2022/2/27

【核心】日本人が知っておくべき「台湾統一シナリオ」

朝日新聞社 編集委員(外交・米中担当)
ロシアがウクライナに軍事侵攻をする、と欧米メディアが報じた2月16日。
事態が一気に動き出したのは、前日の15日のことだった。
ロシア国防省は、ウクライナ東部国境近くの部隊が軍事演習を終え、駐屯地へ“撤収”を始めたと発表した。大統領のウラジミール・プーチンも、欧米側と交渉する用意があると発言。国際社会は緊張緩和につながると楽観論が広がり、株価も上昇した。
ところが、だ。緊張緩和とは裏腹の事態が同時に進行する。
同じ15日、ウクライナ当局は、国防省、軍参謀本部の公式サイトや、国営銀行2行のインターネットバンキングが、特定のサイトやサーバーに大量のデータを送りつける「DDoS(分散型サービス妨害)攻撃」を受けた、と発表した。
ほぼ同時に、今度は親ロシア派勢力がウクライナ東部の一部を占拠する。ウクライナ軍とにらみ合う境界線付近では砲撃が急増し、親ロ派勢力の幹部は「ウクライナ軍の攻撃」と批判した。
さらにロシア国営系メディアは、「ウクライナが生物・化学兵器を開発している」「米国が民兵を送り込んで地元住民を虐殺している」などと、相次いで報じたのである。
一方の欧米側は、親ロシア派が偽情報で危機感をあおり、その背後にいるロシアが攻撃の口実にするために自作自演する「偽旗作戦」とみて、警戒を強めている。
2022年2月14日、国境付近で目を光らせるウクライナ軍の兵士(写真:Tyler Hicks/The New York Times)
こうしたロシアの手法は、「ハイブリッド戦」と呼ばれている。戦闘機や艦船といった軍事力「以外」の手段を使う作戦のことだ。
軍艦ではない船舶による領海侵入や上陸、正規軍ではない武装兵の動員のほか、電力や通信網といったインフラの破壊、サイバー攻撃やフェイクニュースの拡散などで敵国をかく乱し、知らぬ間に優位な状況をつくり出すことを狙う。
戦争でも平時でもない「グレーゾーン」の、新たな戦いの形なのだ。
今回のロシア側の動きについて、米国務長官のトニー・ブリンケンは2月17日に開かれた国連安全保障理事会の会合で、次のように明かした。
  1. ロシアが攻撃開始の口実となる危機を演出する「偽旗作戦」から始まる
  2. 爆破テロやドローンによる市民への攻撃をでっち上げる
  3. 生物・化学兵器攻撃を引き起こし、ウクライナや米国を「犯人」と捏造する
  4. 「ロシア系住民を守る」という名目でロシア軍の攻撃が始まる
──という内容だ。その後、米政府の想定通り、ロシア軍の攻撃は始まった
2月25日、ウクライナ・キエフの主要駅に逃げ込む人々(写真:Lynsey Addario/The New York Times)
こうした一連のロシアの作戦と、その展開を凝視しているのが、中国国家主席の習近平(シージンピン)だろう。
なにしろ、2012年に党総書記に就任して以来、政治スローガン「中国の夢」を掲げる習近平の、その最大の目標こそが、中国共産党の悲願である「祖国統一」、つまり台湾統一なのだ。
自らの悲願達成のため、ロシアのやり方や欧米諸国の反応などを綿密に情報収集して分析しているだろう。
ロシア軍が「ハイブリッド戦」を本格的に導入した2014年のクリミア併合の際にも、習のブレーン集団、中国共産党中央政策研究室を中心に、軍や政府機関に現地の情報を収集・分析させていたからだ。
習は2月4日、北京冬季五輪の開幕式に出席したプーチンと北京で、2年ぶりの対面での会談をした。
2人は「内政干渉に反対し、中ロの利益や主権を守る、確固たる相互の支援を確認する」と宣言。
さらにプーチンは、「一つの中国」の原則を支持し、「いかなる形でも台湾の独立に反対する」とも表明して、連携強化を確認している。
2月4日、2年ぶりに対面したプーチンと習近平(写真:Kremlin Press Office/Handout/Anadolu Agency via Getty Images)
習はここ数年、台湾への攻勢を強めている。どのような手段で、いつ、台湾統一を目指そうとするのか。中国共産党幹部の証言などを元に分析していこう。
中国の台湾統一シナリオ
  • ①習近平が「46回」使った言葉
  • ②「2027年目標」が飛び出した
  • ③3期目は「確実」ではない
  • ④山場は2024年
  • ⑤すでに起きている情報戦