2021/11/30

【転職の新常識】企業と個人のミスマッチを防ぐには

NewsPicks / Brand Design  編集者、クリエイティブディレクター
自分のステージに合わせて働き方や目的、活躍する領域などは変わってくる。今の自分のステージやスキルとマッチした企業と手を組むことで、本人や企業の双方に最大限の利が生まれる。

では、今の自分にマッチしており、今の自分を最も必要としている企業を見つけるにはどうしたらよいか? それができるのがスカウト転職だ。

戦略人事の専門家・安田雅彦氏と、株式会社リクルートでHR領域のプロダクトマネジメントを担う藤原暢夫氏に「企業が求める人材」と「これからの転職の在り方」について聞いた。

人材の流動により組織は強くなる

安田 現在はVUCA時代と呼ばれるように、先を見通しづらい世の中です。終身雇用も名ばかりになり、一つの会社に最後まで勤め上げるといったキャリア像は崩壊しています。
 ですから、「変化を求めて成長していく人材」が増えているように思いますし、企業も変化が早いなかでパーパスに合った人を採用して事業を成しています。
 加えて、実務的に「人材が流動したほうが多様性は高まる」と常々思います。
 新卒一括採用のみの企業は同質性のリスクを孕んでいて、意外と価値観やレベル感がアップデートされていない。外部から新しい人が入ることで、新たなITツール導入ができたり、潮流を読めたりして、自社の遅れていた部分が見えるもの。
 人材は流動したほうが組織の多様性が高まり、強い組織になります。
藤原 安田さんのおっしゃるように、これまでは自身のキャリアの行く末を企業に預けるのが一般的で、個人は大手企業への就職を目指していました。
 年功序列で右肩上がりになる賃金制度を前提に数十年かけて一人前になり、様々な部署や地域に異動・転勤するなど、キャリアを会社に預けていた。
 今は、自身が何者かを世の中や企業に主張していかなければいけない時代だと思っています。自身のキャリアにオーナーシップを持ち、企業と働く個人は対等な関係で、自身にとって適した働き方を目指すのがこれからの個人のキャリアの在り方だと思います。
安田 そんな個人に対して、常に成長の機会を提供し、転職しても通用するスキルやケイパビリティを得られる企業は転職市場でも強く人気です。実現できればエンゲージメントが上がっていて、むしろ人材は辞めません。
 企業側は自分たちの社内でしか通用しない人材を育成するのではなく、マーケットバリューのあるスキルとケイパビリティを日頃の仕事で作り、働く個人に提供することが必要です。
 そういった人材採用を行い、上手に適材適所ができている企業って具体的に思い浮かびますか?
藤原 例えば、とある企業が「ブームに乗るだけでないDXの本質に取り組んでいる事例」は象徴的だと思います。その企業は旧来型の既存ビジネスから、デジタルも踏まえてレバレッジする強いサブスクリプションサービスを生み出し会社全体を変えていくことを標榜されています。
 弊社が採用のお手伝いをしたのですが、他社のDXに関する採用と異なっていたことは、すぐさま「人材のスペックを固めて、こんな要件の人材を採用しよう!」とはならなかったこと。
 社長からの号令で「DX」に舵を切り、まずは「我々はなぜデジタル化をするのか? どうやって組織を作るのか?」を議論されていました。
 「新しい事業の姿をどのように変えたいか」を定めた上で、「このビジョンに魂を燃やしてくれる人材とは?」を最初の基準に置いた。それから最後に、具体的な部署や採用要件を決めていった。
 スキルは二の次です。採用ポリシーに合致するかで採用されていました。
安田 なるほど。私もスキルが多少劣っていてもカルチャーフィットしている人ならば、採用します。スキルは後からなんとでもなりますが、人の価値観はなかなか変わらないものですから。
 将来的にもたらしたい価値と数値目標、それを実現するための組織のケイパビリティを特定し、現在組織のケイパビリティとのギャップを戦略的・計画的に埋めていく。
 それこそが戦略人事であると私は考えているのですが、それはつまり「今いる人材を育てるか、外から採用するか」ということに他ありません。
 誰がどのタイミングでオーナーになって人を採りに行くかを計画的に行うので、採用は必然的にプロアクティブになるのです。
藤原 まさに、採用に対してプロアクティブな企業が増えている印象はありますね。
 ただ、採用業務をすべてリファラルにもできないので、登録者に対して直接スカウトを送り、双方でコミュニケーションが取れる「リクルートダイレクトスカウト」のニーズは増えていますね。
 プロアクティブに採用をしたい企業のビジョンや、その先にどのような未来を描いているのかを語れるコミュニケーションの場を提供しています。

