[YF]データと足で見た中国

中国経済で今起きている問題を分かりやすく解説

景気に急ブレーキがかかり始めた中国(前編)

2014/9/29

中国の経済アナリストが7月、そして8月の経済統計を見て、「景気が急落している」と、慌てています。
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7月統計は融資がガタ減りしてしまったことがショッキングでした。「社会融資総量」(銀行とシャドーバンクの貸出から償還を引いた額)が6月の1兆9700億元から、7月は2730億元に激減したのです。8月は9574億元でした(9月13日発表)。これは一見、悪くない数字でしたが、裏がありました。8月第3週までは7月をさらに下回るペースだったというのです。慌てた金融当局が銀行に窓口指導をした結果、最後の1週間で銀行が貸出を急増させた結果の数字がこれです(けっきょく銀行貸出は7月の3850億元から7000億元にほぼ倍増)。こういうのを中国では「突撃成績」と言うのですが、これでは経済のほんとうの様子が分からなくなりますね。

8月の社会融資統計は、こうして見かけが良くなりましたが、他の数字が大きく悪化しました。工業付加価値額の対前年同期伸び率は6.9%と、リーマンショック直後2008年12月以来の低さ、電力消費は前年同期を1.5%下回ってしまった、などです。

これらの数字を見て、経済界やアナリストの間には、利下げや公共投資の積み増しなど、政府の積極的な景気テコ入れ策を求める声が急速に高まっていますが、習近平主席と李克強総理の政権はなかなか応じようとしません。経済成長がなにより大切な中国なのに、なぜ消極的なのでしょうか。

借りたい人には貸したくない、貸したい人は借りない

貸出が低下している理由について、中国メディアは、「どの銀行も貸し渋り気分が濃厚」「過剰設備業種の貸出は削減方針」「不況入りした不動産への貸出姿勢が厳格化」「中小企業は、貸せる先も『金利が高い』ので、借りようとしない」と報じています。借りたい人には貸せない、貸したい人は借りない――なんだかバブル後の景色ですね。

中国のバブルも四半世紀前の日本のバブルと同様、度を超した金融緩和が発端でした。中国はリーマンショック対策として、2009年から「4兆元(公共)投資」を始めました(当時の為替レートで57兆円分)。それだけならまだ良かったのですが、4兆元の財源調達のために空前の金融緩和が行われ、グラフ1に示すように、2009年の銀行貸出残高は対前年比30%を超える伸びを示し、その後わずか4年で倍増しました。
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この空前の金融緩和の結果、経済のほぼ全領域で投資の爆発的な増加が起きました。「行け行けどんどん」式の投資をすると、碌なことはない。いまや投資全体の1/3を占める製造業は、深刻な設備過剰で減産を強いられ、向こう10年分の公共投資を一気にやった地方政府(全体の1/4程度)は、そのためにした莫大な借金を、土地を切り売りしてようやく返済する有様です。

この「投資バブル」の結果、「利払いは問題ないが、元本償還まで金が回らない」ような低収益な投資事業が山のように生まれてしまいました。いま中国経済が抱える大問題の根っこは、これです。

国全体のバランスシートが毀損

分かりやすくするために、例を挙げます。

5000万元を借り入れて1億元の投資をしたとします。バランスシート資産の部には1億元の取得価額が計上されます。借入の条件は年利8%、5年後一括償還とします。

【結果1:大成功ケース】5年間で元利合計に相当する7000万元のキャッシュを稼ぎました(年平均1400万元)。元利を完済して、後の儲けは全部会社のもの。この投資資産は、きっと1億元以上の値打ちがあります。転売すれば差額分のキャピタルゲインが得られるでしょう。

【結果2:「まあまあ」ケース】年平均1000万元稼ぎました。5年間で、2000万元の利息分以外に3000万元分を稼いだ計算ですが、元本完済には2000万元足りません。途中で他の儲けを回すなりして、いったん5000万元の負債を返すことになりますが、同じ条件で2000万元借りられれば、あと3年でほぼ全額償還できる稼ぎです。

債務完済に合計8年かかる計算ですが、「まあ良し」としましょう。投資資産も簿価どおり1億元の値打ちを維持していると見てもよいでしょう。

【結果3:失敗ケース】 年平均700万元くらいしか稼げません。年400万元の利息支払いは問題ないですが、元本完済には3500万元も足りない計算です。ケース2と同じように考えると、債務完済には17年かかる計算。

大成功ケースに比べて、キャッシュ稼得力が半分しかない――こういう投資は損益で見ても、大赤字です。厳密に資産査定すれば、3年赤字が続いたところで「減損評価」が必要になり、「1億元の資産価値はとうてい認められない」はずです。目減りした分、資産が毀損したことになります。

こういう失敗投資が山のようにあるということは、国全体でみても、バランスシートの「資産の部」にかなり毀損が生じている、ということです。 それなら「負債の部」にも毀損、すなわち潜在的な不良債権が生じているはずです。銀行不良債権の比率は、公式にはまだ1%強と低いですが、それは企業が債務を借り換えたり、他の儲けで穴埋めしたりして債務不履行を免れているからです。「債務不履行にならなければ、借金を返す力のない資産が積み上がっても大丈夫」なのでしょうか。そうはいきません。

マクロの資金循環が悪化

問題は「マクロな資金循環が悪くなる」かたちで、姿を現します。中国の銀行貸出総額は、いま約80兆元(約1400兆円)あります。それがこの1年で14%伸びて、10兆元強のニューマネーが追加されました。いまの名目GDP伸び率9%弱にざっと5%のゲタを履いている勘定ですから、経済成長には十分な伸びのはずです。

しかし、借金の償還を借り換えでしのぐ企業が増えると、本来なら新しい貸出先に貸すべき金をもう一度既存先に貸すことになります――つまり、借り換えでは、ほんとうの意味で金が銀行に戻ったことにならないのです。企業が他の事業の儲けで穴を埋めても、企業の預金が減るやら、次の投資で借入が増えるやらで、けっきょくは同じことになります。

ここで、もう一つ設例です。

仮に80兆元の銀行貸出が短期貸出・長期貸出を平均して3年で銀行に戻ってくるとすれば、年平均27兆元が銀行を循環することになります。

前述のニューマネー11兆元を足せば、1年に38兆元分の金を貸せるはずです。しかし、80兆元の貸出ストックのうち、例えば1/5に借り換えが発生すれば、銀行が新規に貸せる金額は27兆元の1/5、約5兆元減ってしまいます。

ニューマネー10兆元分貸出枠が伸びたように見えても、ストック80兆元の資金循環が悪くなれば、正味の貸出原資の伸びは半分の6兆元に落ちてしまうのです。

この結果、金詰まりが起きやすくなるのです。昨年後半、まさにそんな金融劣化が起きているのではないか、と疑わせる事態が中国で起きました。次回はその話をします。

(写真©iStock.com/zoom-zoom)

(編集部より:後編は10月9日に配信します。)