2022/2/9
進出37年目の本音。シリコンバレーで日本企業がぶつかる壁
日商エレクトロニクス株式会社 | NewsPicks Brand Design
最先端のテクノロジーを求めて、シリコンバレーに拠点を作る日本企業は後を絶たない。だが、大企業がこぞって駐在員を派遣する一方、成果をあげられる事例は多くないのが現状だ。
そんな中、1985年からシリコンバレーに拠点を持ち、スタートアップを発掘して日本市場に紹介してきたのが、NISSHO ELECTRONICS USA。日商エレクトロニクスのリサーチ&事業開発拠点だ。
37年間、どんな壁にぶつかり、どう乗り越えてきたのか。日本企業は、シリコンバレーでどんな価値を出せるのか。NISSHO ELECTRONICS USA 代表で、現在シリコンバレーに駐在する榎本瑞樹氏に、その本音を聞いた。
コロナ前からZoomにアタック
──日商エレクトロニクスは、37年も前からシリコンバレーに拠点を持っていたと。具体的に、どんなビジネスをしてきたんですか?
そもそも日商エレクトロニクスは、ITに特化した商社です。
多種多様なITサービスを、お客様企業に一番適した形で導入することを生業としてきたんですね。ですから、いかに優れたテクノロジーを、いかに早く発掘できるかがビジネスの肝になる。
──具体的に、どのような実績があるのでしょうか?
わかりやすい例は、Zoomですね。日本の代理店として、2019年からZoomのライセンス販売を始めました。
Zoomに可能性を感じてコンタクトを取り始めたのは、2017年頃。まだZoomが100名程度の規模で、CEOのエリックとも気軽に打ち合わせができた時代です。
──世界がコロナに見舞われる前ですから、日本ではほとんどオンライン会議が一般化していない時期ですね。なぜZoomは日本でも需要が高まると予測できたんですか?
やはり、URLをクリックしただけで会議が始まるあの利便性を、現地で体感したことが大きい。
アメリカは国土が広い土地柄もあり、コロナ前からオンライン会議が普及していたんですよ。実際にZoomの契約を決めたのは前任の駐在員ですが、私もスタートアップとのミーティングでZoomを使っている企業を、昔からチラホラ見かけていました。
一方で2017年当時、日本でオンライン会議というと、かなり使い勝手が悪かった。パソコンからプロジェクターにつないで、マイクをつないで、でもうまく音声が入らずあれれ……?という感じで、すごく面倒くさいものだったんですね。
それが、Zoomでのオンライン会議は、URLをクリックしただけで始まり、音声もクリア。ここまでストレスがないならば、遅かれ早かれ日本でも必ず重宝される日が来るだろうと。そこで、その駐在員が日本市場を一緒に開拓しようと声をかけたんです。
Zoomとの契約を機に、コラボレーション事業にも参入しました。
というのも、リモートワークの急激な普及から「Zoom疲れ」という言葉も生まれ、常にオンライン状態でなくても自分の都合の良い時間にやりとりしたいとの需要も生まれているんです。
そんな非同期コミュニケーションを支えるワークマネジメントツールであるAsanaと2020年に契約を結び、さらに事業の幅を広げています。
──とはいえ、消費者の情報収集能力が上がっている今の時代は、仲介者がいなくても、勝手にサービスが広まっていく傾向も感じます。日商エレクトロニクスが代理店となることで、Zoom側にどのような価値を提供できるのでしょうか?
確かにB to Cでは、サービスが自然と広まっていくケースもありますね。ですが、B to Bの世界では少し事情が違う。
日本の大企業に大規模に導入してもらうならば、やはり感度の高い企業のキーパーソンにいかにコンタクトできるかが重要です。
だからこそ、コネクションのないシリコンバレーのスタートアップと日本企業を商社である私たちがつなぐことで、価値を出せる。もちろん、導入に際しての技術的な支援も行ないます。
さらに企業での本格導入に至るまでには、様々な承認を通す必要がありますよね。そこで求められるのが、使い勝手や企業としての信頼性の部分。
いくら素晴らしいテクノロジーが使われていても、「いかにもネットで翻訳しました」という不自然な日本語が表示される製品だったら、全社に導入する合意はなかなか得づらい。
Zoomの販売を始めるときも、文化のギャップを埋めるようなローカライズを意識して、日本語のFAQを充実させることに注力しました。小さい話に聞こえるかもしれませんが、こういったきめ細かな対応が、サービスを広める上でカギを握ると思うのです。
クラウドの波を伝えられなかった後悔
──榎本さんは、2008年に一度アメリカに駐在して日本へ戻った後、二度目の駐在を熱望して今に至ると聞きました。なぜシリコンバレーに戻りたかったのでしょう?
最初の駐在で感じた悔しさや後悔を、どうしても忘れられなかったんです。
最初に赴任した2008年、IT業界はちょうどクラウドの出始めで、AmazonがAWSでクラウドサービスに参入すると発表した頃。
今となっては想像もできませんが、みんなが「クラウドって何? なんだか雲をつかむむような話だね」なんて言っていた時代ですよ(笑)。
このクラウド化の潮流には、現地にいると並々ならぬ勢いを感じました。そこで「クラウド時代が来る、日本でもビジネスモデルの変革を考えなければいけない」という渾身のレポートを書いて日本側に送りました。
ですが、正直当時は、誰も相手にしてくれなかった。私の経験不足もあって、日本側を納得させられるほどの説得力がなかったんですね。
ハードからクラウドへ移行するゲームチェンジの瞬間を間近で見ていたのに、何もできなかった。これが悔しくて。
日本に帰ってからも忘れられず、もう一度アメリカへ行ってチャンスをつかみたいと会社に言い続け、2019年にシリコンバレーに戻ってこられました。
──二度目ともなると、やはりうまく立ち回れるようになるのでしょうか?
