【宇宙×日本橋】まちづくりを通じた産業創造への挑戦

2021/12/7
企業カルチャーの変革に伴走するNewsPicks NextCulture Studio(NCS)。今回、NCSでは、「まちづくり」を通して宇宙産業エコシステム構築に取り組む三井不動産の「X-NIHONBASHI(クロス・ニホンバシ)」プロジェクトとタッグを組んだ。宇宙という、一見、まちづくりとは遠い産業を「都市」に組み込もうとする三井不動産のねらいはどこにあるのか。

また、三井不動産が主催する「NIHONBASHI SPACE WEEK 2021」では、アジア最大級の民間による宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE」とも連携する。

そこでNewsPicks NCS事業責任者の山本雄生が、三井不動産日本橋街づくり推進部主事の渡辺崇史氏、SPACETIDE代表理事 兼 CEOの石田真康氏を迎え、宇宙ビジネス拡大へのチャレンジについて聞く。

日本橋のまちづくりを「産業創造」面から

NewsPicks 山本 企業カルチャーの変革をサポートするのがNCSです。企業のカルチャー変革は、企業や組織、個人の新しい行動や提案から生まれるものです。
 一方で、三井不動産は東京・日本橋を拠点に、宇宙の分野での産業エコシステム構築という、新しいまちづくりに挑んでいます。三井不動産が日本橋で開催する、宇宙関連イベント「NIHONBASHI SPACE WEEK」(12月14日〜17日)をNCSがお手伝いしている理由はまさにそこにあります。
 そもそも、宇宙という三井不動産の本業からは離れるビジネスの集積に、なぜ日本橋でプラットフォーマーとして取り組んでいるのか。まずはそこから教えていただけますか。
三井不動産 渡辺 三井不動産にとって日本橋は創業の地です。その日本橋でのまちづくりの重要なキーワードとして「産業創造」を掲げています。
 これは、社会課題の解決に資する有望な産業のビジネスエコシステム構築を、当社がまちづくりを通じてサポートし、その産業の発展に貢献することで、中長期的に日本橋のまちの付加価値を高めていくことを目的にしています。
 5年ほど前から「ライフサイエンス」の領域における産業創造に取り組み、産官学のプレーヤーが集まり、ほぼ毎日、ライフサイエンスに関連するカンファレンスが行われるようになるなどの成果をあげてきました。
 そしてその次の産業領域に選んだのが「宇宙」です。宇宙分野の産業創造プロジェクト「X-NIHONBASHI(クロス・ニホンバシ)」を2019年に公表し、取り組んでいます。
 宇宙ビジネスというとロケット打ち上げなど、宇宙空間でのビジネスをイメージしがちですが、衛星データ活用による農業や防災、ロボティクス、AI、バイオなど非常に広い隣接領域を有しており、それら隣接領域についても対象にしています。

地上と結びつくことによる宇宙ビジネスの可能性

山本 空の上の話だけでなく、しっかり地上と結びついたところに宇宙ビジネスがブリッジしているということですね。
渡辺 はい。特にここ数年、宇宙産業の技術やサービスを地上で利活用しようという機運が急速に高まり、宇宙産業のステージが大きく変わっていると実感しています。
山本 宇宙産業に注目が集まっている理由はどこにあるのでしょう。
渡辺 理由は多岐にわたりますが、最近特に強く感じるのは、脱炭素やSDGsの文脈で宇宙産業の技術やイノベーションへの期待値が非常に高くなっていることですね。
 非宇宙の大企業が、宇宙関連スタートアップと連携し、その技術を活用することで本業の事業を強化、効率化したいという声も多いです。
 そういう中で、我々は「場の提供」と「機会の創出」という両輪で全面的にサポートを進めています。「場の提供」としては、JAXAを始めとする宇宙プレーヤーが集まり、交流できる「宇宙ビジネス拠点X-NIHONBASHI」、「X-NIHONBASHI TOWER」の2拠点を日本橋に設置しています。
 また、その場を活用してどういう機会を提供できるか、が重要です。NewsPicksさんの協力を得て、「宇宙産業×他産業」の「越境」をテーマに開催している「X-NIHONBASHI conference」や、JAXAとの共創プログラム「X-NIHONBASHI Global Hub」というグローバルビジネスマッチングプログラムを開始しました。2021年はNASAと連携するなど、多様な機会の提供に注力しています。
 そして、今回SPACETIDEさんと連携し、12月に日本橋で開催するアジア最大級の宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK」も、まさにその機会提供の1つです。

