2021/11/26

【今村久美】日本が失いかけた「大切なもの」は、被災地にあった

英日翻訳者・Webライター
昨年のコロナ禍の一斉休校で、家庭学習の違いから来る学力格差が社会問題として取り上げられたことは記憶に新しい。

しかし、育った環境によって学びの機会やその後のキャリアに格差が生まれるという課題に、20年以上前から取り組んでいる人がいる。認定NPO法人カタリバ創設者・今村久美氏だ。

今やビジネスでも重視される「ナナメの関係」に早くから着目し、高校生に対して大学生メンターと交流する場を開くことで「きっかけ格差」をなくすことに尽力してきた。都内からスタートした取り組みは、今や全国に広がっている。

今村氏が考える、これからの若者に必要な「きっかけのあり方」とは何か。
INDEX
  • 経済合理性では図れない大切な価値
  • 自ら課題発見して解決する力を
  • 探究学習のカリキュラム化を後押し

経済合理性では図れない大切な価値

2001年の立ち上げ以来、関東圏の高校をフィールドに活動してきたカタリバですが、10年目に転機が訪れます。そのきっかけは、東日本大震災です。
災害によって生活環境や学校生活が変わってしまった子どもたちにできることはないかと考えた私は、発災後すぐ宮城県女川町に移住。その後、岩手県の大槌町と行き来する生活を始めました。
当時は「行かなければ」という、半ば思い込みに近い感覚で移り住むことを決めた私でしたが、期間限定の復興ボランティアとして被災地に入るのではなく、実際に「生活をする」ことで気づいたことがありました。
それは、「合理性を追求することだけが正解ではない」ということ。
私が暮らしたのは宮城県の漁村だったのですが、現地には昔ながらの物々交換の文化が残っていて、近所の人から「魚が釣れたから食べなよ」と、おすそ分けをしてもらうことがありました。
そのコミュニティの一員であれば、たとえお金がなくても、そうした物々交換によって生活していくことができる。
このようなコミュニケーションや関係性は、かつての日本ではどこでも見られたものだったと思うのですが、貨幣経済ベースの価値観にどっぷりと漬かっていた私にとっては新鮮な驚きでした。忘れていた価値観に出会った、という感覚だったかもしれません。
多様な価値観にふれ、いろいろな環境の中でいろいろな考え方を持った人がいるという事実を身を持って知ることは、日本という国の今を立体的に把握する上で大事だと思いました。