2022/1/18

なぜ、あの人は予定に追われないのか。多忙を極める賢者の「時間」創出術

NewsPicks Brand Design editor
リモート、多拠点、複業……ビジネスパーソンの働き方は年々多様になっているが、同時に多くの人が「スケジュール」に追われる日々を強いられている。

今、我々に必要なのは、時間に忙殺される毎日から脱却し、自らの意思でスケジュール、ひいては人生をコントロールできるようになることだ。

そこで、本記事ではZアカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長など、複数の肩書きを持つ伊藤羊一氏に取材を実施。

多忙な予定をこなしながらも、日々軽やかに働いている同氏に、今日から実践できる仕事術やスケジュール管理の秘訣を教えてもらった。

強い意志で自分の予定をコントロールする

──伊藤さんはいくつもの肩書きを持っていて、かなりお忙しくされている印象があります。
伊藤 今、やっている仕事は主に4つです。ひとつは武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長兼教授。大学内にある寮に住み込んで、新しい学部をつくって運営するのが、全体の仕事の8割くらいにあたります。
 次が音声プラットフォームVoicyのパーソナリティです。録音にかかるのは毎日20分ほどですが、「その日、何を話すか」を考えるのに比較的、時間をかけています。
 3つ目が、Zホールディングスの企業内大学「Zアカデミア」の学長です。Yahoo!アカデミアから数えるともう7年目になりますがどんどん変化させており、方向性やストーリーを考えて実行するのが仕事です。
 最後が講演活動。人前に出る機会は、年間300回くらい。ほぼ毎日ですね(笑)。
 こういうと隙間なく予定がぎっしりと埋まっているイメージをされるかもしれませんが、実際は考えたり、アイデア出しや議論をしたりする時間が多いのです。
 あとは予定を意図的に入れないようにブロックして、自分の時間を確保することも。
 だから、個人的にはそれほど忙しいという感覚はありません。
──お話をうかがっているだけでも目が回りそうですが、忙しさを感じないというのは、さすがですね。伊藤さんも若い頃は、仕事に忙殺される時期も?
 10年前の40歳前後は、仕事に追われていましたね。やっている業務も複雑でしたし、立場も経営レベルではなかったので実務作業も多くあって。
 思い返してみれば、週に2、3日は会社の隣のウィークリーマンションに泊まるような生活でした。
 今、予定に振り回されない働き方ができるようになったのには、いくつかの理由があります。
 ひとつは人に任せられる仕事を、自分はやらないようにすること。
 立ち上げから7年経ち、軌道に乗っているZアカデミアの仕事は特にそうです。Zホールディングスやヤフーにおける次世代のリーダーを育てることが私の仕事でもあるため、「任せる」スタンスを徹底しています。
 極端な話、メンバーには「君に全部任せたから、自分で考えてよ」と伝えていて、「伊藤さん教えてください」と言われても、あえて「わかんない」と答えることもあります。
 そうすると、任されたメンバーがどんどん自分で考えて動くようになるので、すごく成長するんですよね。
 もうひとつは、「事務作業はやらない」と決めていること。
 立場上、僕はリーダーなので決断するのが仕事。自分の手を動かしてはダメだと、かなり強い意志のもと徹底しています。
 もちろん、「自分でやったほうが早い」と思うこともたくさんありますが、絶対にやりません。もし、それで問題が生じるなら、仕組みに問題があると思っています。
 とにかく「やらない」という選択を意識的にコントロールして、優先順位をつけています。そうすると、つまらない仕事は受けなくなるし、やらなくなっていきます。
 これを徹底的にやると、「本当にやらなくてはいけない仕事」に集中でき、仕事の総量を減らせます。
──自分の中の優先順位がしっかりあるから、いつも楽しそうに働かれているんですね。
 楽しく仕事ができているのは、土日に次の1週間分のスケジュールをじっくり見て、それぞれの仕事や時間の使い方をイメージしているのが大きい。
 仮に水曜日の18時からミーティングの予定が入っていたとすると、「ここで何を話そうか」「どんなことをしようか」というように、スケジュールを見ながら一つひとつの予定を「予習」していくわけです。いわば人生の「台本作り」のようなものです。
 私にとって、このシミュレーションはすごく楽しい作業で、ほとんど「趣味」と言っても過言ではありません。
 ただ単に時間に忙殺されて、「あれもこれもやらなきゃ」と予定に追いかけられるのは、ストレスです。
 しかし、じっくりシミュレーションをして本番(予定)に臨むことで、仕事の中身も濃くなり、充実感も得られるので、すべての仕事がどんどん楽しくなっていきます。
伊藤氏がノートに書き込んだ「予定のシミュレーション」。翌週のスケジュールを基に、一つ一つの予定を予習する。その上で本番に臨むことで仕事の中身も濃くなり、充実感も得られるのだという。
 それが転じて「自分で予定をコントロールしている」実感につながって、楽しく働くことに直結するのだと思います。
 だからこそ、仕事の役割分担や効率化を明確にして「する、しない」の線引きすることや、「やりたい、やりたくない」という好き嫌いを仕事に持ち込むことが重要になってきます。
──そのために、具体的な方法は何かありますか。
 私が以前やっていたのは、週1日、午前中の3時間だけブロックする方法です。その時間はメールも見ないで、考え事をしたり、企画を練ったりといった、「自分の好きなことだけをやる時間」と決めていました。
 重要な仕事は、「緊急で重要なこと」と、「緊急じゃないけれど重要なこと」に分けられますが、成長につながる長期的な仕事は後者の場合がほとんどです。しかし、差し迫っていなければ、いつまで経っても実行に移せないのが人の性です。
 だから自分の意志をもって「この3時間だけは好きなことをやるぞ」と区切るのは、私にとってはすごく効果的でした。
istock/kazuma seki
 主体的に「誰にも邪魔されない3時間」を生み出しているわけですから、楽しくないわけがありません。
 また、先ほど話した「スケジュールを見て1週間をシミュレーション」も、取り組みやすいと思います。
 これを実践する場合、過去の振り返りも併せて行うとより効果的です。
 過去の出来事のうち、例えば「先週の取材はスキルの棚卸しになったな」というように、自分にとって何が気づきだったのか、その意味付けをしっかりと考えておきましょう。
 そうすると、今後の1週間のシミュレーションを行う際に精度が格段と上がります。
 経験を積むと、未来に起こることがある程度予想できるようになりますし、それをどのようにコントロールして楽しむのか、その方法もわかります。
istock/sankai
 私はこの感覚を「自分の人生という『サグラダ・ファミリア(未完の建造物、という意味)』をつくっているようなもの」とイメージしています。
 ずっと未完成のまま、過去も未来もちゃんと意味付けし、「人生を自分の意思で生きる」ために必要なことだけを選んで、コツコツと積み上げているわけです。
 だから、毎日が楽しいし、第三者視点で「軽やかに働いている」ように見えるのだと思います。