宇宙ビジネスの潮流をつくるという使命感

山本 「NIHONBASHI SPACE WEEK 2021」の連携イベントとして、一般社団法人SPACETIDEが12月に主催するアジア最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2021 Winter in Nihonbashi」。SPACETIDEとはどんな団体なのか、石田さんから教えていただけますか。
SPACETIDE 石田 SPACETIDEは「宇宙ビジネスの新たな潮流をつくる」ことをミッションに、2015年に活動を始めた団体です。
 当時、世界的に宇宙ビジネスの潮流がものすごい勢いで生まれつつある一方で、日本ではまだまだ大きな動きにはほど遠い状況だったというのが背景にあります。
 そうした中、ミッション実現のためには、宇宙ビジネスに関わるあらゆる人、面白いことをやっている人、そうした人たち全員が一堂に会する場が必要と考えました。
 設立メンバーには、政府関係者のほか、僕と同じようなコンサルタント、弁護士、投資家、企業家など、それぞれが本業を持ちつつ個人的に宇宙業界で活動を始めていた人間が集まりました。

宇宙ビジネスコミュニティの国内・海外展開

石田 三井不動産とは2018年から協力関係にありますが、特に今年協業をしている理由として、宇宙ビジネスの進化に合わせた新たな戦略がSPACETIDEにも必要だという判断があったからです。
 今、宇宙ビジネスは大きなターニングポイントを迎えています。SPACETIDE設立当初は「もっと多くの人に宇宙ビジネスを知ってもらう」ことが重要でしたが、2021年の我々が目指すのは「宇宙ビジネスの事業化」です。
 実際、日本国内の宇宙ベンチャーや大手企業を見ると、この6年で、売り上げや投資、アライアンスといったビジネスのKPIが具体的に実現しています。
 もうひとつがコミュニティのグローバル化の必要性です。以前はカンファレンスも日本向けでしたが、2019年からはグローバルなプラットフォームとして開催。言語も半分以上が英語で、国や地域をまたいだコミュニティとビジネスの広がりを推し進めています。
 そういう中で、国内でもう一段、宇宙ビジネスコミュニティを広げるには、自分たちだけでは限界がありました。そんなときに、タイミングよく三井不動産からお声がかかったというのが経緯です。
 今回はNewsPicksとも組むことで、より多くの人々に宇宙ビジネスについて届けられると思うと、心強いですね。

「利益を生めるのか」という課題

山本 宇宙ビジネスの認知度を上げるために何が課題ですか。
石田 最大の課題は、宇宙ビジネスコミュニティそのものがまだまだ小さいということ。「事業になるのか」というビジネスの大前提において、宇宙産業ではまだ確立していない、というのが正直なところです。
 しかし、NewsPicks読者のようなビジネスパーソンの宇宙への関心は、ここ1、2年で明らかに高くなっています。
 「AI」や「DX」のように、宇宙もビジネスパーソンがおさえておくべきトピックとなりつつあるのが現状です。SDGsや5Gも、宇宙と密接に関わるテーマですから。

