2021/12/27
新規事業がうまくいかない。大企業に足りないのは「信じる力」だ
NewsPicks Brand Design Senior Editor
大企業が新規事業を成功させるのは難しい──。そんな言説が長年、“常識”とされる。多くの大企業が多大な投資をしてもなお、その事業化につまずいてしまうのはなぜなのか。
「私たちは大企業の力を信じている」と、熱いメッセージを送るのが、大企業の新規事業・サービス開発に特化したデザインコンサルティング&スタジオ「NEWh(ニュー)」だ。VUCAと呼ばれる不確実性が高い時代、誰も正解がわからない未来をどう捉え、どんなプロセスを踏めば、新規事業の成功確率を上げられるのか。
2021年10月、NEWhと資本を共にするSun Asterisk(サン アスタリスク)に電撃移籍を発表した井上一鷹氏とともに、大企業の潜在能力を引き出す新規事業創出の方程式を探る。
大企業が日本を元気にできる
──井上さんのご転職、驚きました。なぜ、Sun Asterisk(以下、Sun*)に?
井上 「日本で一番、影響力がある社内起業家になる」これが、私の人生で実現したいミッションです。
前職のJINSでは、メガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズミーム)」の開発や、会員制ワークスペース「Think Lab(シンクラボ)」の立ち上げを経験しました。
そこで強く実感したのが、新規事業開発は1回目より2回目の方が俄然、鼻が利くということ。
新規事業の成功確率を上げるためには、経験数を増やす必要がある。そのときに、最も良い場所が、Sun*だと思ったんです。
それはなぜか。新しい価値を生むサービスを磨き上げることは、一人では絶対に難しい。
価値創造が好きで仕方ない「ビジネス(Business:B)」「エンジニア(Technology:T)」「クリエイター(Creator:C)」、この3つの要素が合わさってはじめて新規事業は成功します。
Sun*には、1800名以上のエンジニアやクリエイターが在籍しています。「B・T・C」がこれだけ濃厚に集まっている場所は、見渡した限り、ここ以外にありませんでした。
──Sun*グループの中で、大企業の新規事業・サービス開発に特化して、アイデア創出からプロダクト開発までを一気通貫で手がけるデザインコンサルティング&スタジオが「NEWh」です。
小池 NEWhは、100を超える大企業の新規事業開発プロジェクトを手がけた前身のイノベーションデザインコンサルティングファームを経たメンバーとともに、2021年1月に立ち上げた企業です。
「なぜ、NEWhは、大企業に特化するんですか?」と聞かれることがあります。
それは、日本を元気にしたいから。
私自身のファーストキャリアも大企業であるアサヒビールですが、日本の大企業には、いわゆるヒト・モノ・カネが揃っています。
恵まれた環境を最大限活かし、彼らが未来志向のサービスを生み出していけば、日本が大きく変わっていく。
大前提として、私たちは大企業の力を強く信じているんです。
井上 まさに。大企業には、社会に新しい価値を生み出したいという思いや能力のある、優秀な方がたくさんいますよね。
ただ、人材と資金という事業創出において一番大事なアセットがあるのに、彼らの存在がなかなかイノベーションにつながっていません。
「良い人材がいない」という誤解
──多くの大企業が新規事業に取り組むも、その事業化には苦戦しているとよく言われます。これって真実なのでしょうか。
井上 残念ながら、間違いなくうまくいっていないですね。ここ15年で見ても、同じ状況が続いています。
理由の一つに、大企業の経営層には、0→1ではなく、1→100の成功体験を持った方が多い点があると思います。
0から1を生み出す際には、誰もそれがうまくいくかどうかを証明できません。既存のロジックで説明できないのが、0→1フェーズだからです。
だからこそ、新規事業は、できるだけ小さく始め、早く失敗するのが大事。
問題は、大企業はこれが苦手ということですね。
小池 さらに今の時代は、テクノロジーが急速に進化し、コロナ禍により社会の大きな価値変容も起こっています。
