2022/2/9

継続率99%超。このサービスで不要なDMがゼロになる

NewsPicks Brand Design chief editor
Micoworks(ミコワークス)というスタートアップをご存知だろうか。現在シリーズA段階にあり、これまでLayerX代表の福島良典氏、THE GUILD代表の深津貴之氏等の個人投資家やマイナビなどの事業会社から8億円の資金を調達してきた。2022年2月にはさらにVC2社から合計12億円を調達。この4年強で累計調達金額は約20億円になる。投資家たちが熱い視線を向けるのには理由がある。彼らが提供する「MicoCloud(ミコクラウド)」がマーケティング手法を大きく転換する可能性を秘めたプロダクトだからだ。新進気鋭のスタートアップと、彼らがマーケティングの世界に起こそうとする革命に迫る。

なぜ顧客がほしい情報が届かないか。企業の事情

近年、特にオンライン上でのカスタマー・エクスペリエンス(CX)の重要性が高まっている。
ECサイトなど、顧客の購買行動のデジタル化が進み、従来オフライン中心だった小売業などでも、オンラインでの顧客接点を強化する必要が生じているのだ。
問題は、Web広告を打っても競合が多く、商品力での差別化が難しいことだ。
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そんな状況下でも顧客から選ばれ続けるためには、顧客と直接つながり、関係性を強め、パーソナライズしたコミュニケーションをとる必要がある。それが成約率やリピート率を高めることにつながっていく。
しかし、「BtoC企業はいまだに『届けたい情報が顧客に届かない』というコミュニケーション課題を抱えている」と語るのは、Micoworks代表取締役の山田修氏だ。
「原因のひとつは、プロダクトの設計思想です。自社サービスを使ってBtoCのやり取りをしているような企業なら別ですが、現場を知らないエンジニアが設計しても、『これが欲しかったプロダクトだ』とはなりません」
そう語るMicoworksは、一貫してコミュニケーション課題の解決に取り組んできた。
新卒マッチングサービスから事業をスタートし、2019年にはLINE公式アカウントを起点に応募者と1to1コミュニケーションができる採用管理システムと、同じくLINE公式アカウントを起点にしたコミュニケーションプラットフォーム「MicoCloud」(当時は「AURA」)を立ち上げ、3つのサービスを並行して展開した。
MicoCloudが企業にとっていかに「欲しかったプロダクト」であるかは、その継続率からも見て取れる。サービス開始から99%超の状態が続いているのだ。
当初は要求水準に満たない部分もあったが、それでも利用企業からは「やめます」ではなく、「ここを直せませんか」と、あくまで継続利用前提で言葉をかけられたという。
そこまで支持されたのは、「現場のペインを真芯で捉えるプロダクトを作ることができる」「要求に応えてよりよいプロダクトにしてくれる」との期待あってのことだろう。
「『ほかのSaaSで、これほど併走してくれる事業者はいなかった』という声もいただきました。
われわれからすると、企業や、その企業が抱える顧客について考えることは『当たり前』だったので、意外に思うと同時に、自分たちの作るプロダクトや開発に臨む姿勢に自信を持ちました。
それで、HR領域に限らず、さまざまな領域の悩みをわれわれが解決できるのでは、という思いが強まり、MicoCloud一本に絞ってアジアNo.1のBtoCコミュニケーションプラットフォームを目指すことにしたのです」(山田氏)
その言葉通り、Micoworksは祖業の新卒マッチングサービスを2020年に、採用管理システムは昨年譲渡し、事業をMicoCloudに一本化している。
譲渡した事業もビジネスとしては非常に順調で、個人投資家やマイナビなどの事業会社から8億円の資金調達に成功したにもかかわらず、だ。

