2022/1/24

「もっと早く転職すればよかった」札幌で働くテクニカルエンジニアの告白

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 2030年に国内で最大約79万人のIT人材が不足する━━。
 そんなショッキングな試算(※1)もある中、デジタル変革(DX)の波が全国に広がり、地方でもIT人材の奪い合いが激しさを増す。
 人口約200万を誇る札幌は、都市圏内に理工系の教育機関が少なからずあるなど、IT人材が集まるエリアとして知られる。
 その札幌で今強い存在感を示しているのが、「日本アイ・ビー・エムデジタルサービス」(以下IJDS ※2)だ。
 全国展開する同社は、札幌に五つもの事業所を構える。
※1 平成28年6月発表、経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査1」
※2 IJDSは2020年7月、日本IBMの100%子会社である、日本アイ・ビー・エム・サービス(ISC-J)、日本アイビーエム・ソリューション・サービス(ISOL)、日本アイ・ビー・エム・ビズインテック(IBIT)の3社を統合して発足
 クライアントが固まる首都圏でやり取りが始まり、地方の事業所は実装を担当する━━。
 対面コミュニケーションを前提とするIT仕事は地域間の役割分担が生じやすいが、IJDSでは首都圏と地方の“フラット化”が浸透している。
 思い入れのある地で仕事の質の追求とライフスタイルの充実を両立できることに、札幌事業所の中途入社組は驚きを隠さない。
 札幌でのキャリア形成とは、どのようなものなのか。技術を磨ける環境はあるのか。
 札幌で働くIJDSのエンジニアに実情を聞いた。
INDEX
  • 大都市から地方へのIターン 得たもの失ったもの
  • 「欲を言えば、もっと早く転職したかった」
  • リモート開発で真価発揮 存在感を高めるIJDS

大都市から地方へのIターン 得たもの失ったもの

 2016年の春、大阪の電機メーカーで働く尾崎正行さんは内心迷っていた。
 幼い子供をどこで育てるか。理想は大学生活を過ごし、妻の出身地でもある北海道。自然が豊かで、地縁もある。
 札幌以上の土地はない、と妻とも意見が一致していた。
 それでも仕事のことが引っ掛かる。大阪の会社で14年働き、責任ある立場を任されていた。
「札幌に行けばもしかしたら、今までのような仕事はもうできないかもしれない」
 地方へのIターンは「ロス」が付き物と考えていた。
 それから5年。現在、IJDSの札幌事業所で働く尾崎さんは何を失ったのか。
「結論から言うと、地方へのIターンはマイナスが生じる、というのは完全に私の思い込みでしかなかった。
 お客様と一緒に作り上げていく、という仕事のやりがい。最新技術を用いたスマートな働き方や責任ある立場。いずれも私の想像を超える経験ができていると感じています」
 札幌の事業所は全国各地から集約される幅広いプロジェクトの開発領域を担っている。
 尾崎さんは現在、エンジニアと部長の二つの顔を持ち、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション=業務自動化)の導入をはじめ、五つのプロジェクトに関わる。
首都圏との距離の差はまったく感じません東京のメンバーとその先にいるお客様も含め、関係者全員がワンチームとなって、実現したいゴールに向かって全力で動く。そんな光景が当たり前に広がっています」
 結果的には大成功の転職。その要因はどこにあったのか。
「大阪を出る前から、転職の成否は長い目で判断しようと考えていました。仕事の頑張り次第で後から評価はついてくる。そう考えたのが良かったと思います」
「私は入社3年で部長になりました。2年目に『管理職を目指さないか?』と会社から声をかけてもらえたのは予期せぬ出来事でしたが、上司が自分の日々の実績をよく見てくれていたのだと、嬉しく思いましたね」
 尾崎さんはIJDSを「グローバルとローカルが融合する会社」と表現する。
 プロジェクトの豊富さや先端技術に触れられる職場環境はIBMグループならでは。
 その一方で、自分を含め、事業所のメンバーは札幌で働くことに強いこだわりを持っている。
「面接などで『好きな土地で働きたい』と堂々と口にできる人は多くないのではないでしょうか。私も、当初は働く地域(エリア)にこだわるのはプロ失格なのでは、と不安に思っていました」
「でも、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を掲げるIJDSは、どこで働くかも含めてその人の尊重すべき個性と考えます。私の事業所のメンバーも札幌の暮らしにこだわりがある人たちばかり。
 プロとしての仕事を追求しながら人生も楽しむ、そんな生き方を知ることができてよかったです」