いえいえ。二度目だからといって、スマートにこなせているわけでは全然ありません。
正直に言って、任期に期限がある駐在員がインナーサークルにどっぷり入り込むのは、本当に難しいのです。
私たちのような立場からスタートアップを発掘して関係を築くには、やはり愚直に努力を積み重ねるしかないと思っています。
シリコンバレーでスタートアップを発掘する方法としては、王道ですが様々なイベントやネットワーキングに顔を出すことが大事。「You were there! (君、あのときあそこにいたよね!)」と、覚えてもらえるように心がけています。
シリコンバレーでも、意外とこういうウェットな付き合いが、商談や取引につながっていくものなのです。
そのほかは、スタートアップのデータベースや起業家のLinkedInをチェックして、どんな投資家が出資しているか、どんな技術が使われているかなどの観点から企業を絞り込んだ上で、アポイントを取っていきます。
こういったシーンでも、IT商社として技術的な目利きができる社員を抱えているのは、大きな強みです。
──とはいえ、シリコンバレーで「日商」の名前を知る人はほぼいないですよね。どうやってアポイントにこぎつけ、信頼を勝ち取っていくのですか?
「自分があなたの会社にどんな価値を提供できるか」を端的に伝えます。それが大前提。
日本の企業がシリコンバレーに来てやってしまいがちなのが、会議の最初にパンフレットを見せながら会社説明をしてしまうこと。
シリコンバレーでビジネスが動くスピードは、日本の何倍も速いのです。そんななかで、「うちの会社は従業員が2万人、世界中に支社がありまして……」なんて話は、スタートアップの起業家から見たら、時間の無駄にしか思えないんです。
そこで私がいつも考えているのは、自分がスタートアップ側の人間だったら、海外に市場を広げる上で何が知りたいのか。
だから、「そのスタートアップの事業領域の日本での市場規模はどれくらいか?」「可能性のある取引先にはどんな例があるか?」など、こんな情報が欲しいんじゃない?を先回りして伝えています。
そうすれば、スタートアップ側は私たちと組むことでどんな価値があるのかが見えるし、こちらの本気度も伝わるのです。
目指すは、日本企業との共創
──二度目の駐在を経験する中で、見えてきた課題はあるのでしょうか?
今、私たちの事業は、スタートアップの技術やサービスを日本企業に導入するという、いわば仲介業にとどまっています。ですがそれでは、そこからビジネスが発展する可能性は小さく、単なるツール導入で終わってしまう。
だからこそ私たちは、日本企業とシリコンバレーのスタートアップが、新しい事業を共創するところまでお手伝いしたい。それが今まさに、取り組み始めている新しい事業です。
日本企業はこれまで、自社の知財やテクノロジーでビジネスを完結させる、自前主義の傾向にありました。しかし、それでは知の掛け合わせであるイノベーションは起こりづらい。
シリコンバレーの先端技術と、日本の企業が合わさることは、その限界を破る突破口になると思っているのです。
──日商エレクトロニクスは、具体的に何をサポートするのでしょうか。
スタートアップの発掘、日本企業とつなぐことはもちろん、そのあとのアイデアの着想や、アジャイル開発でプロトタイプをつくり、事業化させるところまで、全体のサポートを考えています。
デザイン思考を身につけるワークショップも全社で実施しており、組織全体として事業作りの基礎力を鍛えているところです。
シリコンバレーの企業との共創事例ではありませんが、国内ではすでに、花王さんや三菱地所さんと一緒に、東京・丸の内エリアの廃プラスチックを回収・製品化する実証事業を行なっており、事業共創の知見は社内に蓄積されています。
事業共創支援のプロセス
──事業共創支援を掲げる企業は他にもありますが、日商エレクトロニクスならではの強みは何でしょうか?
日商エレクトロニクスは、IT商社としてテクノロジーへの知見があります。PoC(Proof of Concept)などの実証実験の部分でも、しっかり入り込んでサポートできる自負があります。
また少し感覚的な部分になりますが、私たちなら日本企業とシリコンバレースタートアップの考え方や文化を、両方汲み取れる。
日本企業とスタートアップをつなぐには、ビジネス習慣を含む文化の違いや、事業を進めるスピード感の違いなど、膨大なすり合わせが必要です。
どちらかの考え方を押し付けても、やはりうまくいかない。そういったすれ違いで苦い経験をしたことも、正直あります。
それらの経験をもとに、私たちは現場に入り込んで、実際のコミュニケーションのところまで連携しながら、事業共創を支援していくつもりです。
ビジネスは最終的には、人対人。小難しいフレームワークや机上の理論を振りかざすのではない、現場に寄り添った支援を通して、日本企業が次のステップに飛躍するお手伝いをしていきます。
執筆:シンドウサクラ
撮影:後藤渉
デザイン:藤田倫央
編集:金井明日香
撮影:後藤渉
デザイン:藤田倫央
編集:金井明日香
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