2022/2/7

【NRI】なぜ働きがい共創?変わる「会社と社員の関係」

フリーランス ウェブ編集者・ライター
働く人のエンゲージメント向上を通じて、組織の改善サイクルを生み出す「Wevox(ウィボックス)」。このWevoxを手がける株式会社アトラエとNewsPicks NextCulture Studio(以下、NCS)がタッグを組み、「エンゲージメント×マネジメント」をテーマに掲げた連載をスタートする。

Wevoxではエンゲージメントを「組織や仕事に対して自発的な貢献意欲を持ち、主体的に取り組んでいる状態」と表現する。この連載では先進企業の取り組みを学び、いかにエンゲージメントが組織力に接続するのかを議論していく。

初回で取材したのは、株式会社野村総合研究所(以下、NRI)。NRIは現在、2022年度末までの長期経営ビジョン「Vision2022」の最終段階に入っている。その柱の一つとなっているのが、社員のエンゲージメント向上による組織力強化を目指す「働きがい共創」だ。

働きがいが組織力にどのようにつながると考えているのか、働きがいをなぜ「共創」するのか、NRIの人事・人材開発担当を務める執行役員の柳澤花芽氏に、NewsPicks NCSプロデューサーの山本雄生が聞いた。

協賛:株式会社アトラエ Wevox(ウィボックス)
INDEX
  • 共に創る「働きがい」
  • 企業理念を浸透させる重要性を知った
  • 会社が好調だからこそエンゲージメント向上に着手する
  • 丁寧なコミュニケーションを地道に重ねる
  • 組織力向上のために、経営と人事で密に連携する
  • 目に見える成果が出るまでに3年はかかる

共に創る「働きがい」

──なぜ、「働きがい共創」と命名を?
NRI 柳澤 社員だけが頑張ったり、会社から単に何かを与えたりするのではなく、自分たちにとって最も望ましい状態を一緒に創りあげていこうと、「働きがい共創」というフレーズを掲げました。
 NRIグループでは、行動指針の「真のプロフェッショナルとしての誇りを胸に、あくなき挑戦を続ける」を貫いてきました。2021年には東証一部に上場して20年目の節目を迎え、また現在の長期経営ビジョン「Vision2022」の次を検討する時期となっていますが、培ってきたプロフェッショナルとしての誇りを持ちながら、さらに新しい挑戦をしていく組織でありたいと考えています。
 その過程でカギとなる要素が「働きがい」です。一人一人の価値観に合う「働きがい」に対応し、エンゲージメントを高めることが、組織力の強化や会社の成長加速に確実につながると捉えています。
1991年に東京大学卒業後、株式会社野村総合研究所に新卒入社。システム部門で業務分析などシステム開発の上流工程を経験した後、1996年にコンサルティング部門に異動となり、戦略コンサルタントとして中期経営計画策定、事業戦略、M&A、組織開発、風土改革など様々な領域・テーマに従事する。2015年に部長職に昇進した後に異動し、2019年に経営役・人事部長となる。2021年4月に執行役員に就任して、人事・人材開発を担当して現在に至る。
 挑戦を加速する制度改革も進めており、来年度から新しい人事制度に移行する予定です。
 近年のNRIは、こうした制度改革と並行して、社会に目を向けた社会価値共創活動、そして社内組織や社員に目を向けた働きがい共創を進めています。会社と社員が互いに良い影響を与え合いながら成長し、それが社会の成長にも貢献できる組織でありたいと考えています。
──働きがい共創では、具体的にどのような取り組みをされていますか。
柳澤 まずは2021年5月にオンラインで「働きがい共創フォーラム」というイベントを開催し、経営からのメッセージや組織開発に関する有識者の登壇などを通じて、会社の“本気度”を社内に示しました。公募の結果、700名ほどの社員が参加してくれたのですが、想定の3倍以上で驚きましたね。
 このフォーラムを踏まえて、6月にWevoxを用い全社サーベイを実施しました。これも任意での回答でしたが、回答率は88%でした。
 結果の中では、特に企業理念や戦略への納得感、経営陣への信頼が比較的高い結果になり、役員だけでなく社員にも「他の社員もそう感じていたんだ」と安心感が広がりました。役員層も結果に手応えを感じていて、「この状態であれば、よりダイナミックな変化を起こしていけるかもしれない」と話しています。
 逆に、仕事量やワークライフバランスのスコアはあまり良くなかったため、手を打っていくべきだと考えています。
 サーベイ後は現場ごとに結果を踏まえて「自分たちは何をすべきなのか」を考えてもらい、人材開発部が提供しているさまざまな好事例を参考に、プログラムを自由に選んで実行に移してもらう仕組みをとっています。社員、会社、そして社会を含めてお互いに成長できるような形を目指す上で、Wevoxは共通のモノサシとして機能しています。
──全社的な施策以外にも取り組んでいることはありますか?
柳澤 全社共通のサーベイ以外に、手を挙げてくれた一部の部署でWevoxの「パルスサーベイ」を導入しました。全社サーベイよりも頻繁に実施できるので、コンスタントに施策を打って結果を検証しています。