Cookie規制で変革を迫られる企業たち

山田氏曰く、MicoCloudには4つの特徴がある。
まずは、企業が顧客とこれまで以上に容易に繋がれること。
しかし、繋がっただけでは顧客がどんな人かわからない。そこで、MicoCloud上で得た情報と、外部の連携システムで得た情報を組み合わせ、その人となりをリアルに見えるようにすること。
企業にとっても、顧客にとってもワンストップのプラットフォームになること。
そして、専門知識を持たない現場の人間にも扱いやすいということだ。
それぞれの特徴を順に見ていこう。
スマホの普及により、多くの人がLINEやInstagramなど複数のアプリを使い分けながらコミュニケーションを取ることが当たり前になってきた。かわりに、従来のコミュニケーション手段は力を失いつつある。
「メールを送っても反応がない。電話をかけても取ってもらえない。だから、話したいこと、聞きたいことがあっても、そもそも顧客と繋がれない。しかし、これがチャットとなると、簡単にレスポンスが返ってくるのです」(山田氏)
普段はFacebookやInstagramを利用していても、「家族や友達とのやり取りはLINE」という人は多いだろう。
そこでMicoCloudもLINE公式アカウントをベースに設計された。
LINE公式アカウントはLINEが事業者向けに提供しているサービスだ。LINEがインストールされていれば、新規に何かダウンロードしたり、情報を入力したりする必要はなく、事業者のアカウントを友だちに追加するだけで、顧客と事業者が繋がることができる。
その手軽さから、LINEユーザーの約7割が何らかのLINE公式アカウントに登録、60代以上でも半数以上が登録しているという。
スマホ用のネイティブアプリを用意している企業は多いが、ダウンロードの障壁が高く、また、一日に何度も開くLINEと違って、通知が来たとしてもアプリを立ち上げるひと手間がいる。
だから、いきなりネイティブアプリを使ってもらうのではなく、LINEで新規顧客やライトユーザーを獲得し、囲い込み、定着後にネイティブアプリを併用してもらう、という流れのほうがスムーズだ。
iStock.com/monzenmachi
ただ、LINEで登録してくれたとしても、それだけでは顧客の情報は何もわからないに等しい。
だから、登録してもらったあとは、「あなたが欲しいのはどんな情報ですか」とメッセージを送り、「新店舗の情報」「近隣店舗のイベント情報」などと選択させ、「何が好きなのか」「どんな情報が来ると嬉しいのか」を探る。
「LINE公式アカウント上で動いているMicoCloudが、顧客の情報を取得するのは大きな意味があります。
データを取得する許諾を取っているので、LINE上での行動ログや何をタップしたかがわかります。また、オフラインの店舗では、実際に来店した際にどんなアクションをしたかとかいうデータを入力できる。
それらを紐付けていくことで、ユーザー像が立体的になるんです」(山田氏)
MicoCloudではさまざまな顧客情報を取得することができる。
現在、個人情報保護強化の世界的な潮流により、多くの企業がマーケティング施策の抜本的な方向転換を迫られている。
デジタルマーケティングにおいて、個人情報データ活用の観点から、Cookieは重要なツールだった。しかし、最近では、EUを皮切りに主要各国が法規制を強化、GAFAをはじめとする大手プラットフォーマーも個人情報保護を強化する動きを進めている。
Cookieが規制されると、複数サイトを横断したユーザーの行動履歴を収集できなくなる。「このユーザーはGoogleでこれを検索していた」という、これまで得られていた情報が失われると、新規顧客獲得の主な手段だったリターゲティング広告の精度は低下する。
その穴を埋めるためにも、MicoCloudのような直接顧客と繋がることができるサービスが必要とされているのだ。