海外が注目する日本の宇宙ビジネス

山本 日本の宇宙ビジネスは、海外にはどのように映っているのでしょう。
石田 アジアにはインドや中国のような宇宙大国がありますが、民間起点の宇宙ビジネスという点では日本はアジアトップクラスです。みなさんが思っている以上に注目度も高い。
 もうひとつは、世界的に見てユニークな企業が多いのも、日本の特徴です。象徴的なのが、アストロスケールのスペースデブリ(宇宙ごみ)除去サービスですね。
 3つ目は、三井不動産のように一見、宇宙に関係ない企業が積極的に宇宙に投資していること。「なんのモチベーションがそうさせているのか?」と、海外ではよく聞かれます。
渡辺 確かに、国内外問わず、「なぜ三井不動産が宇宙?」はとてもよく聞かれます。当社は特にレアなケースだと思いますが、諸外国と比べ、企業が資金の出し手になっているというのは、日本の特徴ですね。
山本 本業とは違う分野からの宇宙ビジネス参入が「越境」のような形で広がり、本業に宇宙を結びつけようという動きが、日本では活発だということですね。
石田 確かに今はさまざまな領域からの宇宙ビジネス参入が活発ですが、数年後には淘汰が起き、宇宙ビジネスコミュニティの様子がガラッと変わるだろうと予想しています。
 宇宙ビジネスのハードルは、お金を生むのに時間がかかること。5年、10年やり続けられる人や企業でないと難しい。熱意はもちろん必要ですが、チーム(人材)や予算、権限などを持って取り組めるのかが試金石になります。
山本 三井不動産では、宇宙ビジネス特有のハードルをどのように越えているのでしょうか。
渡辺 当社が取り組んでいるまちづくりは時間軸が長く、10年、20年、それ以上のスパンで議論をしています。
 結果論ですが、短期的な成果や利益に縛られない発想で進めることが常という点では、実は宇宙ビジネスとの親和性があったのかもしれません。 X-NIHONBASHIも、長期でしっかり腰を据えて取り組みたいと考えています。

なぜ今、「事業化」の議論が必要なのか

山本 石田さんから宇宙ビジネスの「事業化」という言葉が出ましたが、これは「やっとそれに言及できるタイミング」なのか、それとも「今、言っておかないとまずい」という焦りなのか。どちらでしょう。
石田 両方ですね(笑)。「宇宙は面白い、可能性がある」だけでは、「ビジネスとしてどうなんだ」という議論に耐えられない。ですから、宇宙でどう売り上げをつくるのかという議論が絶対に必要です。
 もう一方で、世界的に大きな事業化の動きが起きています。観測衛星トップのプラネットが近く上場予定で、売り上げも5年間で3倍。直近の売り上げは100億円超です。
 スペースXの宇宙インターネットサービス「スターリンク」は20カ国でサービスを開始し、宇宙旅行もスタートしました。規模はまだまだ小さいですが、それでも3桁億円の売り上げを上げる企業が世界的には出てきている。
「こういうことができたらいいよね」「宇宙は何でもできるよね」ではなく、「どういう領域をねらうのか」「売り上げのグロースドライブはどこなのか」という議論をするフェーズに来ています。
山本 NewsPicksでもさまざまなセッションを企画します。本気のプレーヤーをできるだけ多く呼び、空中戦ではないビジネスフェーズの議論をする重要性は、我々も日々課題として感じています。
石田 今回のSPACE WEEKでは、三井不動産はより広い宇宙というコンテンツを提供しています。その一方で、我々SPACETIDEは宇宙ビジネスをつくる場という座組だと思います。
渡辺 海外には、Space SymposiumやIACと言った、世界中から宇宙プレーヤーが集まるイベントがあります。宇宙ビジネスカンファレンスと並行して展示会や様々な関連イベントが実施され、そのイベントの裏で、プレーヤー同士のネットワーキングや商談が行われ、様々なビジネスが生まれています。
 ぜひ、そのようなイベントを日本橋で開催したいと思っていました。今年はその「世界中から宇宙プレーヤーが集まるイベント」の第一歩と考えています。