人とグダグダ話す時間をつくるために、それ以外を効率化する

──コロナ禍以降、人と会うことが減っています。ほとんどの仕事は一人でできない、と考えると、対面・オンラインに関わらず、誰かと会うことには価値があると思うのですが、伊藤さんは忙しい中での他人との予定調整をどのように捉えていますか。
 コロナ禍以降、「自分の意思でスケジュールをコントロールする」という点で、より「人と会うこと」は強く意識するようになりました。
 そもそも、人に会う用事というのは、このご時世は特に「緊急ではないが、重要なもの」です。
 実は私は性格上、そんなに人に会い話をするのが得意なタイプではありません。
 しかし、コロナ禍が2年近く続いたことで、「人に会いたい」「新しい刺激が欲しい」と思うようになり、今は意識的に人に会うようにしています。
 自分からどんどん予定を入れて、誰かに会うことは「とても前向きで未来を創る行為」です。
 だからこそ、思い立ったらすぐ、今日、明日レベルで動くほうが絶対良いと考えています。
「心からこの人に会いたい」と思えば、すぐに予定なんて決まるものです。そこは「即行動」が本当に重要です。
 そのためにも「予定を調整する」作業でつまずきたくないなと、最近は切に思っています。
 経験上、他者との日程調整は、私にとっては煩雑で、失敗の原因になることも多くありました。
 例えば、前職で社内用スケジュールをフルオープンにしていたのですが、そうすると朝9時から夕方18時まで隙間なく予定が埋まるわけです。食事や書類仕事の時間もコントロールしづらくなるので、苦労しました。
 また、Facebookのメッセンジャーで約束したのに、スケジュールに落とし忘れてダブルブッキングになってしまう。口頭でしか約束していなかったので、誰といつ会う予定だったのか忘れてしまう……。こんなことが日常茶飯事でした。
 そういうトラブルのひとつの要因として、「コミュニケーションツールがバラバラ」という点も関係していたのではと考えています。
 メッセンジャーやメールなど複数のツールで日程調整すると、記入漏れも起こりやすいですし、誰に候補時間を出したのか把握しづらいのです。
──コミュニケーションツールがバラバラで予定がわからなくなるのは、よくあることだと思います。最近は煩雑な日程調整のやり取りをせずとも、カレンダーを共有することで瞬時に予定が合わせられるツールも出てきています。
 10年くらい前から、そういう面倒な調整を自動的にやってくれるサービスがあったらいいなと思っていて、試しに使ってみたこともありますが、なかなか実用までは至りませんでした。
現在、私のスケジュール調整はアシスタントの方にやってもらえるようになりましたが、もし一人ですべてを調整する場合、Tocalyは私が使っているOutlookアカウントとも連携できるようなので、アシスタントがいなくてもスムーズに予定が組めそうです。
Tocalyの候補日時設定画面。スプレッドシートやエクセルのような感覚でセルを選択する。広範囲にざっくりと出したり、特定の時間だけ細かく候補を出すといった操作も簡単にできる。
TocalyはGoogleカレンダーとOutlookカレンダー(Microsoft)に対応している。そのため、すでに予定が埋まった時間帯は自動的に候補から除外されるため、複数人数での調整も楽にでき、ダブルブッキング防止にもなる。
──伊藤さんが貴重な時間を割いてでも「人に会う」のは、そこに未来を創る価値があると感じているからだと思います。
 人に会うためには、人に会わない時間をいかに効率化するかが重要だということです。
 人とグダグダ話す時間をつくるために、それ以外を効率化する。日程調整の作業もその効率化に当てはまります。そうすることで、自分の働き方にもメリハリが生まれます。
 最終的に大事なのは、日々の一瞬一瞬をどれくらい自分ごとで生きているか、です。
 貴重な人生の時間を少しでも充実させるためには、強い意志で時間をコントロールすることが必要なんだと思います。