2022/2/24

【カルチャー変革】職域を越えて、自走する組織とは

フリーランス ウェブ編集者・ライター
働く人のエンゲージメント向上を通じて、組織の改善サイクルを生み出す「Wevox(ウィボックス)」。このWevoxを手がける株式会社アトラエとNewsPicks NextCulture Studioがタッグを組み、「エンゲージメント×マネジメント」をテーマに連載中。

Wevoxではエンゲージメントを「組織や仕事に対して自発的な貢献意欲を持ち、主体的に取り組んでいる心理状態」と表現する。この連載では先進企業の取り組みを学び、いかにエンゲージメントが組織力につながるのかを議論していく。

第2回で取材したのは、株式会社ヨックモック。ヨックモックは2019年に設立50周年を迎え、ミッションに変更を加えた。「社員が夢に向かって進み、共に成長できる企業であり続けます」との言葉のとおり、Wevoxを取り入れて経営陣と社員が対話を重ねながら、「人と人とのつながりをデザインし、おいしさと笑顔が共にある世界」の実現に向けて邁進している。

また、本社、販売店、工場など様々な職種、勤務形態が存在するメーカーにおいて、組織全体のエンゲージメントをどうデザインしようとしているのか。ミッションの先にどのような組織を目指しているのか。企業と個人の関係においてどのような状態を理想としているのか。企業カルチャーの変革に伴走するNewsPicks NextCulture Studio(NCS)プロデューサーの山本雄生が、ヨックモック代表取締役の藤縄武士氏に伺った。


協賛:株式会社アトラエ Wevox(ウィボックス)
INDEX
  • 設立50周年、ミッションを刷新
  • 個人が自走できる環境づくりが、会社の成長につながる
  • 定点観測によってミッションの実現を加速させる
  • 対話によって課題を早期に顕在化させる
  • コロナ禍で社員から生まれたアクション
  • 個人と会社が高め合う関係性の実現へ

設立50周年、ミッションを刷新

NewsPicks 山本 設立50周年を契機にミッションを刷新されましたね。なぜ、あらためてミッションに注力したのでしょうか。
ヨックモック 藤縄 これまでは、ありがたいことにヨックモックブランドが順調に成長してきたため、経営陣としても社員の意識としても、新しいことに挑戦するより、既存事業を伸ばすことにリソースを割く傾向にありました。
 しかし国内市場が徐々に収縮している今、弊社が50年蓄えてきた資源をもっと新しい挑戦に注ぐべきだと考えています。
1971年東京都生まれ。玉川大学卒業後、商社勤務の後、2005年に株式会社ヨックモックに入社。製造部、管理本部、営業本部を経て、2015年に代表取締役に就任。
 また、社内で中心的な役割を担う社員が40代前後にシフトしつつあります。そういった次世代の弊社を担う方々に新しいミッションを共有し、さらなる挑戦に向けて動いていきたい思いがありました。
 社外の要素としても不確実性が高い時代になり、今までの延長線上では物事がうまく進まなくなってきているように感じています。社員がアンテナを張って新しい情報を取り、個別に判断して動く 自走する組織になっていく必要がある。そのためには、経営陣の考えを社員と共有できている状態をつくるべきだとも考えました。
山本 ミッションを変更されて2年目になりますが、社内への浸透を実感できてますか?
藤縄 ここ2年間、私や経営陣から社内に向けて発信するときは、伝えたい事柄とミッションとの関係性も含めたメッセージにしてきました。そういった地道な発信により、浸透度が次第に深まってきているようです。
たとえば、社員から質問を受けるときも、内容が大きく変わってきました。おそらく、各自で仕事や判断とミッションを紐付けながら考えているからではないかと。日常的に社員と話しているときにも、組織として同じ方向を見ながら判断できるようになってきたと感じています。

個人が自走できる環境づくりが、会社の成長につながる

山本 ミッションの重要性を意識するようになったきっかけはありますか。
大学卒業後に広告会社へ入社し、営業、プランニングを経験。2016年3月よりNewsPicksに参画。Brand Design Teamの立ち上げに従事。2019年1月からはNewsPicks Enterpriseへ参加。2020年7月より組織カルチャーを変革するNextCulture Studioを立ち上げ、事業責任者、プロデューサーとして主導する。
藤縄 私がヨックモックに入社する前に、いくつかの会社で働いていた経験が活きています。当時の自分は、仕事にパワーを使えば使うほど、休みの日をもっと充実させようと思えて、それがまた次の仕事のパワーにつながっていったんです。その理由を思い返すと、当時の上司が仕事を任せてくれて、自分で仕事を回せていたからでした。
ですから組織の中で個人が自走しやすい状態をつくれれば、会社もそれに連動して伸びていくのではないかと考えています。そして自走するためには、各々が判断基準を持っていることが必須です。その判断の軸となるのが会社のミッションであり、一人ひとりがどれだけミッションを理解できているかによって判断の精度が左右されるのではないでしょうか。