企業理念を浸透させる重要性を知った

──柳澤さんは人事部に移られる前、戦略コンサルタントとしてクライアント企業に伴走されていたと伺いました。取り組みの背景には、当時のご経験が生きていますか。
大学卒業後に広告会社へ入社し、営業、プランニングを経験。2016年3月よりNewsPicksに参画。Brand Design Teamの立ち上げに従事。2019年1月からはNewsPicks Enterpriseへ参加。2020年7月より組織カルチャーを変革するNextCulture Studioを立ち上げ、事業責任者、プロデューサーとして主導する。
柳澤 そうですね。私は新卒でNRIに入社して以来、2019年まで主に戦略コンサルティングの部門に所属していました。その期間に、現在の「働きがい共創」につながる転機があったんです。
 もう10年以上も前のことですが、あるクライアントから「企業理念を浸透させたい」とお題をいただいたときのことです。正直にお話しすると「なぜ、そんなことをするのだろう?」と疑問に思いました。
──なぜでしょう?
柳澤 当時の私はお恥ずかしながら、自社の企業理念も正確には覚えていなくて(笑)。企業理念というものをそれほど重視していなかったんです。
 クライアントの経営層と議論を重ねる中で「厳しい市場環境ではあるが、閉塞感のある組織の雰囲気を打破し、なんとか社員のモチベーションを向上させたい」という切実な思いに打たれました。また、これまで何度もスローガンを掲げたりイベントを開催したりするなど試行してみたが一過性の盛り上がりのみで効果がなく、自社の原点である企業理念の浸透に一縷の可能性を見いだしたということも分かりました。
 NRIが支援する形でのプロジェクトは3年間続きました。その中で、自身の仕事が世の中にどういう価値をもたらしているのか、仕事の中で困難に直面した際に自分たちはどのような姿勢を貫くのかといった対話を通じ、自社の企業理念を深く理解する活動を社内のすべての部署で実施しました。
 最初は私も半信半疑でしたが、確かに組織の雰囲気が大きく変わって、組織力が強化されていったんです。NRIが支援を終えてからも自律的に活動が継続されており、組織の良い状態が続いているようで、「風土改革」の意義、効果を思い知らされましたね。
──それを経て、NRIでも実施してみようと考えたのでしょうか?
柳澤 いずれ推進してみたいとは思いましたが、人事部に異動した当初は「まだ今ではない」と考えていました。というのも、企業組織の風土と状態によって、タイミングややり方を変えたほうがいいと感じたからです。弊社は比較的ボトムアップな社風ですから、風土改革に取り組むなら、現場に問題意識がないタイミングで上から押し付けても、社員に響かないことが想像できます。
 そこで、まずはエンゲージメントの重要性について情報を提供したりディスカッションしたりしつつ、現場が「温まる」まで待っていたんです。次第に各部署で独自にサーベイを実施したり、「エンゲージメントに関する取り組みを全社で実施してほしい」と声が上がったりするようになりました。
 同時に経営層においても、全社で統一的なモノサシで確認ができるエンゲージメントサーベイが必要だという意見が出てきました。社会的にも、生産性向上を目的とした従来の「働き方改革」にとどまらない「働きがい」のトピックが議論され始め、機が熟したと判断して「働きがい共創」の準備に着手しました。改革に着手するタイミングを見極めるのは、とても重要だと思います。

会社が好調だからこそエンゲージメント向上に着手する

──「働きがい共創」に着手すべき理由には業績やモチベーションの低迷があったのでしょうか。
柳澤 どちらかというと、弊社の業績は良好な状態にあります。またモチベーションの面でも切迫した大問題があるわけでもありません。
 ただ、世の中の動きがとても早いので、状況が良いときに手を打っていかないと変化についていけなくなります。今後もし何か状況が悪くなったときに、立ちゆかなくなってしまうかもしれない。そのような危機感を、経営層は強く持っています。
 特に、人材は弊社にとって唯一といってよい大切な資産であり資本です。今もそうですが、今後も採用をどんどん強化する予定ですし、入社した社員には、本人が選ぶ限りはできるだけ長くNRIで活躍し、成長してほしいと思っています。ですから、経営層が「人」にかける熱量は非常に高いものがあります。切迫していなくても今のうちに人材へ投資しておくべきだ、というのが役員層の共通認識ですね。