VUCA時代に必要とされる人材になるには

安田 そもそも、企業と個人の良いマッチングにはカルチャーフィットが重要です。そのために個人はとにかく変化を求めてチャレンジすることが必要だと思います。自身の価値観を知るためには、「何が好きか、どんな世界を目指したいか」を知らなければなりませんから。
 ただ、チャレンジは何でもいいんですよ。求人サイトに登録して興味がある企業にチャレンジしてみたり、社内のプロジェクトに応募してみたり。
 もう一つ、職務経歴書を書いて定期的にアップデートするのも重要です。別に転職を意識して書く必要はありません。自身のこれまでの仕事を振り返って客観視して書いてみるのは自身にとって棚卸しになります。
 私も転職を4回していますが、会社で上司とうまくいかないことがあると、職務経歴書をアップデートしてエージェントに会っていました(笑)。
 ときおり「今は時期じゃない。再来年くらいに転職を考えたい」という方がいますが、転職は企業があってこそ。自身のマーケットバリューと機会がどれだけあるかを気にかけるのは、良いマッチングのために必要だと思います。
藤原 おっしゃる通りです。コロナ禍のような社会環境の変化がある時には、キャリアを考えている方にはどんな形でも企業との接点を持つことをおすすめします。
 常に「どんな企業からスカウトが来るんだろう?」と気にかけていれば、ふと声を掛けてくれたヘッドハンターとの出会いが、自身が考えもしなかったキャリアを踏み出すきっかけになるはずです。
安田 1社しか就業経験がないなかでハイキャリアになった方は「自分を雇ってくれる企業は他にはない」と自信なさげだったりもします。そんな方は実はご自身の価値を誤解されて低く見積もっていると思います。
 長いこと在籍しているからこその隠れた成功のDNAがあり、そこに気づける企業が強い。
藤原 私も先程の企業の面接に(企業・求職者双方の同意を得て)同席したことがありますが、採用が上手くいっている会社様は、「良いところ」を見つけにいきますね。
 「志望動機はなんですか?」とフィルタリングするような内容は聞かず、その場の出会いを楽しみながら、「入社してくれたらどんな相乗効果を生めるか?」を探るような質問をしていました。
 その企業がインフラエンジニアを採用しようとした際も特徴的だったのを覚えています。
 もともとサーバーエンジニアとフィールドセールスの経験がある方が「どちらの経験もありますが、特段極めたわけじゃないので……」と自信なさげだったのを、「両方できる方は貴重です。近い将来この業務で必要になるから」と、数年後を見越して採用していました。
安田 企業は採用時に「この経験がないと駄目」というこだわりを持っていたりしますが、「今回のポジションで必要な本質って? ポテンシャルがある方にリーチしよう」という姿勢は今後の人材獲得競争の勝ち負けを握るように思っています。
藤原 採用業務は人事ではなく、より現場の方が行うようになってきていますね。採用力が強い会社ほど「一緒に働きたい!」と思う方に向けて、現場の課題感を直接お声掛けしている印象があります。
 そして、「リクルートダイレクトスカウト」も、それを双方のポジティブな機会として提供できるよう一番大事にしています。

「スキルアップにこだわり過ぎない」のもコツ

安田 これから個人の転職は、エージェントを介してではなく企業が直接的に行うようになっていくでしょうね。
 実は私がラッシュジャパンで人事を行っていた頃は、多くの外資向けの採用エージェントには価値を感じていませんでした。履歴書を見るだけで右から左に渡しており、ちゃんと応募者の内実も調べてくれない割に結構な金額を取っていく。
 そんなエージェントは少なくなく「こんな経験を持ったマネージャーが欲しい」と詳細なリクエストをしてもミスマッチもありました。
 ですから、「リクルートダイレクトスカウト」のような、企業が直接スカウトを送るダイレクト・ソーシングに私はより魅力を感じます。
 ダイレクト・ソーシングは雇う企業が直接、採用のアプローチをするのでミスマッチが起きにくい。スカウトメールを送ったとき、大企業であっても必ずしもポジティブな反応ではなかったりするもの。
 「あれ、実はうちの企業って転職市場ではいまいちなのかも?」と気がつくきっかけにもなります。とはいえ、自社の市場における評価がわかるのは企業にとっても良いことですよね。
藤原 企業が魅力を伝えるにはやはり直接コンタクトを取れるほうがいいですし、今の職場で頑張りながらも今後のキャリアを考えていきたい求職者にとってはダイレクト・ソーシングがマッチすると思います。
 あと、働く個人は「スキルアップにこだわり過ぎない」というのも一つポイントだと思います。極論、今需要の高いスキルでも10年後にはそうではなくなっている可能性もあります。
 むしろ、スカウトで頂いた機会やチャンス、可能性に対して前向きに検討してコミュニケーションをし続けることが一番キャリアにとっては良いのではと思います。
安田 過去の経験を未来のキャリアに結びつけるのは、ご自身次第です。私のファーストキャリアは西友荻窪店の家電担当ですから。でも、西友で得た現場感がその後私のキャリアにも大きく貢献してくれました。
 小売りの現場はシフト勤務で上司と部下のマネジメント密度が薄くなりがち。そのケアを行い私はラッシュでも成果を出せました。
 長いキャリアでみると一見関係ないようなことも、将来的には掛け算で武器になる。先程の話に出たインフラエンジニアと営業の経験がある方の例も同じですね。経験を役立てていけば、必ず自身の血となり肉となるはずです。
藤原 企業も個人もお互いが「働く時間」を共有する中で、一方通行ではなく双方工夫すること。その工夫が企業の採用力を高め、個人の幸せなキャリアにも繋がっていくと思います。
 「リクルートダイレクトスカウト」は、ちょっとした不全感を抱いている方や企業に向けて、寄り添いながら繋がる機会を提供できるインフラでありたいと思っています。