99%。有名SaaSに負けない顧客継続率の秘密

現在のMicoCloudは、OMO(オンラインとオフラインの融合)、つまりリアルな店舗や拠点を持っている企業、特に多店舗展開している企業を対象にしている。
顧客情報の収集がうまく行えている企業でも、新規顧客獲得と既存顧客フォローが別々に行われ、顧客データの情報管理ツールがバラバラなのは珍しくない。
オンラインとオフラインで管理ツールが異なることもあるし、多店舗展開していれば、なおさら管理の煩雑さは増す。結果、一人ひとりのニーズに応じた顧客体験の提供が困難になる。
「われわれの出発点は『LINEで何ができるか』ではなく『顧客体験を最適化する』です。ですから現在もっとも顧客フレンドリーなLINEを起点にし、すべてがLINE上で完結する、ストレスなく脱落しにくい動線を構築しています。
ワンストップである点は企業にとっても同じで、顧客との接点が現在最も取りやすいLINEを入り口にしていますが、LINEでできることはLINEで、LINEでカバーしきれない部分は、外部システムなどとの連携によりカバーします。
といっても、MicoCloud上で操作していることには変わりなく、その業態で必要な顧客接点すべてをひとつのシステムで完結するのです」(山田氏)
オンライン診療を例にすると、企業はLINEで新規集客して、顧客は予約機能を使って予約をする。時間になったらリンクを開いて診療を開始。その後の決済も、薬の購入までLINE上で完結。すでにMicoCloudはそれを実現させている。
最後、「専門知識を持たない人にも扱いやすいプロダクトである」というのも、MicoCloudの大きな特徴だ。マーケターの視点で「必要なことが全部できる」ように作られつつ、マーケターのため「だけ」には作っていない。
「接客業を例にすると、オフラインで顧客に接するのは店舗などの現場の人です。そこで得られた情報がきちんとマーケターに上がってこないと、顧客のセグメンテーションがうまくできない。
既存のツールに対して、『多機能だけど使いこなすのが大変で、マーケターはともかく、現場の人には扱いきれない』という声をよく聞きました。しかし、MicoCloudなら部署の垣根を超えて同じシステムを使うことができます」(山田氏)
「本当はもっとこうしたほうがいい」とわかりながらも、目先の忙しさや売上目標に追われて、いまだにDMをばらまいているマーケターはたくさんいる。
しかし、顧客としては求めていない情報をいくら届けられても興味はわかない。逆に、顧客の人生を豊かにするために必要な情報を持っていても、しっかり届けられていない企業もあるだろう。
「これだけITが発達しているのだから、得られた顧客情報をもとに、ボタンをタップするだけで適切な情報発信ができるツールが作れるはず。
MicoCloudはまだその途上ですが、一人ひとりの『知りたい』と『伝えたい』を適切に繋げられるコミュニケーションプラットフォームになりたい。そのためにも、まずは『ダイナミックセグメンテーション』を実現させたいと考えています」(山田氏)
これらの4つの特徴は、MicoCloudが目指す未来にとって、必然的なものなのだ。

「ダイナミックセグメンテーション」で世界を5年で変える

「ダイナミックセグメンテーション」は、ごく最近海外で提唱された概念だ。飛行機やホテルの値段をそのときどきの状況に応じてリアルタイムに変化させる「ダイナミックプライシング」のマーケティング版と言えば、わかりやすいかもしれない。
これまでのマーケティングでは、「その人の属性」や「過去の行動」は拾えても、リアルタイムの情報を取得し、生かすことは難しかった。
結果、結婚して子どもができた夫婦にカップル向けの情報が送られてきたり、いつまでも旧住所にDMが送られていたり、という事態が起こる。
あるいは同じ「神戸/30代/男性」という属性の飲食店の顧客でも、家族で行く人なら子ども向けメニューのクーポン、職場の同僚と行くならビールのクーポンが嬉しいはずだ。
顧客に今必要な情報を送るためには、属性にまつわる情報を集約し、かつ情報をリアルタイムに更新する必要がある。
「たとえば都市部でいきなり雪が降ったとき、困る人はたくさん出てきます。既存のシステムでも、今、雪が降っているエリアの住人に一斉にメッセージを送ることは可能ですが、僕たちはダイナミックセグメンテーションで、それを一歩進めたいんです」(山田氏)
雪が降っているエリアの住人の過去の回答や行動の情報をもとに、「この人は子どもがいるからこのメッセージを」「この人は独身だからこのメッセージを」と自動でクラスタリングし、それぞれにとって最適なメッセージを送り、行動を促すのだ。
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「一般的なマーケティングツールでは、最高でも1日1回程度しか顧客の情報を取り込めず、リアルタイム性に乏しかった。でも、雪が降っているときに喜ばれる情報は、すぐに送らなければいけません。
そんなダイナミックセグメンテーションをMicoCloudで実現させるためにも、もう一段階アクセルを踏み込もうとしているところです」(山田氏)
その言葉の通り、Micoworksでは今年、100名程度の採用を見込んでいる。現在の従業員数が70名(業務委託含む)なので、倍以上になる計算だ。
「とにかく売上が上がればいいというのではなく、創業当時からの顧客志向はそのままに、さらに成長していきたい。
本気で『アジアNo.1のコミュニケーションプラットフォームを目指すという目標のもと、ここ最近はグローバルで戦う準備もしています。少し前まではスタートアップにありがちなカオスな状態でしたが、規模を拡大させる体制を整えたところです。
企業やその顧客を喜ばせることが何よりも楽しい仲間たちと、マーケティングの世界を一気に変えていきますよ」(山田氏)