価な容器は買わない」と。

彼のカバンの中にはいつも畳んだレジ袋が2〜3枚入っているけど、そのレジ袋を斗々屋で出す勇気はないという。斗々屋で買い物をするにはお作法がいるみたい。着飾って△△を持っていかなければならないような雰囲気があるって!

これは是非とも取り除かなくては駄目だね。斗々屋の目的は、ゴミの出ない買い物の場を提供すること。この目的には徹底的にコミットしなければ、斗々屋がやる意味がない、しかし買物用の容器は目的を実現する手段です。この領域についてはお客さんにとってローコストで便利な方法を提供すべきだと思う。(中略)手段の領域で自分たちの趣味を押し付けるべきではないと思う。

※投稿文を編集部で一部編集しています。
踏み込んだ議論を重ねるうち、当初は容器の持ち込みを前提にした量り売りスタイルをとっていた斗々屋も、貸し出し容器の素材の種類を増やせないか、と考えるようになったという。
オーガニック商品は、必ずしも有機JAS認定を取得したものではないという。斗々屋によると「小規模な農家や新規就農者にとって、認定の取得にかかる時間と費用が高いハードルであることを知っているから」という=斗々屋提供

売り上げをどこまで増やせるか

量り売りを普及させるためには、消費者のメリットも考えなくてはならない。その一つが価格だ。一般的に、オーガニック品やフェアトレード品は、価格が高くなる傾向がある。斗々屋の価格設定は、どうなっているのか。
ノイハウスさん 「今は個別包装をしている商品と比べて、値段はそこまで変わりません。本来は、包装容器分のコストを下げられるはずですが、店の規模が大きくならないと値下げは難しい。もちろんオーガニック商品の中には、ほかのオーガニック専門店より圧倒的に安いものもあります。それと、チョコレートなどのラグジュアリーなものは、お客様に(発展途上国の労働者に対する)公正な価格は〇〇円だ、と示すことも大事だと思っています」
斗々屋は、日本人が日常的に食べているチョコレートやコーヒー、バナナなど嗜好品の多くは、開発途上国の児童労働の温床になっていると考え、開発途上国で生産された農産物は、公正な価格で取引することを重視しているという。
肉や魚、豆腐、麺類も販売している=斗々屋提供
ノイハウスさん 「もちろん高額な商品を買う余裕のない人もいます。でも、オーガニック商品を買う余裕のある人たちが大量に買えば、生産量が増えて仕入れ価格が下がる。実際に、ヨーロッパでは、オーガニックも、そうではない野菜も、値段が変わらなくなってきました。できる人がやれることをすることが大事だと思います」
寺岡精工は、協業の採算性について、どう見通しを立てているのだろうか。
斗々屋を支援する寺岡和治会長=寺岡精工提供
寺岡会長 「新しいことは、やってみなければわかりません。今だって彼女たちは、毎日毎日、挑戦しているけれど、そう簡単にはいきません。ビジネスのモデルを変えるのは、それだけ難しいことなんです。

めどは3年ぐらい。京都本店には、そこそこお客さんも入っているし、売り上げも上がっているので思惑通りのスタートは切れた。あとは、売り上げをどこまで上げられるかですね。

彼女たちは、志が同じ生産者を一生懸命に発掘しています。曲がったキュウリを安く販売して、お客様に還元したりもしています。

量り売りは、必要な量だけを買えるし、包装容器代もかからない。本来は、経済的にも安いはずなんです」

「異質なパートナーシップ」が目指すもの

京都本店で現場研修も始めた=斗々屋提供
寺岡精工によると、斗々屋の取り組みを知った大手スーパーの商品部長が「勉強させてほしい」と訪れたり、「商品を分けてほしい」といった依頼も来ているという。
寺岡精工と斗々屋の考え方には異なる点も多い。でも、違いがあるからこそ、新しい価値を生み出しているともいえる。
ノイハウスさん 「今振り返ると、技術的な部分は、斗々屋だけでは取り組めませんでした。だからこそ寺岡精工との出会いは絶対に必要なものでした」
寺岡会長 「我々は量り売りの技術を持っているけれど、テクノロジーだけでは普及しない。やっぱり社会運動的なムーブメントを合わせないと、最終的には普及しない。我々だけではできないし、彼女たちだけでもできない。一見、異質なパートナーシップだからこそ、できるのだと思います」
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