[大阪 7日 ロイター] - 江崎グリコ <2206.T>が海外展開を本格化させる。その先陣を切るのは、発売開始から48年の歴史を持つ「ポッキー」だ。国内市場の縮小に悩む食品業界では、海外の成長市場に進出する動きが活発化しているが、世界の菓子市場では、米欧大手メーカーのブランドが広く出回っている。

グリコは他社が追随できない「ポッキー」の商品性を武器に、シェア拡大を目指す。

<歩みを遅めることは許されず>

「ポッキーが海外戦略の先陣を切っている。歩みが遅くなると次の事業が遅れる。歩みを遅めることは許されない」―――。グローバルブランドマネージャーの松木剛氏(タイグリコ副社長)は、ポッキーが同社の海外展開における戦略商品であると力説した。

「ポッキー」は1966年に販売を開始したグリコの主力ブランド。現在、中国、タイを中心に、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどのASEAN(東南アジア諸国連合)、米国、「MIKADO」という商品名で展開する欧州など世界約30カ国で5億箱、約4億ドル(日本を含む)を売り上げている。

同社はこれを2020年にグローバル(日本を含む)で10億ドルの売上高とする目標を掲げた。世界のチョコレート・ビスケットのブランドの中で、10億ドル以上を売り上げているのは、ハーシー<HSY.N>の「ハーシーズ」やモンデリーズ<MDLZ.O>の「オレオ」など21ブランドしかなく、ポッキーがこのトップブランドの仲間入りをすれば、アジアでは初めてとなる。

世界での本格展開に向け、パッケージ統一を実施したほか、「Share Happiness」というブランド価値を定め、マーケティングの見直しも行った。

インドネシアでは、ポッキーのワゴン車で学校を訪れてサンプルを配ったり、アイドルグループJKT48をコマーシャルに使用することで認知度向上につなげた。マレーシアでは「来年からテレビコマーシャルを始め、認知度を上げていく」としている。

松木氏は「タイで稼いで、周辺国に投資し、ASEANで黒字になるように運営している」と述べており、人口と所得が増加中のASEAN市場での認知度向上・シェア拡大を優先的な課題と位置付けている。

グリコが初めて海外進出したのは、1970年のタイグリコ設立と歴史は古い。ただ、海外展開に本腰を入れ始めたのは、2012年4月に「グローバルブランドマネージャー」というポジションを新設し、松木氏を充ててからだ。

グリコが海外展開を本格化するにあたり「海外で通用するブランドをいかに作るかが重要」と認識、現在はポッキー・ブランドの展開に経営資源を集中している。

<海外事業は成長のけん引役に>

グリコの2014年3月期の海外比率は、売上高で10%、営業利益で25%。東海東京調査センター・シニアアナリスト、角山智信氏は「国内で構造改革を実行したことで、海外に投資するキャッシュを生み出せるようになった。アジアビジネスの成長ポテンシャルには注目している」という。

また、ポッキーという単一ブランドを中心にしていることで「効率性が非常に高く、利益面での貢献も大きい」と、収益面でのプラス効果も指摘する。

現在注力している東南アジア圏では、ポッキーの購入が難しい所得者層も多い。松木氏は「安くすることも考えたい。品質をある程度守りながら、現地に合ったおいしさレベルにすることも選択肢のひとつ」と、幅広い層への浸透に向けた戦略を練る。

2020年に10億ドルというのは「通過点に過ぎない」と強調する松木氏は、その先も見据える。現在は東南アジアでの拡大に力点を置いているものの、北米をどうするかは、社内で共有された課題だ。

大手流通企業を中心にプライベートブランド(PB)が普及しており、ナショナルブランド(NB)が十分な販売場所を確保するのは難しい状況にある。

ただ、入り口こそ難しいものの、潜在的な需要は大きいと踏んでおり「米国でコマーシャルを流して販売する段階になれば、ポッキーの全世界の売上高は10億ドルどころではなくなる」という。

当面は「SKU(商品のバラエティ)を増やして販売の面を確保するほか、サンプリングでトライアルを喚起していく」としており、徐々にポッキーファンを増やした後、SNS(ソーシャルネットワークサービス)活用やCMなど次の展開に移ることになる。

<独自性生む企業文化>

こうした海外での大幅な売り上げ増を可能にしているのが、同社の誇る高い技術力。焼いたポッキーのビスケット部分をチョコレートでコーティングする技術や、まっすぐに焼くこと、割れずに切ること、気温や湿度に対応することなど、製造工程にはたくさんの「技術」が入っている。世界で展開するに当たっては、チョコレートの融点を変えるなどの工夫も加えている。

日本がリードしてきた「ハイテク」技術が汎用となり、電機メーカーの多くが競争力低下に悩まされる中、菓子にあるのは、職人芸に近い「アナログ」な技術。他社が簡単に真似できない商品となっている。

この技術の背後にあるのは、グリコの企業文化だろう。グリコ創業の菓子は、おもちゃの付いたキャラメル。創業者の江崎利一氏は「子どもにとって食べることと遊ぶことは二大天職」と考えたことが始まりだ。

当時としては珍しい自動販売機を設置したり、大阪道頓堀に巨大なネオン看板を掲げ、商品もマーケティングも、全てにおいて他社との差別化を意識していた創業者の考え方を今も受け継ぐ。この企業文化のなかで生まれた「ポッキー」も、差別化された商品として、海外展開を担っている。

グリコの本社がある大阪では、10月23日に6代目の「グリコネオン」がお目見えした。5代目は通天閣など大阪の名所を背景にしていたが、6代目は、LEDがさまざまな場所を映し出すことができるようになった。

外国人も多く訪れる名所だけに、世界に打って出るグリコとの相乗効果も期待できそうだ。

「総合菓子メーカーとして、世界中の人々がいろいろなグリコの菓子を食べるようにしたい」──。松木氏は海外戦略の未来図を語る。

(清水律子 金昌蘭 編集:田巻一彦)