丁寧なコミュニケーションを地道に重ねる

──組織変革を推進するとき、明確な経営や業績への貢献が見えづらく、社内での「危機感の共有」が難しいのではないかと思うのですが、工夫されていることはありますか?
柳澤 もちろん私たちも、難しさは常に感じています。たとえば、現場に依頼しても動けない場合、現状がうまくいっているから次のアクションを起こさない場合と、今が忙しすぎてエンゲージメントの向上に手が回らない場合があるようです。
 しかし、特に後者のケースは放置すると危険です。忙しすぎる状態が続くとエンゲージメントはますます低下し、生産性が下がり、離職者が出て、さらに多忙になるという悪循環に陥る可能性があります。それを防ぐためにも、私たち人事や人材開発が可能な支援をする必要があると思います。ただ、どのような場合でも現場組織が自ら取り組むことは欠かせないので、結局は人事・人材開発と現場組織とで地道にコミュニケーションするのが一番なのかなと。根気がいる仕事ですね。
──組織力向上を目指す企業からは、サーベイのような組織評価のスコアに縛られて本質を見失ってしまう、という懸念も聞こえてきます。
柳澤 前提として、弊社が全社サーベイを実施したのはまだ1回なので、今のところあまり結果に縛られる動きは出てきていません。しかしこれを続けていくと、数字のアップダウンに一喜一憂したり、スコアが低い部署へ限って指導が入ったりする可能性があるだろうな、と予想しています。
 そのような動きが行動を変える良いきっかけになる可能性もあるでしょうが、本質的ではないはずです。逆にスコアが良かったら何もしなくていいのかというと、そんなこともないでしょう。スコアとの向き合い方は、今後注意して見ていかないといけないと思っています。
 スコアは他の部署と比べるのではなく、項目ごとに自分の部署における変化を見ながら、自分たちのアクションや状況を鑑みて次に進む材料の一つにしてほしいですね。

組織力向上のために、経営と人事で密に連携する

──日本企業において、人事が経営と遠いケースが多いようです。一方でNRIは、柳澤さんが執行役員であるように人事と経営が近いからこそ、全社的に改革できるのではないかと感じました。
柳澤 そうですね。弊社では経営会議には人事部長が必ず陪席することになっていますし、人事担当役員が取締役会で報告を求められることも多く、そこでは社外取締役からさまざまな意見を頂きます。また、投資家向けの説明会などの様子からも株主の皆さまの「人」に関する関心の高さを感じます。こうした点に見られるように、「人」に関する事項は経営における最重要課題の一つとなっています。
 というのも、弊社では、どんな事業、どんな業務の話であれ、「人」の話になることが多いんですよね。ですから弊社の場合は、人事と経営がかなり近いと思います。
──組織力の向上のためには、経営層にもエンゲージメントや働きがいの分野に向き合ってもらうことが重要ですね。組織カルチャーの変革というと、仕事が直接的な成果につながりにくく、途中で疲弊してしまう担当者の方も多いようです。
柳澤 トップも含めてきちんと応援すべきで、それは経営の仕事だと思います。スコアが悪いときだけ問い詰めて、あとは放っておいているようでは、改革しようにも長続きしません。トップが「人」に関する課題の重要性を理解して、成果が見えてくるのが数年先になるとしても応援をやめない必要があるでしょう。
 弊社の場合、今の社長の此本臣吾はコンサルタント出身で、「業績が良いときほど改革に向けた行動を起こすべきだ」ということを理解してくれています。Wevoxの導入に関しても、おそらく初回のスコアは悪くないだろうと見込んだ上で、「良いときだからこそ先を見越して、リスクになりそうなところに手をつけよう」と後押ししてくれました。その後も「働きがい共創」について全社への発信を続けてくれています。

目に見える成果が出るまでに3年はかかる

──エンゲージメントと業績がどう連動するのか、数値として実感しにくいのが現状です。人材開発の分野においては、現在打っている施策が花開くのは少し先の話になると思いますが、NRIの「働きがい共創」ではどのくらい先を見据えていますか?
柳澤 「成果が出たね」と言えるようになるまでに、3年はかかるのではないかと考えています。ただ、短期的かつ小規模な成果も少しずつ出てくるでしょうから、その成果も大切に拾っていきたいです。
「退職しようと思っていたけれど、ここが変わったからもうちょっと頑張ってみよう」と思う人が出てきたり、組織の雰囲気が明るくなったり、談笑する人が増えたりといった変化を見逃さないことが重要だと感じます。
──組織力に関する課題が全て解決することはなく、ずっと向き合い続ける必要がありますよね。
柳澤 そう思います。以前にクライアント企業の風土改革を担当したとき、プロジェクトを経てお客様の社内で自走し始めたのですが、しばらくするとやることが尽き、飽きてきて、取り組みそのものに対するモチベーションが下がっていったことがありました。
 弊社でもそういう段階はくるだろうなと思っています。マンネリ化と闘いつつ、どのように取り組み続けてもらうのかはすごく難しい課題なので、私にとってもそこはチャレンジですね。
──NRIはさまざまな事業と文化を内包していますが、今後どのような共創を目指していきますか?
柳澤 NRIは今後、ますます多様性を広げていかなくてはなりません。人材の多様性はもちろんのこと、事業の多様性もです。その中で、価値観の異なる人同士の壁や、組織間の壁などの問題にも直面することになると思います。しかし、そのような問題を乗り越え、社員が互いを尊重しつつ力を結集できるように、土台と仕組みづくりに引き続き奮闘していきたいと思います。
NewsPicks NextCulture Studioでは、Wevoxと共同でパーパス経営の実装を考えるNEXT CULTURE CLASSを運営しています。

2022.2.8 Tue 11:00 - 11:40 オンデマンド配信
Special Guest : 名和 高司(一橋大学ビジネススクール 客員教授)


協賛:株式会社アトラエ 
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