何を拠り所に、新しいビジネスを考えるべきかがわかりにくくなっていて、“確かなものでなければゴーサインを出せない”大企業はますます動けなくなってしまっている。
──膠着した状況を打破するためには、何が必要なのでしょうか。
井上 まず、大企業で新規事業を生み出す素地として、自由に発想していいという心理的安全性と、失敗しても生活できるという経済的安全性、そしてトップが持つ「今の事業だけでは怖い」という健全な不安感がものすごく大事だと思っています。
新規事業を、すべて一人でできる人はいません。
スペシャリティを持つ人々を巻き込んでチームをつくっていく必要がありますが、その発端になる力は、誰もが持っているはずです。
でも、お金をかけずに小さくプロトタイプをつくって、失敗して、それをもとに改善していく、ボトムアップの行動がまだまだ足りていません
一方で、トップダウンでは、組織内の優秀な人を引き上げられていない。
この両方から動かないと、組織は変わらないと思います。
小池 上のポジションの人ほど、よく言うんですよ。
「ウチには、事業開発ができるような良い人材がいない」と。
でも、そんなことは絶対にないんですよね。
優秀な人はたくさんいるのに、上層部が組織や社員を信じ切れていない。仲間を信じない限り、意思決定はできません。
何が正解かわからなくなると、どんどん重箱の隅をつつくようになって、わからないからやめようと、思考停止してしまう。
そうではなく、「このチームの出した考えなら信じられる」と意思決定し、チャレンジの回数を上げていくことがとても大切だと思います。
独自フレームワークで「考える」を鍛える
──「社員を信じよ」いいメッセージですね。その上で、NEWhは、どんなアプローチで支援しているのでしょうか。
小池 NEWhでは、「プロセス」「マインド」「スキル」の3面からアプローチします。
まず大事なのは、トップに対する意思決定のプロセス、思考方法の提供です。
不確実性が高くても、チームを信じて「まずやってみよう」と言える環境をつくる。心理的安全性の確保はキーになります。
「チャレンジして失敗してもいいんだ」という安心感があれば、マインドが変わり、スキルを身に着けようという行動につながります。
意思決定のやり方が変わらないまま、マインドやスキルを変えるのは難しいでしょう。
メンバーに対しては、事業開発の思考プロセスを体系化して提案しています。
「今日、何をすべきか」を並走しながら一緒にやっていくのが、NEWhが大事にしているスタンス。
考える順番などロードマップを明確にすることで、みんなが気持ちよく動ける環境をつくっていきます。
──体系化された思考プロセスとは?
小池 事業開発の初期段階では、時代の移り変わりや業界内の大きなトレンドなど、マクロ的な情報をきちんと整理することが大事だと思っています。
たとえば、多くの人が「当たり前」と考えている視点をずらし、顧客が本質的に求める価値から再定義して、新しいリサーチ対象を発見する「リサーチレンズ」。
代替する製品やサービスとして、何がリサーチ候補なのかを考えていくと、顧客の本当のニーズや、新たなターゲット層の発見にもつながります。
たとえば、Airbnbは、宿泊サービスでありながら、地元の人との交流を含めた旅行の価値をアップデートした。
宿泊という機能的な価値から、経験を通じて得られる意味的な価値まで、立体的に市場を見る視点を提供し、どの市場でビジネスをすると良いのかをともに議論しています。
ほかにも、新しいサービス発想のとっかかりを見つけるために、可能性を拡散する「DXレンズ」。
新規事業につながるような課題を見つけたとき、それをデジタルサービスで解決する上でのさまざまな視点を当てていくのが、このフレームワークの特徴です。
「エンタメにする」「カスタマイズする」などあえて抽象的な視点を提示することで、テクノロジーやデジタルに詳しくなくても、時代に即したDXの視点でアイデアを導き出せる仕組みにしています。
その上で、私たちが最も大切だと考えているのは、「自分で考える/チームで考えること」。
支援する立場の私が言うと矛盾して聞こえるかもしれませんが、他人が考えた新規事業をやって成功するはずがありません。
