2022/4/18

【井上一鷹】生産性を爆上げする“最高の休み方”とは

NewsPicks Brand Design editor
リモートワークの普及によって、いま、“休憩”のあり方が問い直されている。

立て続けに入るオンライン会議。同僚と雑談をすることもなく、気づけば一日中休みなく働いていた……そんな経験を持つ人も少なくないだろう。

オンとオフの切り替えを円滑にし、快適かつパフォーマンスの高い働き方をするためには、どうすればいいのか。集中力の定量化を行う「JINS MEME」の開発や、ビジネスパーソンの生産性を高める空間「Think Lab」の事業開発を手がけた“集中のプロ”、井上一鷹氏。

これまで培ってきたノウハウを活かし、新天地のサンアスタリスク社でも生産性高く働く同氏が実践する、「理想的な休み方」とは。

「オンの時間」を能動的に切り替えるスキルが求められている

──井上さんはJINSを退職後、サンアスタリスク社に参画されています。新しい環境で働き方に変化はありましたか?
井上 「オン(仕事時間)の中での切り替え」はより意識するようになりましたね。
 今の仕事の内訳は、クライアントの新規事業をサポートする仕事が50%、社内で新規事業のフレームワークを作る仕事が30%、経営管理が20%。こんな配分となっていて、それぞれ性質の違う仕事が並行して進んでいます。
 クライアントワークと社内業務とでは頭の使い方が全く違いますし、上手く切り替えができないと、パフォーマンスが落ちてしまいます。
 これまでも集中力を高める取り組みは色々と実践してきましたが、そこに加えて、仕事時間の中で能動的な「切り替え」が求められる。まさにそんな環境です。
──「オンの中での切り替え」はリモートワークが普及して以降、多くのビジネスパーソンが抱える課題です。
 そうですね。コロナ禍初期に課題だった「自宅をオフィスとしてどのように最適化させるか」という問題については環境整備が進み、ある程度解決されてきています。
 しかし、仕事時間の中で頭の切り替えが上手くできず、疲弊してしまっているビジネスパーソンが未だに多い。
 リモートワークでは「仕事に集中する時間」と「リラックスする時間」が曖昧になりがちなので、これを能動的にマネジメントしないといけません。
 コロナ禍が始まって2年が経ち、未だ「リモートワーク疲れ」の話題が尽きないのも、その術を身につけている人と、そうでない人の乖離が生まれているからではないでしょうか。
──井上さんご自身が実践されている、オン・オフのマネジメント法について変化はありましたか?
 基本的には「色々な刺激を使って体をスイッチさせること」、これが軸なのは変わりない。
 ただ、環境の変化があったので、より「オンの中での切り替え」を楽にするために新しく導入したものもあり、昇降式デスクはそのひとつです。
 取材などはデスクの位置を上げ立って会話しますが、ミーティングや会議ではデスクを下げて椅子に座ります。
 取材とミーティング、どちらも「人と話す」点では同じ行為ですが、能動的に話すのか、受動的に人の話を聞くのかといった違いはありますよね。
 だから、状況に合わせて姿勢や体の位置を切り替え、意識的に集中できる環境を整えています。

「集中する自分」を予約するウィークリースケジュール

──チームや組織で働くうえで、意識されていることはありますか?
 これは以前から実践している方法なのですが、やはり時間管理が重要だと考えています。
 僕は1週間のスケジュールを組むときに、ミーティングの時間だけでなく自分が集中するための時間を戦略的にブロックするようにしています。
 具体的には、資料作成などの「論理思考の時間」とアイデアを発想する「直感の時間」を週に2回ずつ確保する。
 こうして事前に「集中する時間」を予約しておくと、その時間が来たときにやるべきことへ集中しやすくなっていきます。
 加えて、「作業の時間」をキープしておくのも大切なポイント。この時間に実行するのは「必須ではあるが重要度は低いこと」。
 メールチェックやコミュニケーションツールの返信などが、その例です。そうしたタスクをここでこなすと決めておけば、心理的な負担が少なくなるんです。
──それはなぜでしょうか。
「ツァイガルニク効果」という心理現象があります。これは、完了したことよりも未完のことのほうが記憶が色濃くなるというもの。
「そういえばあのメール返信してなかったな……」と気になって、別の作業が進まなくなるのはこのためです。だから、細々としたタスクは「作業の時間に片づける」と決め、気にならないようにする。
 些細なことに心を奪われ、思考の切り替えができなくなるのはもったいないですから。