宇宙は夢ではなく、未来を実現する手段

山本 宇宙に関心がなかった層がビジネスとして興味を持ち、「自分ごと化する」きっかけになるとしたら、それはどのポイントでしょうか。
石田 「宇宙は夢ではなく、未来である」ということですね。宇宙は夢だと思っている人が多いんですが、それは違う。未来の話だからちゃんと議論をしようよ、と。もっといえば、「もはや現実」なんです。
山本 確かに、「普通に宇宙をビジネスとして議論したいのに、いつまで夢というワクワクにコバンザメのようにしがみついていなくてはいけないのだ」という声を聞いたことがあります。
石田 「宇宙はわからないから、教えてくれ」とよく言われるんですが、これからは宇宙ビジネスのこともわかっていないと事業判断を間違うケースも出てくると思います。
たとえば5GやBeyond5Gの議論をする際には、衛星通信の進化も密接に絡んできます。AIやIoTを理解するのと同様に、宇宙を理解することもこれからマストになっていくと思います。
 SDGsがエコファッションになったり、企業戦略にまで落ちているのに比べると、宇宙はファッションになるほど身近ではなく、まだまだ「自分ごと」になっていません。
 たとえば気候変動対策は、実は、宇宙の技術と非常に相性がよかったりします。そういうことに、まだ気づいていない人が多い。
山本 気候変動や5Gのように、宇宙起点ではなくても宇宙技術がいろいろなトレンドに広がっていくのは確かですよね。
石田 そうなんです。宇宙は目的地と考えがちですが、宇宙は手段です。宇宙を手段として使い倒す時代に来ているんです。
 何のために使い倒すのかというと、それは社会や経済の課題解決です。貧困、デジタル・デバイド、SDGs、DX……。宇宙が特別な夢の場所だと思っている限り、その解決手段として広がっていかないでしょうね。
 宇宙へのワクワクは憧れからくるものではなくて、これからはビジネスとつながることへのワクワクです。
 もちろん裾野が広がることは大事ですが、いかに事業として企業価値を上げられるかへのワクワクが重要。それは、テスラにワクワクするのと同じです。
 まだ日本の宇宙へのワクワクはそこにリンクしていないので、そこはマインドチェンジしていかなくてはいけない。

越境ではなく、入植。宇宙ビジネスの雇用増を

山本 石田さんのように宇宙ビジネスへ越境したいと思う人を増やすには、今後どうしたらいいのでしょう。
石田 僕は越境ではなくて、「入植」してほしいと思っているんです。
 ちょっと面白そうだと何となく越境してきても、二重国籍みたいな人が多い。宇宙が本当に魅力的だったら、みんな移民してくると思うんです。国籍を変えて、入植するくらいの本気度で宇宙ビジネスに参入してほしい。
 そもそも越境という大前提には、宇宙と非宇宙というカテゴリーがあるということ。自動車と非自動車なんて言いませんよね。入植者が増えれば、自然に宇宙とそれ以外の境目もなくなっていきます。
 宇宙はみんなが働けるビジネス領域となるべきだし、そうなりつつあると思っています。そういう意味では、今回、日本橋でやるSPACE WEEKやSPACETIDEが、入植の入り口になればいいですね。宇宙で働きたい人は、ここに集まれ!と。
渡辺 いいですね!SPACETIDEやNIHONBASHI SPACE WEEKが、少しでも宇宙に関心があって、宇宙業界で本気で働きたいという人たちの入り口になれたら、と思っています。
山本 NewsPicks NextCulture Studioとしても、日本橋から宇宙ビジネスが次々と生まれていくところを、サポートしていきたいと思います。
(編集:久川 桃子)
【X-NIHONBASHIカンファレンス】
・開催日 : 2021年12月14日(火)12:00~16:00
・会 場 : 室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区日本橋室町3-2-1 COREDO室町テラス 3階)
・主 催 : 三井不動産株式会社 / X-NIHONBASHI
・参加費 : 無料(事前登録制)
※イベント詳細はこちら https://www.x-nihonbashi-conference.com/
【TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2021】
・開催日 : 2021年12月14日(火)12:30~18:30、12月15日(水)9:30~18:30   
・会 場 : 日本橋三井ホール(東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1 5F)
・主 催 : 三井不動産株式会社 / X-NIHONBASHI
・参加費 : 無料(事前登録制)
※イベントの無料申込はこちら  https://tsbe.peatix.com/
【SPACETIDE 2021 WINTER in NIHONBASHI】
・開催日 : 2021年12月13日(月)〜 12月16日(木)
・会 場 : 室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区日本橋室町3-2-1 COREDO室町テラス 3階)
・主 催 : 一般社団法人SPACETIDE
・参加費 : 有料(事前登録制)
※イベント詳細はこちら https://spacetide.webflow.io/