だからこそ、みなさん一人ひとりが脳に汗をかいて考えて、熱量を持って事業に向き合える状態をつくっていきたい。
たとえば、ユーザーへのインタビューもリサーチ会社に頼むのではなく、必ず自分たちでしてくださいと伝えています。
井上 NEWhは、本当に「考え方を考える」ことに長けた人の集まりですよね。
NEWhが行う企業内勉強会に継続的に参加している方と話す機会があったのですが、数カ月後に会うと、明らかに「自分で考え方を考える」方向に思考が進化していました。
もともと持っていた能力が引き出されて、のびやかに事業に向き合っている姿に感動しましたね。
理想は“アレ俺”があふれるプロダクト
小池 できる環境、考え方さえ整えば、良い事業は必ず生まれてくる。
社員の方々が、きちんとパフォーマンスを発揮できる状態をつくっていくことが、NEWhの存在意義だと思っています。
一方で、フレームワークだけ提供して「あとつくるのは頑張って」と投げ出すのは無責任ですよね。
「考える」と「つくる」の両輪を回しながら、コンサルだけで終わるのではなく、世の中に良い変化を生み出すところまでこだわって、一緒につくっていく。
少なくともPoC(実証実験)まで行うのが、事業開発にかかわる責任だと思っています。
エンジニアが足りないなど、B・T・Cの各領域で企業内に適した人材がいなければ、Sun*とも連携し、人のサポートもしています。
NEWhとSun*は、ほとんど同じ会社のように行動しているので、つくる部分の内部リソースが豊富で、非常にやりやすいですね。
井上 日本の新規事業においては、つくる前に頓挫してしまうケースがたくさんある。
Sun*は、「つくる」に特化した組織なので、つくりがいがあるものを考えられる、ビジネス視点を持つNEWhとやれることにはすごく価値がありますね。
小池 一方で、大企業では「ここまでコストをかけてきたのだから、やるしかない」と、途中で軌道修正ができないままプロジェクトが進んでしまうケースも少なくない。
「これって、誰がほしいんだっけ?」「誰がやりたいんだっけ?」というようなプロダクトであっても、「やめると評価されないから」続けざるを得なくなっているんです。
だからこそ、僕が考える新規事業開発の理想は、「自分がやった」という人がたくさんいる状態。
たとえば、広告プロモーションなどでは「あれは自分が手がけた」「自分が賞を取った!」という人がたくさんいることがありますが、それは全然悪いことではありません。
井上 いいですね。みんなが「あのサービスは“俺”がつくった」と言っている、“アレ俺”があふれているプロダクト。
小池 “アレ俺”の横行は大歓迎ですよね。
自分が貢献したんだと、それだけ強い思いを持った人がたくさんいる環境ってすばらしいじゃないですか。
井上 新規事業って、ほんとうにおもしろいんですよ。
創出のプロセス自体もワクワクして楽しいし、生み出されたものが社会をすごくワクワクさせる可能性にもあふれている。
しかも、ゼロからベンチャー企業を立ち上げるのと違って、大企業内で新規事業を手がけることって、言ってみれば経済的安全性が確保されていて、責任が有限の、すごく恵まれた環境です。
だからこそ、より良い事業を生み出すことに、素直に脳みそを使いきれる。その環境を最大限に活用して、世の中にとって一番いいプロダクトやサービスを考えられるのはとても幸せなこと。
Sun*でも、そんな楽しい仕事をたくさん生み出し、新規事業が今の100倍、1000倍立ち上げられる社会の創出をライフワークとして追求したい。
小池 僕は自分が大企業出身というのもあって、「彼らに元気になってもらいたい」という思いがすごく強いんです。
大企業の中で挑戦できる環境がたくさん生まれると、良い事業がたくさん生まれ、きっと日本はより良い社会になっていく。
少しでも良い変化を生み出し、いろんな人の生活を良くすることに本気で向き合っていきたい。
一気通貫でも困っているところだけでも、事業化までに必要なプロセスを網羅して、ご提供できるのが私たちNEWhの強みです。思いのある方からのご相談を、いつでも受け付けています。
執筆:田中瑠子
写真:岡村大輔
デザイン:藤田倫央
編集:樫本倫子