「欲を言えば、もっと早く転職したかった」

「プログラマー35歳限界説」。IT業界ではこんな俗説が囁かれてきたが、キャリア形成に悩むプレイヤーは今も少なからずいる。
 デベロッパー(IT分野の開発者)の佐藤文人さんは、5年前にIJDSの前身の一つISOLに入社した。転職のきっかけの一つはキャリアアップだった。
「前職は地元札幌のIT企業です。在籍中の2年間、東京に赴任する機会があり、プロジェクトの上流から携われるところに札幌との差を感じました。
 このまま働き続けても、おそらくキャリアは先細り。でも、札幌から拠点を移したくはない。いつか子供をもうけるなら、働き方を見直す必要もある……。そんなことを考えていたとき、ISOLに出合いました」
 新天地では「キャリアの先細り」の不安がすぐに解消された。
一番大きかったのはシニア世代の存在す。伝統技術にも最新技術にも精通し、バリバリ活躍している先輩がたくさんいました。
 IJDSにはキャリア17年の私にもまだまだ上のステップがある。例えば技術職で言えば、『Super Developer Japan』(以下、スーパーデベロッパー)が象徴的な存在です」
 IBMグループには、職務ごとに必要なスキルとレベルを定義した「オープンバッジ」という制度があり、認定条件を満たすと社内外に発信できるバッジが付与される。
「スーパーデベロッパー」はオープンバッジの一つで、卓越した開発者に与えられる称号だ。
 バッジは2000以上存在し、その保有者は他の社員のロールモデルになる。また、バッジの獲得に向けた組織的な“後押し”もある。
「IBMは“THINK”という言葉を大事にする組織です。社内には年間最低40時間を自己研鑽に充てるルールがあり、社外研修はもちろん、Udemy(世界最大級のオンライン学習サイト)やe-ラーニングなども利用できます。
 AIが一人ひとりの社員に最適化した学習メニューを推奨してくれるので、学ぼうと思えばいくらでも学べる環境なんです」
「個人的な最近のヒットは、DX関連の研修『クラウドネイティブまるごと理解 ~DevOpsからマイクロサービス、クラウドデザインまで~』。
 多様な事例をもとに、課題解決のためのシステム構築の方法を具体的に教える、非常に実践的な内容でした」
 佐藤さんが昨年自己研鑽に費やした時間は、社内で推奨されている学習時間を大きく超える。学習意欲が維持できるのは会社からの働きかけがあるからだ。
「研修一つとっても、自分で探して上司に許可を取る、ということを日々の業務の合間に進めるのは結構ハードルが高いと思います。
 その点IJDSは、学びを習慣化するために会社側から積極的に情報が提供される。この後押しは非常に大きいと感じます」
 業務や研修で忙しく過ごす中、佐藤さんは一昨年に20日間の休みを得た。育児休暇だ。
 厚生労働省の調査では、2020年の民間企業に勤める男性の育児休業取得率は12.7%。
 業務が繁忙であることや組織に休暇制度がないことなどを理由に取得しないケースが多いのが現状だ(※3)。
 日本IBMグループには育児特別休暇制度が設けられているが、佐藤さんは制度の導入前から育休を取得していたという。
「育児休暇は希望者が自ら申請するのが一般的だと思いますが、うちの会社は上司から取得を働きかけてくる。
 その理由を聞いてみたら、『D&Iを推進する組織として積極的に休暇取得を促すのは当たり前はないか』と。非常にありがたいですよね」
※3 法で規定されている育児休業は、要件を満たした労働者は事業所を問わず休暇が取得可能なため、勤務先に独自の休暇制度がなくても休みを取ることはできる
 現在は基本フルリモート。ワークライフバランスを意識しながら、家族のそばで働く。休日は家族と自然豊かな場所へ行き、夏にはキャンプにも出かける。
 佐藤さんは、大好きな北海道で仕事も私生活も充実することの幸せを噛み締めながら、こう口にした。
「この組織なら自分にもまだまだ新しい道を切り開ける可能性が見える。欲を言えば、もうちょっと早く入社したかったぐらいですね(笑)」

