東大発バイオベンチャー、世界的な創薬企業めざし快走
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記事に書かれているようにペプチドリームのビジネスモデルは創薬ベンチャーとしては成功しやすいビジネスモデルだと思います。日本でほとんどこの類型が見られないことため同社は目立っていますが、欧米に見られる製薬企業の成功パターンも最近はこのパターンが多いと思います(ただし大手企業側がすぐに企業買収してしまいます)。
同社の成功の背景には、(1) 日本の製薬企業の研究力の低下(特に高分子化合物やバイオ医薬品に対して)、(2) オープンイノベーションの世界的ブームがあります。同社は基本的にローリスク・ローリターンのモデルながら、(3) ローリターンの「ローをミドルに」高めるようなビジネスモデル(つまりは高い営業力)で同業を大きく上回るリターンの獲得に成功しているようにみえます。同社の技術基盤は比較的市場側の性格を有しているため売りやすく、また汎用技術のため「範囲を区切れば多くの企業に販売できる」という性格もあります。
かねて日本企業は大学との相互補完性が外国と比べて著しく乏しかったと思います。大学の研究者は自分の研究をかかえ実用化に興味がないかやり方がわからない。企業は大学の研究を味方につけたくてもお金がないため研究者に支払える額が少ないという悪循環があったと思います。
(1), (2) について、製薬企業は低迷していたところに世界では「オープンイノベーションで成功した」といった研究開発戦略が流行していることから、研究能力が低下していると認識している企業は外部シーズをこぞって導入したくなる動機が生まれています。ここにライセンスの動機が多く発生しています。
(3) 営業力は同社社長窪田氏の力量でしょう。一般に研究技術力を有する「研究技術者(同社の場合は菅教授)」は売り込みは苦手で、芸能界でいうところの「事務所」のような組織があればかなり変わりますが、あっても「大学の産学連携組織」では営業となるとかなり苦手のようで、成功例は決して多くありません。これを大学とは比較にならない抜群の営業力で成功に導いているはずです。
なお「ペプチドの改変、DDS(医薬品のターゲティング)」という考え方はもともと創薬の基本で何十年もの歴史があります。菅教授はこの技法で高い実績がありますが全体的な考え方は特に同社独自のものではありません。ワーディングや企業ブランディングにも長けていると思います。“ペプチドリームの私の部屋には吉田松陰の言葉を記した額を飾っていました。「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」 ベンチャーの経営にも通じる言葉です。”
中分子、ペプチド創薬は、日本がトップを走っている分野だと思います。それを引っ張っているのが、ペプチドリームです。中分子は、低分子の様に標的以外の対象と相互作用してしまうことがまれで、抗体などの生体高分子に比べて、生産コストや膜透過性の面で有利であるためです。また、低分子で狙いにくいと言われている、タンパク質間相互作用(PPI)を阻害するような場合にも有効であろうと期待されています。
最近、株価は低迷気味ですが、創薬のモダリティ(治療手段)の多様化が言われる中で、大きな一角を占めていくことは、揺らいでいないのではないかと思います。
ちなみに、私もシミュレーションの立場からこちらの分野の講演会を今年のCBI学会の大会で企画させてもらいました。
https://cbi-society.org/taikai/taikai21/FS/FS-09.pdf