定点観測によってミッションの実現を加速させる

山本 御社の場合、2021年にWevoxを導入する前から、個人の力を解放した上で経営の力につなげていこうと考えていたのですね。個人が自走できる状態を目指す上で、エンゲージメントを定量的に見ていくことに、どのような意味を見出していますか?
藤縄 Wevoxを導入したのは、ミッションの実現を目指す過程で現時点での会社がどういう状態なのか、“健康診断”をしたかったからです。より良い状態に向かっていくための診断ができると、ミッションの実現を加速させるのか、その前に時間をかけてやるべきことがあるのか、状況に合わせて判断しやすくなります。このような定点観測を重ねて、ミッションの実現により近づいていきたいのです。
山本 Wevoxの全社サーベイを社内で「YM&I」と名付けたそうですね。Wevoxを導入し ている企業の中で、サーベイに名前を付けている事例は珍しいそうですが、どのような意味を込めたのでしょうか?
藤縄 「YM」は社名のヨックモックの略で、「I」は「私」です。サーベイの結果を経営陣だけが見るのではなく、社内の全員でサーベイの結果と向き合って、会社と自分の関係性をより強固に感じてもらえたら、という思いが込められています。
山本 全社サーベイを実施してみて、結果をどのように見ていますか?
藤縄 定点観測なので出てくる数字に一喜一憂すべきではない、と思いながら、低い点数を見ると傷つきそうになることもありますね(笑)。業界におけるサーベイの平均値と比べて低いスコアがあるので、現実として受け入れなければいけないなと思います。
山本 サーベイによってどのような課題を見つけられたのでしょうか。
藤縄 事業部によってミッションの浸透度に差があることが見えてきました。経営陣と距離が近い上位職のメンバーは比較的浸透度が高く、ミッションがじわじわと広がっている過程だと理解できました。その反面、製造現場のメンバーは浸透度におけるスコアが低く、メッセージが届きづらいことを実感しています。もっと現場まで届くように発信せねば、と課題が見つかりました。

対話によって課題を早期に顕在化させる

山本 私が製造業の企業とご一緒した際、職種に関わらず、本社勤務の従業員と本社から離れた事業所で働いている従業員では、サーベイの結果に差がありました。ヨックモックの場合、ミッションの浸透度合いに部門間の差が出ていることに対して、どう考えていますか?
藤縄 要因としてはいくつかあるでしょうが、今おっしゃったように、経営陣と現場スタッフとの「物理的な距離」も 影響していると考えています。経営陣からマネジメント層、さらに現場スタッフへと、距離の分断を超えられていないため、経営陣から離れるにつれて浸透度が下がってしまっているのではないかと。
山本 顕在化した課題に対して、具体的に実施している打ち手は?
藤縄 私や経営陣と、さまざまな立場の社員を入れ替えながら、合わせて10人前後のオンラインセッションをする機会を2021年から設けました。「思ったことをどんどん言っていい」と伝えたら、なかなか辛辣な意見も出てきています(笑)。
 言わば「負の部分の顕在化」が大切です。負の部分が潜在化してしまうと、何が課題なのか見えないままWevoxのスコアだけが下がっていく悪循環に陥りますが、顕在化すれば悪循環に陥る前に経営陣から答えられることもあります。
 話してみると、「こんなことを気にしていたんだ」と私が意外に思う内容も多々あるんですよ。逆に、我々が知らないことを教えてもらう場面も少なくありません。対話をしていない相手だと良くも悪くも想像が膨らんでいってしまうので、悪循環に踏み込む前に、理解し合える場づくりをしていきたいなと思います。
山本 新たな取り組みを重ねながら、変化は感じていますか?
藤縄 これまでは社員から「どうしたらいいんですか?」「どう思いますか?」といった質問を向けられることが多かったんです。ですから私は、「会社はこういう方向へ向かおうと考えていますが、あなたはどうすればいいと思いますか?」と問うようにしていて。
 意見を言うことに慣れていないと最初は答えられないのですが、それでも自分の言葉で少しずつ答えてもらううちに、考えをまとめられるようになるんですね。こうやって積み重ねているうちに、コミュニケーションが深まってきていると感じます。
 コロナ禍で距離が離れている事業所にはなかなか私から足を運べなかったので、私が実際に足を運んで行くコミュニケーションも、そろそろ復活させていきたいです。