「オフ」の余白があるからこそ「集中」が深くなる

──時間管理といえば、仕事中にポモドーロテクニックも実践されているそうですね。
 はい。25分の集中+5分の休憩というセットを繰り返すというものです。ただ、これは毎日実践しているわけではなく、2時間以上の作業時間が確保できたときだけですね。
 というのも、ポモドーロテクニックで最も重要なのは「サイクルを作ること」です。だから、単に30分あるからといって、25分の集中と5分の休憩に切り分けてみたところで、それほどの旨みは得られません。
──繰り返すことでどのような効果が生まれるのでしょうか。
 作業開始から25分後というのは、ちょうど集中が深まりはじめる頃。そこであえて作業を中断すると、どうなるのか。結果として、「もっとやりたい」という感情が湧いてくるんです。
 飽きも疲れも出ておらず、ようやく集中しはじめたタイミングで強制的にストップさせられると、飢餓感が生じます。
 そうすれば次の25分で、より深い集中力を生み出せる。その後も、乗ってきた頃に中断・再開を繰り返すので集中力はどんどん高まっていく。
そうした加速効果こそが、ポモドーロテクニックの肝だと考えています。
──25分という時間に理由はあるのでしょうか。リラクゼーションドリンクの「CHILL OUT」は、55分仕事をして5分の「チル休み」をとるというサイクルで働く「55協定」を推奨しています。
 個人差があるので、すべての人にとって25分がベストとは限りません。自分にとって最適だと思う時間を設定すればいいんです。
 その意味で60分1サイクルになりがちなビジネスシーンでは、55協定は取り入れやすい休憩方法かもしれませんね。
 どのような時間でサイクルを回すとしても、ポイントは「終了時間を自分で決めること」にあります。
 時間に余裕があるときはダラダラと作業をしてしまうけれど、締切があると頑張れる。そんな実感を持つ人も多いのではないでしょうか。
 東京から新大阪へと向かう新幹線で仕事をしていると、京都を通過した頃から集中力が高まって仕事がぐんぐん進む。そう話す知人がいます。あと少しだと思うから力が出るんでしょうね。
 そうして集中してやり切った後というのは、「あと5分あれば、この仕事もできたかも」という前向きな余白が残ります。この余白の効能も、とても大きいと思います。
──5分間の休憩中は、どのように過ごせば良いでしょうか。
「どうすれば緊張を効率的に緩められるか」を意識すると良いと思います。
 緊張とリラックスは綱引きの綱を引き合っているような関係。集中状態では緊張が優位になるので、適切なタイミングで休憩をとり、リラックスに振り切って過ごす。それができれば、その後の緊張感を高められるので集中が深まりやすくなります。
 ただ、オフモードのスイッチを入れるのがなかなか難しい。実は、緊張のスイッチを入れるよりもずっと難易度が高いんです。だから、外部からの刺激を使ってサポートするのがおすすめです。

早く深く、オフモードになるためのスイッチ

──具体的にはどんな方法がありますか。
 僕の場合は、デスクのまわりにいくつかのグッズを用意しています。
 いま手元にあるものでいうと、顔にかけるミスト状の化粧水や青竹踏みといった触覚刺激を与えるもの、アロマオイルなど嗅覚刺激を与えるもの、それから、ドリンクなど味覚刺激を与えるものですね。
 僕の仕事はリモート会議などの時間が長いので、五感のうち視覚と聴覚への刺激が多い状態。だから、それ以外の刺激を与えることが有効なスイッチになるんです。
 このときのドリンクはコーヒーなどが好まれますが、「CHILL OUT」もいいですね。
 僕は休憩のたびに「CHILL OUT」を飲んでいて、そのおかげかどうかは分かりませんが、なんだか今日は朗らかな気分で仕事ができています。先日ケンカしたメンバーとも仲良くやっていますし(笑)。
──「CHILL OUT」のおかげでしょうか。
 「CHILL OUT」の微炭酸による刺激もあってリフレッシュでき、良い休憩タイムになったと思います。
 こうしたものを手が届く範囲に色々と備えておいて、オフモードへのスイッチにしていますが、選び方にルールは設けていません。なぜなら人によってオフモードになるものは変わるからです。
 集中法にしてもリラックス法にしても、どの方法にどれほどの効果があるのかというのは、調査をすればある程度は判定できます。
 ただし、人間の心理というのはとても複雑で、決してロジカルに説明しきれるものではありません。
 数値にはあらわれなくても「気分が乗っているな」「気持ちよく休めたな」と手応えを感じることもある。そして、こうした計測不能な感覚が、実はとても大切な気がしています。
──確かに。自分自身が効果を感じられているなら十分です。
 エビデンスは重要です。しかし、たとえ迷信やプラセボのようなものであったとしても、その人が望む効果を得ているのなら否定すべきではないのかな、と。
 目指すゴールは、集中できたりリラックスできたりして良い時間を過ごすこと。論理的に正しいかどうかだけで、すべてを判断することはできないと思っています。
 だから能動的にオンオフの切り替えをするための『スイッチ』を色々試してみることが必要ですね。