リモート開発で真価発揮 存在感を高めるIJDS

 札幌事業所の社員は北海道を拠点にしながら全国のメンバーと協働し、開発案件に上流から関わる。
 仕事のやりがいに加え、フラットで多様性を重んじる環境に働きやすさを感じる社員は多い。
 改めて、IJDSにとって「D&I」とはどんなものか。同社の井上裕美代表は、次のように説明する。
「“ダイバーシティ”というと、日本では企業や組織における管理職の女性比率など数値目標そのものに話がいきがちです。もちろん大事な指標ではありますが、本来は数値目標の達成だけがゴールではありません。
 本当の意味でダイバーシティが浸透した世界とは、同質的な状況やマジョリティばかりの状況に自然と違和感を覚え、そのままにはしていられないという感覚が共有され、社会を豊かにするための前向きなアクションを誰もが当たり前に取る、そんな状態だと思います」
「我々が提供するサービスは、お客様を、そして社会を豊かにするためのものです。
 様々な属性や個性を持つ方が触れるものですから、誰にとっても使いやすいサービスを目指します。それを実現する上で、IJDSの社員一人ひとりの属性や個性が武器になる。
 我々は、性別、人種、障がいの有無や、思想、文化、出身地などにかかわらず、誰もが尊重され、誰もが自分の考えを自由に発信できる組織を目指します。
 それは、多様な視点や価値観が溶け合う組織ほど、そこから生まれるサービスがより良いものになるからでもあります」
 20代から60代まで様々なバックグラウンドを持つエンジニアが集まる札幌事業所は、社会の基幹を支える伝統的な技術と最新技術が融合する場でもある。
 基幹システムの知識は、そこに繋がるモバイルアプリの開発や、今やあらゆる業界で加速するDXにも生きるという。
「私はよく“両輪”と言いますが、最先端のデジタル技術を開発するにあたって、バックエンドの基幹系の知識は絶対にあった方がいい。基幹システムの仕様を理解した上で開発に取り組んだ方が、より優れたサービス設計が可能になるからです。
 バックエンドに精通する当社のシニアエンジニアたちは、最先端のデジタル技術のスキルも身につけ、幅広いプロジェクトで強みを発揮しています。プログラマーのキャリア観は大きく更新されましたね
 年齢、職種、働く場所。IT業界における働き方や仕事の評価は、これらの記号にどんどん縛られなくなっている。
「ニューノーマルの時代に入り、リモートで仕事を進めるスタイルが主流になったことで、技術者集団であるIJDSの存在感は非常に高まっています。
 とりわけ札幌事業所は、2015年頃からリモート開発を進め、その方法や知見を有することから、スペシャリティを持った集団として評価を高めています」
 そんなIJDSの組織風土の芯にあるものが「プロフェッショナリズム」だ。
「当社はお客様から信頼されるプロフェッショナルであることをとても大事にしています。自分の仕事に自信を持ちながら、それに甘んじることなく、お客様と共にさらに信頼を高める努力を続けていく存在。それがプロフェッショナルです。
 北海道のデベロッパーの方々は特にですが、IJDSの社員は技術の話をしているとき、本当に楽しそうにしています。なんなら困難な技術課題に向き合っているときほど笑顔が輝いています(笑)」
「技術が好きだから自分はこの会社にいる。技術が好きだから貪欲に学んでスペシャリティを高めたいと思っている。誰もあえて口にはしないけど、心の中でそういう感覚を共有している。
 そして、どれほど大変なことがあっても、最後は『お客様のために、より良い社会を創るために、技術と向き合っていることが楽しい』という考えに落ち着いていく。私はそれが、IJDSが育んできた良い文化だと思っています。
 IJDSでは北海道の事業所を“地域DXセンター”と位置付け、今年は仙台と沖縄にも第2、第3の地域DXセンターを設立します。
 IJDSのグローカルな文化、技術と向き合う文化を様々な地域に広げ、より豊かな社会の創造に貢献していきます」