コロナ禍で社員から生まれたアクション

山本 2019年にミッションを変更された直後のコロナ禍で、商業施設が営業できない期間もあり、菓子業界は大きく影響を受けたかと思います。コロナ禍はどのようなことを考える時間でしたか?
藤縄 この2年は何をやってもうまくいかない可能性のほうが高かったので、弊社のミッションを踏まえて「何をするべきか」を見つめ直す時間だったと思います。弊社のミッションとビジョンにおいては、人と人とのつながりがキーワードの一つになっています。
【ヨックモックグループ ミッション】
 私たちは
◆  「菓子は人間の生活に欠くことのできないものである」という創業からの想いを胸に、最高の顧客満足を追求して人と人とのつながりをデザインし、おいしさと笑顔が共にある世界を創ります。
◆社員が夢に向かって進み、共に成長できる企業であり続けます。
 たとえば、2020年の緊急事態宣言発出時、弊社では一部店舗を休業していました。 社員から「こういうときこそ、人と人とをつなぐために何かできることはないか」と提案があり、医療現場等にお菓子を贈ることにしたんです。4月に社員が自発的に寄贈先へ申し入れたケースと5月に実施した公募を含め 、計1400箇所に届けられました。
 最近になって、お贈りした病院の方々が店舗に来てくださり、「あの時はありがとうございました」と売り場スタッフにお礼を言われたそうです。売上や業績という面だけではなく、 我々のお菓子がどのような方のどのような場面に役立てるのか、よく考えた2年間でした。
医療機関の方々からの写真
山本 素晴らしいことですね。東日本大震災のときにもいくつかの企業が自発的に動いていて話題になりましたが、そのような緊急時に「自分たちは何者なのか」を踏まえたアクションを即座に選べることは、企業のアセットだと感じます。

個人と会社が高め合う関係性の実現へ

山本 ミッション実現に向けて導入されたWevoxのスコアを、今後どのように活かしていきたいと考えていますか?
藤縄 Wevoxは個人として回答しますが、結果は個人が所属している企業の数値として出てきますよね。組織の中にいると周りの特性や能力に対してバイアスがかかりやすくなりますが、Wevoxで客観的なスコアが出ると、それを取り払った状態で議論できるようになります。
 それに、今の100点が来年も同じ100点であるとは限りません。100%正解のゴールはありませんから、Wevoxで100点を出そうとするのではなく、社内で立場を問わずフラットに議論できる状態を目指していきたいです。
山本 さまざまな企業の事例を聞いていて、「自分たちは社会にこれを提供する会社です」「これを未来に残すための仕事をしています」と言い切れる法人格としての自立だけでなく、一人の従業員としても「自分はこれをやりたいです」と言い切れる個人の自立の両方が求められている、と考えています。
 ヨックモックでもミッションを再定義して浸透させていく過程で対話を重ねられていると思うのですが、藤縄さんは従業員にどのようなことを求めているのでしょうか?
藤縄 自分が求めたいのは、責任ある仕事をしている自覚を一人ひとりが持って仕事に取り組むことと、その結果として社員が自分の人生を豊かにしていけることです。
 一人ひとりが自分の仕事の意味を理解しながら、それぞれの感性で今の社会を捉えた上で、会社としてどのような方向に進むのがベストなのかを考え続ける指標を持ってほしい。
 そうして仕事でもプライベートでも充実した時間を過ごし、豊かな人生を送れるようになってもらえたら嬉しいですね。仕事とプライベートを分けるよりも、どちらも含めて自分の人生なのだと思えれば、どちらからも吸収できるものが増えるはずだからです。
山本 お話を伺っていて、藤縄さんが「人」や「人生の豊かさ」に強く興味をお持ちで、「もっとのびのび豊かに働いてほしい」と心から思われていることが伝わってきました。
藤縄 そうですね。当社で働いて人生が豊かになる人が増えることが、会社も社員もお互いにハッピーな状態だと考えています。そのために、個人の成長意欲が高まり、個人の成長によって会社も成長していく関係性の実現を目指していきたいです。
山本 ブランドの資産に加えて人材を育てていった先に、会社としては今後どのような未来を目指していきますか?
藤縄 ヨックモックはこれまでの50年間、主に国内の市場におけるお中元やお歳暮に使っていただいてきました。今後、儀礼ギフトは世代が変わるごとに縮小していくと思いますが、一方で新しく生まれてくるギフトの文化もあるでしょう。海外も含めて、人と人が交わるところに必ず我々のお菓子があるようなシーンを、これからも創り上げていきたいです。
NewsPicks NextCulture Studioでは、Wevoxと共同でパーパス経営の実装を考えるNEXT CULTURE CLASSを運営しています。

パーパス経営実践論 vol.2
2022.3.1 Tue 11:00 - 11:40 オンデマンド配信
Special Guest :
名和 高司(一橋大学ビジネススクール 客員教授)
中村 友也(Wevox / カスタマーエンゲージメント)


協賛:株式会社アトラエ
   Wevox(ウィボックス)についてはこちら